これが俺の一日、らしい
俺がこの異世界にやってきて、二日目の朝がきた。
窓から射し込む太陽の光で目を覚ます。
寝ぼけ眼で窓を開けると、草花の香りが混じった爽やかな風が部屋に入り込んでくる。
洗面台に行き、自分の魔法で出した水を使い顔を洗う。
昨日のうちに用意しておいた、虫歯に効きそうな薬草をすり潰した歯磨き粉のようなもので歯を磨く。
ちょっとばかし苦いが、その苦味のおかげですっかりと目が覚める。
魔法を使って衣服を洗濯、脱水と乾燥までをものの数分で終わらせる。
そしてそのまま、これまた魔法を使ってシャワーを浴びる。
楽だなぁ、これ。
この世界には、ゲームの世界でよくある所謂MPとかの概念がないのかもしれない。
どんだけ魔法を使おうが、疲労感というか、気だるさというか、そういうものが感じられない。
朝ごはんとして、昨日も食べた果実を食べる。
朝食がフルーツって、なんか意識高い系OLのような感じだが。
あまり大きな運動をしないからなのか、あくせく動く必要がないのんびりとした生活だからなのか、それほどカロリーを取る必要がないように思う。
しばらくは果実と魚で充分生きていけそうだ。
そういえば、山頂から周りの景色を眺めていた時に、ここと一番近い村のちょうど間ぐらいに、少し広い高原があった。
もしかしたら、猪とか鳥とか、そういった食べられそうなモンスターもいるのだろうか。
肉が恋しくなったら、そこに行ってみるのもまた、いいかもしれない。
それに、薬が完成して村に売りに行って、そこで小金が手に入ったら、その村で食事をするのも楽しそうだ。
朝食を済ませたら、また山の中を散策する。
木々を駆け抜ける風や、鳥や虫なんかが奏でる音を楽しみながら、また目ぼしい薬草がないか探してみる。
「お?これ、茸じゃん」
訂正、薬草と茸を探してみることにする。
「あっ、こっちの茸は毒があるな。
これは……うん、食べられそうだ。多分焼くといい香りがするぞー」
俺の見極めスキルは、果実や薬草だけでなく茸にも有効らしい。
なんという便利スキル。
あまり採りすぎるのもよくないので、数食分だけ採取しつつ、山の中を歩き回る。
やっぱり、ステータス的な何かがあるのだろうか?ちょっとやそっと歩いただけじゃ全然疲れない。息も切れない。
しばらくしてから、お日様の陽射し具合いを見てお昼寝スポットに移動する。
もうこの時の気分は最高潮だ。
「今日も来たよ。またここで、昼寝してもいいかい?」
返事など返ってくるわけもないが、リスのようなウサギのような動物と、少しばかりの雑談をし、夢の中へとダイブする。
目が覚めたら、また動物達と挨拶をして、川へ魚を釣りに行く。
釣具を使わないので、釣りと言えるかどうかははたして疑問なのだが。
ここでも、魚を確保するのは一食分に止めておく。
家に帰ってきたら、採取してきた薬草とにらめっこしながら、薬を調合する作業に入る。
納品期限という概念がないので、非常に気楽だ。
作業というかこれももう、一つの趣味だな、うん。
太陽が赤くなってきたら、調合をやめて夕食の準備に取り掛かる。
と言っても、魚を焼くだけなのだが。
いや、今日は茸もあるな。果実は明日の朝においといて、今夜は魚と茸にしよう。
思った通り、採ってきた茸を焼くと、食欲をそそるいい香りが漂ってくる。
自然に感謝しつつ、自然の恵みを、自然の中で美味しくいただく。
今日は採らなかったが、焼くよりも煮た方が美味しそうな茸もあったんだよな。
明日はそれを食そうか。
調味料がないから、煮るっていうよりただ茹でるだけってことになるが。
そうだ、薬売りが軌道に乗ったら、村で調味料を買おう。
夕食が終わったら、一日の生ゴミを魔法で細かく切り刻む。
まぁ、一日の生ゴミって言っても、そうたいした量じゃないんだが。
これだけ山の自然をいただいてるので、なんかこう、この生ゴミをちょっとした肥料みたいなものにして、山に還元したり出来ないだろうか。
まぁそれは追々ということにしておくが、俺にはマジックボックス(勝手に命名)があるので、そこに入れておく。
どういう仕組みなのかは全く分からないが、この中に入れておいたモノ同士が混ざり合うことがないらしい。
非常に便利な魔法である。
そのあとは、日が暮れるまで適当に魔法の練習でもする。
いや、練習と言えるのかはちょっと自信ないが。
火、水、風、土、様々な魔法を駆使して空に絵を描いてみたり。
これが本当のマジックアート。ってやかましいわ。
まぁ、練習という建前、小さい頃憧れた魔法を使うのが楽しいという本音、といったところだろうか。
男はいつまでたっても、少年心を失わないものなんだ。忘れてしまうことはあるけどな。
そして日が暮れ暗くなってきたら、ベッドにダイブし夢の中へ。
うむ、素晴らしい。ビバ、スローライフ。
しばらくはこの暮らしを堪能させてもらおう。
しばらくというか、ずっとなんだけどな。