拾ったのは魔族の子だったらしい
「嫌じゃ!絶対に嫌じゃ!」
「仮にも山に倒れてたんだろうが、多少なりとも汚れてるだろ」
「嫌じゃ!入るにしてもわっちは一人で入る!」
やっぱり、こういうお風呂ドタバタコメディーは定番なんだなぁ。
とはいえ、さすがに山で倒れてたその身そのまま、布団の中に入れるのはなぁ。
前足も治したし、体力も戻ってきてはいるだろうが。翼のあの具合を見ると世話を焼きたくなるんだなぁ、これが。
「その怪我で、一人で入れとくのはちょっと心配だし」
「子ども扱いするでないわ!それに、わっちは女子で貴殿は男じゃろ!」
あぁ、そういう……
ってかお前、メスだったんだな。
「さすがに動物相手に欲情する性癖は持ち合わせてねーなぁ。はいはい、もうすぐ薬草がいい感じに染み出てる頃だし、さっさと行くぞー」
「持ち上げるでない!これ、離さんか!いーやーじゃー!!」
普段はシャワーで済ませるけど、今日は湯船に浸かろう。
魔法でさっさとお湯を張って、自然治癒力を高める効能のある薬草と、いい香りのする薬草を入れておいた。
現代で言う入浴剤みたいなもので、その効果は俺の見極めスキルによってお墨付きだ。
いやー便利な能力をくれたもんだ。神様仏様リリィ様。
「あぁぁー、極楽極楽」
「ジジくさい奴じゃのう。しかしこれは、なんともまた格別じゃのー……」
さっきまでの威勢はどこへやら。
ま、結果的に大人しく入ってくれたので、よしとしておこう。
「手当ての恩もあるしの、こんな気持ちの良い風呂に浸かれるしの、いい奴だしの。
まさかこの年で伴侶が決まるとは思わなんだが、まぁ、いいかの」
「そんな大袈裟に恩を感じなくても……
今、なんつった?伴侶?」
「聞こえておるではないか。
そうじゃ、貴殿は知らんかもしれんが、魔族のなかでもわっちの種族ではの、特に親しい間柄の異性。つまり、家族以外に裸を見せることはないのじゃ」
やっぱり魔族だったんですね。そんな気はしてました。
「まぁ、喜ぶがよい。自分で言うのもなんなんじゃが、わっちの家は数ある魔族でもトップの権力を持っておる。
俗に言う玉の輿ってやつじゃの」
変な言葉知ってますね。しかも逆だし。
「えっ、いやいやちょっと待て。人間と動物って結婚できんの?」
「わっちは動物ではないわ!」
シャーッ!と牙を見せてくるが、まさしく猫のそれである。
「移動するのに動きやすいこの格好をしていただけで、元の姿は人間に近いぞ。翼は生えておるが」
どうやら翼を盛大に痛めてしまったおかげで、元の姿に戻れずにいるという。
正確には戻れることは戻れるのだが、激痛が走りそうなので翼が治るまでは、この猫?のような姿をしているという。
「えー、別にいいんでない?今は他の誰も見てないんでしょ?
それに、俺はただここでゆっくり過ごしたいだけだし。そのー、魔族?のお偉いさんのとこに婿にいくのもなんか、忍びないし」
「そうはいかんのじゃ!誰も見てないとはいえ、わっちが掟を破ればゴーヌ家の名に傷をつけてしまうのじゃ!」
どうやらこの子、ゴーヌ家?とかいう一族の娘らしい。
うーん。
「え、でも、裸を見ちゃダメなんでしょ?
今のその姿が裸になるなら、飛んでる間見られ放題だけど」
「あっ……
そういえばそうじゃった、この姿で風呂なんぞ入ったことなかったからの、早とちりしてたのじゃ」
「やっぱドジっ子なんだな」
「誰がドジっ子じゃ!」
あ、すまん、無意識に言葉に出してたわ。
ともあれ、今のスローライフは守られたらしい。
良かった良かった。