3 奴隷を買いましょう
そこにあったのは8台ほどのパソコンと、床を覆いつくすほどある配線だった。
陽悠はまだ中学生のはずだが、それを思わせる物は何1つなかった。
翔愛と永遠も目を見開いていることから、おそらく陽悠が何をしているかは大体知っているが部屋に入れてもらったことはなかったのだろう。
「私はここで情報を集めています。それをネタに脅したり、第三者に売ったりしてるんです」
「脅し?」
「そうです。脅して金をとります。誰かに頼まれて調べるってこともあるので、言えば情報屋ですね」
「···」
「だから恨みをかうことが多いんです。あの手この手を使って、たまにこの場所を見つけてここまで来る人もいます。政府関係者や裏社会の人間の情報がここにはたくさんありますから、それ目当てで来る人もいるんです」
「やめることはできないのか?」
陽悠は横に首を振りながら
「無理です。言ったでしょう?ここには裏社会の人間の情報がたくさんあるんです。この情報は色々な人が喉から手が出るほど欲しがっているものばかりです。私は、ある組織と契約を結んでいます。それは、私が情報を提供する代わりにこの家を守るというものです。あの組織は大きいですから、私が情報提供をやめて普通の生活に戻ると言えば、どんな手段を使ってでも私と、私にかかわっているすべての人間を始末するでしょう。私はもう、ここから、出ることはできません。月冴兄と翔愛と永遠はまだ、光のある場所で歩いて行け「···俺が落ちるよ」
陽悠の言葉を遮って、翔愛が言った。
「え?」
「俺が陽悠兄のところまで落ちる!陽悠兄がそこから上がれないなら、俺がそこまで落ちる!」
「···そうだな。陽悠がそこから戻れないと言うのならば俺たちがそこへ行けばいい」
俺と翔愛の言葉に永遠も頷く。
「俺、も。落ちる。陽悠兄が、いるとこ、まで」
そういうと陽悠はもう何も心配することはない、というような微笑みを向けた。
「ふふ。私も覚悟決まりました、って言ったでしょう?この部屋を見せた時にはもう覚悟はできていました。みんなで一緒の道を歩く覚悟です。···だから、来てください?私が今いるところまで」
*****
4人が目をあけるとそこは森の中だった。
あたり一面が緑で覆われており人の気配はない。
最初に口を開いたのは陽悠だった。
「ここはどこだ?」
「さあな」
陽悠の問いに月冴が、兄弟に外傷がないかチェックしながら返事を返す。
「森の中っぽいよね?」
今度は翔愛があたりを見渡し、状況判断をする。
永遠も気配を探っているようだが終始無言だ。
ここがどこであるかという明確な答えは当たりを見回したところで判断は難しい。
そう思った陽悠はスマホを取り出した。
「取り敢えず、ここがどこか調べてみる」
そう言って、検索する。
「ああ!スマホだね!」
翔愛はワクワクが止まらないのか大はしゃぎだ。
――マップ 現在地を検索――
該当――ルプラの森。
――ルプラの森周辺のマップを提示――
完了。
――ルプラの森周辺の国を検索――
該当――4件。
――現在地より最短の国を検索――
該当――サメス皇国。
「きた。ここはルプラの森で、ここから一番近い国はサメス皇国だって」
検索結果を陽悠が共有すると、翔愛は目を輝かせる。
「じゃあ、そこ目指して行ってみよう!」
ノリノリで、そう言った翔愛に若干呆れ顔をしつつ、月冴は最終確認をするかのように陽悠の方をみた。
陽悠も頷いている。
行くべき道は決まったようだ。
陽悠はまたスマホに向き直った。
――サメス皇国までの道を提示――
案内を開始します。
*****
数時間後
「まだあ?国なんて見えてきそうにないよお?」
先程まで道なき道を陽悠のスマホの力で進んでいたが、ようやく道と呼ばれるものが出てきた。
