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共同戦線①、予定調和

「――王国騎士団と共同依頼ですか?」


 いつものように冒険者ギルドに来た俺に、そばかす美人のメルダさんから声が掛かった。


「そうです! いつもこの時期になると、東門から出てしばらく行った所にある荒城に、大量のゴブリンやオークが発生するんです。その討伐依頼を王家が冒険者ギルドに出します。そこで当ギルドは、参加希望者を募って騎士団の方々と共同で狩りをするんです!」

「へぇ~、僕も参加できるのですか?」

「むしろ低級の方々に率先して声を掛けてます。D級以上は参加でき、なおかつ当ギルドからは上級冒険者が引率するので、戦闘経験の浅い低級冒険者の登竜門と思って頂いて構いません。それに、王家からの依頼なので報酬金額も低級にしては破格です!」


 彼女は、意気揚々と説明をする。


「……だったら、僕も参加してみようかな」

「セイジュさんだったら、そう言ってくれると思ってました。決行日は三日後です。勿論、装備や食事はご自分で用意してくださいね。ケガや死んでも当ギルドは、責任を負いかねますので了承を。発生数によっては数日掛かることもあるので、準備は万端にお願いします」

「分かりました! ありがとうございます」


 大量に発生したゴブリンやオーク狩り……お決まり(テンプレ)のイベントだな。

 騎士団も参加ってことは、エルミアさんも参加するのかな?

 こういったイベントは、大抵波乱が起きるからしっかり準備をしておこう。



 ――そして三日後。

 俺は集合場所の東門外に広がる草原にきた。

 参加冒険者は多く、ザワザワと情報交換し合っている。

 それとは対照的に少し離れた場所の騎士団は隊列を組み、その統率の強さをが見て取れた。



「おい! お前がセイジュか?」

「そうですけど?」

「平民如きが調子に乗ってるんじゃないぞ!」

「止めなよ、ダルマイヤック……」


 騎士団の様子を伺っていると、急に不躾な言葉が飛んでくる。

 俺より少し上だろうか?

 周囲とは一線を画す豪華な装備。

 後ろには従者を連れ、ワカメのようにうねった前髪を触りながら男が詰め寄ってきた。


「何のことでしょう?」

「何のことだと? 貴様のような平民がセレスティア殿に認められるなど言語道断! 今日は俺が活躍して、あのお方の目を覚まさせてやる。足手まといの平民は、後ろでポーションの準備でもしていろ!」


 男は俺の顔に唾が掛かるくらいの勢いでまくし立て、鼻息荒く去っていった……


「急にごめんなさい、あの方はダルマイヤック・フィリピーヌ。フィリピーヌ男爵家の三男にして、貴方と同じD級冒険者なんです……フィリピーヌ男爵家は王家の遠縁にあたりまして、冒険者セレスはダルマイヤックに取って憧れの的なんです」

「つまり、以前僕がセレスさんと依頼を受けたことに目くじらを立てていると?」

「それもあるのですが……先日セイジュさんは、セレスティア様とお食事をしたとの噂を聞きまして……それで、余計に目の敵にしているようです」


 どうも、セレスさんと過ごしたことに彼はお怒りのようだ。


「おい! カントメルル、いつまでそんな平民に構っているんだ! 早くこっちに来い!」

「待ってよ〜、ダルマイヤック。とにかく、気分を悪くさせてごめんなさい。私は、カントメルル・マコー。今日はお互い頑張りましょう」


 中性的な顔立ちの少年? 少女? カントメルルさんは、俺に謝罪し急いで彼の下まで走り去った。



「よーし、全員揃っているな! お前たち、今日は集まってくれてありがとう。この中には、D級かC級に上がりたての奴が多いはずだ。俺達A級冒険者や騎士団が見守っているが、十分注意してくれ! 後、勝手な行動は絶対とるなよ。ゴブリンやオークといえども、群れで来られたら足元すくわれるぞ。では、グロリイェール騎士団長からもお言葉を頂く!」


 点呼と諸注意を行ったA級冒険者に次いで、エルミアさんも俺達の前に出てくる。

 白銀の鎧に、王家の紋章が刺繍されたマント。

 腰には長剣を携え、特徴的な片耳には先日プレゼントしたイエローダイヤモンドのイヤリングが垂れ下がっていた。


 冒険者達は滅多に見ることができないその美貌を目に焼き付け、ダルマイヤックもまた目をハートにして鼻息を荒くしていた。

 君はセレスさんの大ファンじゃなかったんですかねぇ? 


 エルミアさんも俺に気づいたようで、こちらを軽く微笑んだ後話し始める。

 それに気づいたダルマイヤックは、ギリッ!! と歯ぎしりをしながら俺を睨みつけてきた。


「諸君! 我々はこれから国の安寧を脅かすモンスターの討伐に向かう。諸君らの一振り一振りが戦えぬ者を勇気付け、流す血と汗の一粒一粒が国の平和を築き上げる。奮闘を期待する! 誰一人として欠けることなく、この場に帰ってこようぞ!」


