1 とある兄弟の物語
地球という星に4人の兄弟がいた。
曰く、最強。
曰く、天才。
曰く、裏社会のトップ。
曰く、その兄弟に仇なす者は徹底的に排除される。
曰く、世界のすべての情報を持っている。
···など。
数多の事が”噂”されている。
いや。訂正しよう。されてい”た”。
ある時を境に噂は”消えた”。
そこには何もなかったというように。
兄弟の存在は消されたのだ。
”人外”である、”神”という存在の手によって。
*****
4人の兄弟は何もない空間にいた。
本人たちはここがどこで、これから何があるのか全く知らなかったが、とても落ち着いている。
「ここがどこかわかる?陽悠兄?」
三男であり双子の兄の方である翔愛が言葉を発した。
次に次男である陽悠が翔愛の質問に答えるために口を開く。
「わからない」
「月冴兄と永遠は?わかる?」
「いいや。さっぱりだな」
「···」
翔愛が今度は長男である月冴と双子の弟である四男の永遠に質問をした。
月冴は口を開いて答え、永遠は無言のまま首を横にふった。
「そっかあ~」
そこで会話は一旦途切れた。
その1分後、今度は陽悠が兄弟に問いかけた。
「ここに来る前の最後のこと覚えてるか?」
「ここに来る前の最後か?」
「「「······!!」」」
月冴は陽悠に聞き返したあと10秒ほど考え込んで、何を思い出したのか一瞬、目を見開いて固まりその後、陽悠以外の全員が殺気を放った。
「あいつ!?俺たちに何かしやがったのか?!」
翔愛が声を荒げた。
ーそれはちと違うのお。
4人の兄弟の頭の中で声が響いた。
すると、何もなかったはずの空間から突如、白い髭を生やした老人と青い髪の少年が現れた。
「誰だ?」
月冴が老人と少年に訪ね、翔愛と永遠が兄たちを庇うように前へたった。
ーほっほ。そんなに警戒しなくてもよい。わしらはお主たちの敵ではない。
だが翔愛と永遠は警戒を緩めることはしない。
ーむう···まあ、仕方ないのお。ではそのままでよい。だから少しだけわしの話を聞いてくれんかのお?
「···」
ー沈黙は是ととるぞい。まずは、そうじゃな。自己紹介からいこうかの。わしは君達がいた次元の新しい神となったものじゃ。
こちらの方は次元すべてを管理する者、そうじゃの···お主らのいたところでいうわしの上司みたいなものじゃ。
「神?俺ら死んだってこと?」
翔愛が質問をする。
ー···そうじゃな。正しくはわしらが強制的に終了させたのじゃが。まあ、死んだことに変わりはないじゃろ。
最後に何があったのか覚えておるかのお?
「あの人が、包丁を持って入ってきたな」
月冴が答える。
ーそうじゃ。お主らの父親であるあやつが、金がなくて困り果て泥棒の真似事をして包丁を持って家に侵入したのじゃ。
「でも、あの人に殺された記憶はないけど?」
ー言ったじゃろう?わしが強制終了させたのだと。
あやつがお主らの家に包丁を持って入る少し前にわしが前神の変わりの新しい神になったのじゃ。じゃから、お主らが父親ともめる前にここへ呼んだんじゃよ。前神がなぜいなくなったのかというとじゃな···神々が定めた禁を犯し、神の資格を失い、それによって消滅させられたからじゃ。至急代わりの神が必要で探していたところ、白羽の矢がわしにあたったというわけじゃ。めんどくさ···けっこうな大役を押し付けらr···任されてしまったのお。
(···おい、じじい、今めんどくさいつったよな。しかも上司の前なんだろうが)
陽悠は心の中で地味に突っ込んだ。
だが次の瞬間には説明への疑問が生まれ、自称神に問いかける。
「禁?それは俺たちに関係のあることですか?」
陽悠は口がいいわけではないが、他人の前だと敬語になる。それは陽悠が意図してやっていることではない。
故に、他人と話していると、時々自分が話しているわけではなく、別の誰かが話してるんじゃないかという錯覚に陥り気持ち悪くなる。
これは母親の教育的指導···いや。洗脳だろう。その所為だった。
