表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

再編、その原本と編集作品

アイディアメモ A

作者: 黒田明人

-----


ヒイロ、緋色になる時、それは今



目の前で親が殺された。

その瞬間、目の前が緋色に染まる。

すると不思議と恐怖心が消えてなくなり、冷静に現状が把握できるようになる。


呆然としているように見えたのか、隙だらけの下手人は武器をだらりと下げたままこちらへと歩いてくる。


ここだ。


少年の身体はするりと動き、男が気付いた時にはもう全てが遅かった。

男の下腹部に激痛が走り、武器を思わず取り落とす。


しかしその落下音は鳴らなかった。


男はそれどころでは無かったので気付かなかったが、少年は冷静にそれを受け取り、自分の獲物にしたのだった。


苦悶の声を上げている下手人に対し、少年は冷静に無力化する。

何処を斬れば人が死ぬかが何故か理解でき、少年は速やかにその処置をした。


「父さん、母さん……うっうううっ」


眼前から緋色が消えたと同時に、消えていたはずの感情が蘇る。


少年……ヒイロにはそれは耐え辛い光景だった。

ただ泣く事しか出来なかった。

泣いて泣いて泣き疲れて、いつの間に眠っていたのか、気付いたらもう日が昇っていた。


村は全滅だった。


ひとりの騎士崩れの凶行は、小さいがひとつの村を消し去るのには充分な戦力だったのか、誰も彼もが抗う事も出来ないままに事切れており、その凄惨な光景は見るに耐えない。


が、ここでまた緋色に染まる眼前。


どうやら感情の揺れがある程度を越えるとこうなるようで、ヒイロは冷静に現状を理解する。

両親の埋葬、そして……村を出る必要があるな。


本当は両親の埋葬は拙い。


生き残りが居ると知らせるようなものだから。


だけどこのままにしておきたくなかった。


仕方なく両親の汚れを清め、汚れてない服を着せて村の共同墓地まで運んでいく。

本当は村の者は自分の家の裏庭に埋め、共同墓地には身寄りの無い者を埋める事に決まっていた。


これから僕は孤児になるのだから、両親とはここでお別れになる。

ひとりだけ生き残ったなどと、誰も信じないだろうから、村の人達を殺したのは僕だと言われるだろう。

ならば僕も死んだ事にして、共同墓地に両親を埋めよう。

幼馴染の少年の死体をその隣に埋めるけど、彼の親はこの村には居ないのだ。


代わりに埋葬してあげるんだから、僕の身代わりにしても良いよね。


緋色に染まった少年は、何処までも冷静であった。


-----


VRMMO内での某日



ウサギの蒲焼は良いんだけど、サの字の左の縦線がやたら小さく書いてある。

だからパッと見には『ウナギ』に見えるんだけど、これってわざとだ。

呼び込みも「ウアギの蒲焼」としか聞こえないんだ。

SAとNAの違いを利用しているとかさ。

これも商売の知恵になるのかな、詐欺っぽいけど。


んでまたその隣が酷い。


真黒蛇しん・くろへぴ』という蛇の肉は、ちょっと

魚に似ていると聞いた事はあるんだけど、読み方を変えるのは詐欺だよな。


身が赤いのを良い事に、マグロと偽って売っている。


さすがに蛇の肉をナマで食わそうとはしてないようだけど、短冊風にして売れば相手がマグロと勘違いすれば、刺身で食われたりするかも知れない。

確かにナマは非推奨と書いてはいるけど、マグロの短冊を焼こうと思う奴がどれだけ居るか。


その隣と共謀しているのか、山葵と刺身醤油を売っているから性質が悪い。


まあ、オレはその山葵と刺身醤油に用があるのであって、他の詐欺商品には用が無いんだけど、詐欺の片棒を担いでいるせいか、ナマで食わせようと思っているのか、妙に安いんだよ。

その癖、品質は悪くないとなると、そこで買うに決まっているんだけど、あんなのでも騙される奴が居るのかと思うと、なんか哀れになってくる。


下痢や腹痛のバッドステータスは、その原因を特定してその対策薬を使用しないと長引くってのに、まさか食中毒が原因とは普通思わないようで、魔物由来の毒消しやら神殿での解呪にお金を払ったりしている。


挙句の果てに療養院まで行って、そこで初めて食中毒が原因となり、そこで露店に文句を言いに行った先で、錯誤を誘発している詐欺店舗だと知る訳だ。


つまり、落ち着いて見ればウナギじゃなくてマグロでもない訳で、完全な嘘じゃないから役人も手出しが出来ないとあって、泣き寝入りするしかないんだけど、最近、被害者の会が設立されて、あいつらの商売も怪しくなってきた。


ああ、攻撃開始かな。


「ラビット、ラビット」と言いながら、ウサギのプラカードを持った連中が露店の周囲をうろついている。


かと思えば「スネーク、スネーク」と言いながら蛇のプラカードを持った連中もうろついている。


つまりだね、あいつらは単に趣味嗜好の会への勧誘をやっているに過ぎず、露店とは何の関係も無い、ってのが言い訳になっているだけの、露店に対する意趣返しの連中なんだ。


いやね、軽い気持ちでアドバイスしたら、すっかりその気になっちまってね、今更冗談だったとは言えなくて、傍観するしかない状態なんだ。


レベリング放置して暇な奴らだよな。


-----


世界魔物辞典(抜粋)



小さなボルト


ボルトと言うのは犬のような外見に大きな体躯を持つ魔物であり、かつては大陸で覇権を競っていたと言われるものの、現在では絶滅したと言われている。


だがそんな魔物にとてもよく似ているものの、遥かに小さな魔物が存在する。


まるでボルトの子のような存在から、彼らの事を『子ボルト』もしくは『コボルト』と呼称する。



5人の小さな戦士達


可憐な乙女でありながら、彼女達の強さと優しさは世間の耳目を集め、『五武凛』と呼ばれていた。

彼女達には親衛隊がおり、彼女達の支援をなにくれとなくこなしていた。


政局が変わり、彼女達が迫害された折も、最後まで彼女達を支援しながら死んでいった。

そうして遂に彼女達にも魔の手が伸びた頃、親衛隊はいつしか別の存在に変わっていた。


まるで魔物のような姿ながらも、かつての記憶を辿るように、女子供を好んで誘拐すると言う。

しかし本能が邪魔をするのか、本来ならかしずく対象であるはずなのに、行為に及んでしまう。


それゆえ、害獣として駆除の対象になったのも致し方無いところであろう。



ナラの魔物


元々雑食ではあったものの、木の実や昆虫が主食であったと言われている。


ナラの木から採れる木の実や、樹液を吸いに来る昆虫を得ようと、ナラの木の周囲に集落を築く事が多かったのだという。


それが何時の頃からか肉食が主となったのは、人が彼らをオークと呼ぶようになった頃だとか。


一説には野生の彼らを飼育して、安全に食用にしようとしたらしく、その時にナラの近くに居る魔物、転じてオークと呼ばれるようになったのではないかと言われている。


ちなみに家畜にはならなかった理由と肉食が主になった理由としては、飼育に失敗してオークに食われたのではないかと言われている。


そうして人の肉の味を覚え、人を襲うようになったうえに、他の動物や魔物の肉も得るようになったのではないかと言われている。



替え玉ザード


英雄のザードには双子の弟が居たのだが、死産になったという外聞のまま、陰の子として育てられ、次期当主であるザードの替え玉としての生涯を送る事を強制された。


ある式典に参加する為に海を渡っていたところ、突然の大嵐で船が沈没し、さしもの英雄も遂には終わるかと思われたその時、弟が必死で泳いでそれを助け、遂には力尽きて沈んでいったという。


彼は嘆いたが、彼には目的もあり、問題の海域での調査も進まず、そのうち自然と多忙の中に忘却していった。


死んだはずの替え玉君、気付いた頃には既に人では無くなっていた。

トカゲのような鱗を身体に纏う、まるで魔物のような身体になっていた。


もう人じゃないという事実には納得したが、それでも人であったという自己主張は止められず、表の英雄に対して裏の存在とばかりに、裏のザードと名乗るようになる。


それがいつしか裏ザード、『リザード』となった。


著者 アンサ=イクロ・P・ディア


-----


題名を考えてみるテスト



『ダンジョン転生・マスターは別の人』


『悪の組織、その名は冒険者協会』


『勇者召喚失敗の原因調査報告書』


『魔物になった水子、親を探す』


『無色転生・誰にも見えなくなったので、好きなように生きていきます』


『転生かと思ったら臓器になっちゃいました。生まれたい……。』


『前世は猫なので、お魚に目が無いのです』


『ゴブリン前世、スライム今世、来世は何だろう』


『スライムに転生……かと思ったらぬいぐるみでした。動けねぇ』


『求む、勇者召喚 ~スキルはあるのに魔力が無いから魔法が使えない、前世魔術師な少年の願い~』


『損な装備を大丈夫と言って買ってしまった残念な男 ~クーリングオフは使えません。ここは異世界~』


『ピザで矢を受けてしまい、売り物にならなくなってクビになったので、田舎でフリーライフをします』


『アイテムドロップの罠。食べ物ドロップは地面に落ちる前にキャッチしないと泥だらけになるとか、神様、これおかしくない? ~いつか食べてみたいショートケーキドロップ~ 』


『チート付けると言われて喜んでいたら、少しの意味の方言でした。地味すぎる』


『ログインとログアウトを何度も繰り返していたら、100回目に凄いチート称号をもらった』


『スライムにしてくれると言ったのに、どうして仏像なんだよ ~素焼きで良品だから、スラ仏って駄洒落かよ~』


『イセカイ転生。巨大な生物の胃に転生とか、神様、俺で遊んでない? ~いつか出られる日を夢見る胃世界暮らし~』


-----


長い題名を考えてみるテスト



勇者召喚と言われてスキルをもらったけど、行った先が異世界どころか妙に見覚えのある公園なんだ。なので当然のように魔王どころか魔物も居ないんだけど、ちゃんとスキルは使えるんだ。どのみち巻き込まれと言われていたんだし、このまま放置で良いよね? あっ、スキルは慰謝料という事で、ヨロシク!



サイトを見ていたら『貴方がもし異世界転移に遭遇したら、どんなスキルが欲しいですか? 』と言うアンケートを見つけたので、もらえる個数が分からないまま、言語と錬金術とアイテムボックスと戦闘能力と武器防具作成能力と書いたら全部実装されて異世界に転移させられましたが、ちょっとスキルの底が浅いんじゃない? どれもこれも中途半端でまともに使えないんですが……。



トラックに殺されると異世界転生する、という都市伝説を確かめてみようと車道に飛び出したものの、運ちゃんがパニックになったのか、僕をひかずに近くの女生徒をひいちゃって、その女の子が消えたからさあ大変。やっぱり本当だったんだと、次なるトラックを探していると、公僕に怪しまれた挙句、自殺志願と間違えられて外出出来なくなったんだ。僕はただ転生したいだけなのに、どうしても外に出してくれないんだ。



可愛いので鎖に繋いで監禁する事にしました。ちゃんとご飯もあげるし身体も拭いてあげるし、優しくするから問題無いよねと、誰に聞いてもあんまり変には言われなくて、安心して監禁する事にしたんだけど、当の本人は外に出たいと言わんばかりに落ち着きがありません。


(ペットのワンコの話です)



『ベッドの上が作業場です。相手は女性なので優しい手つきが望まれます』という仕事を見つけて条件聞かずに承諾したら、女子プロレスラーのマッサージ専門の奴隷にされてしまいました。しかも終身らしく、このまま死ぬまで解放されないらしいです。



近頃、コンピュータも小説を書くらしく、読んでみたら創作意欲が減退してしまいました。いやはや、とんでもないですね。そんな訳で、こんな駄文を垂れ流してお茶を濁してます。


-----


異色転生無双



チュートリアルで死を体験させるゲーム。


そこには強敵の他には雑魚しか居らず、ベータテストの時間一杯使ってもレベル18にしかならず、遂に倒せなかったという過去を持つ。

その為、誰もそれを倒そうとは思わず、とっとと死んで本ゲームに参加する。


ゲームが実装して3年。


3周年記念のイベントは、豪華なアイテムが盛りだくさん得られるとあって、多数の参加者がその時を待っていた。


あたかも本当の異世界のような広大なマップと、数多くの職業と膨大な種類のスキルによって、一人一人がそれぞれに違う成長を見せていた。


レベル限界も幾度と無く引き上げられ、最前線の者達のレベルは3桁にまで及び、追加マップも豊富であり、未だ他のゲームの追随を許さなかった。


それゆえ、3年という長き時の間、飽きられる事無く、大勢のプレイヤーを引き付けて離さなかったのである。



殆どの者がチュートリアルで死を体験する中、彼だけは諦めなかった。

それでも他の者達は、すぐに諦めると思っていたし、そうしなくてはトップ連中に置いていかれると思い、彼の事は次第に誰も気にしなくなる。


クラスメイト達もとっくにクリアしていると思い込み、それでいてゲーム内で出会わないと不思議に思いながらも、広大なマップだからだろうと深く追求する事は無かった。


彼も彼で、真実を話す事無く、他の者達と話を合わせていた為、遂に最後までバレる事は無かったのである。


そう、最後まで。



3周年記念イベントが特設サーバーで今にも開催されようとしていた。


開始時刻は午後1時であるものの、彼はもはや恒例となった作業に没頭せんと、イベントを無視してログインしていた。


今日も今日とて、狩る魔物は決まっている。


もはやサクサク狩れるその獲物の狩場での作業中、イベント開始を知る。


(ああ、やっているな)


彼は本当ならもう、死んで本サービスに行きたかった。

そう、彼は単なる意地で続けていたに過ぎず、切欠があればすぐさまそうしようかと思っていた。


だが、3年の年月は彼のレベルをかなり上げており、いかな雑魚の群れでも彼を殺すには至らない。


油断しなければ。


さすがにタコ殴りにされれば耐えられないと思いつつ、その踏ん切りが未だに付いてなかった。

ちまちまと倒すのでは飽きてしまうと彼は、纏めての狩りをやっていたものの、惰性のような心持ちでの狩りの最中、イベントの開始を知る。


『エリアバースト』


初心者には縁の無い魔法ながら、かなりレベルの上がった彼には初級魔法にも等しく、コスパの良い魔法として愛用しているスキルになる。


纏められた雑魚達はそれで殲滅されたものの、獲得経験値は微々たるものであり、経験値バーは微動たりとも動いてない、ように見える。


そうしてイベントをBGMにしながらも狩りは続き、初日の成績発表になっていた。


ワールドメッセージではイベントの様相が告げられ、各部門のトップの連中が発表されていく。


『……そして、本日のベストプレイヤーは……ザザザ……』


(うん?……何だ)


『ザザザッザッ……ザザッ……エリア、ザザザザッ……』


(おかしいな。こんなの初めてだぞ)


『ザザザザザザザーーーーーーーブツン』


何かが切れるような音と共に、視覚も聴覚も反応が無くなった。


(緊急メンテかよ。イベント中にやるなよな)



気付けば教会の中。


(嘘だろ、死んだのかよ。何だよ、今までの苦労が。こんな事なら昨日、ボスに挑戦しておくんだったな)


身体の自由は利くようになったものの、その現実が受け入れられず、彼は寝たままかなりの時を過ごしていた。


だから気付かなかった。


そこは既に異世界であり、全てのプレイヤーがスタート直後のレベルに戻っている事に。


プレイヤー達は今までの3年間の苦労が水の泡となったうえに、死ねばそれっきりな世界に絶望していた。


ただ、彼はスタート以前だったが為にレベルは保持されていた。


レベル50の敵を倒そうと3年間、チュートリアルマップで上げに上げたレベルは既に48。

50を区切りにしようと思っていた彼は、遂にそれを倒す事が叶わぬまま、今回の事件に遭遇したのだった。


周囲が一桁になっている事に、彼は何時気付くのだろうか。


そしてそこがゲームの中では無くなった事にも。


-----


魔導科学世界から見た地球科学



核融合も浮遊素子や魔素を活用すれば別に厳密に調整しなくても動作不良にはならない。

あれは邪魔をする存在を知らずに動作させようとするから止まるだけで、それ自体で制御させれば静かな核動力も可能になる。


ある世界のシステムに、核エネルギーという全く異なるシステムでの発電方法があり、それがちょうどその方式になっていた。


魔素や浮遊素子は、真空と言われる宇宙にもかなり存在しているのであり、それを活用すれば宇宙でのエネルギー確保にも苦労しない。


それと同じように、分子や原子にも影響を与えているのに、無い物として扱うから色々な障害になっており、高速同時加圧などの方法で荒っぽい分裂を促すしかなく、制御を間違えると爆発する羽目になるのである。


言わばオイルの中の物質と物質を、オイルを無視して動かそうとしているようなものであり、オイル自体に流れを作ってやれば自然と反応するものを、無視するから余分な労力が必要になるだけなのである。


魔の無い科学、それが地球の科学の限界なのかも知れない。


-----


ギフト『アイテムボックス』


理由・将来、勇者召喚に巻き込まれる、かも知れないという予測の元に、神様からの慈悲としてのギフトの選択。

なので、名残り惜しい品を今の内に収めておけという思し召し。



戦闘スキルや生産スキルが取得出来ずに将来を悲観していたら、夢の中で神様からの啓示があり、将来の召喚の可能性を知ると共に、必要物品の獲得と戦闘技能の獲得を決意する羽目になる。


どのみちまともな就職は出来ないと開き直り、天涯孤独な事もあって、未来を糧にした契約を結ぶ。


相手が裏社会の存在なので普通ならおいそれと破棄出来ない契約だけど、胃世界に行っちまったらどうしようも無いだろう。


それで大金の獲得で学費を何とかし、戦闘塾にも通いつつ、必要物品の購入もしながらその時を待つ。


人生を既に売ったんだから後が無い。


頼むから召喚が起きてくれよな。

起きないと身の破滅なんだしよ。



ピカッ……キタ――(゜∀゜)――!!


