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無事に完治したらしい

「おっし、もう大丈夫だろ」


「うむ、痛みもないしの。完治したと思うのじゃ」


あれから数日、リコルの治療を行ってきたが、翼の傷が完治したようだ。

元々無事だった左の翼と見比べても、ほとんど遜色ないぐらいに良くなっている。


試しにと飛行してみるが、大丈夫そうだ。

右へ左へ上へ下へ、ゆっくり飛んだり素早く飛んだり旋回したりしているが、特に問題もなさそうだ。


と、怪我の完治を噛み締めるリコルが、妙に改まってこちらへと向き直る。


「コージよ」


「なんだ?いつになく改まってさ」


「此度の恩、このリコル・ゴルゴンゾ・ゴーヌ、忘れぬのじゃ。本当に、コージがいい奴で助かったのじゃ」


「大袈裟だなぁ。とにもかくにも、ちゃんと治せて良かったよ」


そんな姿勢を正して深々と頭を下げられると、なんつーか、こそばゆいな。


「いや、本当に。

もしもコージが悪い奴だったら、わっちは死んでいたかもしれぬ。全快の状態でも、もし仮にコージに襲われたら、わっちじゃ太刀打ちできんじゃろうしな」


「いやいや、さすがにそれはないでしょうよ。

魔族がどれだけ強いのかは正直分かんないけど、その魔族のトップ階級の娘なんだろ?勝てるわけないじゃん」


褒め称えてくれるのはありがたいが、過度なお世辞は逆に失礼だぞよ?猫の子よ。


「……時にコージよ、なにかと戦闘をしたことはあるかの?」


「え?いや、ないけど」


いきなり何を言い出すんだこの猫娘は。

あーでも、よくよく考えたら俺の方が珍しいのかな?

普通はこう、ギルドとかに登録して、そのギルドに寄せられる依頼なんかに沿って、モンスターを倒したりするんだろうしな。


村に行ったことがないから知らんけども。


「そうか。

なるほどの、それなら自覚してないのも納得じゃが。

今まで見てきた人間の中で、コージほど練度の高い魔法を扱う者は知らんし、コージほど無尽蔵に魔力を持ち合わせている者も、知らんぞ?」


「え?マジで?」


「うむ。というか、わっちら魔族の中でも、本気で戦闘モードに入ったコージに、傷を負わせられる者は数少ないと思うがの」


いや、それはどうなんだ?

さすがにそれは言い過ぎなのでは。


「多分じゃが、わっちの両親……つまり、事実上わっちら魔族のツートップが、二人がかりになってようやく、いい勝負が出来るかどうかってところじゃな」


「いやいやいや、そんなバカな……」


ふと、頭によぎったことがある。

そういやリリィ様、転生直前に、間違えたとかなんとかこぼしたんだよな。


もしかして、これか?これのことか?


想定よりも能力を与えすぎたと?


おいおい、もし俺が、よっしゃー異世界じゃー世界征服じゃーとかいう思考を持ってるような奴だったらどうするんだ。


「んー、そう言われても実感がなぁ。

ま、今のところ何かと戦うつもりもないし。荒事は苦手なんだよね」


「なんとなくじゃが、この数日でそんな気はしておったがの。優しい、いい奴じゃ。

しかし勿体ないのう、わっちの家にこんか?魔族は実力主義者でな、すぐに魔王になれると思うのじゃが」


なんと大層なことを仰るんですかね。仮にもあなた、現魔王の娘でしょうに。


「んー、リコルと一緒にいるのは楽しいけど、俺はここでのんびりしたいからなぁ。魔王とかってのも興味ないし」


「くふふっ、そういうと思ったのじゃ。

ともあれ、世話になった恩を忘れぬのは本当じゃ。もしも何か困った時は、遠慮なくわっちに言うがよいのじゃ」


「それじゃ、たまに遊びに来いな。それでチャラってことで」


一人でのーんびり暮らすのももちろん悪くないが、やはりリコルといた数日は楽しかった。

ペットを飼ってる人達の気持ちが、少しだけ分かったような気がするよ。


さすがにここまで喋るペットなんていないと思うけど。


「まったく、敵わんの。

それでは、わっちは一旦家に帰るのじゃ。みんな心配してるかもしれんしな」


「おう。またな、リコル」


分かってはいたけど、やっぱ寂しいな。


「うむ、またなのじゃ、コージ!」


小さく羽ばたき、遥か上空へと飛んでいくリコルを、その姿が見えなくなるまで見送る。


さよならじゃなくて、またな、だもんな。

また来いよ、リコル。




「ふぅ……よっし、薬の調合をすっか!

もうちょっと傷口にしみないように出来ないかな」


寂しさをかき消すように、少しだけ大きな独り言を呟きながら、家の中へと戻る。


治療の最初の頃の痛がりようが、少し可哀想に思えてたので、改良が必要だ。




そういや結局、リコルの元の姿を拝まず仕舞いだったな。

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