それがいいことだったのかはわからないが、陽悠は他人と母親の前では敬語で話すことしかできなくなった。だがそれと比例して、陽悠の心の中はどんどん荒れていった。一時期は兄弟にも敬語を使っていたことがある。
だが、母が死んでから他人と話すときの第一人称が『私』から『俺』に変った。
良い進歩といえるだろう。
ーそうじゃ。人にはのお、不幸の数と同じ量の幸福が約束されるのじゃ。じゃから不幸だけということは本来有り得ないことなのじゃよ。幸福を渡すのは神の仕事じゃ。しかしのお···前神はお主らに幸を少ししか与えなかったのじゃ。しかも、ある解けない呪いまでかけておった。お遊び感覚でのお。お主たちはこれから散々な人生を歩むことになってしまう。そう考えたわしはこのお方に相談をし、お主たちをここへ呼ぶことにしたのじゃよ。お主たちは、あの世界に最初から存在しなかったことになり、すべての人の記憶から消えたのじゃ。これはお主たちをここに呼ぶための条件としてこの方とわしが決めたことじゃ。
「ある解けない呪いって?」
今度は翔愛が疑問に思ったらしい。
翔愛が問う。
2人の神は互いに顔を見合わせ、青い髪の少年が頷くと白い髭の老人は兄弟と向き合い、言葉を発するため口を開いた。
ー一生年を取ることの出来なくなるの呪いじゃよ。
「「「「・・・は?」」」」
兄弟全員が2,3秒固まった後首を傾げ、いつもは喋らない永遠までもが言葉をもらした。
いや、だって···
一生年を取ることができない呪い?
不老不死じゃなくて不老だけ?
と全員が今にも聞こえてきそうな顔をしている。
ーすまぬがこれはわしらにはどうしようもできないことなのじゃよ。
呪いはかけた本人が解かなければ解けることはない。かけた本人が消滅すればもう解くことは不可能なのじゃ。お主らはもう年をとることはなくなる。故に、年のせいで死ぬことはないのじゃ。じゃが不死身になったわけではない。怪我をすれば血が流れるし、痛い。病気にだってかかるじゃろ。
すまなさそうに眉を寄せながらら老人は言った。
その老人を見ながら兄弟は眉をひそめた。
「「「「······(なんだ、その変な呪い)」」」」
ーだから僕は君達に罪滅ぼしをさせてもらうことにしたのさ!
いきなり今まで喋らなかった青い髪の少年が明るい声を発した。
「罪滅ぼし···ですか?」
別にいらないんだけど、と心の中で陽悠が呟く。
ーそう!今回の責任は僕にもあるからね···まずは転移する場所を決めようか!!どこがいい?
「どこがいいなんて言われてもわかんないんだけど」
翔愛がポツリと呟いた。
ーうーん···”剣と魔法の世界”とか?
「え?ゲームとかの?あんの?!」
警戒態勢はそのままだが、翔愛は声を弾ませながら青い髪の少年に聞き返した。
(そういえばゲーム好きだったよな···弱いくせに)
陽悠はどんな世界でもよかった。
ただそこに、兄弟全員がいるならば。
あとは何も望まなかった。
それは陽悠だけではなく、兄弟全員が思っていることだった。
ーあるよ?そこにする?
青い髪の少年は笑顔で首をかしげる。
翔愛は眼をキラキラさせながら、陽悠の方へ振り返った。
「陽悠兄!そこがいい!そこにしよう!」
「俺は別にいいですよ」
陽悠はそんな翔愛に微笑みながら答えた。
月冴は「陽悠がいいなら」と言い、永遠も月冴の意見と同じだというように首を縦にふる。
ーじゃあ、決まりだね!あとは···
そういうと青い髪の少年はパチンと指を鳴らした。
すると、4人の前に一つずつ黒い球が現れた。
「「「っ!陽悠 (兄)!」」」
とっさに永遠が陽悠と黒い球の間に入り、陽悠を黒い球から守るような体制をとった。
ー大丈夫だよ。危害を加える者じゃないからね。
青い髪の少年がそう言ったが永遠は動こうとしなかった。
「大丈夫みたいです、永遠。ありがとうございます」
その陽悠の言葉で永遠は一旦黒い球から離れたが、何かあったらすぐに対応できるように陽悠のそばにある黒い球をじっと見ている。
ーそれじゃあ、誰か一人その球に触れてみて?