-----


交通事故の後の異世界転生は幻想世界



事故の後、気付いたら赤子になっていた。


幼少の頃から、精神年齢が高かったせいか神童と呼ばれるようになり、国立魔術学院への入学が認められ、平民ながらも優秀な成績を収めた。


貴族の連中とも知己を得て、その伝で王宮への仕官も決まり、順風満帆なうちに妻に恵まれてた。


魔術師としての仕事はやりがいがあり、毎日の仕事は疲れはするものの辛いとは思わなかった。


壮年になって勇退の後は、妻と共に平穏な時を過ごす。


子は男が軍人、女は教師となり、妻との2人になった頃、開拓地でかなり広い土地がもらえる事になり、波乱は無かったものの、退屈などする暇も無かった。


だがそのうちに手足が利かなくなり、寝たきりになったのが残念だったが、息子が退役してまで面倒を見てくれたので辛い思いはしなかった。


そしていよいよ……。



西暦2982年末、遂に完成した完全没入型仮想現実。

この完成に貢献したある人物が居る。


彼はそれを望んだ訳ではないが、あくまでも治療の一環として親族の許可を得て実現したもので、そのままでは生存は見込めなかった。


だが今ではかなりの進展を得て、もうじき目覚めようとしている。


(えっ、また転生? それも元の世界……なのか。戻れたのか、元の世界に)


(おかしい、どうして使えないんだ。僕は魔術師として大成したはずなのに)


(いけませんね。どうにも妄想が消えないようです。成功と思いましたのに)


-----


スラダン



そのダンジョンは長い間、低レベルだと思われていた。


確かに階層は深く、未だ踏破はされてないものの、その難易度は低く見積もられており、他の凶悪なダンジョンを優先しても構わないと思われ、長く放置されていた。


そのダンジョンにはスライムしか出て来ないので、見習いの登竜門と呼ばれ、浅階層では今日も大勢の冒険者で賑わっていた。


『ふうっ、ようやく終わったか』


長年の雌伏を終え、完成した難攻不落のダンジョン。

その階層は限界まで延びており、何人たりとも攻略は不可能に思えた。


しかし人類は気付かない。


この世で最も難易度の高いダンジョンが誕生した事に。


そして他のダンジョンが討伐される中、そのダンジョンは最後まで残された。


見習いの登竜門がゆえに。


それでもダンジョンの完全消滅は神との約定。


彼らは仕方なくそれを認め、ダンジョンの終末を目指す事になった。


しかし、ようやく気付く。


そのダンジョンが途轍もなく厄介な事に。


確かに雑魚であるスライムしか出て来ないが、逆に言うなら食べられそうな魔物が出て来ないのだ。

普通ならばイノシシのような魔物は食料にもなる為、冒険者達の食糧事情の助けにもなっていた。


しかし、スライムは食えない。


そしてそれしか出て来ないのだ。


冒険者達は山のような食料を抱え、満を持して挑戦するも、遂にはその食料さえ尽きてしまう。


それは水も同様ながら、水魔法で補給は一応可能であるがゆえに、食料を何とかしない限りは先には進めなくなっていた。


ここで一計を案じた。


どうせ雑魚しか出来来ないのならば、途中の階層にベースキャンプを作れば良いのではないかと。


そうして10階層ごとにベースキャンプが作られ、到達階層は先へ先へと伸びていった。


しかし、到達しない。


100階層を超えても。


500階層を超えても。


そうして遂に1000階層。


既に数百年の時が過ぎており、ダンジョンの中では今では数十万の人たちが働いており、冒険者達のサポートをしていた。


遂に1000階層攻略。


そしてその先には階段が無いように思われた。


制覇したと、誰もが信じた。


普通なら倒せば弱いモンスターしか出なくなる為、討伐されたダンジョンは比較的安全とされ、低レベルの冒険者たちで賑わうものだが、元々スライムしか出ないダンジョンなので、本当に倒したのかどうかが分からないまま、それでも1000階層までクリアしたのだからと、討伐済みダンジョンとして記録され、遂に神との約定をやり遂げたと、そう思い込んだ。


最下層でダンジョンマスターは呟く。


『愚かな』


限界可能階層も知らずに到達したと思い込んだ者達では、その先の階層になど決して届きはすまい。


最下層の次の階層は、虐げられていたモンスター達の楽園となっており、だからこそ彼は地道に活動していたのだった。


人類がモンスターと認定した種族は多岐にわたり、その中には様々な人族亜種も含まれており、地上ではひたすら虐げられていた。


それを憂えた彼は彼らと接触して勧誘をしての現在、最下層の楽園は様々な種族が暮らす大国にまで発展していた。


その事に人類を討伐に向かわせた神は知らない。


実のところを言えば、天上の神たちは地上の事は地上の者達に任せており、観察も手出しもしないと言うのが不文律となっていたからだ。


なのに何故、約定があるか。


遥かな昔、見習いの天使が足を踏み外して落ちて、頭の弱いシスターに憑依してその精神を乗っ取った後のイタズラが原因であり、そんな事とは知る由の無い人類は、ずっと最高神の指令だと思い込んでいたのだった。


当時の約定がどうだったのかは伝承に頼るしかなく、頭の弱いシスターと共に消え去った見習い天使も居ない今、その先の指令は届かない。


討伐報告をするものの、何の返答も帰らない神殿の中では、これからどうすべきなのかと困惑していた。


そのうちに、本当に討伐したのか、という疑問が出る羽目になり、教会の調査員が最下層と思しき階層にまで降りて確かめる事になった。


そして発見する。


隠されていた階段を。


調査団の報告により、またしても討伐隊が組まれる事になるものの、それから1000階層ごとにそのやり取りは繰り返され、ダンジョンの中のベースキャンプはいつの間にか大都市のようになっており、そんなのがいくつも出来上がっており、膨大な人員がそのダンジョンに関わっていた。


人類は知らない。


ダンジョンの真実を。


ダンジョンの中で生命体が滞在すれば、僅かな量だがポイントが獲得できるのであり、膨大な人員をサポートに回している現在において、既に人類によって運営されていると言っても過言ではなくなっていた。


5000階層で隠された階段が見つかり、またしても討伐隊が組まれる頃、最階層の手前の階層では大々的な改装が実施されていた。


膨大な黒字は別ダンジョンの構築すら余裕で可能なまでになっており、別のダンジョンとその階層を結ぶ、転移フロアの改装が行われていた。


これによりこの階層に到達した者達は否応無しに別のダンジョンに送られ、そこから最下層を目指さなくてはならない。


そんなイタチごっこな状況にしてしまったのは間違いなく人類であったが、その事に人類が滅びるまでついぞ気付く事は無かった。


天体ショーは、当事者にとっては災難ではあるものの、傍観者にとっては壮大なイベントであり、天上の神達の娯楽として楽しまれていた。


そしてそれが飛び火した。


神達が気付いた頃には地表はすっかり炎の海となっており、生存者は誰も居ないように思われていた。

地上にあったはずの避難用シェルターも殆どが壊されており、僅かに残ったそれも殆ど破壊されており、僅かな空間を残すのみとなっていた。


ダンジョンマスターはその所有ダンジョンの殆どを失いながらも、自らが守護する者達の為に全ポイントを使用して長き眠りに就いていたが、そのうちに地上に緑が戻った頃、目覚めて皆を導いて繁栄したという。


-----


捨て子転生



胎内から意識はあったんだけど、何処なのか分からないままに過ごしていた。

そうしたら急に苦しくなって、そうして出産を迎えていたんだ。


そう、僕は気付いたら赤子だったんだ。


そして赤子と言えば、泣かないといけないはずだ。


とっても抵抗があったけど、不気味な赤子と言われるのも嫌なので、恥を忍んで思いっ切り泣いたんだ。


ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、ホンギャ、……


「うるさーーーーい」


捨てられた。


理不尽だ。


-----


超人についての考察



ある小説に、デコピンで魔王を吹き飛ばすってのがあったんだ。


それで思ったんだけど、その衝撃に耐える爪とか、絶対に普通の爪切りで切れないよな。

もっともそれ以前に、そこまでの強さだと生活できないと思うんだが。

指の弾きで大人ひとりを飛ばすだけの力となると腕の力はもっと強く、その3倍と言われる足の強さはもっと強いって事になる。


となればだよ。


あたかも月面上を歩くかのような足取りになりそうだし、相当に気を付けないと殺人特急みたいになるんじゃないかな。

ゆっくり息をしないと、そこいらの人間を呼気で引き寄せ、または吹き飛ばしたり、くしゃみで家屋すらも吹き飛ばしそうな勢いになりそう。


そもそも、いくら魔王でも吹き飛ばすような勢いで衝撃を加えられたら、頭蓋骨が耐えるとは到底思えず、指の形にえぐれるんじゃないのかな。


そう、プリンにデコピンをしたように。


そんな衝撃に耐える身体を持った存在は、きっと生活に苦労すると思われる。


周囲の人間は豆腐の如き柔らかさであり、うっかり触れると殺してしまうだろう。


そんな存在に憧れるとか、ちょっとあり得ないな。


-----


ステータス



神様の依頼という、無理筋な願いを半ば強制的にクリアする羽目になり、嫌々協力してそれをこなした。

その時にオレの心を占めていたものは、終わったら何かをくれるという淡い期待のみ。


普通さ、神様と言えばチートだろ。


だからさ、それを期待して協力したんだ。

そうしていよいよお願いの段になり、スキルくださいって言ったらさ、そんな事は出来ないと言うんだ。


酷いよな。


無理に仕事に協力させといて、終わったら何かをくれるって言うから、オレはスキルをくれと言っただけなのに。

そうして神様がくれた箱をオレは手に持って、これは何かと尋ねようとしたら……。


もう、何処にも居なかった。



布団の中で目を覚ます。


あれは夢だったのか?


あれ、これ何だ。


ああ、箱。


夢じゃなかったんだな。


よし、とりあえず開けてみるか。


どんな材質の箱かは分からないものの、真ん中より少し上に切れ目があり、上から引けばその切れ目は広がるようだ。

箱と言ってもそれは円柱なので、ちょうどお茶の葉を入れる容器か味付け海苔を入れる容器にそっくりと言えば分かるかな。


カポン……。


その途端、もくもくと白い煙が……うおおおお、鏡、鏡。


慌てて洗面所に走る。


一瞬、浦島太郎の物語が頭に浮かび、慌てて鏡を覗き込んで安心した。

いや、安心したかったと言うべきだろうが、とにかくその心配は無かったようだ。

それにしても、発炎筒を炊いたかのようなあの煙は何だったのか。

部屋に戻って箱の中を見ると、白いカードのようなものが入っていた。


『ステータス』


は?


ステータス?


何これ。



裏面には何も書いておらず、ただステータスの文字だけがそこにあった。

てっきり、ステータスと言うから裏面にオレの身体情報でも載っていると思っていたのにそれも無い。


そのカードを眺める事数分。


とりあえず、可能性を信じて詠唱してみる。

厨二病と言われそうだけど、それしか無いだろう、普通。


『ステータス』



名前 科葉諸友


職業 会社員


年齢 34歳



出たよ、本当に。


顔の前に淡いパステルカラーの半透明な文字が浮かぶ。

そこには名前から職業からと、様々な情報が掲載されている。

それにしてもこれが神様からのプレゼントになるのか。


まあ確かに、こんなのは測定をしないと分からないものだし、ありがたいと言えばありがたいだろう。


だけどさ、逆に言えば検査をすれば分かる内容なんだし、それがどうしたと言えばそれだけの話だ。


なんか、期待したのと違っていたな。



身長 178.6


体重  72.4


特技 魔法の可能性


えっ? 魔法?


魔法の無いこの世界でかよ。


いやいや、可能性だからもしかして、ラノベでの知識のままに魔力を探して、見つけたら動かせるようになれば。


もしかして……。


待て待て、先にステータスを検分しないと。

出したままだったそれを細かく見ていく。

下のほうまで見てみたが、特に珍しい物は無いものの、血液検査をしなければ分からないような物まであって、これはこれで便利だなと思うようになっていた。


血圧が少し高めだな。

酒を少し控えるか。

それで黄色い文字なのか。

他の文字はグリーンだから正常の範囲って意味なのかな。


えっ、赤文字……。


がんの萌芽。


おいおい、これって自覚症状の無い、初期も初期の……。



医者に言われた。


よくこの段階で診察に来ましたねと。


どうやら進行の早い悪質な代物だったらしく、今なら間に合うが、後数日も遅かったら分からなかったと言われた。

このがんは末期になるまでの時間が短いうえに自覚症状が殆ど無く、だからか生存率が殆ど無い代物で、偶然に健康診断で発見される場合が殆どであり、死亡率はかなり高いと言われた。

今回のこれはその中でも最初期に該当し、普通なら健康診断でも発見が難しいぐらいだと言われ、本当にあれが無かったら気付かなかったんだろうとつくづく思った。


オレが病院で精密検査をお願いし、当初は通常の検査ではどうかと言われたが、確実に発見してもらわないといけないと思い、料金の高い精密検査にしてもらったんだ。


なんせ、ステータスにあったんだし。


早速、緊急入院となったものの、ほんの小さな病巣なので、数日の入院で完治するだろうと言われた。


助かったぁぁぁ。


チンケなプレゼントだと思ったけど、凄い贈り物だった。


本当にありがとう、神様。


オレ、これからも生きていけるんだね。



入院中に魔力らしきモノを見つけました。


いや、もしかするとステータスは魔法の部類だったりして、それを表示するのに必要だからと、神様が授けてくれたんじゃないかと思ったんだ。

あんなに冷たい態度だったのに、今本当に必要なものを贈ってくれるとか。


あの神様ってもしかして、ツンデレ?


