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ゲーテからのお願い、娯楽を作ろう

 ――シルフィーの魔法訓練をした後、しばしのティータイム。

 定期的に魔法訓練の約束を彼女とし、王城を後にした。



「――う~ん、日が沈むにはまだ時間があるし。かと言って、今からギルドに行ってもな~。久しぶりに教会にでも行ってみるかな」


 俺は、中途半端に空いた時間を教会過ごそうと考えた。

 扉を開け、赤い絨毯の先には一際大きい創造神の像。

 足元には蝋燭が煌めき、サイドの支柱には属神が彫られている。

 天上には見事な宗教画。

 変わらぬ荘厳が今日も民衆を導く。


 周りには誰もいない。

 この雰囲気……前にもあったような?

 俺は、蝋燭の前で座禅を組み瞑想と祈りを捧げる。



「――そんなもんに祈っても時間の無駄だよ。創造神はお留守だ。休暇取って、愛の女神とラブホに行ってる」

「俺が祈りを捧げるのはゲーテ、あなた達しかいないよ」

「ハッ! ご機嫌だねぇ色男。それとも、10歳を娶ったロリコン君と呼んだ方がいいか? 変態だー助けてー、誰かー、神様ー。あ? ()()()()()()()()()()


 会衆席に乱暴に足を乗り出した修道女が一人。

 顔を隠す極薄のベールの下には、スクエアのサングラス。

 そのテンプルには、宝石が散りばめられた眼鏡チェーンが垂れ下がっていた。


 彼女は、ぶっきらぼうに答え天井を見上げる。

 しかし、その口の端は歯が見えるほど吊り上がっていた。


「なんだその暴力的な教会で、タバコ吸いながら銃をぶっ放しそうな格好とキャラは?」

「いやいや、敬虔な幼女趣味君の様子を見にきたんだよ。この世界に刺激を与えているかい? おいおい……これは、驚いた。『ガイドブック』の空白ページがあんまり埋まってないじゃないか。人助けばっかじゃなくて、好き勝って生きろよ? お前が主人公なんだから。それともなんだ? 『イベント』でも用意してやろうか?」


 肩をすくめ、妙に芝居めいた台詞だ。


「これで良いんだよ俺は。王都に来てまだ数か月、とりあえずやれることからやってくよ。幸い、時間はたっぷりあるしな」

「そういうもんかね? いくら最高傑作のお前でも、寿命は人間と同じだ。アタシ達から見たら一瞬。寝ぼけて過ごしてたら、ブギーマンに喰われちまうぞ。バンッ!」


 指で銃の形を作ったゲーテは、俺に引き金を引きながら警告する。


「ははっ! でも毎日が充実してるさ。まさか、10歳と婚約するとは思わなかったがな。どっちかっていうと、セレスさんやエルミアさんの方が好みだけど」

「だったら、全員娶れば良いだろ? この世界は、一夫多妻が普通だぞ。むしろ多くの妻を養える経済力を持っているということは、他の男から見たら羨望であり社会的地位が高い証拠だ。良かったな、ハーレムルートが確定したぞ」

「それは、相手の気持ち次第だろ? 考えとくよ」

「その点は大丈夫だぞ。ここは、()()()()世界なんだから……後、絶倫にしといてやったから好きなだけ楽しんでくれ。あぁ、そういえば一個頼みがあるんだった」


 神様が頼み?

 神様なら自分で解決できそうだけど。

 急な話題に、思わず身構えてしまう。


「別に大したことじゃないぞ。娯楽を何か一つ作ってくれ」

「娯楽? 将棋とかダーツとかか?」

「そうだ。この世界にはない新しい娯楽を作れ。前にも言っただろ? 刺激が足りないんだよ、刺激が」

「そりゃ、あっち側の知識でいくらでも作れると思うけど、作ったところで誰も注目しないだろ? 子供のお遊びで終わっちゃいそうだぞ」

「それなら、代役を立てれば良いだろ。あれだよ? あれ? ほら、赤髪のあれ?」

「赤髪? セレスさんか?」


 無礼千万なゲーテは、セレスさんをあれ呼ばわり。

 神様は今日も尊大だ。

 つまり、何か娯楽商品を作ってセレスさん経由で浸透させる作戦か……


「そうそう、それ。貴族向けでも作って、受けが良ければ大衆向けに作り直せば良いだろ? 貴族に熱狂的な人気! 愚民は飛びつくぞ」

「なるほど。それじゃ、何か作ってセレスさんに紹介してみるよ」

「あい、分かった。汝に、クソ創造神の祝福を」

「クソって……主神を侮り過ぎだろ……俺からも、一個聞いて良いか?」


 俺は、気になっていたことを聞いてみる。

 そう、初代国王陛下のことだ。


「ここの初代国王って、転生者?」

「ん? あぁ、そうだな。転生者の中では、数少ない成功者の一人だな。典型的な英雄願望持ちな奴だった。当時この世界は荒れに荒れてて、圧倒的な力でそれをねじ伏せた。それで、建てたのがこの国さ。ちなみに、あの大エルフはそいつの正妻だぞ? まぁ、人とエルフは子をなせんし、そもそも圧倒的に寿命が違うから覚えてるか微妙だな」

「やっぱ、そうか。ありがとな」

「成功した転生者は、大抵伝説や物語になってるから、興味があるなら本でも読めば良いぞ」


 ユグドラティエさんがデートの時着ていたオーバーテクノロジーな長羽織。

 思った通り、初代からのプレゼントか。

 そして……俺が転生者だと絶対に気付いている。


「聞きたいことは、それだけか? じゃ、娯楽の件はよろしく〜」


 ゲーテは手をやる気なさそうに振った後、煙のように消えていった。

 新しい娯楽を作る……でも、俺この世界の娯楽についてなにも知らないよな?

