表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

16.ダイジェストフナタビ3

 なんやかんやあって、船旅ももう5日目だ。


 たまに出てくる海の魔物をアスモが一瞬で屠り続けたので、船は止まることなくものすごいスピードで海を進んで行った。


 むしろ、速すぎて到着予定日が一日早まることになるかもしれないのだそうだ。


 ハルマニア大陸に近づいているからか、展望席に出ていると肌寒いぐらいに感じるようになってきた。


 途中で寄港した港町で上着を買っといたのは正解だったなぁ。


「うぶ…、うええ…」


 アスモは船旅に慣れたのかと思いきや、陸に上がるたびにその慣れた感覚がリセットされてしまうらしい。


 トーマス君?


 彼はあの後、すっかりアスモに怯えてしまって、俺の方に寄って来もしなかった。


 男爵家一行は途中の港で降りてったな。


 アスモに頭をペコペコ下げる男爵の姿が印象的だった。


 俺は、というと、船員たちと仲良くなっていた。


 美人なアスモとお近づきになりたいという下心こそあるのかもしれないが、同年代の子どもが居なくなったこの船では、彼らがいい話し相手になった。


「お嬢さん、こっちに来て見てみなよ!」


 仲良くなった船乗りの一人が、俺に手招きをしながら海面を指差している。


 俺は、彼の横に駆け寄って行き、彼女の指差しているモノが何なのか探した。


 そういえば、女性の船乗りってこの世界だと珍しい気がするな。


「どれ?全然見えねえんだけど。」


「見えない?アレだよ。」


 船乗りは俺の両わきの下に手を突っ込むと、俺のことを軽々と持ち上げた。


 俺は、ちょうど足元あたりにあった、手すりの下段に足をかけた。


 丁度、俺の目線の高さが船乗りのものと同じぐらいになった。


「なんだアレ?」


 彼女が指差すものにようやく気付いた俺は、思わず目を疑った。


 なんだかでっかい影が、動いているように見えるのだ。


 でっかいといっても、鯨とかそういうレベルのデカさではない。


 島規模の大きさの何かが動いているのだ。


「あれね、リクガメっていう魔物の背中なんだ。」


 船乗りの言葉に、俺は思わず耳を疑った。


「あれ、カメなの?」


 リクガメって言ったら、陸に棲むカメのイメージしかない。


 それはともかく、あんなデカいカメがいるのか?


 俺の言葉に、ちょっと首を傾げる船乗り。


「うーん、多分そう!あれの近くに近づいた船は全部沈んじゃったからね。水の中から調査しようとした魔法使いの学者さんたちが居たんだけど、だれも戻ってこなかったらしいし。」


 要は、どういう魔物なのかさっぱりわからないという事である。


「それで、アイツがいたらなんかあんの?またこないだみたいに緊急停船?」


 さすがのアスモも、あのデカさの生き物と戦うのはキツそうだなぁと思った。


「いやいや。あの子って、近づかなければ何ともないんだよね。むしろ、あの子に出会えた船には幸運が訪れるって言われてるよ。」


「へー。」


 俺は、背中に岩やら木やらがくっついたリクガメを見送った。



「おーい、アスモやーい。」


 俺は、船酔いでダウンしているアスモを起こしに行く。


 もう、飯時だ。


 明日の夕方にはハルマニア大陸に着くので、これがグレイシレーヌ号の船上でとる最後の夕食となるだろう。


 そんな最後の夕食にもかかわらず。


「うーん…うーん…」


 アスモは完全にダウンしていた。


「今日もダメそうだな…。後で胃に優しそうなの持ってきてやるからな。」


「ぐえっ」


 寝っ転がったアスモの腹をつついて、俺は船室を後にする。


 船室の扉を出て、廊下を歩く。


 外が見えないのにずっと船が揺れている感覚にももう慣れた。


 逆に、陸に降りたら地面の揺れがないはずなのに、揺れてるような感じがするんだよなぁ。


 2階にあるレストランへは、一度甲板に出ないとたどり着けない。


 ハルマニア大陸に近づいて、ますます冷えてきた夕風に、俺は思わず身を震わせる。


「おい、兄貴。このガキは。」


「あ、お前ははアスモの娘の!」


 そんな俺の様子を見て、声を掛けてきたのは…


「えっと…銀級冒険者パーティーの………。なんだっけ?」


 たしか、アビスクイッドが出たときにアスモに仕事を取られてた冒険者パーティーの一つだったはずだ。


「イーストバレンダ共和国の守護神、『白銀の大盾』だ!忘れてんじゃねえよ!」


 あー、確かそんな感じだった気がする。


 たしか、5人ぐらいいたっけ?


