初めてのモンスター退治?らしい
リコルが帰ってから数日、またいつもの生活に戻っていたのだが、今日は山には行かずに、ちょっと遠出をしようと思う。
薬の調整が終わったのだ。今度は多分、ほとんどしみたりしないと思う。
……動物用の。
一応、人間用の薬も飲みやすさを度外視させると完成させたと言えるが、もういっそ、動物専門の薬屋でもいい気がしてきた。
ペットや家畜用の薬屋としてやっていこうと思う。
前世で言うところの獣医さんだな。
ということで、少しの身支度をして出発だ。
なんか新鮮だな。
村までの道のりのおよそ半分ほど、広い広原のようなところまでやってきたが、目に新しい景色というのもいいもんだ。
おっと、あれはモンスターってやつかな?
でっかい牙を持った虎?みたいなのもいるし、ぶよぶよとした不定形なのもいる。スライムってやつか?
おっ、やっぱ猪もいるじゃん。肉を食べたくなったらあいつだな。
ちょっとデカイけど、まぁ多分勝てるだろ。俺、強いらしいし。
それからまた少し歩いていると、第一村人(?)を発見。
ただちょっと、モンスターらしきものに襲われてるらしい。
あれは商人かなんかかな?でっかい荷車みたいなのが転倒していて、そのすぐそばに牛が倒れている。馬車ならぬ牛車だろうか。
その横には、恰幅の良いおじさんが腰を抜かしており、目の前には岩でできたゴーレムのようなモンスターがいる。
あー、そのゴーレムみたいなのに襲われたのかな?にしてもでけーなゴーレム!軽く二~三メートルはありそうだ。
あまり戦闘というものはしたくないのだが、見かけた以上は見捨ておく訳にはいかないか。
「大丈夫ですか?」
おじさんの元に駆け寄り、声をかけてみる。
「はっ、ほっ、ひっ、た、助けてくれ!」
落ち着け。
「助けてくれ!頼む!助けてくれ!」
「わ、わかったから、少し落ち着いて離れてなよ」
戦闘手段は持ってなさそうだもんなぁ、このでかさのモンスターに襲われたら、そりゃ怖かろう。
というか、護衛みたいなのはつけてなかったのか。
「──!」
なんて言ってるのかは全然分からないが、おじさんを襲っていたゴーレム(勝手に命名)が、奇声のようなものをあげながら逃げていく。
あら?逃げてくれるの?
ラッキー。
「キングゴーレムが、逃げた……?
坊主、お前いったい……?いや、それよりも助かった、恩に着るよ」
あ、キングゴーレムって言うのね。
なんか強そうじゃん。逃げてくれて良かったー。
「いえいえ、俺は何もしてないし。
おじさん、怪我はないかい?」
「あぁ、左腕を少し擦りむいただけで済んだよ。
ただ、牛が……」
あ、そうだ牛。あからさまに倒れてるもんなぁ。
とりあえず息はありそうだが。
「うおっ、これは酷いな……ってかよく生きてるなこの牛」
倒れている牛の様子を見てみるが、ちょっと酷い。
先ほどの、キングゴーレム?に襲われたんだろう、横っ腹が軽く抉れており、相当な力で殴られたであろうことが分かる。
牛ならぬ虫の息、なんつって。
「な、なんと……困った、ビビア村まではまだ距離があるのに」
牛車の中には、大小様々な荷物が積まれていた。
やはり商人で間違いなさそうだ。
んー、治るかなぁ。
「少しじっとしててくれなー、今手当てしてやっから」
牛の横顔を撫でつつ、マジックボックスから薬を数種類取り出す。
まずは回復魔法で、根こそぎ奪われた体力の回復。
次は闇魔法の応用で、一時的に痛覚を弱らせる。まぁ、完全麻酔は無理だけど、患部を診る時に暴れられては困るからな。
まだまだ魔法のことはよく分かってないが、毎晩マジックアートで遊んでいるからな、細かな魔力操作なら任せろ。
あとは水魔法で患部をよく洗って、俺特製の薬をかけて、自然治癒力の働きを最大限に活性化させる魔法を唱え続ける。
「ぼ、坊主、何者だ?」
「んー、あそこの山の麓に住んでる者です。ちょうどこういった動物の治療を専門にしてるんで。
もう少しで歩けるようになると思うよ」
ついでにこのおじさんの擦り傷も手当てする。
軽く洗って薬をかけてはい終了。
「助かったよ、本当にありがとう」
「ほいほい、歩けるようにはなっただろうけど、完治してるわけじゃないから、あまり無理させんなよ。
牛車をゆっくりひくくらいは出来るだろうけど」
まぁ出来ることなら、もうちっと休ませてやりたいところだがな。
ただ、さっきみたいにモンスターに襲われないとも限らないし、広原のど真ん中で休む訳にもいかんしな。
あ、そういえば。
「そういやおじさん、護衛みたいなのは雇わなかったの?」
「もちろん雇っていたさ。だが、キングゴーレムを目にした途端逃げ出しやがってな……」
おいおい……護衛が真っ先に逃げてどうすんだよ。
そりゃ運が悪かったなおっさん。
次からはもうちっとまともな護衛を雇うことをオススメするよ。




