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最強の剣士であれば武器が大根でも勝てるだろと挑発していたのだが最強の剣士は俺だった

夜は眠る時間だが今日は違う、まるでお祭り気分だ。

年が変わると言うだけで浮かれるのは愚の骨頂にしか思えないのだが周囲の人間は年を取ることに何か特別な意義を感じているらしい。

こんなに浮かれるなんて、こんな奴らと一緒にいるなんてなんだか嫌になるぜ。


だがこの俺がこんな浮かれた馬鹿どもを前にして一つ言ってやらないといけないことがある。

”今日の俺はお前らより浮かれている”。

ああ、愛しのマリエットちゃんが来るのはもう少しだ。まさか一緒に初もうでに行ってくれるなんて思いもしなかった。勇気をだしてみるもんだな。


幸せそうな家族、はじけている若者、見回りの人間、落ち着くことを忘れた夜。

普段は閉まっているであろう店も落ち着きを忘れている。

名前をまだ言ってなかった、彼の名はマーク、剣士だ。

腰には愛用の剣が携えられている。

マークは壁にもたれて腕を組みかっこいいポーズで待っている。

きょろきょろするのはダサいと思い顔の向きは固定している。だがま眼球だけをせわしなく動かしマリエットが到着するのを待ち焦がれている。

何故来ないんだ、まさか騙されたのか? マリエットちゃんと俺ではやはり釣り合わないと思い来るのをやめたのか? いやあの天使のようなマリエットちゃんがそんなことはしない。そんなことをするぐらいなら最初っから俺の誘いには載ってこなかったはずだ。

待ち合わせの場所と時間は何億回と確認した、間違いようがない!

ああ、マリエットちゃん! マリエットちゃん! マリエットちゃん!……


かっこいいポーズでしかも腰に剣を携えているマークは自然と周りからの視線を集めた。

だがその視線が顔に移ると、そこにはせわしなく動く眼球と苦痛と幸福をかみしめたような表情があり自然と距離を取られ目を背けられる。

はずだったが……、

「おう、何にらみつけてんや坊主」

マークは話しかけてチンピラに目を向ける。

「後にしてくれ、今は相手をしてやる時間はない」

チンピラは堪忍袋の緒の耐久度が低いようだった。

ドゥクシッ!、

蹴りを入れられたマークは10メートルほどの吹き飛び、地面へと転がる。

「チッ、弱いくせにガンつけてんじゃねえぜッ、弱いくせによ。偉そうに剣を持ってるくせによ!

まっ、俺の蹴りがこんなに強いとは自分でも思わなかったがな。ガッハッハ」

周りの者はマークは死ぬのだろうと思ったが、その場に入り止めるものはいなかった。


そこに一人の男が現れ、チンピラの前に剣を抜く。

容姿端麗で落ち着いた様子の枯れはこう言い放った。

「チンピラさんよ、やめなさい、彼が死にます」

「なんだ、やんのか」

そこに外野が声を上げる。

「おい、あいつは五七五のニルムじゃねえか」

「おおう、あのしゃべり方にあの顔にあの刀、あのお方はあの最強の剣士と名高いあのニルムに違いねえ!」

「おい、これはおの坊主に続いて死人が出てしまうんじゃねえのか!?」

「おおう、間違えねえあのニルムがあの刀であのチンピラのあの場所をなんかしたら死んじまうな!」


「静かに皆さん、彼は死ぬ、静かに皆さん」

「やはり間違いねえ、あの意味がありそうでまったくない五七五はニルムに違いねえじゃねえか」

少し冷や汗を書いたようにも見えるチンピラ。

「ははーん偉そうにしたとしても、死ぬのはどちらかな、その綺麗な顔を伸び切ったモチみたいにグニャグニャにしてやろう、かかってきな!」

チンピラとニルムが構える。

皆の視線は二人に注目する。

だがこののままでは死人が出るかもしれない。

マリエットちゃんと初もうでという最高の日にそんなまがまがしいことは許せない…、会ってはならない。

マークは起き上がり、近くの店で売っていた大根を一つ買い、にらみ合っているチンピラとニルムのもとへ歩く。

そして剣を握るニルムの手に手を添える。

驚くニルム。

「しんでないのか、よかったよ、だいじょうぶかい?」

マークは返事をしないままニルムの手を無理やり開き剣を奪い大根を持たせる。

「最強の剣士なら武器が大根でも勝てるよね?」

「……!?」

あっけにとられるニルム。

なんとなく成り行きを見守っている人々。


いいぞ、これで死人が出ると言う最悪の事態は避けられる。

しかしこれでは不公平ではないか? 片方だけ大根を持たせるなど不公平だ。

チンピラの方を振り向いて、

「待ってろ、いまあんたの大根も買ってきてやるからな、このままじゃふ………」

フワフワフワ。

チンピラの前に風船を体に巻き付けた女の子が空から降りてくる。

「おまたせマーク」

「マリエットちゅわーん!!」

マークはマリエットに駆け寄った。

「大丈夫だよマリエット、ぼくもちょうど今来たところだよ」

「なーんだ、よかった。人混みが嫌だから体に風船巻き付けて空から来ようと思ったけど風に流されて遅れちゃったのよ、もう」

「ははは、それは大変だったね。でも夜空を旅する君の姿を見てみたい気もするな」

笑いあう二人。

「そうだ、はいこれどうぞ」

「ん、これは」

「あなたの分の風船よ、これで空に浮かんで誰よりも早く日の出を見るのよ」

「マリエット、君はなんて天才なんだ、さっそく体につけよう」

これはいい風船だ! さすがマリエットちゃんの風船だ!

マリエットちゃん! マリエットちゃん!マリエットちゃん!マリエットちゃん!マリエットちゃん!マリエットちゃん!マリエットちゃん!マリエットちゃん!マリエットちゃん!マリエットちゃん!マリエットちゃん! 綺麗だ!


「準備ができたよ、マリエットちゃん」

「じゃあ行きましょ」

二人の体が浮かびだす。

「おいちょっと待て!」

呼び止めるチンピラ。

「おまえ、俺の蹴りを食らって平気なのか?」

「誰? あ、そうだったな」

マークはチンピラの上にお金を落とす。


「これで大根かってきな」

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