いいことがあると思ったのに、いけなかったらしい
やーやー、おはよう諸君。
今日は絶好のお出かけ日和ですな。
晴れ間一つない空に、びゅんびゅん駆け巡る風。
嵐の一歩手前といったところである。
「えー……昨日の晩までは晴れてたのになぁ」
「仕方がないのじゃ。山の天候は気まぐれじゃとも言うしの、むしろ今までが恵まれていたと思うのじゃ」
「ま、それもそうか」
うーむ、仕方がない。遠出は明日にして、今日は屋内でのんびり過ごすか。
森の中で降られちゃ敵わんからな。
「なぁリコル、いつも行ってる山とかビビア村までの丘とか、行こうと思ってた森とかって、名前はないのか?」
「何かしらあるとは思うが、わっちは知らんの。
あぁでも、ビビア村の手前にある丘は、確かスード丘と呼んでた気がするのじゃ」
一番行く機会の多い、そこの山の名前が分からないと少し不便なんだよな。
魔王ご令嬢様なら、この世界の地理とかは知ってるものかと思ったんだけども。
「リコルでも知らないことあるんだな」
「まぁの、有名な地域や大きな都市なら知っておるが、基本人間界のことは管轄外じゃからの」
「あぁ、それもそうか」
んーむ、確かに。
俺だって世界の都市の名前全部言えるかって聞かれたらそりゃ無理だ。
それどころか、国内だって山や川の名前も全部は把握してないしな。場所によっては県内すら怪しい。
当たり前か。
「むしろここの事はコージのほうが知ってるはずなんじゃがの。物知りなのか物を知らんのか、分からんやつじゃ」
「まぁな、俺がここに来たのってつい最近だしな」
「……は?」
おっと、つい口が。
まーでも別にいいだろ。転生したことを言っちゃいけませんなんて言われてないしな。
「はー、なるほどのう。にわかには信じられん話じゃが、その方が納得出来ることが多いのじゃ」
「なんだ、あの神様の話しぶりだと、俺以外にも転生してる人いるっぽいけど、この世界にはないのか?」
「うぅーむむ、聞いたことないの。多分じゃが、転生してきたことを明かす者がいないか、いても少ないんじゃないかの?」
ふーん?そういうもんか。
「まぁ、転生してきたなんて広まったら、大きな都市部の機関に取っ捕まってモルモットにされそうじゃしの」
「……まじで?」
「知恵をつけた人間の悪いところじゃの。全ての者がそんな愚か者とは思わんが、少なからずそういった輩もおるからの」
おおぅ……これはあまり他言しないほうがいいかもしれないな。
マッドサイエンティスト?とかなんとかに捕まって、薬品漬けにされたくない。
「む、本格的に降ってきたの。
ともあれ、別に公表したところで、コージならそういう悪い火の粉なんか小指で振り払えそうじゃがの」
「やっぱ降ってきたな。
そんなことしたら懸賞金とか賭けられて全国指名手配とかされそうなんですがそれは」
勘弁してくれ、俺はのんびりと余生を過ごしたいだけなんだ。
「くふふ、そうじゃのう。まぁそうなったらわっちのところにこい。全面的に協力してやるのじゃ」
「頼りにしてるぜ、お嬢様」
「子ども扱いするでないわ」
話ながら外を見てたら、ぽつぽつと音を立てて降り始めたので、これはもう今日は丸一日団欒dayだな。
いや、晴れてても常に団欒してる気もするけど。
「ところでコージよ、その神様とやらに会ってみたいかの?」
えっ、会えるの?
「確かリリィと名乗ったんじゃろ?天界にいる知り合いのうち、一人心当たりのある奴がおるのじゃ」
「まじで?てっきり手の届かない神様とかかなと思ってたんだけど」
「まぁ、天界じゃからの。普通に人間として暮らしていたら、そうそう行ける場所ではないの」
そうなのか。それなら一度、お礼を言いに行きたいな。こんな素晴らしい人生を送れるとは思ってなかったからな。
あと、何を間違えたのか、はっきりと聞いておきたいし。
多分、超便利な見極めスキルとくそ強い(らしい)魔力のことだろうけど。
「ちなみにわっちが知っておるリリィは、基本いいやつじゃがおっちょこちょいなところがあるの」
「あ、その子だわ多分」