-----


遺跡発掘



生き残りの中から選ばれ、遺跡発掘に出かける事になった。

救助したのは他世界人であり、彼らに協力するのは義務らしい。

もっとも、協力すれば報酬が得られる訳で、希望者はそれなりに多い。


なので完全ランダムでの抽選になっており、選ばれた者は否応無しに協力するという方式になっている。


廃墟の中を歩き、ある建造物に入る。


どうやら謎解きが必要なようで、この世界の知識の少ない存在にはクリア出来ない部類らしい。


ドアの前には設問があり、それをこなせば入れるとか。


どれどれ……ああ、ゲームの名前ね。


見れば、手の絵と尻尾の大きな小動物の絵がある。


「手と栗鼠かよ」


次はこの地図か。


「これはあれだな。コペンの北の都市の」


お盆の絵と横線と人の絵か。

段々とこじつけになってねぇか?


「盆バーマンね」


これは……タコのような宇宙人の絵。


「侵略者かよ。つまりこれを英語に直せば良いんだな」


これは化粧品の宣伝か?

顔面パックをしている人の絵なんだけど、まさかとは思うが。


「黄色い刻みの入った丸いアレか」


それにしても古いのばっかりだな。


「そりゃ遺跡なんだから古いのは当たり前だろ」


僅か50年で遺跡というのもアレだけど、これでどうやら先に進めそうだな。


「これは何だ」


やれやれ、次のクイズかよ。


-----


不便な世界



「これください」


「銅貨350枚よ」


「銀貨しかないんですけど」


「仕方が無いわね。少し待っていてくれる? 」


「はい」


ちまちまちまちまちまちま……(10枚タワー作成中)


「はい、お釣りの銅貨9850枚」


「お、重いよぅ」


「台車に運んであげるから、後は自分でがんばってね」


銅貨の重さは4.5グラムという、10円玉と同じ重さ。


1万進数のその世界では、お釣りが出ないように買い物をするのが賢い主婦と、巷で言われているそうな。


それでもかさばるので自然と買い物用の台車が開発される流れとなり、皆それぞれに荷物やお金を乗せて運んでいる。

最近、数百枚入れた密閉容器をある商会が開発して国に提案し、それが認められて今では各種の枚数の通貨容器が流通していたりする。


ちなみに今回の彼のもらったお釣りの内訳は、5キログラムの重さの1000枚容器9箱と、1キログラムの200枚容器4箱と、10枚ずつ重ねて数えた50枚入った袋となっている。


初めてのおつかい。


彼は買った品物とお釣りを台車に乗せてもらい、それを押して家までの道のりを一生懸命歩いていく。

お店の売り子のお姉さんは、それを微笑ましく見送っていた。



どうして魔貨や白金貨や金貨を使用して10進数にしないのか、それは誰にも分からない。

その世界には銀貨と銅貨しか無いのに、誰もそれを不思議に思わない。


やはり他の世界を知っている存在が転生するなり転移するなりしないといけないのかも知れない。


-----


現実風世界



明日はいよいよ祝福の日。


この世界では15才になって神殿でお祈りすると祝福を授かるんだ。

それは誰でもだけど、得られる祝福は様々だ。


父親は『肉体強化』で母親は『精神強化』、そうして兄貴は『身体強化』という、まさに両親の良いとこ取りな祝福を得た。

確かに肉体強化や精神強化の強化率には及ばないものの、両方強化されるのが身体強化だからだ。


だから僕も期待している。


兄貴は小さな頃から運動が得意で、勉強もしっかりやっていたせいか学校の成績もかなり良かった。

そんな彼がお得な祝福を得た事で文武両道なイケメンとなり、今では学校でも一番人気な存在になっている。

そんな兄貴に比べられる毎日は辛く、特に泳げないのに水泳部に強制入部させられた事は今でも恨んでいる。

そんな僕は潜水は得意になったものの、どうあがいても選手にはなれなかった。


だって浮かないんだもん。


足の届かないプールだと、手すりが無いと底に沈んでしまうんだ。

以前それで溺れかけて、プールの壁に爪を掛けて必死に登って一命を取りとめた。


爪は剥がれたけど。


それ以来、手すりがあるのを確認して潜るようになったんだ。

本当にどうして浮かないものか、まるで身体が鉄で出来ているかのように、いくらあがいても全く浮かんでくれないんだ。


そんな僕の仇名は『浮き輪殺し』


市販の浮き輪の浮力じゃ足りなくて、救命用のでかい浮き輪でなんとかギリギリなんだ。

あんなでかいのに、僕が使うと水中遊泳がやれるんだ。


つまりさ、底を足で蹴って歩く感覚。


業務用でも少し浮力が足りないぐらい、僕の身体は水に浮かないんだ。

だから自然と潜水が得意になり、水泳部でも僕だけ全く泳げないままだ。


でもさ、退部は認めてくれないんだ。


確かに僕が居ればどんな新人も、最底辺にならずに済む。

新人の意欲アップの為と言われても、いい加減に解放して欲しいよ。

まあ、祝福を得たら退部して、相応の部活に入るんだ。


だから頼むよ、神様。



祈りの言葉と共に羊皮紙から煙が立ち上り、文字が刻まれてく。

神がお書きになられているとされていて、煙が止まるまで跪いて祈りの体勢のまま動いてはならない事になっている。


ああ、早く知りたい、僕の祝福。


「……おお、神よ、感謝致します」


これを唱えないといけないと言われ、唱えた後に羊皮紙を受け取る。


さーて、どんな祝福かな?


祝福『浮力強化』


うえっ、何これ。


スキルの説明によると、水に沈まなくなるスキルらしい。

スキル的にはゴミスキルという評価だけど、僕はそう思わない。


だって、身体が浮くスキルだよ。

まさに求めていたスキルだよ。


そりゃ両親の片鱗も、兄貴の欠片も無かったけど、これはこれで満足に近い。

確かに第一志望は兄貴みたいに両親からいくらか受け継ぎたいと思っていたけど、これもこれで長年の悩みではあったんだし。


だから満足さ。



準備運動は念入りに。


さあ、今日から僕は泳げるんだ。


そうと決まれば華麗に飛び込んでやるぞと、飛び込み台から勢い良く……。


バシーン……


あ、痛、頭打った。


まるで氷の湖に飛び込んだみたいに、頭を打った後は身体が水面を滑っていった。


うえっ? 水の中に入れないの?


祝福の無い頃は浮かなくて、祝福を得たら潜れないとか、極端だろ。


そりゃないよ、神様。


それでも念願の水泳部退部は認められた。


だってもう潜水もやれないんだし。



皆は浮き輪の呪いだと囃し立てる。


でもさ、プールの上で昼寝が出来るってのも面白いとは思うんだ。


歩けるし。


テレビで見たオカルトな番組に出てくる超人さんみたいに走らなくても、のんびりと散歩ができるんだ。


これはこれで面白いけど、就職に役に立つスキルが欲しかったなぁ。



表彰された。


船が沈没してみんな僕にしがみ付いて、溺死者ゼロになったからだ。


海難事故の救助に使えると分かり、海保に誘われて現在に到る。


ゴミスキルだと言われたけど、公務員になれたんだからさ、別にゴミじゃないよね。


「先行いきまーす」


(やれやれ、海上を走ってとか、あいつしかやれないよな)

(けど、あれで相手を逃す心配も無いしさ、ありがたいさ)

(必殺技もあるしな)

(共々海に飛び降りりゃ、誰もあいつには勝てねぇよ)

(全くだ。さて、行くぞ)


-----


すれちがい



「こいつさ、帰省中なんだよ」


「何だと、この野郎っ」


「おいおい、いきなりどうしたんだ」


「寄生虫だと言っただろ」


「ああ、帰省中だろ、お前」


冬休みのさなか、久しぶりに出会った親友同士は絶交した。


すれ違いの二人であった。


日本語って難しい。


----


揺れて遭難



石川県秀美市の端っこにオレの家がある。


『田』……こんな感じに家が並んでいて、その内の左下がオレの家だ。


周囲は田んぼになっていて、元はいずれも農家だったらしい。

今では農地を売って普通の勤め人になっていたんだけど、

4軒揃って脱サラをした挙句、今日は会社の懇親旅行だそうだ。

会社と言ってもそれぞれが経営権を持っているらしく、勤めていた頃より機嫌が良い日が多い。


親同士は仲が良いのに、オレは苛められている。


旅行は親達だけだそうで、学校があるオレ達子供は置いてけぼりだ。

まあ、子離れが出来ていると言えば良いが、はっきり言って子供の事は頭に無いのだ。


そう、放任だ。


だからオレが苛められている事も知らないだろうし、知っていても手は出して来ないだろう。

例え相談しても恐らくは、子の喧嘩に親が出るもんじゃない、とか言うに決まっている。

4軒揃ってそんな風だから、余計に苛めに走るのかも知れないな。


オレはもう諦めているからストレスにならないが、構って欲しい奴らは違うんだろう。


そういうのが分かるから、なるべく我慢しようと思っているんだが。



ドサン……庭にゴミを投げ込まれる。


ああ、今日はそんな苛めか。


確かに1週間ともなれば、片付けると思っての事だろうけど、そいつは証拠になるので放置するぞ。

けどなぁ、オレが捨てたと思われるんだろうな。


まあ、気休めだな。


もしかしたらゴミの中にあいつらの痕跡があるかも知れないんだけど、そこまで間が抜けているとも限らない。

とりあえず腐りそうな物だけ片付けて、それ以外は放置で良いか。


おお寒。


こりゃ降りそうだな。


まあ、生ゴミもこう寒けりゃ腐らないか。


よし、放置放置。



うお、地震か。


コタツの中に避難だ。


気分は猫だな。



気付いたら眠っていたようで、我ながら暢気だと思う。


地震はもうとっくに収まっているようで、一時的なものだったらしい。


コタツから出て伸びをして、飯でも食おうと台所に行くものの、何故か水道が出ない。


地震で破裂したか、それとも凍結か。


まあいいや。


あれ、冷蔵庫止まってる。


まさか、地震で停電したのか?


そういや電灯も付かないし、やっぱり停電か。


こういう時にガスコンロだと良いんだけど、脱サラして家の改築をした時に電化住宅に染まっちまって、停電になったら何にも出来ないんだよな。


仕方が無い、寒いけどコンビニに行くか。


厚着をして財布を持ってコンビニに行こうと、玄関を開けて呆然となる。


嘘だろ。


戸を閉めて庭を見る。


庭はあるな。


だから気付かなかったのか?


あれっ、隣の家が無い。


庭に出てみると、隣どころか他の家も見当たらない。


オレの家だけがポツンと荒野に佇んでいる。


どうやってんだ、こりゃ。



「没ですね」


「はぁぁ、やっぱりダメか」


「ええ、ありふれてますので」


「参ったなぁ」


-----


裏技回復術師の自業自得



自己回復スキルが優秀なので、回復職が地雷になっているVRゲーム。


更に言うなら、自分で魔物を倒さないとまともに経験値は入らず、パーティを組んでの回復では、滅多にレベルが上がらない。


ゆえにβの連中はそれでも様々な検証に及んだが、どうあっても回復職のレベリングは鬼畜の部類。


だから地雷職認定を受けた。


だがしかし、回復職にはとんでもないレベリング方法があった。


なのでそいつを使い、誰よりも先に二次職に辿り着き、見事聖戦士を獲得する。


経験値は相手に与えたダメージ量によって、その獲得量が異なる。


回復魔法の場合はその範疇が広く、邪神の像にまで適用されてしまった。

相手は動かない石像なので反撃を受ける事はなく、ただマナの尽きるまでひたすらヒールを放ち、それから魔力が回復するのを待ってまたヒールを放つ。


ただそれだけでひたすらレベルは上がっていった。


ただ、邪神教の神殿に出入りするので風聞が悪く、それで余計にパーティを組んでくれる人が居なかったので、ずっとボッチだったけどな。


だけど聖戦士になった今、もうそんな事は言わせない。


と、思った日もありました。


噂ってそう簡単に消えないんだな。すっかり邪神の使徒扱いになっていて、聖戦士なのに暗黒戦士って言われて、仕方なく今日も邪神の像を相手にする。


聖戦士のソロとか、雑魚狩りが精々で、とても適正狩場じゃやってけないんだ。


回復の出来る戦士だけに殲滅力に欠けるからさ、パーティ推奨なんだよな。


ああ、早く消えて、嫌な噂。


(あの悪魔戦士、今日も邪神にお参りしてたぜ)


(折角の聖戦士なのに、何考えてやがんだか)


(なあ、一度誘ってみねぇ? )


(オレ達まで邪神の使徒とか言われても良いのかよ)


(ああ、無理だな)


-----


山本五十六才子になる



何でこんな事になっているのだろう。


確かに嫌な予感はありはしたものの、まさかそれが当たってしまうとは。


到底、逃げられそうにない。


ここで死ぬのか。


走馬灯のように今までの事が浮かんでは消える。


いやこれはまさしく走馬灯だろう。


そうか、死ぬんだな。


発動機が止まれば、後は落ちるしかない。


































気付いたら子供になっていた。


退役間近で最後の奉公のつもりが、とんだ事になった記憶はあるものの、現在のオレは子供だ。


山本三五郎56才は子供になっていた。


同名の長官も死んだのかな?


