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カンタレラ



「遅い! 何で毎回遅れるのですか!」


「っ! 申し訳ありません! 教皇!」


「もう良い! 早く席に着きなさい」

「はい……(your m)(ajesty)


部屋に入って早々、教皇から叱責を受ける。


教皇の目は、まるで汚物を見るかの様な酷いもの。

女性から暴言を浴びるのが好きではないロレンのプライドは、悉く潰されたのであった。


ちなみにロレンがいるこの部屋は、全長50メートル程の縦にも横にも長い部屋だ。

例えるなら、高校の体育館。


そして、その部屋の奥に足を組んで座っているのが、ローマ教皇『アレクサンデル6世』。


その女の教皇アレクを囲む様に、貴族達が座っている。

それは大層偉そうに……

教皇よりも偉そうに……


「ねぇ〜 またフォーサイス伯爵が、会議に遅れてきたわよ」

「フフフ。本当にだらしない男ねぇ」

「顔だけは良いのに、勿体無いわぁ」


貴族からの罵倒・嘲笑を浴びながら【Lorenzo(ロレンツォ)Forsyth(フォーサイス)】と刻まれた名札が置いてある机の前に、ロレンは座る。


「ゴホン、では会議を始めよう」


こうして、何時間にも渡る会議が幕を開けた。



(何で俺、こんな世界に来ちゃったんだろ……)


