騒がしくも、楽しいらしい
ここにきてやっと、主人公の名前が判明します。
「ところで、貴殿のことはなんと呼べばいいのじゃ?」
現在、お風呂とご飯を済ませ、仲良くベッドの中で寝転がってるところ。
そういえばお互いに名前を名乗ってなかった。この子の名字……ファーストネーム?がゴーヌってのは聞いたけど。
「ああ、俺はコージだ、よろしくな。んで君は?さすがにゴーヌって呼ぶ訳にもいかんし」
「うむ、わっちはリコル・ゴルゴンゾ・ゴーヌじゃ。コージは恩人じゃからの、気軽にリコルって呼んでくれ」
すげぇ大層な名前が出てきたぞ、こりゃガチで上流魔族っぽいな。
「おっけー、翼が治るまでよろしくな。ま、治ったあとも、たまには遊びにこいよな」
「ちょくちょく風呂に入りにくるのじゃ」
うちは銭湯ではないんだが。
あの薬草、そんなに良かったのだろうか。入浴剤の販売も視野に入れるか?
「ところで、リコルの家は大きいらしいけど、親とかに連絡しとかなくて大丈夫か?」
「うーぬ、今頃探し回ってるかもしれんが。
ま、数日ぐらい大丈夫じゃろ。コージら人間と違って、魔族にとっての数日くらい微々たるもんじゃでの」
そういや悪魔だとか魔族だとかって、長命なイメージがあるな、そういうもんか。
それに、この怪我のまんま帰すのもなんかなー、ちょっと不憫だし。
っていうか帰れないか、飛ぶのしんどそうだし。
「朝と夕方の一日二回、液を振りかけて安静にすれば治るだろうし、それまでは安静にしとけな」
「う……あれ、けっこう痛いのじゃ」
「そこは耐えてくれ、効き目は保証してやっから」
「うむぅ。ま、仕方ないのじゃ」
良薬口に苦し。
この場合は口じゃないか……良薬傷口に痛し?
ところで、一緒に風呂に入るのを躊躇う種族なのに、一緒に寝るのはいいんだろうか?
「ふんんんー……」
ああ、おはようおはよう。今日も朝がきたぞー。
リコルは……まだ寝てるみたいだな。
いつも通りのルーチンワークで、朝のシャワーまでを済ませたところで、やっとリコルが起きてきた。
「んー……
おはよ、ママ……」
「ぶっ」
寝起きが弱いのかな?寝惚けていらっしゃる。
ママって。
ママって。
「コージ、貴様他言しようものなら、分かっておるな?」
「んぶふっ……分かってるって」
「わ、笑うな!」
朝食を食べながら、やっと覚醒したリコルが顔を真っ赤にして睨みつけてくる。かわいい。
「わるいわるい。でも、そんな気にすることねーと思うけどな。
子どもが母親に甘えるのは当然だろ」
「わっちを子ども扱いするでないと言ってるのじゃ!これでも今年から結婚出来る年齢なのじゃ!
こ、これ!笑うでないわ!」
ああ、こんな騒がしい朝は何年ぶりだろうか。
前世で独り暮らしを始めてからは、こんな朝はなかったな。
ペット飼うこともなかったし、同棲とかもしたことなかったしな。
これはこれで、いいもんだなぁ。
「い゛っ……やっぱり痛いのじゃ……」
「昨日よりかは、だいぶ回復してきてるんだがなー」
朝食を終えてから、翼の治療を始めていた。
魔族は自然治癒力も高いのだろうか?この分なら明日か明後日ぐらいには、飛べるぐらいまで回復するかもしれない。
「安静にしてれば、明日の治療辺りからは痛みがないかもなー」
「ほ、ほんとか!?それは助かるのじゃ……」
あ、やっぱすんげぇ痛いんだな、これ。
なんか、すまん。
「よっし終わり。これから山に行くけど、ついてくるか?」
「一人でおってもつまらんしの、行くのじゃ。まだ飛べなさそうじゃから、肩に乗せとくれ」
「はいはい。それじゃ、行くかー」
今日の散策は、普段よりも楽しくなりそうだ。
散策というか、ペットの散歩?
口に出していたら、引っ掻かれそうなことを考えつつ、今日も山の中へと入っていく。
ついでに薬草の補充もしとこうかな。