 普段の様子からは、とても想像できないほど凛とした声で皆を奮い立たせる。

 その清廉で美々しい姿は、『戦乙女』そのものであった……



 ――馬車に揺られ、荒城から少し離れた場所に着いた。

 城壁は所々崩れ落ち、中の建築物も壊滅し栄華を極めていた頃の面影さえない。

 そこには、帰らぬ主を待つ朽ちかけの玉座だけが取り残されていた。


 中には、蠢くゴブリンやオークの群れ。

 前進する俺達に気づいたモンスターは、獲物の登場に歓喜し無秩序な突撃を開始した。


「くるぞー! 最初は、低級冒険者や訓練騎士中心で対応しろ。A級と騎士は、あくまで支援に徹してくれ!」

「グロリイェール殿! 見ていて下され! このダルマイヤックが一番の戦功を立てようぞ!」

「ちょっと、ダルマイヤック! 前に出過ぎて危険だよー」


 案の定、ダルマイヤックは暴走気味だ。

 華美に装飾された剣は、彼の体型には不釣合いで一振りすれば隙だらけになる。


 その都度、カントメルルの防御魔法が彼を助け、まるで自分が強いかのような錯覚に陥らせる。

 それが彼を更に増長させた。



「きゃあ!!」

「馬鹿野郎、低級が一人で多数を相手にするんじゃねぇ! 近くの奴と協力して戦うんだ」

「弓や魔法中心で戦う方は、前に出過ぎてはいけません。前衛を支援するように動いてください」

「ゴブリンやオークの中には、武器を持つ奴だっている。気を抜けばあっさり死ぬぞ!」


 サポートに徹するベテラン勢が、的確なアドバイスを与え俺達を鼓舞する。


「ごめんねキミ! 一緒に戦って!」

「はい、頑張りましょう」


 一回り上の青年と、三体の敵に囲まれた。

 ゴブリン二匹にオーク一匹……緑色の肌に長い鼻と耳。

 涎を垂らした口からは、赤い舌が覗いている。

 それに、オークの手には大剣のような枯木が握られていた。


「くるよ!!」


 二匹が俺達に飛びかかる。

 今更、俺にとってゴブリンなど相手にならない。

 何のひねりもない突撃しかける腕を弾き飛ばし、喉元に短剣を突き立てれば終了、造作もない。

 青年も余裕で対処したようだ。


 残り一匹……オークは、枯木を振り上げ青年に突進する。

 振り上げられた姿は、実態以上に大きく見せ、青年に威圧感を与えるのに十分であった。


「ひぃ!」


 短い悲鳴をあげた青年に突進するオークは、突如まるで何かにつまずいたかのようにつんのめる。

 それはオークの右足が俺の氷魔法で凍りつき、大きくバランスを崩した為だった。


「今です!」

「お……おう!」


 青年の切り上げた剣撃は、オークの倒れ込む勢いも相まって理想的な一撃となり敵を絶命させる。


「おぉ! 素晴らしい攻撃でしたね!」

「は……はは、まぐれだよ。でも、支援助かったよ!」

「――なんだその見苦しい戦いは! 訓練の足りない平民は、大人しく後方に下がってろ。見てはおれん!」


 お互いを労う俺達に、いつの間にか近くで見ていたダルマイヤックが辛辣な言葉を投げかけてきた。


「俺はもう何匹も倒したぞ。やはり俺の目に狂いはなかった。セイジュ! お前は、ただ運が良いだけのガキに過ぎん。俺はこのまま奥に行くが、足手まといはさっさと帰れ!」

(それは違うよダルマイヤック……彼は君よりずっと強い。全く無駄のない動きに、確実に急所を狙った攻撃。殺気さえ感じさせない動作は、まるで歴戦の戦士みたいだ。それでいて、魔法の発動も恐ろしいほど早い……彼は、優れた戦士であり第一線の魔導士でもありそうだよ……)


 言い放った彼は、そのまま振り返り荒城に歩き始める。

 カントメルルさんは、こちらに申し訳なさそうな視線を向けペコリと頭を下げて彼の後を追った。


「何なんだよあいつは!!」

「フィリピーヌっていう、男爵家の三男らしいですよ? どうも、目の敵にされてしまったようで……すいません、不愉快な思いさせてしまって」


「おい、どうした? 大きな声を出して、言い争いか?」

「いえ、何でもないですよ。フィリピーヌって奴が、私達の戦い方にケチ付けてきたんです。こっちも、必死に戦ってんだから貴族も平民も関係ないだろ! って感じです。アイツこのまま奥に行くって言ってましたが、良いんですか? 注意しなくて!」


 騒ぎに気付いたベテラン勢に声を掛けられるが、青年の話を聞いた彼はどこかばつが悪そうな表情だ。


「あぁ~、フィリピーヌ家のお坊ちゃんか……まぁ、ほっといても大丈夫だろう。あいつには、お目付け役のカントメルルがいるしな」

「カントメルルさんは、強いのですか?」

「あいつはB級でも指折りの強さだよ」


 なるほど、納得がいった。

 カントメルルさんのおぜん立てがあったからこそ、彼は今まで五体満足でいられたのだろう。



 ――ダルマイヤックがここを離れて一時間くらい経った頃、俺は異変に気付いた。

 敵の数が減らない……俺は既に数百匹のゴブリンを倒しているが、その勢いは止まらない。

 周りには明らかに疲弊している冒険者も見て取れる。


「すいません、戦いが始まってけっこう時間が経ってますが、毎年こんな感じなのですか?」

「確かに、この量は異常だな。いつもなら、とっくに終わってるはずだが……おい! 疲れている冒険者は後方で休め。A級と余裕のある騎士は、荒城内部を見に――」



「――うぁあああ!! 助けてくれぇえええ!!!」


 異変に気付いた俺はA級冒険者に声を掛け彼が対策を講じようとした瞬間、空間をつんざくような叫び声が聞こえた。


 荒城奥からダルマイヤックが泣きながら逃げてくる。

 鼻水を垂らしながら涙目で、それはもう全力疾走でこちら側まで()()()逃げ延びる。

 そう、数百、千を超えるゴブリンとオークを引き連れて……


 やっぱり、イベントのフラグはお前だったかダルマイヤック!

【5話毎御礼】

いつも貴重なお時間頂きありがとうございます。

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