とわいえ、手入れなどはされておらず、ボコボコな道である。
「···」
1番先頭を並んで歩いているのが、翔愛と永遠だ。
「はあ、はあ、ほんとだな、あとどれくらいだ?はあ、はあ」
その次を歩いているのが月冴。
その数十メートル後ろに陽悠がいる。
陽悠は息を荒げながらスマホを見る。
――目的地まであと1時間ほどで到着します。
(まじか)
1時間とかもう無理、歩けない。それが陽悠がスマホを見た瞬間の気持ちだ。
陽悠の心の声を聴いたのか、月冴が声をかける。
「ちょっと、休憩するぞ。はあ、はあ、陽悠、大丈夫か?」
「···はあ、はあ、はあ。大丈夫に、見えるか?」
「「「見えない」」」
顔は汗だくだが、4人の体はべとべとしていない。
これは2時間前に気づいたことだが、どうやらこのマントには汗を吸い取る効果があるようだ。
まあ、翔愛と永遠は汗をかいていないようだが。
しかしそんな2人とは裏腹に陽悠の顔は憔悴しきっていた。
「···っく、はあ。何で、2人はそんな余裕なんだ」
唾を飲み、先ほどまで先頭を歩いていた翔愛と永遠に陽悠は尋ねた。
「ええ~だって鍛えてるしね~こんぐらいなら余裕だよ?」
翔愛と永遠は余裕の表情を見せる。
そんな話をしていると、翔愛と永遠が、いきなり立ち上がった。
翔愛と永遠の真剣な顔から、ただ事ではないかもと月冴と陽悠も立ち上がる。
だが、状況はまるでわからない。
「なに?」
陽悠が訪ねると、
「···なんか、音が、する。あっちから、来る」
そう言って永遠が先程まで歩いていた道を指さした。
その方向には少しの土煙が舞っていた。
「「「「······」」」」
じっと見ていると、しばらくして馬車のようなものが姿を現した。
「馬車、か?」
月冴が安どの表情を浮かべると、
「うん。でもまだなんかありそうだよ?」
先程と変わらない真剣な面持ちで翔愛が返した。
「何か?···なんだ、あれ?動物?」
陽悠が翔愛に聞き返し、しばらくすると馬車の後ろに大きな動物のようなものが見えた。いや、訂正しよう。あれは『動物』と言うにはあまりにも禍々しいオーラを放ちすぎている。即ち、『動物のような形をしている何か』だ。
ー結局何もわかってなくね?!という意見は却下するので悪しからず。
そうこうしているうちに、馬車との距離がだんだんと縮まってきた。
「陽悠兄、どうする?これ」
翔愛は陽悠の方向を見ず、動物のような形をした何かを見ている。
陽悠は少し考えるそぶりを見せ、意見を述べる。
「逃げることは無理。主に俺が。走るの遅いし、体力無いから。見たところあの馬車はあの変な動物に追われて困っているようだし恩を売って、この先の皇国まで送ってもらうっていうのはどう?」
「「「賛成」」」
全員の獲物が決まった。
4人はフードの下で不敵な笑みを浮かべた。
「だったら、あの馬車を止める。カモを逃がしたら大変だから。それは、月冴兄に頼む。俺はもう、歩きたくない。俺たちは、自分の武器を使い、あの変な動物を仕留める」
「「「了解」」」
次の瞬間、月冴は馬車に向かって大声で声をかけた。
「そこの馬車!!死にたくなかったらいったん止まれ!!!」
盗賊団と間違えられるのでは?と思う発言をしながらも月冴の眼は馬車を追いかける。
しかし、後ろから追われているというのに『はい。わかりました』と言って止まる奴がいるだろうか。いいや、いない。
だからまずは、あれを殺さなければならない。
「翔愛、永遠」
陽悠が声をかけると翔愛と永遠は走りだした。
陽悠は銃を構え、数百メートル先にいる変な動物に、狙いを定める。
翔愛は走りながら左腰にある刀に手をかけ、永遠はどこからか苦無と手裏剣を取出す。
