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シルフィードと学園④、乙女達の課題研究

今回の話は、88話の続きになります。流れが分からない方は、先ずそちらをどうぞ。

 ――昼休みの第六修練室。

 今ここは、かつてない修羅場を迎えていた。

 魔眼を宿した少女アンジェリュスと、それをシルフィードに紹介した親友のラフルール。


 邪を宿す者をシルフィードに引き合わせようとした愚かな行為が、風の上位精霊たるシルフェリアの逆鱗(げきりん)に触れてしまったのである。



「――ん……ここは……?」

「気が付いたかい、アンジー?」

「ラフちゃん……? 私変な夢を見ていたみたい。シルフィード殿下とお知り合いになって、だけどこの目で見ちゃったから伝説の精霊様を怒らせちゃったみたい。ふふっ……おかしいよね? 『精霊王』にお仕えしている上位精霊様が、こんな所にいるはずないのにね」


 気を取り戻したアンジェリュスは、ラフルールの膝枕で横になっている。

 額から目元には濡れたハンカチ。

 全て(たち)の悪い夢だったと言い聞かせるように少しお道化てみせた。


「気が付いて良かった、アンジェリュスさん。ごめんなさいね。大量の魔力に当てられましたが、変わりはありませんか?」

「私からも謝罪しよう。シルフィードのことになっては、つい過保護になってしまう。許されよ、魔眼を持つ者よ」

「はい……?」


 ラフルールと一緒に覗き込むもう一つの顔。

 それは(まぎ)れもなくシルフィードであり、彼女に折り重なるシルフェリアも先ほどのことが夢ではないと告げる。

 更にその二人が神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで謝罪したとなっては尚更状況が理解できず、視界は再び闇に落ちたのであった。





「ほんっととうにぃいい申し訳ございません、シルフィード殿下、シルフェリア様!!」

「い…いえ……顔を上げてくださいな、アンジェリュスさん……」


 アンジェリュスは土下座をしそうな勢い……否、実際土下座をしながら謝罪をしている。

 彼女の中では王族に不敬を働いてしまったのと、伝説の上位精霊に敵意を持たせたことがどうしても許せなかったのだ。


 当の本人二人はそんなことは全く気にせず、(むし)ろラフルール含めて本題に入りたいと持っている始末。

 やっと落ち着いたアンジェリュスと肩を並べ、相談事は始まった。



「改めまして、彼女の名前はアンジェリュス。僕の一個下で、ラフォーレ商会の次期頭取さ」

「は、は、初めましてシルフィード殿下。先ほどから度重なる粗相申し訳ございません。ア、ア、アンジェリュス・ラフォーレと申します」

「まぁ、見ての通りガチガチに緊張しているし僕から説明させてもらうね。って、もう予想はしてると思うけど、相談したいのはこの娘の魔眼のことさ」

「魅了の魔眼ですわね? 先ほどシルフェリアも言っていましたが、アンジェリュスさんはそれを制御できない為、苦労をなさってきたと?」

「いや、苦労したのは成人前からごく最近さ。幼い頃は誰からも愛される存在だったんだけど、十四歳頃から男達が暴走気味でね。誰が(めと)るかで争いになって、抑えがきかなくなったのさ」

「成程。魅了効果が可愛らしい子供を愛でるから、女性として欲求の対象になったのでしょうね」


 そう言ったシルフィードは、改めてアンジェリュスを見つめる。

 ゆるくウェーブ掛かった紫紺(しこん)の髪は艶やかに輝き、魔眼たる瞳はウルウルと涙ぐむ。

 そして年下とは思えない程のボディーラインは、男達の争いを生むのに十分な魅力を放っていた。


 無論、シルフィードに魅了の力は通じない。

 しかしそれ以上に同じ女性として、愛しの旦那様を想えばこそ嫉妬と言う物を覚えてしまう。


「落ち着け、シルフィード。其方(そなた)の美しさは唯一無二、(あせ)らんで良い」

「あ! 焦ってなんていませんわ! 私の魅力も旦那様に十分伝わってますの! もう! 今はその話は別として、シルフェリアはアンジェリュスさんの魔眼をどう見ますか?」

「うむ。本来魔眼とは、文字通り魔を宿す眼であり人間には過ぎた物だ。まだ若い(ゆえ)大丈夫だろうが、十中八九長生きはできんだろうな。瞳が其奴の魔力を無尽蔵に吸い取っている」

