俺の武器は。
車に轢かれて死んだ俺は気がつくと何もない白い空間にいた。
広さは約9畳ほど。窓もなければドアもない空間に俺は1人佇んでいた。
最初は焦りや戸惑いから夢なのではないかと考えていたが、死ぬ瞬間の記憶や痛みを思い出し、夢ではないことを確信する。
1つの疑問が消えとりあえず落ち着こうとしたがまた新たに俺の中に疑問が生まれる。
「ここは…どこなんだ…?」
口が開く。
周りを見渡してもあるのは壁だけ。いくら壁を調べようともただの壁。
それにいくら時間が経てども腹は減らないし、疲れもしないし、眠くもならない。
知らないという恐怖心が俺の鼓動を速くする。
……………。
………。
ん?鼓動!!?
「う、動いてる…」
死んだはずの俺の胸に右手を当てる。すると微かにだが心臓が動いているのが伝わってきた。
つまり俺はまだ────
「パンパカパーン。おめでとうございます、空白奏さん。あなたの武器が選ばれました。」
生きていると確証しガッツポーズを決めようとした瞬間、やる気のなさそうな機械音が頭の中に響く。
驚いた俺の体はビクッと跳ね上がる。
部屋の中には誰もいない。周りに変化もない。
「…だ、誰だ!?」
「お答えすることはできません」
「…ここはどこなんだ?」
「それもお答えすることができません」
「お前は誰だ…」
「可愛いAIちゃんです」
さいですか。
「茶番はここまでにして本題に入りましょう」
「あ、はい」
雰囲気に流され、状況が全く掴めないまま話を続けられてしまう。
どうせ死後の世界の通過儀礼だろうと思い「まぁ、いいか」と納得してしまう。
「端的にお話しすると、あなたはとある世界の転生者に選ばられました」
ふむ。全くわからん。
「なんだそりゃ?」
「別の世界に今までの記憶を持ったまま転生できる権利です」
「俺に何の得が?」
「転生者はモテます」
「是非行かせていただきます!」
自慢ではないが俺は今までの38年間モテたことが一回もない。老いぼれ枯れ果て始め、気がつけば40近く。こんなチャンス自ら望まず男とは言えないだろ?
「先程その転生にあたり、あなたの適正武器を専門家1000人に吟味してもらいあなたの体に一番会う武器が決まりました」
「そんなこと、どうでもいい!さっさと俺を転生させてくれ!俺はモテたいんだ」
興奮が収まらない。
「それと、転生ボーナスであなたを若返えさせれますがいかがなさいますか?」
「ぜ、是非!」
異世界かぁ。可愛いケモミミっ娘とかエルフとかあんのかなぁ…。
期待に胸を膨らませる。
「わかりました。武器は転生先の足元にでも置いておきます。では良き人生を」
次の瞬間、俺の体は光に包まる。
(あ、そういえば俺の武器って…。ま、いっか!どーせ勇者の◯◯とかだろ!)
そんなことを考えながら十数秒。光が消え、目の前に地平線まで何もない草原が広がる。
「本当に…本当に俺生き返れたんだ…」
自分の心臓部あたりに右手を当てると今度は確実に大きなリズムで動いている。
青い空!白い雲!足元に落ちている木の枝!澄んだ空気に小鳥のようなさえずりの音!全てが俺の転生を祝っているかのように……。
ん?
青い空!白い雲!足元に…落ちている……木の枝!!?
そこにはどこにでも落ちていそうな、小学生が振り回してそうななんの変哲も無い木の枝が一般落ちていた。
丁寧にも俺の名前が貼られている木の枝が。
…………………………。
…………………。
…………。
「そ、そりゃ、ないだろぉぉぉおおお!!!」
どうやらこれが俺の武器らしい。1000人の専門家が吟味した結果。
一番俺の体にあっている武器に選ばれたのは……。
選ばれたのは木の枝でした。
第2の人生のスタート点。俺ははじめの一歩を踏み外した気しかしなかった。