一方で月冴は止まる気配のない馬車を見ながら、手術で使うメスを取出す。
翔愛と永遠が変な動物の前へ立ったのとほぼ同時に、バンッと音がしたかと思ったら変な動物の首が斬り落とされ、頭の方には、銃弾が一発が撃ち込まれ、胴の方には苦無と手裏剣が刺された。
月冴の方はというと、馬車を操縦している御者の隣に飛び乗り、呆気にとられている御者の首にメスを突き付けて、馬車を止まらせた。
陽悠たちは止まった馬車の方へ向かった。
「手荒な真似をしてしまい、申し訳ありません。俺たちはこの先にある国へ行きたいのですが、疲れて動けません。そこで、馬車に乗せてもらいたいのですが···」
陽悠は青い顔をした御者にそう伝えると、御者は困った顔をして、「お、お嬢様。いかがいたしますか?」と馬車の中にいる人に声をかけた。
「かまいません。乗せて差し上げて下さい」
御者は、少し戸惑いながら降りてきて馬車の扉を開けた。
中には10歳ぐらいの女の子がいた。
4人が馬車に乗り、馬車が走り出すと少女が話しかけてきた。
「お初にお目にかかります、ポップルウェル家が長女、エリザベスと申します。先ほどは危ないところを助けていただき、ありがとうございました。馬車の止め方は···少々手荒なような気がしましたが。ええっと···お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
淡々と、長男、次男、三男、末の順に名前を述べていく。
「ああ。俺は、雨宮 月冴だ」
「俺は、雨宮 陽悠です」
「俺は雨宮 翔愛だよ~よろしくね!」
「雨宮 永遠」
「珍しいお名前ですね。ご出身はどちらですか?」
「東にある国です。ある事情で名前を出せないのです。ご容赦ください」
「そうですか。そのマントを取ってもらうことは···?」
「申し訳ありません」
「失礼ですが、身分証はお持ちでしょうか?」
「いいえ。お恥ずかしながら持ってはいないのです」
陽悠が淡々と質問に答えていくと、少女はだんだんと眉間に皺をよせ、困ったような表情を出した。
「そう、ですか。国へ入るには身分証が必要です。しかし、この馬車はこの馬車自体が身分証のようなもので、馬車に乗っているものには必要がありません。助けていただいたお礼に、国へ入ったら身分証を発行してもらえる場所まで案内いたしましょう。ああ、それとも、冒険者になるご予定がおありですか?ならば冒険者カードが身分証の代わりとなりますので身分証を発行する必要はございませんが」
「···身分証を作るのと冒険者カード?というものを作るのではどちらが安くすみますか?」
陽悠はそうだよな、パスポートもなく国に入れるわけはないか、と疲れて頭が働かなくなっていることに気が付く。
「確か、身分証だと銀貨1枚で冒険者カードは銅貨3枚でしたね」
(銅貨?少しスマホで検索してみるか。ん?メール?誰から?)
陽悠はスマホを手に取り画面を開く。
するとスマホには一通のメールが届いていた。
『やあ!これを見ている時には異世界にいるかな?言い忘れたけどそこには魔物っていう禍々しいオーラを放つ動物がいるから気をつけてね!特に君達には闇魔法をあげちゃったから、魔物が周りで多く発生するんだよwwまあ、頑張れ!後、お金がないと困るだろうから君のボックスに金貨3万枚入れといたから!大事に使ってね?それ、僕が3万年かけてためたお金だからww100枚ずつ袋に入ってるよ~
追伸:たまにそっちに遊びに行きま~す
神様より♡』
陽悠の思考が3秒間ほど停止する。
その後、陽悠は純粋に心の中で突っ込むことにした。
(魔物が現れたのって俺たちの所為かよ···っていうかあいつ、暇なの?それに金貨1枚で銀貨何枚分だ?)