-----


人生初の殺人を犯そうと思います



もう限界なんだ。


親も教師も当てにならない。


ここは小さな町、それも周囲は崖になっていて、町から出るには1本の道しかないんだ。

そこには門番みたいなのが立っていて、そいつらの許可無くしては無理なんだ。


かつて、何かから逃げ延びてきたという伝説があるらしいけど、何から逃げたのかは判らない。

本家の人が隠しているみたいだけど、町のみんなの噂としては、落ち武者の棟梁って説が有力だ。


まるでカルデラのような地形に造られたこの町は、現在も本家の人達によって統治されている。


だからなんだろうね。


本家の子供達は町の者を、下僕か奴隷かのように思っているようで、子供なのに大人をアゴで使おうとするんだ。

もちろん、それは有効なんだけど、それをするたびに人気が下落するのに気付かないみたいだ。


現在の一番人気は末の男子。


そいつだけは町の人を見下さず、目上を敬う態度を見せると、皆が慕っている。

学業成績も優秀であり、もちろん運動神経も悪くない。

いわば、文武両道な少年という感じ。


だけどさ、皆は知らないんだ、そいつの本性を。


その彼に頼まれて、僕は彼と共に町外れの崖に空いた穴に向かった。

その穴はかつて、抜け道にしようと掘られた穴らしいんだけど、しばらく入った先はちょっとした広間になっていて、そこで行き止まりになっている。


岩盤があって掘れなかったらしい。


今では年中涼しい事もあって、食料の保存庫のようになっている。

だから壁には保存用の棚のようなものがつらつらと並んでいて、そこにはもみ米の袋がつらつらと置かれていたりする。


こんなところで何をするのか。


そうしたらさ、僕に服を脱げと言うんだ。

こんな、夏でも涼しい場所でだよ。

寒いから嫌だと言ったらさ、急に態度が変わったんだ。


良いから脱げ。


胸倉を掴まれて揺すられたら、もう逆らう気が失せたんだ。


そして、思ったんだ。


ああ、こいつも同じなんだと。


例え、表向きの態度がどうあろうと、本家の人間の本質は皆、似たような感じに腐っているんだと。


そこからはもう、言われるままに動いたよ。

本家の他の苛めっ子に対するように、心を殺して人形のように。


その内容は他の苛めっ子とは違っていたものの、似たようなものもあった。

要は人体を玩具にしたかったんだろう。

生きて動く人形に対し、あれこれと刺激を与えるのが楽しいみたいで、それはもういろいろといじくられたり挿入したり、踏まれたり。

散々楽しんで気分が良くなったのか、小遣いだと言って金を寄越したんだ。


口止め料だろうね。


なんせこいつの表の評判はかなり良いんだし、こんな本性が知られたら最下層まで落ちてしまう。

確かにもうすぐ受験だけど、そのストレスの発散に僕を選んだみたいで、また次もあるような事を言っていた。


そうして去っていった後、僕は起き上がれずにいた。

今までにも他のやつらから色々苛められてはいたけれど、それは殴られたり蹴られたりという外傷のみに留まっていた。


なのに今日、心が苛められたんだ。


身体の事なら治療して痛みを我慢していればそのうち治ってくれるけど、心はそうはいかない。

心に付ける薬があるのなら、世の人達も苦労する事は無い。

だから大人は酒に逃げたり、趣味に熱中したりするんだよね。

医者でも温泉でも治らないって話もあるぐらいだし。


未成年で無趣味の僕としては、このまま人生初の殺人を犯そうと思う。


メガネを割って、それで頚動脈を切る。


ああ、流れ出る、僕の命。


反対側も切ろうか。


寒いな、とても寒い。


だけどそれも段々と感じなくなってくる。


眠いな。


うん、このまま眠ろう。


そうすればもう、苛められる事も無い。


初めて苛められた僕の心は、とっても脆弱だったみたいだ。

ずっと心を殺して、なんて思っていたけど、大事に大事に隠していたんだね。


だけどそれが表に引っ張り出され、直接攻撃が加えられたんだ。


そんなの耐えられる訳がない。


だからこれは必然なんだ。


苛めに対しては役に立たなかった両親だけど、誰もが自分が一番大事なのは判っている。


だからさ、先立つ不幸と相殺にしてよ。


そしたらもう、恨まないから。


僕が恨むのはただ、本家の奴らのみ。


ああ、神様、どうかもう、僕のような存在を生まないで。


願わくば、本家の裏の崖よ、本家の奴らを埋めてくれ。


それだけが……


僕の……


ねが……


い……


ゴゴゴゴゴ……


戦後最大と言われる地震がその地域を襲ったのは、それからすぐの事であった。

掘って出来たと思われていたその洞窟は元々、ある地蔵が祭られていたものの、それに気付かずに別の用途に使われていた。

拡張の弊害でその小さな地蔵は地面の下に埋まっており、ちょうど彼の真下であった。

彼の命の雫がその地蔵を濡らし、その全身を真っ赤に染めた結果がそれなら……もしかして……


-----


謎存在が巻き戻してくれたのでログアウトします



デスゲームで死の寸前、謎の存在によって時間が巻き戻される。

気付けばキャラクターメイキング……『ログアウトボタン』あるね。

そうそう、ゲーム内でしばらくして宣言されたんだった。


今なら……


謎の存在の目的は分からないけど、ゲーム内で何かをやらせようとしたんだろう。

本来ならそれに乗ってやるべきなんだろうけど、さすがにリアルでの死はごめんだ。


だから、悪いな、謎の存在。


ぼくは抜けさせてもらうよ。


『ログアウトしますか』


はい……


『ログアウトしました』


はぁぁぁぁぁ、助かったぁぁぁ。


ベッドで起き上がったぼくは、謎の存在に深く感謝すると共に、ゲームをアンインストールした。

そうして翌日、ゲームにログインした人達が戻らないというニュースを受け、本当に助かった事を実感した。


他の人?


普通、そんなの信じないよ。


だってデスゲームとか、アニメとか小説の世界と言われていて、理論的にあり得ないとされていたんだし。

なのにそんな事を主張して、出られない病院に行くのは誰だって嫌だろう。

我が身を省みずに人助けに動いた挙句、そんな羽目になるのが目に見えていた。


しかもだよ、実際にそうなったとして、どうして事前にそれを知る事が出来たのかと問われるよな。

そこで謎の存在によってと正直に答えたら、やっぱり出られない病院に行くのは同じだろう。


更に巧く言い逃れに成功したとしても、共犯の疑いの立証は出来ないとなれば、事件が解決するまで重要参考人の位置取りが継続になっちまう。


だからどうしようも無かったんだ。


クラスの中でも大半がその新作ゲームにログインしていたらしく、翌日登校してみると、クラスには数人だけ居るだけだった。

他のクラスも同様の人数になっていて、暫定的にクラス統合がなされ、ぼくたちは彼らが戻るまで1つのクラスで授業を受ける事になる。


居残りの彼らの言い分としては、ログインの予定だったけど何かの要因で出遅れたって人が大半で、命拾いをしたという話題で持ち切りだった。

なのでぼくも同様の言い訳で乗り切ったさ。


だって言えないだろ。


デスゲームになると分かっていたからログアウトして逃げたとか。

人は他人には理想を求めるけど、実際その場に立てばきっと同じ選択をしたと思うよ。


なのにきっとこう言うんだ。


分かっていたのに見殺しにしたと。


そう思うなら今からでもデスゲームにログインして、皆の為に命を掛けて戦ってみるかい?

やれるものならそうすれば良いけど、きっと皆は尻込みするに決まっている。


誰だって命は惜しいものだから。


そんな争い、やるだけ無駄がからさ、余計な事は言わないのさ。

だからぼくも運よく助かったって事にして、彼らが生還するのを待てばいい。

あんな超高難易度のクリア条件が、本当にクリア出来るとは思えないけど。


回復無しで100階層クリアが条件とか、まともじゃないよ。


まあ、23階層でリタイアぼくだけどさ、それでもレベルは196まで上げていたんだ。

確かに最前線の奴らは200台前半ではあったけど、そいつらでも29階層のボスが倒せずにいた。


デスゲームが始まって3年が過ぎ、人数も既に2割を割り込み、ぼくもいい加減、レベル上げばかりの人生に飽きていて、いわば特攻気分で攻略していたんだ。


そのラストダンジョンは100階層。


中では回復薬は使用出来ず、回復魔法は使えるものの、自然回復は起きている時は殆ど見込めない仕様とあって、交代で寝るしかない。


確かに安全地帯が見つかると共に、攻略階層は少しずつ延びて行きはした。

それでも回復薬を禁止されたのがきつく、攻略は遅々として進まなかったんだ。


ぼくはレベル50でセカンド職を薬師にして回復薬を自前で賄えるようにして、レベル100でサードに祭司を選び、自己回復がやれるようになっていた。


攻略組と組む時は遊撃に位置して皆のコンディションの補佐をしていたし、前衛に配置された時も余裕があれば足りない回復の穴を埋めていたりした。


それでも3年。


平和な日本からいきなり異世界に来たような気分のまま、ぼく達はずっとモンスターと殺し合いの実戦を続けていたんだ。


だからもう、限界だったんだ。


そうしてぼくはもう、命を諦めていた。


ここでこのまま死ぬのだなと。


HPのバーは真っ赤に染まり、次の一撃でぼくは消える。


なのにもう身体が動かない。


そんな時に巻き戻ったんだ。



そして今、ぼくは平穏なこの世界を満喫している。


あんなに苛められていた過去のぼくは、なんて臆病だったんだろうと思えるんだ。


あんな脅し。


殺意も何も感じないそんな脅し、少しも怖くない。


ああ、何だよ、体幹も定まってないそんなパンチとか、食らうはずがないだろう。


しかもやたら遅いし。


下半身がお留守だぞ、ほれ。


こんな奴らに苛められていたんだな。


本当にありがとう、謎の存在。


ぼくはこれから、自信を持って生きていけるよ。


-----


採取専門冒険者



草刈と呼ばれる冒険者がいる。


現在、Eランクの冒険者であるが、そこから上がる見込みは恐らくない。

何故ならば彼は冒険者になってから今まで、薬草採取のみを依頼として過ごして来たからである。

採取依頼ではDランクには上がれないと言うのはギルドの不文律であり、どうしても討伐をこなさなくてはならない。


それこそが見習いと一般の差。


なのに彼はずっと薬草採取依頼しか受けず、ゆえに何時の頃からか彼を指して『草刈』と呼ぶようになった。


「おーい、草刈ィ」


当人もその仇名に納得しているのか、のろのろと振り返る。


「何か用? 」

「お前、いい加減に討伐しろよな」


彼にそう言うのはそう何人もは居ないが、そのうちの1人である。

実際問題として彼の戦闘技能は低くはない。

それどころか意外にも高いのを何人かは知っている。


討伐を勧めるその者もそれを知る1人であり、だからこそ勧めるのであった。


「嫌だよ」

「はぁぁ、どうしてだよ。戦えばそこいらの奴には負けねぇぐらいだろうが」

「関係無いね。僕は採取専門の冒険者さ」


相も変わらず言う事は同じかと、男は呆れたように溜息をつく。


確かに彼が冒険者になったのは、冒険者規定最年少の12才であり、15才までは採取しか認められなかったから彼は3年の間、ずっと採取ばかりをこなしてきた。

だけれども15才になり、いよいよ解禁とばかりに何人かのグループが彼を討伐に誘ったのである。


しかし彼は断った。


時期尚早を理由に断られ、仕方なく引き下がった面々であったが、それでも毎年のように勧誘をしては断られている。

誘う面々はあくまでも善意なので、本人にその気が無ければ仕方がないとあっさりと諦めている。

そのせいか19才になった今でもたまに誘われているが、やはり断っているのである。


その理由を聞いた者の話では、魔物が怖いとか。

ありえないと、彼を知る者たちは一笑に伏す。


彼の投擲の腕前は、そこいらの魔物を敵とせず、例え中級の魔物とでも戦えるぐらいだろうと言うのが彼を知る者達の共通意見なのだ。

実際、討伐時に不覚を取り、あわやと言うところで助けられた者も何人かは存在しているが、的確に魔物の急所を狙ったその攻撃は、とても魔物が怖いなどという者の手腕ではあり得なかった。


姿を見せずに助力されて、何故彼と分かるのか。


それは彼の使う投擲武器が、いささか変わっているからである。

やじりのような、槍の穂先のような、円錐形を長く引き伸ばした形状のその武器は、回転しながら獲物の急所を的確に射抜く。

見た事も無いその武器こそ、彼の得意とされる投擲武器と言うのは、鍛冶屋に特注しているらしい。


姿を見せない助力ばかりではなく、姿が目撃された事もある為、それが彼の武器と知れたのである。

そうして何処かの鍛冶屋に特注していると言うのは彼の言であり、採掘しているから交換条件だと言うのも彼の言になる。

それでも何処の鍛冶屋なのかは教えてくれないので、彼のいきつけの鍛冶屋は不明のままである。


ちなみに、彼の武器は『円錐穿えんすいせん』と言うらしい。


既にかなりの本数を得ているはずながら、未だに討伐をしようとしない。

彼の持つ腰付小型拡張袋の中には、かなりの本数が収められているはずであり、討伐をいくらかこなすぐらいの事は余裕でやれるはず、と言うのが彼を知る者達の共通意見になっているにも関わらず、どうしても討伐には合意しない。


そんなある日の事、『緊急依頼です』と、ギルドの受付嬢が固い口調で声を荒げる。


『当ギルドに緊急依頼が発令されました。隣町のギルドからの要請で、魔物暴走スタンピートの発生を確認。すぐさま近隣の町に通達がなされ、そのひとつが当ギルドに該当します。Dクラス以上の冒険者には可能な限り参加を要請します』


そう、緊急依頼は冒険者の半ば義務とされ、病や怪我などの不参加理由以外での不参加は通常認められず、罰則規定覚悟での不参加以外は参加するのが通例になっている。


その分水嶺がDランクである。


ギルドに入会時は通常、『Gランク』から始まり、依頼ポイントを獲得して順次昇っていく。

普通は『Fランク』になれば討伐も可能となり、『Eランク』ともなれば雑魚などは1対1での討伐も可能となっており、討伐パーティもそれぐらいから組まれている。

そうして満を持して『Dランク』試験を受け、討伐パーティとして名を馳せていくのが常である。


そんな中にあって、『Fランク』や『Eランク』でもソロの者達も存在する。


彼もその1人ではあるが、大抵はうだつの上がらぬ中年以降の冒険者が該当する。

才覚も才能も見切りを付け、日々の糧を得る為に雑魚を狩っていくばくかの金を得る。

そうして安酒をあおって眠りに逃げるような、そんな雑魚とも三流とも呼ばれる者達。


そんな中にあっても彼は異色であった。


まずは年齢、更にはパーティには見向きもせず、ひたすら採取ばかりで過ごしている。

討伐の腕があるにも関わらずである。

彼を知る者達の見立てでは、『Dランク』はもとより『Cランク』すら狙えるぐらいであろうと言うのが共通意見であり、その気があるならすぐさまパーティに入れるのにと、いくつかのパーティの意見もある。


火炎熊という魔物は、推定討伐ランク、単独で『Cランク』、パーティで『Dランク』とされていて、彼はそれを単独で倒したのを見たという報告がある。

どうやら採取ポイントでかち合ったらしく、壮絶な戦いを目にした者によって一部始終が報告され、その華麗とも言える立ち回りに驚き、仲間内での話題をさらったという。


残像が見える程の驚異的な立ち回りで熊は翻弄され、的確に攻撃を当てていく様は、とても万年Eランクの草刈とは思えず、唖然として見ているばかりだったらしい。

そうして無傷で倒した彼は、すぐさま解体して水魔法と思しきスキルで水を出して洗い、背中の袋に素材を収めて土魔法と思しきスキルで穴を掘り、中に入れて火魔法と思しきスキルで焼いて埋めていたという。


魔法、これを1つでも使えるならばパーティには苦労しない。


それを3種類も使えるとなれば、いかに初級ばかりでもパーティでは引く手数多ともなるぐらい、魔法の使い手というのは希少なのである。

だからその話を聞いてパーティの参加申し込みが殺到したのも道理だが、その全てを彼は断っている。


そうして今でも『草刈』の名の下に採取専門冒険者をやっているのである。


「よう、草刈ィ。てめぇは戦えるんだから参加しろよな」

「Eランクに規定は無いよ」

「他の奴には言わねぇよ。てめぇだから言うんだよ」

「規定違反だよ」

「そんなの推薦すりゃ文句は出ねぇさ」

「頑張ってね。じゃ」

「おいっ、待てよ、おい……ちっ、戦えるのにどうしてあいつは。くそっ」



豊作、豊作。


彼は上機嫌で魔物を狩り続ける。

緊急依頼など関係無しに、倒して全てを倉庫に入れていく。

彼の持つ倉庫は容量無限に近く、だからこそ討伐した獲物は全てその中に収められていく。


現在の彼の武器は『円錐穿』ではなく、氷のような刀身を持つ武器である。

通常、刃物という物は、血脂ですぐに斬れなくなる。

数匹の獲物を狩ればナマクラな切れ味となるので、小まめな手入れが必要になるものだが、彼の武器はその埒外にあった。


パリン─


血脂で汚れた刀身が砕け───そして再生する。


彼の屈指の作、再生剣『不滅の太刀』である。


使用者のMPを吸い取り、欠けても砕けても再生するその刀身は、血脂で汚れても再生する。

ゆえに彼の討伐速度は落ちる事なく、周囲の魔物達はその命を散らしていく。


彼は別に討伐が嫌いな訳ではなく、むしろ好物の部類になる。


だからこそこうして緊急依頼などの情報を受けると、ギルドを無視して討伐に走るのである。

ゆえに街では中々来ない魔物の群れに訝しがるも、準備だけは進められていた。


『ギャォォォォォォォ』


断末魔が響き、周囲の魔物達の動きがおかしくなる。


通常、魔物暴走スタンピートは統率する魔物が消えると消滅すると言われている。

その統率魔物の断末魔を聞けば、動きがおかしくなるのも道理。

それを倉庫に収めた彼は、周囲の魔物達を殲滅した後、全てを倉庫に収めて水筒の水を飲む。


「楽しかったなぁ、クククッ」


彼は実は戦闘狂であった。



結局、魔物暴走スタンピートの群れは現れず、夕刻になった街では徒労となった冒険者達が騒いでいた。

探索に出た者達は、おびただしい戦闘の跡は見受けられるものの、倒れている魔物が見つけられず、魔物の群れをいくら探しても遂には見つける事が出来なかったと報告され、魔物暴走スタンピートが消滅したと判断された。


