期間限定で、同居人?ができるらしい
毛並みは艶やかで、野生とは思えないほど綺麗に整えられている、そして真っ黒。
背中には大きな翼を携えており、それも例に漏れず真っ黒。
尻尾も真っ黒だが、先っちょだけ白くなっており、二又に分かれている。
前世の頃でいう猫に、蝙蝠の羽根を生えさせたような動物だ。サイズは子猫程度だろうか。
あれから同じライフスタイルを満喫し数日経ったある日、山の中でこの動物が倒れていた。
意識はあるようだが呼吸が弱く、よく見ると右の前足と翼を怪我しているようだ。
前足は少し打ち付けたような、軽い打撲のように見えるが、翼の怪我が酷い。文字通り、ボロボロになっている。
何らかの理由で翼を怪我して、墜落したのだろうか。
うむむ、見た目からして、所謂魔族だとか悪魔だとかそういう類いに見える。関わるとめんどくさそうな展開になる未来しか見えない。
見えない、が。
「大丈夫か?……いや、大丈夫には見えないよな。ちょっとじっとしててくれな」
こんな可愛らしい小動物の、こんな弱った姿。
見過ごせる訳、ないよなぁ。
あ、いや、別に可愛いからとかではなくてね、うん。
たとえ超こわーいドラゴンだったとしても、醜悪な見た目のゾンビとかだったとしても……
うん、なんとでもいえ。
やらない善よりやる偽善、そうだ、うん。
「……」
警戒するような目で見られるが、威嚇する元気すらないらしい。
うーん、そりゃ警戒するよな。
満身創痍のなか近付いてくる見知らぬ男。
あ、やべ、なんか犯罪スメルが。
「取って食ったりなんかしねーよ。その怪我、見せてくれないかな」
少しでも安心して欲しくて、ゆっくりと鼻先に手の甲を近付ける。
全ての動物がそうかは知らないが、先に匂いを嗅がせてやると少しは和らぐ動物が多い。
完全に警戒を解いた訳ではなさそうだが、鼻先を手の甲に近付けスンスンしたあと、こちらに向けていた視線を自身の翼にやる。
この翼は……さすがにすぐに治せるようには見えないな。
ひとまず、マジックボックスから打ち身に効く塗り薬を取り出す。先に前足を治してみよう。
あ、そういえば薬、完成しました。……動物用の。
いやー、人よりも動物とふれあう毎日だったから、先にこっちかなーっつって。
てへ。
「少しだけ痛いかもだけど、勘弁してくれな」
右の前足に塗り薬を塗る。
出来るだけ優しく触ったつもりだが、やはり痛かろう。猫の体が小さく跳ねる。
ごめんな、でもこれ効能は保証するからさ。
塗り薬を塗ったついでに、弱った体力を補うよう回復魔法も唱えておく。
次第に回復してきたのか、その体を起こす。やはり前足は軽い打撲だったようだ。
まだまだ全快という訳にはいかないが、とりあえずは動けるようになって、良かった良かった。
「あぁ、あまり無理するなよな。この翼はさすがにすぐには治せん」
警戒は完全に解いてくれたようで、静かにその翼をこちらに向けてくる。
改めてその翼を見てみるか、やはり酷い。
何かで引っ掻かれたのだろうか、切り刻まれており、小さな木屑や葉っぱがついている。
……あれ?
「あの、違ってたら悪いんだけどさ。
もしかして、木かなんかと衝突したか?」
ふいっ、とばつが悪そうに目を背けられた。
……ドジっ子属性つきか。
引っ掛かっている木屑や葉っぱを優しく取り外し、擦り傷切り傷に効く消毒液をマジックボックスから取り出す。
魔法で水を出し、傷口を洗ってあげたあとに、取り出した消毒液を振りかける。
一応、しみにくく作ってはいるのだが、さすがにこれだけボロボロだと痛いだろう。
先ほどの前足の時よりも、大きく体が跳ねた。
待ってくれ、こっちを睨まないでくれ。
この傷で痛くないようにしろって、そりゃ無茶だぜおい。
「痛いのじゃ……」
「すまんすまん、でもさすがにこの傷じゃ……」
キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!
「喋れるのかよ!?」
「そりゃそうじゃろ、さっきから貴殿の言葉に反応しておるのじゃ」
「あ、確かに」
しかもこの子、のじゃ属性か。
まぁいい、話が通じるならやりやすい。
「あー、コホン。
その前足と体力は良くなったみたいだけど、翼が治るのには少しかかると思う。魔法と薬で補助はするけど、最終的には自然治癒力に頼るしかないよ」
「そうか……すまんの、治るまで世話になっても良いかの?」
数日の間、可愛い同居人……同居猫?ができました。