どうもお騒がせしてしまったらしい
「な、なんじゃ……心配して損したのじゃ……」
「いやー、すまんすまん。まさかあれ通じてたとは思わんかったわ」
どうも俺が試しに送ってみた念話が通じてたみたいで、そこを早とちりしてしまったようだ。
ただ、さすがに魔界と人間界とじゃ遠すぎて、リコルからは念話が送れず、一方通行だったと。
俺からすると、リコルからの返答がなかったから、あの念話が通じてたとは思わず一方的に念話をやめてしまったので、いったい何事かと本気で焦ったみたいだ。
「まぁよい、コージが元気で何よりじゃ。
ひとまず、魔界で待機させてたみんなに謝ってくるかの」
「あー、なんかごめんな?」
「いや、わっちも焦りすぎたのじゃ。
よくよく考えたら、コージがヤバイ状況というのが想像できんし、そもそも頼みたいことと言ってただけで、助けてとは言ってなかったしの」
ああ、父上に怒られるのじゃ……と呟きながら、再び空へと飛び上がっていったリコルの背中は、少しだけ哀愁が漂っていた。
……すまん。
「ふむ、本とな。もちろん魔界にもたくさん本があるし、なんならわっちの家にも書庫があるのじゃ」
「おお、本当か!それ、数冊でいいから借りることできない?人間界の俺が読んでも問題ないやつとかさ」
あれから少し待っていると、頭に大きなたんこぶをこさえたリコルが涙目で戻ってきた。
俺にも原因があるので、可及的速やかに治癒してから、本を読みたいという本題に入った。
本だけに。
魔界にも、人間界とほぼ同じような書物が流通しており、特にリコルの家は魔界の中でもトップの豪邸なので、新書から古書までだいたいのものが揃っているとのことだ。
問題なければ借りたいものだ。
さすがに本を読みたいがためだけに、魔王様のお宅へお邪魔するのはちょっと……
「それぐらいなら大丈夫なのじゃ。じゃが、持ってくる本はどうやって選ぶのじゃ?
魔王宅へとお邪魔するのが忍びないから借りたい、ということじゃろ?」
あいやー、ばれてーら
「あー、確かに。自分で選ぶとしたらどっちみち行くことになるんだよな。
じゃ、リコルのセンスに任せ……いや、それはそれで申し訳ないな」
よくよく考えたら、本を読むためだけに魔王宅にお邪魔するよりも、本を読むためだけに魔王様のご令嬢をパシリに使うことの方が、迷惑極まりないよな。
ヘタすりゃ俺、魔族全体を敵に回すことになるぞそんなことしたら。
「わっちは別に気にせんがの。まぁ確かに、めんどくさくはあるのう。飛んでこれるとはいえ、遠いしの」
「だよな。一度行ってしまえばテレポート出来るし、お邪魔しようかなぁ」
「……いや、さすがにテレポートはやめといた方が良いのじゃ。
もしその時にわっちが外出していたら、唐突に現れた侵入者として、それはそれは警戒されてしまうのじゃ」
あ、それもそうか。
さすがにそんな命知らずなことはしたくないな……
だったらいっそのこと、一度お邪魔すると決めたら数日そこに留まって、本を読み漁った方が……
いやいやいや、それもそれで厚かましいことこの上ないよな。
うぬぬぬぬ……
「まぁ、本をどうするかはひとまず置いておいて、一度わっちの家にこんか?
コージはわっちの命の恩人じゃからの、父上も母上も、いつか挨拶したいと言っておったのじゃ」
「そんな大層なことはしてないけどな」
「いやいや、二人揃ってここに……というか、魔族を引き連れて挨拶にくる勢いじゃったぞ?
さすがに人間界が大混乱するからの、それは全力で止めたのじゃ」
「あ、ありがとう……そんなことになったら世界的大ニュースになりそうだよ……」
魔族が攻めこんできたぞおおおおお!!ってなりそうだからね。マジで。
「それじゃあ、今からくるかの?こちらはいつでも大丈夫だと思うのじゃ」
「んー、ついさっき大騒動をさせたばっかりだしなぁ、少し日を空けたいかな。
久しぶりにまた数日、うちでゆっくりしていくか?」
「おー!いいのう!
あのお昼寝とお風呂が忘れられんでの、久しぶりに味わうのじゃ!」
ということで、またしばらくはのんびりと過ごすことにしようか。
あ、ゴンのこと紹介しないとな。