最後は疑問になったが、気になった陽悠はスマホで検索を開始した。
該当
・銅貨50枚=銀貨1枚
・銀貨100枚=金貨1枚
なるほど、分かったと、陽悠は3人に目配せをする。
3人は待っていましたとばかりに陽悠に近寄る。
といっても馬車の中なので、少し体をくっつけるだけだが。
「(ねえ、陽悠兄。俺たちお金持ってなくない?どうすんの?)」
こそっと、翔愛が陽悠に向かって話しかけた。
まずはその話からかと、陽悠はスマホを手に取り、画面を3人に見えるように前に出した。
「これを見てみてください」
「ん?」
「なんだ?」
「···?」
陽悠は兄弟全員に届いていたメールを見せる。
3人は、先程の陽悠を同様に3秒間ほど停止した。
そんな中、一番最初に声を発したのは月冴だった。
「···あいつ、こっちで3万年も何してたんだ?」
その通りだ。というように兄弟全員が月冴の言葉にうなずく。
だがそんなことは考えても意味はないだろうと、陽悠は早々に次のステップに進める。
「取り敢えず、金貨100枚で分けられてるみたいですから、1袋ずつ渡しておきます」
「ええ~いらないよ。ずっと一緒にいるし。欲しいものあったら陽悠兄に伝えるよ~」
陽悠の提案に翔愛はいやいやと首を振る。
永遠も同じ意見のようだ。
陽悠はそんな2人に微笑みながら全員のボックスに転送する準備を始める。
「一応、自分でも持ってた方がいいですよ。取り敢えず全部俺のボックスの中に入っていますから、送りますね。月冴兄は200くらいいります?」
「いや。100でいい。そんなに使わないだろうしな」
「わかりました」
そんなやり取りをしていると少女が困ったように声をかける。
「あの···皆様?」
陽悠はスマホをしまい少女に謝罪する。
「ああ、申し訳ありません。こちらで話し込んでしまって」
少女はしまわれたスマホがあるであろう位置をじっと見つめ、一人葛藤していた。
しばらくして、好奇心にはかてなかったようで、そうっと陽悠を顔を見て、口をひらいた。
「その···先程の奇妙な箱は一体?」
「これですか?まあ、奇妙な箱です」
陽悠はなんて答えていいかわからなかったため、そのまま返すという選択をした。
(陽悠兄、説明になってないよ···)
翔愛はあきれた表情で横にいる陽悠をみる。
「何をするものなのですか?」
そんな翔愛の表情に気づいた陽悠は顎に手をあて、考えるそぶりを見せ、すぐに口を開いた。
「そうですね···遠くの人(神)の言葉が一方的に届いたり(本人に返す気がないだけ)知らないことが調べられたり、暗い所で光ったり、映像を残したり、ですかね?」
今度は月冴と永遠がはあ、とため息をつきそうだ。
しかし、少女はその答えに満足したらしい。
目をキラキラさせて陽悠をみている。
「すごいですね!そんなことができる魔法道具があるんですね!···っと!そろそろ着きますね。冒険者カードか身分証、どちらになさることにしたのですか?」
スマホを開くと案内が終了している。
ここが目的地で間違いないようだ。
続いて身分証についての問題がまだだったと、陽悠は兄弟たちにどちらにするか尋ねた。
「そうだな、冒険者カードの方が安いしそっちの方がいいんじゃないか?」
「俺もそっちがいい!」
「···そっち」
どうやら満場一致で冒険者カードのようだ。
安いしその方がいいだろう。
陽悠は今度は少女の方へ向き直った。
「では、冒険者カードにします。ええと、それはどちらでとれるのでしょうか?」
「ギルドで発行できますよ。案内しましょう」
馬車が門を抜けたらしい。
活気のある声がそこかしこに響いている。
「お嬢様。これからいかがなさいますか?」
御者が声をかけた。
冒険者ギルドへ向かう旨を伝えると、また馬車が動き出した。
翔愛は目をキラキラさせて窓の外を見る。
「へえ、すごい人だね!ねえ、獣人とかエルフとかはいないの?」
「?!ええと、あなたたちの国にはいらしたのですか?」
「ううん!だから見てみたいんだよね!」
エリザベスの目が少し見開かれた。
(?少し心拍数があがった?動揺・・・か?)