「じゃ! じゃあ!! アンジーは助からないってことですか、シルフェリア様!?」

「そうでもないぞ。魔眼を宿した人間は多くはないが、克服した者も多い。魔力操作で垂れ流しの力を抑えれば良いのだ」

「あ……あの〜、私この外套(がいとう)を羽織っていますが殆ど魔法が使えませんし……魔力操作もやったことがありません……」

「そうか。なら、もう一つの方法は魔眼殺しだな」

「「「魔眼殺し???」」」


『魔眼殺し』――聞きなれない言葉に、三人は思わず聞き返した。


「なんだ? 気付いておらんのか? 今其方が掛けている眼鏡が魔眼殺しの一種だ。かと言って、そこまで強い力は感じぬ。大方、事情を知る者から貰った物だろう?」

「は、はい……入学前にお父様から頂いて……そう言えば、この眼鏡を掛け始めて殿方から声を掛けられるのが減ったような?」

「では、私が王族の御用商人の繋がりでアンジェリュスさんに合う魔眼殺しを探しますわ!」

「本当かい、シルフィーさん! やっぱり、シルフィーさんに相談して正解だったよ!!」

「待て待て。魔眼と言うのは通常の魔法と違い、魔力の波長が個別的なのだ。他人の為に作られた魔眼殺しでは、完全に制御することはできん」

「じゃあ……どうすれば……」

「簡単だ。其方達で作れば良い」

「作れば良いって簡単に言いますが、シルフェリア? それは、個人専用の魔道具を作れと言っているようなものですわ。簡単な物は時間を掛ければ作れるやもしれません。しかし、高度な魔道具は専門の知識や高価な素材、それに――」


 自分達だけで作れと言う無理難題にシルフィードは(まく)し立てるが、シルフェリアは彼女の口を人差し指で塞ぐ。

 そして、普段では見せない悪戯っぽい笑みを浮かべて続けた。


「シルフィード、周りをもっと見よ」

「周りですの?」

「然り。生き字引のユグドラティエとその弟子エルミア。世界を股に掛ける冒険者セレスティア。そして、何より其方の伴侶(はんりょ)は誰だ?」

「あ――ッ!!」


 シルフェリアから(さと)されるシルフィードの頭にある少年の姿が浮かぶ。

 博識で、常人には思いつかない突拍子なことを平気で実現する少年。

 敬愛し、いつか隣に並ぼうと決心した彼女のスーパーヒーロー。

 愛しの旦那様を思い出した時、もし母親と同じ扇子を持っていたらバッと開いて高笑いをするだろう。



「ふふっ…ふふふっ……ふっ。一つよろしいかしら、ラフルールさん? 今年の課題研究の題目は決まりまして?」

「急に何だい? シルフィーさん……決まってるわけないさ。僕は、こう見えても座学が苦手なんだよ」

「ならば重畳(ちょうじょう)。私とラフルールさんが共同で研究する題目は、『アンジェリュスさん専用の魔眼殺し製作』ですわ!!」

「「ええ――ッ!!」」


 どう見たら座学が得意かは置いといて、自信満々にアンジェリュス専用の眼鏡を作ると言ったシルフィードに、二人の声が修練室に木霊(こだま)した。


 それもそのはず。

 シルフィードが言い掛けたように、魔道具の製作には専門知識や数多くの素材が必要になる。

 それに魔道具ギルドなるものが厳しく管理し、所謂(いわゆる)モグリの商品は厳しく罰せられてしまうのだ。


「で、で、でも! 魔道具の製作には魔道具ギルドに登録しなければいけないよ? いくらシルフィーさんが王族でも、ギルドの目の(かたき)にされちゃうんじゃないかな……」

「そこは、ご安心くださいな。あくまで、学園での研究の一環として製作しますわ。それに、私達には強い味方がいますから」

「味方……?」

「ええ、ユグドラティエ様にエルミア、そして特級冒険者のセレスティア。アンジェリュスさんも大店のご息女ですわ。皆さんがいれば、知識も素材も手に入るでしょ?」

「シルフィーさんが、やろうとしてることは分かったさ。でも、肝心の設計図は誰が書くんだい?」

「あら? ラフルールさんお忘れになって? ペトリュス領のワインに革新をもたらしたのは誰かしら?」

「まさか……オーヴォ様?」

「ええ、その通りですわ! さぁ皆さん、今年は忙しくなりそうですわ。ふふっ、今日帰ったら早速旦那様に手紙を書かないと。アンジェリュスさんも、期待してくださいまし!」

「は…はい……?」


 満面の笑みで応えるシルフィード。

 セイジュを知らないアンジェリュスにとってはまるで狐につままれるような話だが、彼女の勢いに押され返事をしてしまう。


 さぁ、今日から三人の課題研究のスタートだ。

 この出会いが、アンジェリュスにとって運命的なものだとはまだ気付いていない。

 ただ今言えることは、新たな伝説が学園に刻まれようとしているだけだ。


 乙女達の未来に幸あれ――

【100話御礼】

いつも貴重なお時間頂きありがとうございます。

いつの間にか100話更新です。これからもお付き合い宜しくお願い致します。


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