通りすがりのAランクパーティでも居たのかと、そんな噂が流れたが、申告が無いままに解散となり、徒労代としていくばくかの金がギルドより支払われ、皆は不満の中で帰途に就いた。



裏通りの裏商会。


それは表には出られない者達の命綱ともなっていて、必需品の購入や獲物の買取なんかも行っている。

すねに傷を持つ者達はギルド員にはなれない為、そのような者達が魔物を狩っても売り場が他に無い為である。

それだけに安く買い叩かれそうなものではあるが、その中にあってこの裏商会は比較的良心的とされ、近隣の者達が得意客となっている。


「おやっさん、大漁だぜ」

「お前、隣町のあれ、やったのか」

「統率は緑トカゲだったよ」

「おいおい、ありゃBランク魔物だろ」

「楽しかったぜ、クククッ」

「呆れたもんだ。表じゃ草刈、裏じゃ絶剣ってか」

「なんだよその絶剣ってのは」

「相対した相手は絶対に逃げられないからさ。クラント団殺ったのもてめぇだろ」

「得意客か、悪かったな」

「ありゃどうなった」

「東の騎士団で金貨74枚になったぞ」

「やれやれ……まあいい、ともかく大漁なら奥に出してくれ」

「あいよ」


(あれでどうして表じゃ採取専門なんてやってんだ)

(まともにやりゃAランクも余裕だろうに)

(わざわざうちなんて裏に卸さなくても、正規のギルド員なんだから表に卸せばもっと高く買い取りになるだろうに)

(そりゃうちはありがたいが、よく分からん奴だ)


奥の作業員に言われるままに、大量の獲物をつらつらと出していく有様を見て、呆れたように言う。


「お前、どんだけ狩ったんだよ」

「気の済むまで」

「とんでもねぇな」


すっかり満載になった小屋の中では、作業員達が解体を始めている。

にわかに大量になった仕事に、少しぼやきながらも迅速に解体されていく。


そうして目録を受け取った彼は店先に出ていく。


「こんだけ」

「ええと、緑トカゲ1匹に、火炎熊が18匹? おいおい、そんなに居たのかよ」

「あいつら、炎を吐く前に硬直しやがるからよ、懐に潜り込んで心臓一突きですぐ殺せんだよ。ま、楽な相手だな」

「あれを楽と言うか。呆れたもんだ……ええと、後はオークにゴブリンに、オーガ? おいおい、オーガのほうが緑トカゲよりも上じゃないのかよ」

「さあな。とにかく緑トカゲに騎乗していたのは確かだな」

「おいおい、騎乗オーガとか、単独討伐やれるのかよ」

「穴掘ってやりゃ頭から突っ込んでさ、トカゲは身動きが取れなくなり、オーガは顔面から地面に衝突するんだ。クククッ」

「魔法も使うのかよ。それでよくEランクなんてやってんな」

「採取専門さ」

「裏じゃ化け物だけどな」

「酷ぇな、クククッ」


採取専門と言いながら、裏ではそんな評価となってはいるものの、それが表に出る事はない。


裏には裏のルールがあり、取引相手の個人情報を漏らさないというのは、一番基本的なルールになっている。

その為、彼が狩った数々の獲物の事は、店の関係者のみに留まり、その大量の支払額の明細書にその名が残るのみになっている。


もっとも、通称で記されるので、そこには『絶剣』とのみ記されている。



鍛冶屋。


それも裏の鍛冶屋ともなれば、通う人は限られている。

彼もその1人ではあるものの、目的が少し異なっている。

実は彼はそこのオーナーであり、鍛冶師の1人でもある。


幼い頃から父親に厳しく磨かれた彼の技能はひたすら上昇したものの、裏鍛冶屋のせいか、その情報が表に出る事は無かった。

その父も、つい先頃亡くなり、その跡を継いだのである。


修行の片手間にやっていたのは採取依頼。


ゆえにこそ討伐に走らずに採取専門であったのであるが、裏稼業のせいか、表の評価を上げる事を厭うように思い始め、表では採取専門として裏で好きに討伐するようになった。


幼い頃から裏に馴染んでいたせいか、裏の面々とも親しくなり、自然と出入りするようになった裏商会。


彼のギフトは倉庫という名の、時の止まる半無限倉庫であり、その容量は本人のMP量に比例する。

そうして彼には魔法の才能もあり、そのMP量は常人の数倍はあった。


それゆえに採掘された鉱石をいくらでも持ち帰れると、彼の父親は喜んで採掘に同行させるようになっていた。

そうして自然と討伐も覚えていった訳ではあるものの、それを仕事にしようとは思わなかった。


そうしてそれは彼の趣味となり、表の仕事としての冒険者は採取専門に留め、裏では自由に過ごすようになったのである。


「坊ちゃん、今日も狩りですかい」

「ああ、かなり稼げたよ」

「それはようございました」

「これ、入れといて」

「へいっ」


注文は少ないものの、鍛冶屋の収支はひたすら黒字である。

それも当然、彼の収入が莫大なので、赤字になりようがないのである。

しかも鉱石は採掘で得てくるので、拘りの品に走ることも可能になっている。

そのせいか、裏の一流と呼ばれる者も、何人かは得意客になっていたりする。


そうしてそんな中で生み出された再生剣は、今では彼の愛剣となっている。



「アクリア草、10束、確かに」

「ありがと」

「来週、ランクアップ試験があるわよ」

「パスで」

「仕方が無いわね」


彼はランクアップに興味を示さず、今日も薬草採取のみを請けている。


そんな彼は『草刈』と呼ばれている。


-----


人名小劇場



黄条誠也おうじょうせいや


真地佳代まじかよ


志弐卓祢しにたくない


祖庫迄代そこまでよ


猪知拾太いのちひろった


猛家多奈もうけたな


土庫荷桁どこにげた


西荷一太にしにいった


蟻賀当代ありがとうよ


古和勝太こわかった


鯛保下代たいほしたよ


宇礼椎奈うれしいな


無木竜知むきりゅうち


音砂有之おんしゃあるの


夢里蛇奈むりじゃな


河磯杉代かわいそすぎよ


同仕手代どうしてよ


小戸信濃代おどしなのよ


筵氏軽代むしろしけいよ


上段打郎じょうだんだろう


諸兄真高しょけいまだか


毛鵜終太もうおわった


裏飯伊代うらめしいよ


羽良経太はらへった


吹金新代ふきんしんよ


多鱈礼流代たたられるよ


情物城代じょうぶつしろよ


黄条誠也おうじょうせいや


-----


戦闘職のつもりがどうしてこんな事に



あれから既に半年が過ぎたと言うのに、未だに始まりの町に戻れない。

なんでもここに来た者は全ての生産スキルを上級クラスにしならないと出られないらしく、通常はそれに相応しい人達が来る場所だったらしい。


すなわち、生産廃人達の行く末の町として、モチベーション確保の為の廃人仕様になっているらしい。

そんな場所にどうして来てしまったのか。


あれは一体何だったのか。


初日に道具屋に買い物に行ったんだ。

そうしたら妙に懐かしい物を見つけてさ、しばらく……そう、数十分間それを眺めて幼い頃の思い出に浸っていたんだ。


幼馴染達とは永久の別離になっちまったからよ、当時の事が本当に懐かしくてさ、あれこれと想いに耽っていたんだ。


それを吹っ切る為のゲームだった事を忘れて。


そうして気付いたら店の様相が変わっていてさ、外に出たらこんな場所に来ていたんだ。

そうしてすぐにログアウトして、またログインしたけど変わらない。

もしやと思って死に戻りもやったけど、やっぱり戻れないんだ。


しかもだよ、この事を掲示板で報告したのに、誰も来れないからガセ扱いされてさ、もう何を書いても信じてくれないんだ。


「キヒヒヒ……ここに来る方法は各自が違うから、他人に教えても意味など無いのだよ」


そんな事を言われた挙句、


「君が全ての生産を上級クラスにすれば、出る為のクエストが受けられるようになる。それまでは生産を頑張るんだね」


オレは前衛希望の戦闘職だ。


「しかしの、確かにノスタルジックな思考波で誘致されとるぞい」


感傷は感傷でもゲームの話じゃないのに。


「そのような事は知らぬ。おぬしは道具屋でアイテムを見て郷愁を感じたのじゃろうが。かつて全盛期だった頃に想いを馳せる、熟練者のように」


そんなのは開始して1年後ぐらいから実装しろよ。

なんでオープンの日から実装してんだよ。


「人によりては僅か数ヶ月でも感じるらしくての、遅いよりは良かろうと思うての事らしいの」


だからオープン初日にする事かよ。


「じゃから知らぬと申しておる。後はクエスト資格を得るまで戻らぬゆえに、修練に明け暮れるのじゃ。ではの」


そんなぁ、せめて話し相手になってくれよ。

おい、おーい、戻って来てくれぇぇぇ。



戦闘職のステータスもスキルなんだし、レベリングしてみるか。

そう思った頃もあったけど、とてもじゃないが戦いにはならないんだ。


なんせ廃人仕様だろ。


廃人には雑魚でもオレには強敵過ぎて洒落になんねーの。

気配遮断だの隠密だの、前衛戦闘職とは関係の無いスキルばかりが育っちまってよ、もう戦士やれないかも。


今日も隠れて素材集めだけど、もうどれぐらい死に戻り下のか分からない。

それでも集めないと武器も防具も回復薬も何もどうにもならないんだ。

なんせここには店らしい店が無く、宿屋はやたら高いんだ。

エンドユーザー向けだからだろうけど、だから全然金も無いから、街の中の道端で寝ているんだ。


ともかくさ、運営さん、何とかしてよ。


他の生産職、だーれも居ないから。

こんなのMMORPGじゃないだろ。

オフゲのRPGと何が違うんだよ。


早く戻りたい……。


-----


チート疑惑



VRゲームにも色々あるが、つい最近までやっていたゲームはかなり気に入っていたのに、止める羽目になったんだ。


それはチート疑惑のせいだ。


普通に倒していただけなのに、何か不正をしているんじゃないかと追求され、言いがかりだと思って無視していたらそれが大勢となり、まるで吊るし上げみたいにされたうえ、どいつもこいつも口汚く罵って、まるで真犯人を捕らえた、みたいな態度でありもしない事を白状しろと強要されたんだ。


後に運営が介入して誤解は解けたけど、その頃にはもう、ゲームをやる気力など残っていなかった。


当時の事を振り返る。



強敵と言われる敵の中でも、自分的には一番倒し易い魔物を見つけ、それを専門に狩っていた。


なんせ他の強敵はソロなどでは到底狩れず、フルパーティでようやく倒せる相手なのに、あの強敵だけはソロでも可能な相手だったからだ。


それはある特徴があったからだ。


けん制攻撃を何度か繰り返せば、ウザいと思ったのか、必殺技の攻撃態勢となる。


口から何かの攻撃か?


しかしな、戦闘中に口を開けるとは。


しかもそんな大口を。



口中を投げナイフ入れにした魔物が倒れている。


これ、このまま首落として持ち帰ろうか。

ちょっとアレだけど、30本も収まっているし。

部屋のオブジェにはならんかも知れんが、持ち運びには便利そうなんだよな。


ナイフは全て頭蓋骨の内側で止まっており、当然、頭蓋骨の中身はミンチになっている。


どんな強力な魔法なのかは知らないが、上向き加減で大口を開けるから、そこに連続投げナイフアーツで30連の攻撃をしただけだ。


そうしたら、何も言わずに倒れたんだ。


投げナイフアーツは通常6連続なんだけど、5つまでの予約アーツホルダーがあって、5連続攻撃に使えるから、そこに全て投げナイフアーツを収めたに過ぎない。


投げナイフアーツは、投擲スキルを持っていれば、最初に覚えるアーツだ。


それと言うのも、普通は攻撃力が余りないので、数撃つ必要があるんだ。


それでも弱点に使えば、それなりの威力が見込めるので、弱点に連続で打ち込む為のアーツと言えるだろう。


後で聞いたら、そいつは口から必殺技を吐くらしくて、その魔法は状態異常のオンパレードなうえに、かなりの毒なので中級から先の解毒薬を使うか、上級解毒魔法を使うしかないらしい。


しかも、使用してすぐに回復する訳ではないらしく、戦闘中に食らうともれなく死に戻りになるという恐怖の攻撃らしい。


ただ、発射の直前の数秒で態勢を整えてガード系の魔法を多重に構築してで防ぐのが今までのやり方だったらしく、口の中に攻撃を当てようなんて輩は存在しなかった。


だけど言わなかった。


余りにも当たり前の弱点なので、他の誰かがすぐに見つけるだろうから、わざわざ言わなくても良いと思ったのさ。


生物全てに共通する弱点なんだから、すぐに分かると思ったのさ。


そうしたら、結局は追求されて仕方なく発表するまで、誰も気付かないんだ。


情けないよな。


「これで満足か? 」

「まさか、口の中が急所とか、そんなの普通、気付くかよ」

「お前の口の中も急所だぞ。相手を人形か何かと思っているから気付けないんだ。口の奥には何がある。そう、脳だ。あいつは上向きになって口の中を晒す。となれば、その奥にある脳を狙ってやればいい。後ろからだと頭蓋骨が邪魔になるが、前からなら問題無い。だから当然、普通に気付くと思って言わなかっただけだ。まさかこんな気付いて当然の急所にすら、気付かないとは思わなかったよ」


言ってやった、言ってやった。


勝手な憶測で他人を貶めた挙句、よってたかって情報の公開を強要しやがった連中に。


言ってやったぜ。


何がチートだ、何が独占だ。


どんな生物でも口の中は急所なんだよ。


しかもご丁寧に上を向いていれば、その奥には脳みそしかねぇよ。


そのまま数秒あれば、アーツ5連打も余裕なんだよ。


しかも最初に覚えるアーツだし、そこらの初心者でもやれる事さ。


それを攻略組が偉そうに、チートだと決め付けて囲んで、挙句の果てには脅しによる強制連行までやらかして、広場での吊るし上げ会場とやらまで連れていかれた挙句、ご丁寧に逃げられないようにと周囲を囲むんだ。