 まあそんなことはどうでもいい。俺は飯を食わなければならないのだ。


「そうだっけ?じゃ。」


 俺は彼らに手を挙げて、レストランに入って行こうとする。


「ちょちょちょーい!無視してんじゃねえ!」


 大声を上げてツッコミを入れてくるリーダーっぽい筋肉ダルマ。


 彼の動きに合わせて、俺の進路を揃った動きで立ち塞ぐ、顔のよく似た男と女。


「お、大声出さないでよう…。男の人の大声、怖いよう…。」


 うるうる。


 本当に泣いてるわけではない。


 転生して泣くことが多かったが、そのおかげか涙腺の制御が得意になった気がする。


「な、泣いてんじゃねえ!」


「あ、兄貴…ガキ泣かすのはさすがにどうかと思うっす…。」


 再び怒鳴る筋肉ダルマに、それを窘める子分ダルマ。


「「…。」」


 顔のよく似た男女は、子分ダルマの言葉に無言でうなずいている。


「アンタら、双子?そっくりだな。」


 俺は筋肉ダルマを無視してそっくり男女にそう言った。


 双子はそろった動きでサムズアップして見せた。


「飯行こうぜ。」


 そのまま双子を伴って2階へ向かう。


「ちょいちょいちょいちょーい!ジズにシズ、なんでお前らまで付いてこうとしてんだ!?」


 五月蠅い筋肉ダルマだなぁ。こっちは腹が減ってるんだ。


「ったく…。クソガキよお。お前、自分がどういう状況になってんのか、理解してるんだよなぁ?」


「なんだ、脅しか?泣くぞ?ママを呼ぶぞ?」


 どうせこいつらが束になって掛かってこようと怖くもなんともない。


 アスモが居ればな!


「はん。どうせその頼みの綱のリアラリーフの野郎は船酔いで動けねえんだろう?こっちは大人4人。てめえをどうにかするなんて、簡単なんだぜ?」


「そんなひどいことすんの?」


 双子に尋ねる。


 双子は鏡に映したかのような動きで首を左右に振った。


「あ、別にそんなつもりでもないんだ…。」


 どうやら、このリーダー格の筋肉ダルマが暴走しているだけみたいだな。


「まあ、一つ言っておくと、俺を脅す意味はないぜ?手を出せば、アスモママは俺に傷一つつけずに俺を救い出して、お前らを壊滅できるぜ?なんなら、今も聞き耳立ててっかもな?…それに、どうせ失敗するんだったら、アンタらのパーティーに札が付くだけだし。なんなら現時点で脅迫罪成立だからな。」


 脅迫罪成立してるんだろうか?法律学者じゃないのでわからんな。


「き、脅迫罪…!?」


 まあ、この筋肉ダルマ、頭悪そうだし。


 適当に言っときゃ誤魔化せるだろ。


「ってことで、飯行こうぜ。」


 俺は双子を伴ってレストランへ…


「待て待て待てい!!騙されそうになったが、そうはいかんぞ!」


「まだ何かあんのか筋肉ダルマ!?」


 つくづく面倒くさいダルマだなぁ。


「いたいけな幼女とっ捕まえていつまでもウジウジしてんじゃねえ!さっきからなんなんだよ?脅すだの脅迫するだのばっかりしやがって!!ママとお近付きにでもなりてえのか?!」


「あ、ああ…。いや、はい…。」


「照れてんじゃねえよ気持ちわりいな!?絶対アスモには紹介してやんねえからな!!」


 なんだ、生娘みてえにモジモジしやがって。


 気色悪いったらありゃしねえ。


「そ、そこを何とか!頼むぜお嬢様!なんでも奢ってやるからよう!!」


「うるせえ!ぜってえ嫌だ!でも飯は奢れ!!不快料と慰謝料だかんな?!」


「そ、そんなぁ!?」


 わいわいがやがや。


 俺を先頭に、筋肉ダルマ、男女の双子はレストランへと入って行く。


 結局、筋肉ダルマにアスモを紹介してやったらコミュ障を発揮してしどろもどろになっていた。


 デカいのは図体とガキに対する態度だけだったな。


 …誰かのことを忘れてるような?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