「それじゃあ、俺がやりま「ダメだ」
陽悠の言葉を遮ったのは月冴だった。
「月冴兄?どうかしましたか?」
陽悠は首をかしげ、不思議に思っている。
「いや。何があるかわからないから俺が先に行く。翔愛、なんかあったら援護を頼む」
「わかった」
翔愛はそう言われると、分かったと言うように首を少しだけ縦に振った。
ー危害を加えるものじゃないって言ってるのに。
まあ、いいや。早くさわってごらんよ。
それでも警戒を怠っていいことはないと、
月冴は自分の目の前にある球に手を伸ばし、そっと触れた。
すると、黒い球は形を変えていって一つのスーツケースになった。
「なんだ?これ?」
「なに、それ?」
月冴と翔愛が同時に言葉を発した。
ーとって開けてごらんよ。君にしか開けられないようになってるからさ。
そういわれ、月冴はスーツケースに手を伸ばした。
すると、浮いていたスーツケースは月冴の手に渡り、それを月冴は地面に置き、開けた。
「これは···」
開けたスーツケースの中は、外見からでは想像ができない空間が広がっていた。
そしてその中には月冴が仕事で使っている医療器具が入っていた。
ーそう、医療器具さ。必要な時に開けるといい。これだけの量があると大変だろうから必要なものは手前に出てくるようになってる。そして、他にも、”Operating room”っていうとオペ室が現れるようになってるよ。必要な機材は中にそろってるから安心していい。
「すごいな」
ー気に入ってもらえた?
「ああ、十分だ」
ーそれはよかった。じゃあ、次は誰が触る?
「俺がやります」
今度こそ、と陽悠は声を出した。
ーわかった。じゃあ、触ってごらん?
やっと大丈夫なものと分かってくれたかと、青い髪の少年は満面の笑みを浮かべた。
陽悠は自分の目の前にある黒い球に手を伸ばし、触れる。
すると月冴の時とは違い3つに分かれた。
その3つに分かれた球はそれぞれ別のものを形作っていった。
「パソコンとスマホと···俺が作った銃ですね」
説明しよう!!
陽悠が作った銃とは、その通り、陽悠が作った銃である。
昔、もしもの時のために···と普通の銃を改良して面白くした。
ああ、一つ言っておくが、別に暇だったから作ったわけではないのだ。
···違うからな!
ーそうだよ。パソコンとスマホにはあっちの世界と君たちがいた世界の知識をすべて詰め込んでおいたんだ。銃は君がいつも持っているからあった方がいいかなと思ったんだけど。
「感謝します」
「次俺!!次俺な!!」
翔愛が騒ぎ出した。
翔愛は待ちきれないといった様子で黒い球を見ている。
ーわかった。いいよ。さわっても。
すると黒い球が作り出したのは日本刀だった。
「本物?」
ああ、誤解なきよう。
これは『俺が普段使っていたやつか』という確認である。
翔愛の剣の腕は確かなもので、普段は木刀を使っていたが、もしもの時には相手を殺せるように普段から日本刀を隠し持っていた。
ーもちろん!手入れの道具はこれね。
じゃあ、最後は永遠くんだ。
「・・・(コクリ)」
永遠は無言でうなずき、黒い球に触れた。
すると、黒いカバンが現れた。
開けて中を確認してみると、これもまた、永遠がいつも隠し持っている暗器だった。
手裏剣などの投剣も入っていた。
ーはい、これ。手入れの道具ね。
永遠はコクンと頷いてから、頭をさげた。
ーじゃあ、それらをしまう場所だけど、月冴くんはそのままでいいとして、陽悠くんは肩掛けカバンとその銃を横に付けるための道具をあげるよ。翔愛くんと永遠くんは···うん。大丈夫そうだね。
翔愛は日本刀を横に付け「これからは堂々とここにおけるなんて最高だね!」と言い、永遠は無言で暗器を服のいたるところに仕込んでいた。
2人とも手慣れたものである。
ーあとは···なんかあったっけ?