そうして犯人を尋問するかのように、荒い言葉で吐けと強要しやがったんだ。

で、言われるままに情報を公開したと。


そのままじゃ悔しいから、思いっ切り言ってやったぜ。



当時の関係者は軒並み厳罰注意を受け、中でも粘着気味にストーカーして絡んだ連中はかなりのペナルティを受けたらしい。

それでも相手が客のせいか、遊戯停止にはならなかったとか。


客が糞なら運営も糞。


だからもう、辞めるんだ。


幸いにもあの強敵から得られた素材各種は友人が買い取ってくれるらしく、全て売り渡して削除の予定だ。


散々不正扱いしたんだし、最後に本当の不正をやっても構わないだろ。


リアルマネートレードがどうした。


チート疑惑で散々貶めてくれたその代償に稼ぐだけだ。

まあ、友人はオレとの関係は秘匿するが、素材の出先を探ろうとするかも知れないな。


なんせ何の証拠の無いのに自分達の思い込みで他人を犯人と決め付けて、大勢でよってたかってこき下ろすのが好きな連中がやっているゲームなのだから。


もっとも、そこまでやっても遊戯停止にならないようだし、リマトやっても停止にならないかもな。


まあ、がんばれよ。


-----


勇者勧誘



「どうか、私の世界をお救いください」


彼女が本物だと理解されたのは、つい先ほどの事。


最初は可愛いのに中二だ、なんてヒソヒソと話し合っていた彼ら彼女達。

埒が明かないと思ったのか、彼女は魔法を行使した。


アニメや映画でしか見た事の無い、余りにリアルな現象。


それは単なる灯りの魔法ではあったものの、周囲の者達を信じさせるに余りある、強烈な破壊力を持っていた。

そうして再度、呼びかけたのだ。私の世界を救ってくれと。

それから何人かが立候補して、彼女の周囲は人が増えていった。


彼女は言った。


多ければそれだけ安全になる、と言うのは確かに真実だろう。

そして、見事救われたその時、莫大な報酬と限りない栄誉、更には私達からの感謝が与えられるであろうと。

そしてどのような望みでも叶えられ、未来永劫、言い伝えられるだろうと。


有体に言うなら、平和になったら何でもしてあげるって事だ。


そうして名誉に釣られた者。

勇者という名前に釣られた者。

後の報酬に目が眩んだ者。

邪な妄想の果てに選んだ者。

正義の想いで選んだ者。

後のハーレムを妄想した者。

国に君臨する事を望んだ者。


彼ら彼女らは、様々な想いを抱いて立候補した。


その結果、周囲の殆どの者が参加を表明し、ここに正式に契約を交わしたのだった。


「秋月君、後は君だけだよ」


そう、残りは彼ひとり。


しかし、彼は断った。


「どうしてだい。彼女は助けを求めているんだよ。なのに断るなんて、君はなんて冷たい人間なんだろうね」


正義の想いに突き動かされた彼は、相手を不甲斐ないと罵る。


「やっぱりあいつって臆病者なのよ」

「そうね、それに運動オンチだし、足手まといになるかも」

「良いじゃない、1人ぐらい」


よってたかって散々に貶めていく皆。


しかし、彼……秋月には漠然とした不安があった。

それゆえに、どうしても承諾する気にはならなかったのである。


どうして皆は気付かないの。


それでも疎外感を恐れた彼は、可能な限り情報を得ようと努力する。

なのにどうしても不安が晴れる事が無い。


悪辣な敵。

卑怯な者達。

情け容赦が無い。


形容詞ばかりで実態が見えてこない。


「それの名前は? どんな生き物なのですか」

「こちらの言語では表現できないのです。ですが、現地には翻訳の為の魔導具がございますので、安心してくださいね」


どんな生き物か、ぐらいは言えるだろう。

あれだけ形容詞を多用してきたのに、それがどんな生き物かと聞くと答えられない。


ますます不安が募る彼。


「いい加減にしろよ。秋月、お前、やっぱりブルってんだろ。ならもう、そこでずっと震えていろよ。巫女さん、こいつぐらい置いても良いよな」

「どうしてもとあれば、致し方ありませんが、多いほうが安全が増すのです」


逃したくないみたいにしつこい。

全員なら、情報漏えいにならないから?

向こうで処分する気?


彼はますます怖くなり、頑なに拒否する。


「そうですか……残念です……ううっ」


遂に泣き落としまで……秋月はもう、耐えられなかった。


だから彼らと離れようと、教室の端まで逃げていく。


「きゃはははは、臆病者確定だわ」

「どうやらそうらしいな」

「行こうぜ、巫女様よ。オレらが救ってやるからよ」

「そう……ですね」


どうして気付かないんだ。


彼女は敵の正体を言わないじゃないか。

どんな相手をどういう風に倒すのかを言わない。

もしかしたら、それは言えないような相手。


「それではこちらに集まってください」


いつの間にか机や椅子が消え去っており、そこには魔法陣が描かれていた。


そうしてその中に集まっていく皆。


気付けば何故か、皆は彼女の言葉に従順になっており、妙に素直に従っているような。


まさか、これはまさか……契約……奴隷……隷属……


「本当に残念ですよ。君にも参加して欲しかった」


名残りのように聞こえる言葉に、つい彼は反応してしまう。


「ごめん、僕には人殺しは無理だから」


空気が変わった。


今まで儚さを見せていた巫女の雰囲気が変わった。


それと共に周囲の者達の動きが止まり、見れば瞳も空ろになっている。


「よく気付いたわね」


やっぱり……彼は寒気を覚えたかのようにブルッと震える。


「やれやれ、私もまだまだのようですね。ですが、これだけの人間どうぐならば問題はありません。それにしてもよく分かりましたね」

「みんなはどうなるの? 」

「もちろん戦ってもらいますよ。全員が死ぬまでに戦いが終わらなければ、また勧誘する事になるでしょうね」

「僕は何も喋らないよ」

「それは本当ですか」

「うん、本当だよ」

「それが賢明です。本当に君は賢いのですね」


(虚偽発言での強制契約の策も外れましたか。これは完全に私の負けですね)


「ではごきげんよう」


それっきり、クラスのみんなとの別れになった。


僕は気絶していた事にして、気付いたら誰も居なかったと証言した。


それが3年前の事。


確かに事件の真相を話す機会はいくらでもありはしたが、それが荒唐無稽であればある程に、信じてもらえる確率は下がっていく。


信じてもらえなければどうなるか。


妄想か、中二病か、それとも何かの陰謀の共犯者なのか。

どれにしろロクな結果にはならないだろう。

それが親しい相手ならまだしも、相手は散々貶めてくれた相手なのだ。

それに相手は魔法も使うような存在だし、どうあっても勝ち目なんかありそうにない。

彼は相手との約束を守らなければ、何らかの攻撃があると信じていた。


彼は元々、オタクっ気があった為に、逆に相手を疑えたのだろう。

それが結果的に彼の命を救った事になる。

これからもし、君達の周囲にそんな出来事があったとして、君達はそれでも応じるのかな。


剣で刺したら真っ赤な血を溢れさせ、恨み言をつぶやく相手を、その命を。


消せる自信がなかったのだ、彼には。


-----


続・勇者勧誘



あるクラスに舞い降りた天使のような存在。


彼女から異世界への勇者召喚の勧誘。


チートは3つ、終われば戻れます。


勇者は魔王の天敵なので、直接戦わなくてもその場に居るだけで効果があるので、他の生物を殺したりする必要はありません。


いわば必勝祈願のお守りのような存在として、討伐グループに守られて現地に赴くのです。


まもなく最終決戦ですので、2ヶ月もあれば戻れると思います。


ちょうど夏休み一杯になるかと思いますが、もしよろしければ勇者になってみませんか?



その世界の魔物にとって、勇者が天敵になる事は既に知られており、モンスター退治にも使える便利なアイテムとして、召喚即隷属がデフォルト。


その為、戻る事は希望しないようにさせられるので天使は毎回、送り返す任務が無くなるんだけど、そんなのわざわざ言わないよね。


あくまでも戻れますってのは本当なんだし。



スキル3つか。


『隷属無効』『偽装ステータス』『アイテムボックス』


とりあえず隷属はやって来るだろうからその対策と。


んで、そいつが成功したと思わせる為の偽装も要ると。


最後にアイテムボックスは見られても、どのみちお守りになるんだし、余分な荷物を預かっておいて、いよいよって時に帰りますと言えばいけそうだな。


どれぐらいお土産が貰えるかな。


大量の荷物を預かりたいものだな。



「永住を希望する言うのだぞ」


「はい、分かりました」


いよいよだな。


ひたすら従順に何とかやれたし、後は祭壇でのやりとりで終わる。


荷物運びを大々的に宣伝したから、色々な物資に使わない武器や防具、それにアイテムやら盗賊のお宝やらと満載になっているんだ。


なんせ討伐グループは公務の一環だし、そんな余分なお宝とかはバレたら国に没収されるって言うから、ほとぼりが冷めるまで預かる事になっていて、他の者達のへそくりやら隠したいお宝などもあるんだよな。


人間、逆らわない荷物持ちを知っていれば、そいつに色々と預けたくなるもんだね。


皆さん、脱税とか大好きっぽいし。


異世界の品だから価値は違うだろうけど、それでもいくばくかにはなるはずだ。


まあ、夏休みのバイト代かな。



「それでは戻りましょうか」


(拒否しろ)


「はい、戻してください」


(おい、永住と言え)


「あら、戻りたいのね」


「はい」


「分かりました。では」


「待ってくださいっ」


『勇者送還』


「あああああっ」


「さっきから騒がしいですよ」


「どうして」


「そういえば久しぶりでしたね。毎回、永住を望んでいましたが、今回の勇者は帰りましたが、何か不都合でもあったのですか? 」


「い、いえ」


「ではまた」


「ははぁ」



(おのれ、あの者。隷属されてはおらなんだのか。よくも騙してくれたの。次回があれば容赦はせぬ)


(おい、どうすんだよ)

(僕のへそくりがぁぁ)

(盗賊の宝、持ったまま消えやがった)

(俺の予備の防具と宝物剣返せよ)

(貯金箱代わりにしてたから、生活費が無い)

(おい、魔術師、あいつの隷属どうなってんだ)

(弁償しろ、弁償)


((((そうだそうだ))))


(勝手なものですね。恐らく最初から隷属されていた風に装っていたのでしょう。3つの願いを使えばそれも可能そうですが、それに気付けなかったのは王様と姫様。文句はそちらに言ってもらいたいものです。大体、異世界から騙して連れて来て、隷属して使い潰そうなどと考えるから裏を掻かれるんです。ちゃんと正直に対話しての契約なら、相手もその対策を考えなくて済んだ話。折角の願いを対策に使った彼は戻れましたが、他の連中の能力には及びません。だからもし留まっても、荷物持ち以外に使い道は無かったと思いますよ)



特売セールだ。

持てるだけ持って10万円か。

カバンに詰める振りしてアイテムボックスに入れちまおう。


(あのカバンどうなっている)

(どうしていくらでも入るんでしょう)

(このままでは赤字になる。止めさせろ)

(セールなのに良いんですか? )

(中止だ、中止)


後にイメージダウンで潰れたその店は、店主の浅慮って事にされちまった。


ごめんね。


-----


オレには兄がいた


いや、別に死んだ訳じゃないよ。

たださ、今、病院にいるんだよ。

ただし、もう出られない病院に。


あれは今から5年前の事。


『ぼくには前世の記憶がある』


いきなりそんな宣言とかさ、中二を思わせる発言だよな。

そんなのを中学になったばかりの自己紹介でぶちかますとか、ちょっとあり得ないよな。

当然、思いっ切り引かれた挙句、当たり前のようにボッチになったんだ。

引かれた時に冗談で流せばまだ何とかなったのに、空気が読めなかったのかそのままの調子で色々とやらかしたらしいんだ。


この世界で魔法だの何だのと、受け入れられる訳が無いだろうに、あんな事になってしまうとは残念な話だ。

そういうのは胸の奥に秘めておくのが、記憶持ちとしての在りようだと思うんだ。


うん、オレにもあるんだ、前世の記憶。


どうやら兄は入学式の後の教室での自己紹介の時に、緊張して頭が真っ白になったショックで記憶が蘇ったらしく、過去の人格が表に出た状態での自己紹介になったようで、そのまま色々と常識を疑われる言動を繰り返し、遂には精神鑑定まで受ける羽目になった。


でまぁ、その妄想が消えるまでは出られないと。


今から思うに記憶が蘇った時期が悪かったんだろうね。

オレの場合は夏休み中だったからさ、記憶が混ざって馴染むまで、ずっと部屋で過ごしていた。


可哀想だけど、オレには何も出来ないんだ。


てか、したくない。


だってあいつ、オレを殺した奴が転生したみたいなんだし。


いくら今では兄でも無理だよな。


-----


商業ギルド所属の冒険者



「金が無いから冒険者になろうとしているのに、冒険者になるのに金が掛かるのかよ」

「決まりですので」


そんな訳で冒険者ギルドを出たオレだが、何もギルドはここだけじゃない。

それにしても、ギルド員にならないと素材の買取もやれないって、どうなってるんだよ。

おかげで途中で狩った魔物の素材を売って資金にしようとしたのに、やれなくて入会出来ないとか最悪だな。


「ただいま、ダメだったよ」

「素材は買い取ってくれなかったのか」

「ギルドに入るのに金が要る。素材を売るにはギルド員の資格が要る」

「かぁぁぁ、あそこも以前はもっと融通が効いたと思ったが、最近じゃそんなもんか。ならいい、このままうちのギルド員になっちまいな」


そんな訳で商業ギルドに入り、直接素材を売る事にした。


拾ってくれた商業ギルド員のおやっさんの勧めで冒険者ギルドに行ってみたけど、門前払いを喰らったから仕方が無いよな。

早速、竜系の素材をわんさか売り、ギルドカードにその売り上げが記載された。

なんでもこのカードで買い物が出来るんだそうで、立場的には冒険者より少し悪くて入街税が少し掛かるものの、儲けるにはこちらのほうが断然得らしいのでこのままいこうと思う。



(おい、こりゃ地竜のうろこじゃねぇか。こんなもん、どっから手に入れた)

(最近入ったギルド員が売った品だが)

(Aクラスの討伐依頼、やっとパーティ誘致したってのに肝心の地竜が消えちまっててよ。まさかこいつじゃねぇだろうな)

(さあな、詳しい話は聞いてないが)

(もしそんな腕ならどうしてうちに誘致しなかった)

(門前払いを食らったと聞いたぞ)

(なんだと、あのアマ。またやりやがったのか。いい加減、クビにしてやる)

(だがもう手離さねぇぞ。あいつ、相当の腕前のようだし)

(畜生、折角の人材が)

(そういや次はヒドラを狩るとか言っていたな)

(うぐっ、まさかあれまでもか)


-----


異世界転生?



気付いたら見知らぬ地。


目の前には何かよく分からない動物の屍骸。

傍には人のような動物のような生き物の屍骸。


これって獣人? とか言わないよな。


完全に死んでいるようだけど、これが転生だとして、もしかして、親……なのか?

自分で食えばいいのに、オレに残して死んだのか。

いや、何か怪我しているみたいだな。

獲物を狩って怪我して、オレに食い物残して死んだのか。

言葉も交わしてないけど、なんか、妙にせつないような。


父ちゃん……


魔物の肉、食っては吐き食っては吐いているうちに普通に食べられるようになる。

なんせ親? がとって来てくれたんだし、死んでも食うって感じだったもんな。

食っていれば味も分かるようになったし、意外と珍味かも。


はぁぁ、もう食えねぇ。


また明日食うとして、これが無くなったらどうしようか。



つづく……のか?


-----


転生人語



井戸ポンプを作った転生者だったが、平成生まれの平成育ちのせいか、ポンプの構造は知っていたものの、その使用方法が分からない。


「お前それ、呼び水を入れないと使えないぞ」

「え、まじで」


呼び水を入れて、何度か動かしてガボッガボッと音がしているうちに、遂に水が湧き出てくる。


「出たぁぁぁ」


やれやれ。


「あれ、あいつ、何処に行ったんだ。使い方を知っているって事はあいつも転生者だよな。参ったな、他にも色々あるからアイデアをもらおうと思ったのに」


-----


エルフにしたつもりが何故かエロフになっていた件



設定の性的干渉防御がオフになったままでオンに出来ない仕様とかさぁ、触られまくりになるって事だよな。

確かに下着は脱げない仕様だけど、触られたら嫌なものは嫌だ。

さすがに本番はやれないようだけど、揉みくちゃにされるとか冗談じゃない。

とっととキャラチェンジしようとログアウトボタンを探すのに、それがどうにも見つからない。

てかさ、リアルじゃ男なのにどうして女なのかと思ったら、エロフは強制的に女性になるとか、本当にもうどうなってんのこれ。


はうっ、誰だぁぁぁぁ……


くそぅぅ、まただよ。


通りすがりに尻を撫でるとか、訴えてやるぞと言いたいが、エロフだから仕方が無いとか止めてよ。


ふぉぉぉぉ……



酷い目に遭った。


いきなり数人にお持ち帰りされて、下着のままひたすらもふられた。

あいつらヘンタイさんだったようで、あちこちクンカクンカって……

アバターに匂いなんかあるか、と思ったのに、あるらしいな。

しまいには舐めるんだよ。


なので全員、魔法の餌食にしてやった。


エロフ専用魔法に、動物化魔法ってのがある。

動物と言う割りに、両生類も含まれていて、あいつらは揃ってカエルになりました。

そうして全員、踏んでやったんだ。


即死のはずなのに、妙に艶かしい声を出したりして、やっぱりヘンタイだ。


ログアウトしたいのに、どうすればいいの。


はうっ、もう止めてぇぇぇ……



「そもそも、服を着てないんだから仕方が無いだろ」

「下着しか着れないんだよ、この種族」

「エロフだしな、くっくく」

「どうすりゃいいんだろう」

「心配するな、オレが養ってやるさ」

「その代わり? 」

「分かっていたら聞くな」


下着は脱げなくても破けるとか裏技だろ。

そんな訳で彼に養われて毎晩奉仕しています。

アバターのはずなのに、子供が出来たりするのかな。

それにしても、どうしてこんな事になったんだろう。


だけどもう、戻れない。


親友の彼は今では旦那になっていて、それを当たり前にように受け入れてんだから。

ボクにこんな性癖が眠っていたとか、知らなかったけど知った今ではもう戻りたくない。


だって幸せなんだもん。


-----


待て、リアルドライブ、だと?