陽悠にも長男の月冴と同じように絶対音感というものがあった。
だからフードで顔が見えなくても、兄弟たちが何を思っているのかが分かるのだ。
しかし、医療の事はなにもわからない。
人の動揺や、噓などを見抜くことが得意としているため交渉向きだ。
陽悠はそんな少女に少し考えるそぶりを見せると、早々に結論を出した。
「すみません。やはり、ここで結構です。この国の様子もみたいので、これからは歩きます。ありがとうございました」
「ですが···いえ、そうですね。確かに、国を見るにはその足で歩いたほうがいいでしょう。亜人を見たいのでしたら、あそこに見える角を曲がって、奥に進んでください。冒険者ギルドは、あの大きな建物です。あと、これをお持ちください。何かあった際、これを見せれば大抵のことは何とかなります」
そう言って、陽悠に馬車と同じ紋章が入った、懐中時計を手渡した。
陽悠はそんな少女に、疑問を持った。
いや、正確には随分前から疑問を持っていたのだが、今ここで聞くことにしたのだ。
「エリザベス様、なぜ私共にここまでしてくれるのですか?私たちは確かに魔物を追い払いましたが、流石に・・・」
陽悠がそう問うと、少女はとても無邪気に笑った。
――やはり、貴方がたは私のことを知らないのですね
と呟いて。
陽悠はその言葉に対し尋ねようとすると、少女はそれを阻止するかのように声をあげた。
「アンビス!止まって」
エリザベスが声をかけると、馬車は止まった。
恐らく、これ以上は聞けないと判断した陽悠は兄弟に目配せをした。
「お嬢様!?いかがなさいましたか?!」
声から慌てた様子がうかがえる。
まあ、馬車の止め方からして異常だったのがないだろう。
「恩人の皆様が出られるわ。開けてちょうだい」
「あっ、はい。かしこまりました」
アンビスと呼ばれた御者は扉を開けた。
一番最初に月冴が馬車を降りた。
「ああ、そういえば。馬車を止める際少しばかり手荒な真似をしてしまった。申し訳ない」
降りてから、アンビスの前へ向き、謝罪をした。
「い、いえ!こちらこそ、助けていただいて、ありがとうございました!まさか、あそこで魔物に遭遇するとは思わず···」
あ、それたぶん俺たちのせいです、とは言えないため微笑みながら陽悠は馬車からおりた。
そして、兄弟全員が馬車から降りると、
「それではまたどこかで」
そう言って馬車は去っていった。
陽悠はスマホのメモに『ポップウェル家エリザべス』と入力しあとで検索しようと決め、スマホをしまった。
「さて、これからどうする?」
陽悠が訪ねると翔愛が答えた。
「ん~獣人がみたいなあ」
「じゃあ、さっき言われた場所に行ってみるか」
「うん!そうしよう!」
角を曲がりまっすぐ行くと店があった。
看板に何かが書いてあるが読めない。
(言葉は通じたが文字はダメか)
店の人がちょうど出てきたので声をかけようとすると
「なんだ?お前ら?ここはお前たちみたいなガキが来る場所じゃねえぞ!帰れ!商売の邪魔だ!」
「はあ?なんだよそれ?!ってか何売ってんだよこの店?」
翔愛が少し切れた。
「はあ?看板にでっかくかいてあるだろうが!(やっぱこいつら金持ってねえな?ッチ!)」
(心の声が出てるっての…ちょっと検索してみるか)
陽悠は写真を撮り、それをパソコンに送り何が書いてあるのかを調べてみた。
「···」
「なんて書いてあったんだ?」
月冴が黙った陽悠を見て尋ねた。
陽悠は一瞬眉をひそめたが、問題はないかと判断し、店の名前を伝える。
「奴隷販売店」