何かあったような?なかったような?
とブツブツ呟きながら首を傾げ、やはり思いつかなかったのか、老人の方へ視線を飛ばした。
老人は覚えていたのかすぐに答えが返ってくる。
ールームと魔力のことではないですかのお?
ーああ!そうだ。ルームと魔力の事だよ!
「魔力?!やっぱあんの?!」
翔愛はまた、キラキラした目で少年を見ている。
ーうん。もちろん!その前にボックスの説明をするよ?
全員、どんな部屋でもいいから思い浮かべてみて?そうしたら”ルーム”って言ってみて。
兄弟全員、部屋を思い浮かべて一斉に「ルーム」と言った。
すると兄弟一人一人の目の前にドアが出来た。
「なんだこれ?」
「なんだろう、これ?」
「なにこれ?」
「···?」
兄弟は一斉に疑問を浮かべたが、まあ、大丈夫かとドアノブに手をかけた。
すると、開けたドアの先には兄弟が思い浮かべた部屋がそこにあった。
のだが、
「俺の、陽悠と比べて小さくないか?」
「俺もだ!陽悠兄の部屋おっきい!っていうか大きすぎでしょ!」
翔愛が月冴の言葉反応し、陽悠の部屋を覗き見て騒ぎ出した。
どうやら、人によって大きさが異なるようで。
一番大きいのが陽悠。人は400人程度なら余裕で入れる大きさのようだ。
二番目は永遠。陽悠には負けるが、人は150人程度なら余裕で入れるだろう。
三番目は月冴。これは60人が限界というところだろう。
一番小さいのは翔愛で30人が限界だろう。
ーそこに手入れの道具とか食料とかをいれるといいよ。
次に魔力だけど···全員に闇属性の魔力を渡しとくね。これを武器とかにまとわせておけば威力が上がったり、スピードが速くなったりするから、うまく使うといいよ。
「へえ。ねえ、あっちでは人の命ってどのくらいの価値があるの?」
翔愛はなにに触発されたのか目をギラギラさせ、質問した。
少年はその様子に笑いながら、
ー君たちのところに比べれば低いよ。とんでもなくね。正当な理由があれば、その場で切り殺しても文句を言われないことだってあるし罪にさえも問われない。
「じゃあ、逆にこっちが狙われることの確立も上がるってことか」
月冴は陽悠の方を見ながらそうつぶやいた。
ーあ、その恰好のまま送ってもいい?それともフード付きのマント羽織る?
兄弟の格好は様々で
月冴は白衣を羽織っている。髪は短い。
陽悠は降ろせば太ももまである長い髪を高い位置で結んでいて、下はジーパンをはいていて、首にはヘッドホンをつけていた。
翔愛は袴を着ている。
永遠は制服をきて、口は布で覆われている。
翔愛と永遠は二人とも降ろせば肩ぐらいまである髪を束ねて結んでいて、髪型は同じである。
顔もそっくり···というより他人から見れば同じに見えるだろう。
だから、翔愛と永遠の友人は布で顔を覆っているのが永遠の方だと見分けていた。(兄弟は見分けがついてる)
「貰ておきましょうか?」
陽悠がいうと、全員「わかった」と頷いた。
そうして、転移の準備がすべて整った。
ーじゃあ、転移させるよ。転移中に離れ離れにならないようにみんなで手をつないでおきなよ。
そういわれ、兄弟たちは輪を作りしっかりと互いの手を握った。
ーそれじゃあ、いってらっしゃーい。
ー気をつけてのお!
そうして、俺たちの下が光りだして。
気が付くとそこは森の中だった。