仮想ドライブ──VRゲーム全盛期に開発された、

と言うより、これが開発されて全盛期が始まったと言うべきか。

結局のところ、科学技術だけでは仮想世界を表現できず、オカルトに頼ってしまったと揶揄されたものだが、いつしかそんな声も立ち消えとなり、今では当たり前に認知されている。


仮想世界と現実世界をつなぐ、唯一の方法。


それがこの仮想ドライブなのだが、ある天才科学者がおかしな事を言い出した。


リアルドライブの発表をすると。


それってどんな代物なの?


この現実世界をゲーム化させる?


世界の損失だよ。


紙一重が遂に越えちゃったよ。



参加者はデスゲームを覚悟してください。


もっとも、舞台はリアルなので、当たり前と言えば当たり前ですね。

専用のシステムから仮想ドライブを経て、特設ブースへログインする事になります。

そこで装備を決めていただき、リアルドライブで現実に戻る事になります。


参加者は今の肉体を捨てて、アバターでこの世に帰って参ります。


そうして死ぬまでの時を楽しくお過ごしくださいませ。


もう君には空腹やトイレなどという、余計なファクターはありません。

それどころか眠る必要すらも無いのです。

ただ、斬られたら怪我をしますし、拳銃で撃たれたら死んでしまいます。

なのでくれぐれも危険には近付かないようにしましょう。


さあ、余命いくばくもない病人の方。

生まれつき身体の弱い方。

手足を欠損してしまった貴方。

アバターの身体に生まれ変わるチャンスです。


見た目の変わらないそのアバターの寿命は50年。


身体欠損回復は専門の回復薬でしか治りません。

生活魔法は使えますが、魔力の回復には専門の回復薬が必要になります。

無呼吸化の薬を使えば、最大で2時間の無呼吸活動が可能となり、海中散歩も思いのまま。

水圧は10気圧(100メートル)まで耐えられますが、それを過ぎると体力が減っていきます。

耐圧強化薬を使えば、最大で100気圧(1000メートル)まで耐えられるようになりますが、越えるとやはり体力が減っていく事になります。

水中体力回復薬もご用意できますが、余り無理をなさらないようにしてください。

体力がゼロになると死んでしまうのですから。


アバターとなった貴方は、もはや病気などとは無縁です。

それどころか、メルトダウンした原子炉の跡地の見学すら可能になっております。

見た目、生身での見学が可能なのは、アバターたる貴方だけでしょう。

高濃度の放射性物質を間近で見るチャンスですよ。


さあ、触れてみましょう。

おや、意外と重いですか?


ただ、お帰りの節は念の為、浄化薬を飲んでおきましょう。

身体に付着した放射性物質の無効化は必要でしょうから。

浄化が終わったら、きちんと計測してもらいましょう。

それで貴方は被爆していませんと言われます。

そうしないと危険人物として、市中を騒がせる事になります。

そうなってしまうと、うっかり拳銃で撃たれて命を無駄に散らす事になってしまいます。


折角生まれ変わったのに、それは残念な事ですよ。


元の身体はそれぞれ、ログインした場所で眠っています。

もはや目覚める事のないその身体は、そのうち心臓も停止する事になるでしょう。

君はその乗り物から降りて乗り換えたのです。

心臓エンジンが停まるまで放置した後は、きちんと埋葬しましょう。

使った道具は自分で処分するのが当たり前でしょう。

もちろん、使い捨てで破棄するのも自由ですが、世の法に違反しないようにしてくださいね。

身体は人間では無くなったにしても、世間の法には縛られる存在なのですから。


それとも人外を標榜しますか?


化け物として射殺されたければご自由にどうぞ。


参加費 10万円


アバター作成費用 

特・50億円

上・5億円

中・5000万円

下・500万円

貧・無料


特・常人の数倍の身体能力、無呼吸活動1時間、耐圧5気圧、自己回復(中)、魔力容量5万、追加寿命オプション


上・常人の2倍弱の身体能力、無呼吸活動10分、耐圧2気圧、自己回復(微)、魔力容量5000、追加寿命オプション


中・常人を少し凌駕する身体能力、無呼吸活動5分、耐圧1気圧、各種回復薬効果微増身体、魔力容量500、追加寿命オプション


下・常人の身体能力、常人の性能、魔力容量50、追加寿命オプション


貧・幼児の身体能力、幼児の性能、魔力容量5、追加寿命オプション


共通機能


・目覚まし付き睡眠機能 睡眠も可能(目覚まし最大10年)

・回復魔法 ヒールmp5(ハイヒール50、エクスヒール500、メガヒール5000)

・生活魔法 1回消費5

・マルチタスク 通常無効(有料で有効化)

・ポケット 超小型アイテムボックス(通常化、拡大化、便利化)


ポケットの性能


タバコとライターと財布が納まる程度の容量なれど、通常化が成されればミカン箱が2つ入るぐらいの容量となり、拡大化が成されれば普通乗用車が入るぐらいの容量となり、便利化が成られれば指差発動を可能とし、指定場所への出現を可能とする。

他にも手を挿入すると内容のアイテムの種類と数が頭に浮かぶ。


そうして全てを有効にすると、バスが数台入るぐらいの容量となり、中のアイテムの詳細が分かるようになり、ボックス内作業を可能とする。


ボックス内作業


手を汚す事なく魚の解体がやれたり、被害を受ける事なく爆発物の処理がやれたりする。

もちろん専門のスペースを設ける必要があるが、ボックス内作業が有効になってないと設定出来ない。

バス1台分の容量を使って処理スペースを確保し、その中での解体や処理になる。

その為、そのスペース内の時間は外の時間と同様になっている。

使用者は両手をポケットに突っ込んでの作業となり、中では仮想の両手での作業なので、爆発物で破損してもアバターには影響は無い。

ちなみに中に本を入れて仮想の両手でめくれば、頭の中で読書がやれるので眼を瞑った状態での寝たまま読書を可能とする。

なお、道を歩きながらも可能ではあるが、マルチタスクはオプションなので有効にしない場合はお勧めしない。


マルチタスク


有効化すると2つの作業を同時にこなせるようになる。

頭脳のリソースにそれは影響され、高価なアバター程、リソースへの影響が低い。

特の場合は最大、3つの同時作業も可能となる。



あれから2年が過ぎたが、アバターらしき存在が世間を賑わせた話は聞かない。

ただ、独居老人の資産が消えて失意のままに死亡したり、財産を無くした人が騒いでいたりしたが、本人は行方不明になったらしい。


やっぱり壮大な詐欺だったのかな。


-----


苛められっ子に救済を



気の弱い苛められっ子への救済手段として、前世の記憶を蘇らせる。

前世でハードな人生を歩んできた記憶があれば、現世での出来事など児戯にも等しいはず。

そう思ったのに、大抵の苛められっ子は前世でもやっぱり弱者の位置に居て……


そんな訳で偽の記憶を植え付ける事にした。


今にも死にそうな苛められっ子にはギャングの幹部だったという記憶を与え、何度も修羅場を潜った後に撃ち合いで死んだと思わせた。

そうしたところが彼はすぐさま家に戻り、部屋で色々な物を物色した結果、翌日の学校帰りに反撃に及んだ。


河川敷のガード下で全員を抹殺したのである。


ただその後が問題で、本人も血だらけになった挙句にあちこち切り傷を拵え、ケータイで110番して被害者を装ったというもの。

だけど全員が死んで彼だけ軽傷で生き残りとなると、どうしても疑いは消えないもの。

偽の前世の記憶を頼りに、その場をやり過ごしていたものの、その記憶が段々と剥がれていくに従い、彼は怖くなっていった。


これは失敗か。


記憶の定着が浅かったようで、彼は任意同行でその場をやり過ごしたものの、後日の出頭前に自殺してしまったのである。

そんな訳で新聞には苛められっ子の反逆で苛めっ子全員死亡と書かれ、世の苛めっ子連中への警鐘になったようで、いくらかましになったようでもある。

なので全体的に見て良い傾向になったものの、本人にとっては余り変わらなかったようで残念な限りである。

それからもあちこちで試した結果、苛めっ子は別の方面での発散を考えるようになり、苛められっ子の救済になったようだ。


ただ、完全犯罪に成功した元苛められっ子が問題だった。


どうやら味をしめたようで、他のクラスの元苛めっ子への攻撃を開始した。

日用品や台所用品でも、使いようによっては凶器へと変わる。

そのたがが外れてしまった彼らにはもう、元の生活に戻る事は出来なかった。

そうして最終的には世の悪とされる存在への攻撃の結果、反撃を食らって全滅してしまったのである。

彼らの本来の運命を歪めたようなこの影響は、来世でどのような人生になるかによって決まる。


願わくば平穏な人生でありますように。


-----


魔杖を99本使って盾型魔導具を作ってしまいました



『戦略魔杖・九十九つくも』は数センチの長さの杖を束ねて盾状にしたもので、同時に99発の魔法が放てる最終兵器だが、そんな魔力容量の持ち主など居ない為、十数人から数十人がかりで発動させる兵器となっていた。

しかし遂にそれを単独で放てる存在が見つかり、国は彼を高給で囲い込み、いざという時の為に飼い殺しにした。

そうして遂にその機会が訪れ、彼は満を持して魔法を放つのでした。


命と引き換えに。


そう、いかな彼でもその消費魔力は足りず、生命力をも足しての発動にするしかなかったのです。


「これでようやく家族の元に行ける」


彼には守るべき家族があり、今までずっと彼の年金で養われていた。

ところが今回の戦争で家族が村ごと焼き払われ、彼には生きる目的は既に無かった。

となればもう、全身全霊を以って魔法を使うだけ。

今からならまだ追い付けるかも。

そう考えた彼はもう迷いはしなかった。


-----


大魔導師になったけど、戻ったら魔法は使えないらしい



勇者として召還されたオレ達は、苦難の果てに何とか討伐し、戻るか残るかの選択を求められた。

保持魔力ゼロだけど供給魔力極大で魔法使い放題だって。

だから魔力の無い世界じゃ魔法が使えないとかさ、戻ったら無しになるって事だよね。

もし逆なら、魔力を保持したまま戻れば無くなるまでは魔法が使えたのに。


てな訳でオレは残留する事にするよ。


あれから数年が過ぎ、莫大な資産を手に入れたオレは遂に悠々自適な環境を整えた。

豪勢な屋敷と美人メイドの面々に広い風呂に贅沢な調度品。

ああ、こんなベッドとか、向こうじゃ望むべくも無い。


明日から楽しい日常が始まるんだな。



おい、神様。


オレは残留と言ったよな。


なのに目覚めたら元の生活ってふざけてるのか。


オレの苦労の日々を返せ。


これからようやく楽しい日々が始まるというのに、どうして送り返した。


元に戻せぇぇぇぇ。


「朝から煩いよ、高志」


ちくしょう……


-----


VRMMORPG-CM



神と竜の戦いは数万年に及び、遂に竜の眷属を全て絶滅に至らしめた。

そうして最後の竜を滅ぼさんとしていたが、神も万能ではなく、最後の竜を瀕死にまで追いやり、絶滅してしまう。

宿敵たる神を滅ぼした竜だったが、彼はもう動けそうになかった。


だがもう忌々しい神は居ないのだ。


ゆっくりと療養して目覚めし時、我の天下が始まる。

そうして彼は深い眠りに就いた。


それから数百年後、神の尖兵たる人族達は、喪われた神の悲願である、竜の討伐を目指さんとして、その武力をひたすら高めていた。

そうして少しずつ竜を弱めようとしていたのだが、段々と竜の生命力のほうが強くなり、遂には預言者によって復活の刻が示されてしまう。


このままでは未来は無いと。


しかるに神もただ滅んだ訳ではなかった。

未来へ託す一条の光……他世界の神への祈り。

遥かな時空を越えてその願いは届き、現地の神によって送られた救世主達。


『我の代わりにその世界を救ってやってくれ』


幻想竜ファンタジー・ドラゴンの攻略が今、始まる。


幻想竜最終攻略(ファンタジー・ドラゴン・ファイナル・クエスト)好評発売中です。


-----


冒険ギルド調査員



転生(内緒)のチート(内緒)なオレは地味に暮らしたい。

もちろん、チートと言っても地味な代物なのです。

前世知識、技能含むなので、厳密にはチートとは言わないかも知れない。

言わばオレのかつての遺産とでも言うべき、経験して習得した技能なのだから。


当時、何をあんなに意固地になっていたのか。


全ての職を極めたいなどと、あんな事をやっているから死ぬ羽目になったんだろうに。

だからもう危険な商売はやらない事にしたんだ。


えっ調査員は危険だろうって?


そんな事はありませんよ。

ただ、現状を見るだけで戦う訳ではありませんから。

もっとも、目の前で食われそうになっている人を助けろとは言われていますが、調査員にはそもそもそんな戦闘力は無い事になっています。


だから内緒ですよ。


本当は強いとか、知られる訳にはいかないのです。


1の事例-ゴブリン集団討伐依頼。ゴブリンロードと鉢合わせ。話し合い不発。襲われたから反撃して素材にした。

2の事例-オークが山から降りて来たと報告後、討伐前調査。オークキングと遭遇。話し合いの後、逃亡先の紹介をした。

3の事例-ドラゴン討伐前調査依頼。連れ合いを探していた。危険だからお帰り願った。


ちなみにオークキング率いるオークの群れは今、孤島で静かに暮らしているはずだ。

そこは猛獣がわんさか居て調査放棄された島なので、そのまま平和に暮らせるはずだ。

調査の為の基地と、そこに残されている武器の類は巧く活用するんだよ。

大体、ゴブリンとかオークとか、亜人とは言うものの、言葉も通じるし知性もある。

本当に人族至上主義には困った物だが、それが世界の常識なら表向き、逆らう事も出来ない。

精々こっそりと逃がすぐらいが関の山だ。


 

三流で雑魚な調査員という触れ込みで安月給で過ごしているオレだが、内緒で討伐した魔物の素材売却益で懐はかなり温かい。

なので不平不満も言わないせいか、上層部の受けはかなり良い。

端金で使える駒として、今日ものんびりと調査という名の遊行に赴いている。

あいつらは調査に出したという名目が欲しいのであり、その結果に期待などはしていない。

期待するならもっと有能な奴らを送り込むはずだ。


そんな訳で、これもスローライフのクチだろうと思っている。


-----


好奇心は



禁書をこっそり見ていたらとんでもない記載を発見した。


深夜に図書館に潜り込んでの盗み読みもかれこれ数年が過ぎ、そろそろ読み尽くした頃に見つけた隠し戸棚の中にあった禁書。

どうやら鑑定系スキルのようだが、ここまで酷い物は初めてだ。


上位鑑定・極


これは4年前に1人の保持者が、死ぬ前に最高責任者に提出した代物らしい。

題名は『凶悪技能覚書』とあるが、確かにそうだろうな。

そうして現在に到るまでここに秘蔵になっているようで、そんな物を見つけてしまったのだ。


下記がその表記になる。


身長  cm

体重  kg  

胸囲  cm (  カップ)

胴回  cm

腰回  cm


経験  人

性交  回  (前  回・後  回・他  回)

自慰  回  (兄弟  回・親  回・友人  回・教師  回・他  回)

結婚  回  (見合  回・恋愛  回・政略  回・義理  回・他  回)

離婚  回  (不倫  回・死別  回・殺傷  回・他  回)

不倫  回  (友人  回・親族  回・同僚  回・金銭  回・他  回)


自傷  回

負傷  回

骨折  回

病気  回


窃盗  回

詐欺  回

暴行  回

殺人  人


特技

苦手

好物

嫌物

趣味

嗜好

学歴

成績

偽病

病欠

遅刻

早退

喧嘩


何とも凄まじい情報量だが、こんなの知られたらとんでもないぞ。


最初のページを見ただけでそのヤバさが分かってしまった。

好奇心に負けてつらつらと見てみると、歴代のお偉方の全てがそこに記されていた。


どうやら所持者の告白の後に全てを闇に隠していたらしいが、ここに知る者が現れてしまった。


これ、まじヤバい。


もう今日で秘密の冒険も終わりにしないと、こんなの知ったと知られたら、真剣に命の心配が必要になるだろう。

そうと決まったらスケープゴートを作らないとな。


誰が良いかな?



