8 ある船の船長
俺は、ある船の船長をしている。
最近は海を渡る者が少なくなり、仕事も減った。
そんな中仕事を依頼してくるのは、余程の事情がある者か冒険者だ。
前者はほとんどないので冒険者専属のようになっている。
危険な仕事なので商売敵もほとんどいない。
そんな中、久しぶりに依頼が来た。
Aランクの冒険者を送り届けて欲しいという依頼だった。
部屋は4部屋の予約だった。
おそらく、冒険者は4人なんだろう。
確かに俺の船は2人部屋だが、同室で止まることはほぼない。
「久しぶりの依頼ですね。腕がなります」
「そうだな。だが最近の冒険者は物騒な奴が多い。気をつけろよ」
俺に話しかけてきたのはこの船の副船長である、リークだ。
こいつは元々奴隷で、俺がたまたま売られている現場に遭遇したので買ったのだ。
こいつは以前、客に襲われたことがある。
冒険者に、だ。
奴隷紋を見られたことが原因だろう。
あの時のこいつの震えた体と、怯えた目は忘れられない。
依頼の日になった。
依頼主はフードをかぶっており、顔は見えない状態だった。
そしてやはり、4人だった。
——奴隷の獣人を3人連れていたが
いや、奴隷を連れていることが悪いことではない。
俺もリークを買ったのだからな。
奴隷に自分で自己紹介をさせたのには驚いたが、やはりこいつらもそこらへんに転がっているクズと同じなのだろう。
部屋は4部屋しかとられていない。
奴隷の部屋はない。奴隷は床で寝ろと、そういうことか。
そんなことを考えていると、4人は驚くべきことをし始めた。
部屋割りをし始めたのだ。
しかも、獣人の奴隷と同室にすると宣言もしていた。
結局はそうはならなかったが、奴隷に部屋を丸ごと1つ使わせると言われたときは驚愕した。
だが、この4人はそれで終わりではなかった。
ヒユウと名乗った者は、体が弱いのかあまり、部屋からでてこない。
だが、ふと部屋から出たと思うと、
「今夜は嵐ですか?このまま行くとぶつかりますね。進路は変更しなくてよろしいのですか?(これ以上揺れられたら俺、死ぬんだけど)」
と言って天気を予測したり、
「そろそろ突風がきますね?マストは大丈夫ですか?帆は畳んだ方がよいのではないでしょうか?(マストが折れて遭難とかマジで勘弁してくれよ?)」
といって突風を予測したり。
この時は、嵐の事もあったので言う通りに帆を畳んだらその瞬間に強い風に襲われた。
リークは予測できなかった事を謝罪してきたが、あんな、未だにどこから吹いてきたのかわからない風を予測するのは無理だろう。
ツカサと名乗った者は、腕の良い医者だった。
傷口から感染症を引き起こし、見放された船員に薬を打ち、数日安静にしていたらよくなるといって船員がいた部屋を掃除し、綺麗にした。
数日たつと、まだ働ける体ではなかったが、元気になっていた。
後日礼を言うために部屋に行き、船員に打った薬は高価なものだったのではないか、払うことができないかもしれない、と言うと、彼は「陽悠が調べたことによるとあの薬の材料は簡単に手に入るらしい。だから気にしなくていい」と言った。俺はそういうわけにもいかないと、端た金だがといって銀貨20枚が入った袋を渡した。
双子は戦闘能力が高かった。
海の魔物は陸にいる魔物より強い。
だというのに、この二人はあっという間に殺していく。仕舞には「弱くね?楽勝だわ」「···弱い」という始末。
慣れている者でもやられることがあるというのに、この二人にかかっては赤子の手をひねるようなものなのか。
そうして、日々はすぎ、8日たった。このまま大したこともなく終わるのかなと思っていると、次の瞬間、船が大きく揺れた。
何事かと事実確認を急ぐとそこにいたのは、海の魔獣『クラーケン』だった。
最近は被害も聞かなくなっていたので大人しくしているのかとおもったのに、そうでもなかったらしい。
俺たちは死を覚悟した。
双子も、怯えているのか「やっちまった」「どう、しよう」とつぶやいている。その手は、震えていた。
当たり前だ。このクラーケンは500年も前から人に被害をもたらしてきた。
こいつに会って命があれば儲けものだ。
そんな中、大きな音を立てて甲板の扉が開いた。
「翔愛!永遠!魔物に船を揺れさせるなと言っただろう!!」
そう言って出てきたのはツカサと何故かツカサに横抱きにされているヒユウの姿だった。
「ごめんって。いきなりで防ぎようがなかったんだよぅ」
「ごめん、今、潰す、から」
そう言った双子の目は獲物を見ていた。
そこで俺は気が付く。
あれは怯えて震えてたのではなく、怒りで震えていたのだと。
「大きいですね?手を貸しましょうか?」
「そうだな」
兄2人も参戦するのか。というか、ヒユウは戦えるのか?そんな疑問を持っていると、双子が答えた。
「いらないよ~あんなの2人だけで十分だし、兄さんたちは見てて」
「ん、別に、いらない」
そう答えた双子は笑っていた。
口だけではない。
全身で、喜んでいた。
俺は冷静になり、2人だけで倒せるわけがないと口に出そうとした。
しかしそれが言葉になることはなかった。
兄2人も笑っていたのだ。
——『異常』
そんな言葉が俺の頭を駆け巡った。