 今度、セレスさんに会ったら詳しく聞いてみよう。



 ――うーん、会いたい時に会えない……この世界には、電話もメールもないからな。

 ゲーテとの会話から数日。

 セレスさんに話を聞きたいのだが、なかなか会えない。

 また特級依頼で遠征にでも行ってるのかな?


「セイジュさん……誰か探してるの……?」

「ぬぉ! ルリさん」


 セレスさんを探しキョロキョロしていると、いつの間にか隣にルリさんが立っていた。

 黒髪のお姫カットの隙間から、首をかしげた群青色の瞳がこちらを見つめる。


「いえ。セレスさんにちょっと聞きたいことがありまして」

「セレスティアに……? あの娘は今……依頼で遠出してるよ……たぶん……戻るのは三日後くらいだと思う……」

「そうなんですね、ありがとうございます。直ぐに連絡が取れないって、不便ですよね。特に、急ぎではありませんが……」

「高位の魔導師同士なら……通信魔法があるけど……後は……手紙や書簡……鳥系の従魔を持ってる人は……運ばせたりしてる……かくいう私も……鴉系の従魔を使って……情報伝達している……」


 従魔を使う? 伝書鳩みたいなものか?


「おぉお! それは、便利そうですね。良かったら、今度詳しく教えてください」

「うん……いいよ……セイジュさんだったら……きっとうまくいくはず……じゃあ……私仕事に戻るね……」


 彼女は、そのまま掲示板に依頼を貼りに行った。

 俺も、次セレスさんに会うまで依頼を受けながら構想を練るかな……



「おい! へいみ…セイジュ。頑張ってるようだな」

「セイジュさん、おはようございます」

「おはようございます。ダルマイヤックさんにカントメルルさんも」


 依頼を確認していると、ダルマイヤックに声を掛けられた。

 ん? ダルマイヤック……男爵家の三男坊。

 つまり、貴族。いた! セレスさん以外の貴族がここに。


「ダルマイヤックさん、ぜひお聞きしたいことがあります!」

「ん? 俺に聞きたいことだと……しょうがないな、先輩冒険者としての務めだ。なんでも聞くがよい」

「貴族の娯楽ってどんなのがあるのですか?」

「貴族の娯楽だと? ハーハッハッハ! やはり、平民は貴族の娯楽に憧れるか? よいよい、今日は特別に教えてやろう」


 俺が下手に出た瞬間から上機嫌だ。

 更に、貴族の嗜みとなると目を輝かせた。


「いいかセイジュ? 先ずは、なんといっても狩りだ。それも、鷹を使った狩り。子飼いの鷹が有能であればあるほど、高い評価を受ける。更に、馬上試合だ。自慢の家臣を馬上で競わせる。これは、その家の兵がどれくらい練度を誇っているかの尺度になる。まだあるぞ。スキットルだ。これは、九本の標的を玉や円盤を投げて倒すのだが、単純に見えて奥が深い。そうだ、これも外せな――」


 ダルマイヤックは、ここぞとばかりにまくし立てる。


「あ…ありがとうございます。室内の娯楽はないのですか?」

「セイジュ、お前は勉強熱心だな。今から、とっておきを教えてやるところだったぞ。室内での娯楽……それは、チャトランガだ。縦横八マスに区切られた盤面の上で、数種類の役割を持った駒を動かし合う。最後に、王の駒を追い詰めた者が勝ち。という、娯楽だ。実はこれ、初代国王陛下が考案された娯楽らしい。娯楽だと侮るなよ? チャトランガは、盤面に描いた戦争だ。戦略と戦術が折り重なり、時に芸術と言われるまで昇華する……チャトランガが強い者は、そのまま軍師として使えるほどだ」


 なるほど、チェスか。

 確かに、奥深く嗜好性が高い。


「凄い面白そうな娯楽ですね! ところで、絵札を使った娯楽はないのですか? 数字が描かれた絵札を使った娯楽なのですけど……?」

「数字の絵札? 聞いたこともないぞ。なんだそれは? 平民や獣人達で流行ってる娯楽か?」

「い…いえ。ありがとうございます、ダルマイヤックさん! とてもためになりました」

「よいよい、礼には及ばぬ。平民に道を示すのも、貴族の義務よ。では、我々は先に行くぞ」

「セイジュさん、なにをするのかは分からないけど頑張ってね。じゃあね」


 ダルマイヤックの話を聞くと、この世界にはトランプがないみたいだ。

 だったら、トランプを作ってみようかな? 


 貴族と言えば、カードゲーム。

 かのサンドイッチも、カードゲームに夢中で遊びながら食べれる物を考えた結果だっけ?




 ――よし、トランプ作りの開始だ。

 対象は、大公爵のドゥーヴェルニ家。

 貴族向けということで、素材は豪華にしよう。


 銀板を薄く伸ばし、53枚の板を作る。

 四種類のマークを決め、そこに1から13までの数字を刻み込む。

 ラスト一枚はゲーテを模した道化師。

 刻んだ数字には、宝石をあしらい煌びやかにした。


 マークを絶対的権力を持つ貴族の紋章にしたかったが、あいにく俺はヒルリアン家の紋章しか知らない。

 ここは、セオリー通りハート、クラブ、ダイヤ、スペードにした。


 さて、後はセレスさんに遊んでもらって見解を聞いてみよう――

【5話毎御礼】

いつも貴重なお時間頂きありがとうございます。

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