ロレンは、元は日本のサラリーマンであった。

そんなロレンが何故、こんな場所にいるかというと……事は一週間前に遡る。



「っ! はっ……俺は……」


目覚めると、知らない天井。

俺はゴージャスなベッドの上に、寝転がっていた。


そして俺を覗き込む、2人の影……


「ロレン!」

「お兄様!」


俺の傍には、金髪ロングの女の子と、黒髪ショートの女の子がいた。

意味が分からない……


「え? 貴方達、誰ですか?」


「「え!?」」

「え!?」

「覚えてないの?」

「うん。貴方達、ダレデスカ?」

「私の事も……覚えてないの?」

「ああ、全く覚えておりませんよ?」


すると、黒髪ショートの女の子が泣き始めてしまった。


ごめん。でも俺、君のこと知らない。


そして少し大人びた、薄い金髪ロングの女の子がショートヘアの女の子に寄り添っている。


だけど、どこかでこの2人を見たことあるな……


「あ!?」

「どうしたの!?」


この2人……俺が持っている男向け乙女ゲーム「カンタレラ」に出てくる、登場人物だという事を思い出したのだ。



こうして、日本でサラリーマンをやっていたロレンは「カンタレラ」の世界に転生?したのであった。


「カンタレラ」は魔法がある世界の話で、舞台背景は古代ローマをイメージしている。


だが登場人物の服装は、1800年代のアメリカ人の様な格好だ。


例えるなら、昔日本が侍の国と呼ばれていた時代に、黒船に乗って登場したアメリカの男の服装に似ている。


「ロレンツォ! 聞いているのか!」


ここで話に集中していないロレンに、教皇から雷が落とされる。


「え!? き、聞いています……」


嘘である。ロレンは一度も教皇の話を聞いていない。

貴族の女達に気を取られていたのだ。


誰に気を取られていたかと言うと、貴族なのに、数人軍服を着ている者達だ。

そしてその者達は全員、カンタレラの攻略対象なのだ。


そんなロレンを見透かした教皇から、追い討ちを掛ける一言が飛んでくる。


「では、私が先程述べた法案を言ってみな……」

「すみません。聞いてないです」

「最初から、自分の非を認めていれば良いものを……」


教皇は半ば呆れながら、ロレンを見る。

だが、ロレンは震える足に鞭を打って、教皇の前まで歩いて接近する。


そして思い切り、教皇を睨んだ。


「ですが、俺なんかに構わず、会議を続けてください。俺は、()なので」


そして踵を返して、席に着席する。


この世界は女尊男卑なので、ロレンが自分は男だと自分を貶したのには一理あるが……

仮にもこの世界の最高峰である教皇に、自ら嫌われる様な行動を取ったのには、貴族達は首を傾げた。


しかしロレンがアレクに、冷たい態度を取るのには訳がある。


ロレンが転生した世界に似ているゲーム「カンタレラ」では、登場人物が()()()()を引き起こし、主人公が殺されるというルートが多いのだ。


例えば、主人公が教皇アレクと結婚した場合は、主人公の事が好きだった、アレクの娘である『チェザーレ・ボルジア』に殺されるるのだ。


殺害方法は、ボルジア家に伝わる美しい毒薬である【カンタレラ】を口移しで飲ませ、チェザーレが主人公と、心中するのだ。


また、チェザーレを選べば、主人公はアレクに毒薬カンタレラを薄めたものを飲ませられ、自由の効かない体にされる。

そして、アレクの城に監禁されるのだ。


まだ他にもたくさんのヤンデレルートがあるが、今は置いておこう。


とにかく、主人公は殆どの確率死ぬという、胸糞の悪いゲームなのだ。


だが、主人公が生き残るルートがない訳ではない。


ロレンが知っている、主人公が生き残るルートは、登場人物全員を誑かすハーレムルート。


そして、登場人物の全員に嫌われる、いわゆるバットエンドルート。


ロレンは、ただでさえ女の子と話すのが苦手なので、ハーレムルートだけはないと考えた。


となると必然的に、バットエンドルートを選ぶしか無くなる訳である。


つまり、これらの理由で、ロレンは教皇に冷ややかな態度を取ったのだ。


ローマ教皇である、アレクが開いた会議に遅れた理由も然り。


この世界のストーリー全てが、ゲーム「カンタレラ」と全く同じでは無いかもしれないが……


ロレンは、万が一の時を考えて、ゲームの攻略対象全員に冷たい態度を取る事に決めた。


「全く……可愛げのない人ですね。では、会議を続けます」


そしてその会議は……5時間続いた。



「ん……」

「……ようやく起きましたね」

「ふぁっ!」


眠りから目覚めたら、目の前に教皇の顔があってロレンはは驚いた。


「もう夜ですよ」


辺りを見回すと、偉そうに座っていた貴族達は誰一人としていない。


長い会議を聞いているうちに、いつのまにかロレンは眠ってしまったのだ。


「申し訳ありません……では、俺はこれにて失礼」


すぐさま椅子から立ち上がり、教皇から距離を取ると、早歩きで立ち去ろうとした……が。


「っ! 」


身長170センチ近くある教皇がロレンの手を掴んだ。


ちなみに教皇は28歳、ロレンは15歳である。

ロレンはまだ成長期なので、身長160センチ後半。

つまり、ロレンは力で教皇に勝てる訳が無いのである。


「何を…… っ!?」


そしてロレンは引き寄せられ、耳元で何か囁かれる。


「寝顔。ごちそうさまでした」


「っ!? ぁ……えと、失礼します!」


今度こそ、ロレンは部屋を後にした。


どうやら、ロレンが望むバットエンドルートにはまだ程遠い様だ。



屋敷に帰ると、黒髪ショートの妹が迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、お兄様」

「……ああ」


ロレンは素っ気なく返事をすると、すぐに二階の自室まで向かった。


ロレンの屋敷は、流石伯爵の屋敷という感じで、この屋敷は超絶広い。

日本の財閥の家みたいだ。


ちなみに、ロレンの妹の名前は、レイラだ。

もちろん、攻略対象である。


「はぁ……」


自室に戻ると、ロレンは大きなため息をついた。


今日もバットエンドルートへの道のりを、踏み外してしまったからだ。


だが、ロレンが悪い訳では無い。


ロレンはしっかりと、教皇に冷たい態度を取った。


だが、それ以前に、教皇が一枚上手なのである。


「明日は絶対に嫌われてやる!」


そう決意して、ロレンは教皇への対策を考えていった。



「ぅ……」


朝起きると、ロレンは自分を覗き込む人影が見えた。


「っ!?」


「おはよう、ロレン」


「お、お姉さま……!」


そう、ロレンを覗き込む人影は金髪の姉。


名前は、クラリス。歳は17。


「な、何で俺の部屋にいるんですか!?」

「ん? 可愛い弟の寝顔を、見に来たのよ」

「……勝手に入って来ないでください!」


真っ赤な顔をしてロレンが叫ぶが、もはや抵抗になっていない。

そして追い討ちをかけるように、クラリスはロレンの頭をくしゃくしゃになでる。


「ぅぅ……」

「まぁ、ロレンの寝顔も見れたし、これで退散するわね」

「……早く出てけ〜!」

「あ、あと……」


するとクラリスは、ロレンの耳元に近づいて、囁いた。


「教皇には渡さないから」


「っ!?」

「じゃねー」


今度こそ、クラリスはロレンの部屋から出て行く。


(怖い! 何でこの世界の女の子達は凛々しいの!? 普通、渡さないからってセリフは男が言うでしょ!)


ロレンは何で自分を嫌ってくれないんだ?と、考え始めるのであった。






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