なんか俺、死んじゃったらしい
時は金なり。
昔の偉い人は、よくもまぁそんな言葉を残してくれたもんだ。
そのせいで(?)現代人は心のゆとりもなくなるほど、忙しなく働くことになったんだ。
働いても働いても、仕事はいっこうになくなることがない。
というと少し大袈裟だが、とにかく社会人は忙しい。俺は運良く、そこそこ恵まれた職場環境に身を置くことができた。
もちろん例に漏れず、休みは週に1日程度、朝から晩までデスクに向かいパソコンをカタカタする毎日なんだが。
だがそれでも、世に溢れるブラック企業に就いてしまったとは思っていない。仕事量が多く忙しいのは間違いないのだが、職場の上司にも良い人が多く、非常に働きやすい。社長も話しかけやすくとてもフレンドリーだし、逆に俺のような下っ端社員のことを随時気にかけてくれる。
そのくせ「おーしこのあと飲みにいくぞ!もちろんくるよな!」などというお決まりのアフターハラスメントなどもほとんどない。
ちょうど良い距離感で接してくれる。
こんなブラックブラックした時代に、こんな働きやすい職場に就けた俺は、なんて運がいいんだろうか。
ぽやーっとした頭でそんなことを考えていたんだが、そろそろ現実に向き合おうか。
今俺は良く分からない空間にいる。白一色のとても広い部屋……部屋なのか?ホール?
記憶を辿っていくが、こんな場所は見たことがない。
「ここ、どこだ?」
場所だけではない、目の前にいるとても綺麗な女性もまるで記憶にない。というかこの人は人間なのか?なんか羽根みたいなのが見えるんだが。
ただ、なんていうかこう、コスプレ感はないんだよな。
それっぽければいつの間にかコスプレイベント会場みたいなところに紛れ込んだみたいな発想も出来るんだが、なんつーかなぁ、なんかそんな気がしない。
いや、いつの間にかコスプレイベント会場に来ちゃってましたてへ!ってのも相当頭イカれてるんだが。
「おはようございます。目が覚めましたか?」
件の女性が優しく話しかけてきた。あー、なんとなく察したわ。こりゃ女神様とか天使様ってやつだな。うん。
なんか神々しい感じあるわ。うんうん。
んでこりゃ夢だな。
随分とまぁ突拍子もない夢だが、夢ってそんなもんだろ。うん。
夢の中とはいえこんな綺麗な女神様を見れるなんて、ラッキーだな。うんうん。
「あー、はい、なんかまだぼーっとしてますけど、はい」
さすがに夢とはいえ緊張するなぁ。そりゃもうめっちゃ美人。
しかもただ美しいだけじゃない、オーラが出てるもん。
具体的には頭の上に輪っか状の光るオーラが出てるもん。
「そうですよね、急なことでしたから……そりゃ現実を受け入れるのに時間かかりますよね」
んー?なんか凄い哀れみの目で見てくるんだけどこの女神様。
なんなんだいったい。
「現実を受け入れる……?夢の中で?」
あ、つい声に出しちゃったわ。まぁでもいいか、うん。
「あ、いえ夢ではないですね。現実です。あ、いや……もう現実とは言えなくなったんですけれども」
「???」
「ここは所謂、死後の世界です」
「??????」
「あなたは、死んでしまったんです」
「?????????」
あー、んー、あー?
ちょっと何言ってるのか分からない状態だったが、だんだんと記憶が甦ってくる。
「あー、そっか……」
そういえばそうだった。俺は死んだんだった。
たまたま普段は利用しない店舗の銀行で、たまたま銀行強盗がきて、たまたま人質にしようとした女の子の近くにいて、たまたま無意識に足が動いて女の子を庇って、そしたら撃たれたんだ。
あー、あの後どうなっちゃったのかなぁ。
女の子、やっぱり強盗の人質として怖い目にあったのかなぁ。
あ、いや、そもそも目の前で頭に弾丸くらって人がぶっ倒れたら、もうそれ自体がトラウマになるか。
「はぁ、思い出しましたわ……
あれ?でも死後の世界ってこんな感じなんですね。てっきり閻魔様とかに天国行きか地獄行きかとか決められるとか、そういう感じなのかと」
「え、えんまさま……?がどなたかは知りませんが、そうですね、他の死者とは少し違う世界だと思います」
あら、閻魔様はご在宅ではないですかそうですか。というかそんなもの存在してなかったのか。
まぁそりゃそうか、そんなの人間が勝手に想像したものだもんな。死を経験した人に「ねぇねぇ、死後ってどうなんの?」とか聞ける訳ないわな。
ん?他の死者とは違う世界?
「本来であれば死後、別の世界で魂を落ち着かせ、その後新しい生命を授かることになるんですが。
生前、もしくは死の瞬間に善を尽くした者の中からランダムで、その者の望む条件ですぐさま転生させているんです」
およ、なんか聞いたことあるぞ?ってかそんなアニメ見たことあるぞ?