「「「マジか」」」
兄弟でハモった。
「どうするの?一応見てく?俺、獣人見てみたいんんだよね」
「そうだな、見るだけ見てくか」
そういうと月冴はさっきのおじさんに話しかけた。
「商品をみたいんだが」
「はあ、お前らが買え「金ならあります」
そういって陽悠は金貨を見せた。
「···うぉ、しっ、失礼しました!!しょ、少々お待ち下さい!」
慌てたようすで中に入っていくのを見た翔愛はあきれた目でつぶやく。
「金貨の量見たとたん目の色変えたね···」
「いつの世もどこの世界でも金が全てってことだ」
月冴は悲しそうな眼をして店をみている。
そんな月冴をみて陽悠は苦しそうな目をしながら、吐き出すように呟く。
「ああ、金がない奴から死んでいく。金がないということがどれほど惨めで苦しく、辛いことかは俺達もよく知っているはずだ」
そんな話をしながら待っていると店のなかから一人の老人とさっきのおじさんが出てきた。
「こいつが失礼をしたようで申し訳ありませんでしたのう。して、どのような奴隷をお探しでしょう?」
「では、亜人で、読み書きが多少は出来る者を。ああ、あと戦闘能力は高めがいいですね」
陽悠は先程の表情など毛ほどもみせず、余裕がうかがえる笑みでそう返した。
こういう店では特に、自分が鴨だと思わせてはならないのだ。
客は俺達。優位に立たなければ、損をする。
「ふむ、亜人ですか。わかりました。当店にある今の条件を満たすものを集めます。少々お時間をいただきますがよろしいでしょうか?」
「ええ。構いません」
そう陽悠が伝えると老人とおじさんは店内に姿を消した。
「陽悠兄、買うの?」
「見てから決める」
15分後ぐらいだろうか。おじさんがこっちまで来て準備が整ったことを伝えに来た。
そして、ここだと言われた場所に入ってみると老人と首に首輪をはめられ鎖で縛られている獣人が3人いた。
「これがうちの商品じゃ。こっちの2匹はメスでこっちのはオスじゃ。そっちのオスは今捕まえられたばかりで傷物じゃから安くするぞ?どうする?」
「少しの間、外してもらえますか?少し相談したいので」
「おお!構いませんぞ!ああ、あとそっちの傷物のは、もう腕は使い物にならん。それらも含めて考えなされい」
そう言い残して老人は部屋をあとにした。
「さてと。月冴兄、そちらの方の怪我の具合はいかがですか?」
「隠れててみえないな。ちょっと触るぞ」
「···ああ」
「そこの女の子2人は知り合い~?」
月冴が傷を見ている間に翔愛が獣人の女の子たちに話しかけた。
「は、はい」
肩を震わせ、恐怖の匂いをまとわせながら1人の少女が答える。
「陽悠、兄。どうする、つもり?」
「・・・」
陽悠はじっと考え、まず月冴に彼の状態を聞くことにした。
「月冴兄。彼の怪我のようすはどうです?」
「ちょっと待て」
「···」
「ふむ···」
「どうです?」
「すぐ治療すれば問題ないな」
「わかりました」
「治る、のか?感覚はほぼない。それでも」
「ああ、問題ない。一応、麻酔を打っておくぞ。応急処置もここ出たらしてやる。じっとしていろ」
そう言うと月冴はスーツケースを開け、一本の注射器を取り出した。
「ええー。じゃあ、そっちの人を買うの?女の子は?」
「翔愛、怪我人をほっとくきか?」
「月冴兄こそ、女の子をこのままにしとくわけ?」
翔愛と月冴の間に火花が散っている。
「「陽悠(兄)は?!どっち?!」」
ああ、やっぱそうなるか、と陽悠は眼を閉じて決断する。
「どちらも買えばいいのでは?」