後日、不正と汚職の大家が処刑された。

罪名は何故か、国家反逆罪だったという。

それから図書館で小火があり、ちんけな盗人が処刑されたとか。


あの隠し戸棚がピンポイントに放火されたのを知ると、尚の事ヤバさが伝わってくる。

ていうか、それを調べたのが拙かったのか、今も尾行が付いてんだよな。

緊急用の逃走経路が無理なら諦めるしかない。

はぁぁぁ、もう図書館は鬼門だな。


女湯の皆様ごめんよ。

緊急事態だったんだ。


まあオレは三助の振りして抜けたけど、後ろで騒ぎになっていたな。

さすがに尾行者も三助の芝居の道具は持ってなかったようで、大騒ぎになっていたな。


しかしその代償はでかかった。


老人の変装と、それを使った三助の内職と、緊急用の逃走経路を一度に無くしちまったんだ。

特に三助の内職は庶民の噂話の収集に便利だっただけに、あれは本当に痛かった。

更に言うなら暇つぶしの図書館巡りも終わりにしないと。


弱ったな。


本来なら国外逃亡すら考えないといけないぐらいだが、生憎と国を離れる訳にはいかないんだよな。

閑職でのほほんと暮らしてはいるが、出るところに出ればそれなりの地位には違いない。

そんなのがいきなり国外に出たりしたら、痛くも無い(本当は痛いけど)腹を探られる事になる。

その挙句に今回の所業がバレたりしたら、即座に北の塔送りになれば上等で、暗黙のうちに処刑されかねない。

となればもう、戦々恐々として暮らすしかない。


本当に弱ったな。


女なら政略で他国に行けるのに、なまじ男だからそうもいかない。

13男とか、よくも産んだもんだよな。

末席で望みも無いから継承権放棄するって、それで閑職暮らしで地味にやっているのに、実は真犯人ですとか、殺してくれと言っているのも同じだ。


猫を殺す、か。


この写し、捨てるに捨てられんが、焼くのもなぁ。

猛毒のようでもあるし、命綱のようでもある。

どうにも扱いに困るが、どうしたもんか。


それにしても親父、4年前で既に性交4桁かよ。


-----


言葉の壁



「生産職で貴族の生まれにしてください」

「それでよろしいですね」

「はい」



確かに貴族にしてくれると言ったのに、このオンボロな部屋はどうなってんだ。

しかも、妙に鉄臭いが、これってもしかして……うぇぇぇ。


なんだよ、女神様。

ちゃんと希望を叶えてくれよな。


騙されたぁぁぁ……



あれから5年。


筆記しなかったとは言え、普通に考えたら貴族で生産職だろ。

なのに鬼族で凄惨職とか、どうなってんだよ、これは。

昨日も山ひとつ越えた人間の村に略奪に行って、村人全員皆殺しとかさ。

それがオレの役目とか言いやがって、いきなり殺しとかやれるかよ。

なのに、殺さないとメシも食わせてくれないとかさ、餓死に耐えかねて殺しちゃったよ。

成人したらずっとこんな生活が続くとか、もう死にたいよ。


なのに、丈夫なんだよ、この身体。


持ってる武器で傷付けてもすぐに治るんだ。

リストカットとか、しても当たり前に治癒していくんだ。

高い場所から飛び降りても、足が痛いぐらいで死ぬとか不可能だから。

首を括ってもそのまま生存を継続するとか、どうやったら死ねるんだ。


あーあ、こんなはずじゃなかったのに……


-----


自由奔放・狭間



最近の幹線道路は賑やかだ。


某県某市……某マンションの12階に住むオレは、小さなテラスから今日も下を眺めている。

道路沿いとは言うものの、12階ぐらいになると喧騒もそこまでの事もなく、サッシの恩恵もあって夜に眠れないという事もない。

ここは特に暴走する連中もやって来ないんだけど、来るのはある存在のみ。

昨日も高校生ぐらいの少年が、トラックにはねられて唐突に消えてしまった。


周囲の者達には観測できないその現象は、召喚と呼ばれる代物だ。


このマンションのちょうど直下では、毎週のように召喚が行われている。

とは言うものの、送り出すほうなので送致というべきかも知れないが、ともかくそれが行われているのである。

やって来るのは女神と称する存在だが、そんな良い者じゃない。


なれば悪魔か死神か。


はっきり言うなら人身売買の手先のような存在になる。

この世界を管理する存在はそれなりに有名なようで、あちこちの世界から存在の誘致の申し込みがあるらしい。

そうして送り出すにあたり、対象の身体に衝撃を与えて死んだと思わせ、そのまま魂を送り出すようだ。


今日は新しいワインを開けようか。


嗜好品なので深酒はしないので、あんまりは飲みはしない。

それでも日々の見学には酒は必要不可欠なのだ。


キキキキー……ドッシャーン


おや、連日とはまた珍しい。


中学生ぐらいの少年が送り出されたようだ。

それにしても不思議なのは、毎回交通事故で送り出しているって事だ。

しかも対象は殆どがトラックなのだが、何か理由でもあるのだろうか。


対話の様子を覗き見れば、やれ特典がどうのこうのとやっている。

色々と特典を付けるのは良いが、それで本人が強くなった訳でもないのにな。

単にシステムに組み込む際に、そういう付加効果が出るようになるだけなので、他の世界に行けば元通りになってしまう。

送り出された世界のみで通用する技能に過ぎないので、他の遊園地に行けば使えないフリーパスのようなものだ。


そんな一時の夢──


僅か100年に満たない人生の為に、今世の人生を終わりにされた存在。

オレなら元に戻せと言うところだが、何故か皆、言われるままに承諾するようだ。


そんなにこの世界が嫌なのかね。


オレとしてはこれぐらい発展した世界じゃないと色々不便だから、わざわざそんな世界に行きたいとは思わないものだが、彼らはそうではないようだ。

ここに住んでかれこれ長いが、何時まで送り出すのだろうか。


《そろそろですよ》


ああ、もう休暇が終わるのか。


10年もあっという間だな。


-----


水の魔導師



渇水──


大陸中が乾燥していた。


その中でもある王都は水不足の真っ只中にあり、給水池の水も残り僅かとなっていた。

王国中の魔術師を招聘しての給水事業もはかどらず、新たに井戸を掘ろうにも水は沸き出でず、もうどうしようもない事態に遷都の事案まで出るぐらいの状況にあった。


そんな中、巷では水売りと称する者が現れ、商会を中心に水の供給をしているらしいという話が王宮にまで伝わる。

商会にまとめ売りされた水は庶民達に小分けされ、王都の者達の喉を潤していると。

最初は流れの魔術師の仕業と思われたが、それにしては毎日の供給とその量にただものではないと思わせた。

名のある者達をかき集めたと言うのに、まだ漏れがあったのかと王宮では早急にその者の招聘を検討していく。


そうして遂に、その者は半ば強制的に王宮に連れられる。


「水の魔導師だと? 大層な肩書きだな」

「ええ、水なら誰にも負けませんから」

「ほお、言うじゃねぇか。なら全力でやってみな」

「町が水没しても構わないと? 」

「へっ、そんな大言壮語、やってから言うんだな」

「前金でもらえますか? 全てが流れた後ではもらえませんから」

「先にやれってんだよ」

「仕方が無いですね。その代わり、後でどうのこうのは受け付けませんよ」

「煩い、とっととやれ」



ある王都でいきなり莫大な水が噴出した。

それは全ての物を押し流し、その流れの中に沈めていった。

膨大な水は渦のような流れとなって周辺を巻き込み、周囲の存在を水底に沈めていく。


呼吸が必要な全ての存在はその動きを止め、まるで物体のように流されていく。

数十万とも言われたその王都の存在は全て、水底に沈む事になる。

水は王都の中で渦を巻き、遂には水の柱となって聳え立つ。

巨大な水の柱はその高さをひたすら伸ばし、遥か雲海の果てまで伸びていった。


そうして遂にその水の壁がはじけた。


その頃には水は途轍もない量となっているにも関わらず、莫大な水はひたすら供給されていた。

はじけた水は周囲に津波のように襲い掛かり、全ての物を押し流していく。

野を越え谷を越え、水の暴力はその地に住まう全ての存在を、強制的に押し流していく。


遂にはその国の全てを押し流し、その脅威は周辺国にも及んでいく。


もとより対策なども採れぬ者達はどうしようもないまま、高い場所を探して登るも水に追い付かれ、それらはそのまま流されていく。

船に乗っていたとて安心はならず、ところどころで渦を巻く水はそれらを沈めにかかる。

まるで意思を持つかのような水の勢いは、あちこちで猛威をふるっていた。


地の底より沸き出るが如きの水の勢いが弱まったのは、大陸全てが水没して後の事。

その頃には生命の全ては大陸上にはなく、ただただ清き水の流れがあるのみになっていた。

どんな強固な建造物とて押し流した水、その結果は大陸ひとつをそっくり綺麗なものにしていた。


そこにはもう何もない。



『愚かなる王の愚かなる願いなれば、我に責は無かろう』

『しかし、あれはいくら何でも』

『我はただ、望まれしままに行使したに過ぎぬ』

『やり過ぎと申しておるのだ』

『だが、あやつは申したぞ。この我に対し、全力でと』

『折角育んだものを、全てを台無しにしてくれおったな』

『水を望まれ、報酬を拒まれ、全力と言われたのだ。つまり、タダ働きだな。それでも言われしままに行使してやったと言うに、文句を言われるとは割りに合わぬ』

『なんと愚かなる。そなたに全力などと』

『水の魔導師と言うたのに、信じぬほうが悪い』

『また最初からやり直しとは、何とも報われぬ』

『もう人族は諦めたらどうだ』

『それは出来ぬ』


(水の魔、その全てを束ねし導師に対し、全力での行使を望むとは、何とも愚かしいものよの。されどあれらは導かねばならぬ。役目とはいえ、ほんに辛きものよの)


-----


目指せスローライフ



硬貨を使ったパチンコ……下から弾いて上に送り、釘で跳ねながらコインは下に降りていく。

当たりの穴に入ると、そのコインと交換で上位硬貨が出て来る。

ある富豪がそれに嵌っちまってさ、洒落で置いておいた金貨台を使うもんだから金が貯まって貯まって。

確かに100倍になる当たり穴だけど、100枚使ったら意味無いよな。

それでもギャンブルの魔力に取り憑かれたのか、毎日やってくれるんだ。

そうして遂に穴に入り、白金貨を持って喜ぶそいつ。


でもさ、一度でも得たらもう止まらないと思うんだ。


だからかなり消費したところで誘導スイッチを入れてやったんだけど、これがバッチリ嵌ってさ、使う金の量がまた増えたんだ。

しかも他の富豪にも紹介したのか、複数来るようになってさ、追加で金貨台を据える羽目になったものの、皆が並んで打つんだよ。

そのうち誰かの台の当たり誘導スイッチを入れてやればさ、ライバル心って言うのかな、もう熱中しちゃってさあ。


ギャンブルは魔物だね。


そんな王都の賭博屋を見て、真似しない奴は居ない。

だけどさ、他の奴らは飴を配ったりしないし、そう簡単にやれもしない。

あれはサーボみたいな魔導具を使っているから、そういうのが無いと下手に誘導もやれないと思うんだ。

つまりそういう知識が無いと、有線でのサーボとか思い付かないだろうからね。


だから絶対に入らないような穴とかさ、不満爆発になるだけだ。

その点、オレの店は毎日誰かは穴に入っているから、元祖とか言われて大繁盛。

いやはや、他の人達が宣伝してくれたようなものなので、客はひたすら増えていった。


コインパチンコの台数もかなり増えたものの、払いは魔導具で自動化してあるから楽なものだ。


銅貨→銀貨に限っては時々出るように調整してあるが、銀貨→金貨は難易度が高いものの、日に数回は出るように調整してあるし、金貨→白金貨だけは誘導しないと入らないようになっている。


つまりだね、ある釘で跳ねて穴に飛び込むんだけど、ちょっとゆるゆるになっている釘なので弾かないんだ。

そこで誘導スイッチを入れてやると、サーボの働きでそれが固定化されるから、巧く弾けば穴に飛び込むと。


つまりさ、設定6のようなものでさ、並んで熱中している時に、誰かの台の誘導スイッチを入れてやるだけだ。

そうすればすぐには稼動しなくても、その釘に当たれば弾くから、巧く当たれば……


『うおおおお、来たぞぉぉぉぉ』


こんな風に派手に騒ぐもんだから、隣の富豪連中が真っ赤になってさ、モチベーションって言うのかな、それが上がってくれるんだ。

だから嫌気が差す前に、そういうのをどこかで発生させる必要があると。

そうして入った奴の誘導スイッチを切って、また他の奴のスイッチを入れてやればいい。

そうする事でどの台にもチャンスがあるように見えるので、皆のモチベーションが落ちないと。


現在、金貨台5台、銀貨台5台、銅貨台10台で回している。


オレは店内の様子を別の部屋から眺め、気が向いたらスイッチを入れるだけの簡単なお仕事状態になっている。

消費された金は全て地下に流れるようになっていて、専用の箱に収まるようにしてある。

閉店後にそれぞれの台に補充するだけで良いのと、後は両替をしないといけないぐらいかな。

報酬の白金貨だけは日々消費するからさ、それを補充しないといけないんだ。


とはいえ、濡れ手で粟なこの商売。


きっとそのうち摘発の対象になるんだろうな。

そうして国営になったりして。

こんな簡単に儲けられるシステムを、国の連中が放置する訳がない。

だけどさ、これを国営にしちまって大々的にやったらさ、きっと飴を渡さないから不評になると思うんだ。

そうして次第に飽きられてしまう事になるだろうし、ならなければ国が滅ぶだけだ。

さすがに賞金の無いギャンブルってさ、ストレスが溜まるだけだからさ、そのうち爆発すると思うんだ。


上から下まで同じ事柄で爆発したら、止める存在が居ないよな。


もちろん、オレはそうなる前に誰かに渡すから、国営でやりたいなら好きにすれば良いだけだ。



数ヶ月の繁栄も遂に陰りが見えてきた。


そう、国が食指を伸ばそうと、調査の手が入ろうとしていたんだ。

そういう毛色の違う客はすぐに分かるので、そろそろ潮時だと覚悟した。

突入は夕刻の客が一番多い時刻とか、傍迷惑なのは止めてくれよな。


翌日の突入に備え、休業の札は出したまま夜逃げの予定だ。


中の台は全て回収して、地下のシステムも回収した。

店の中のあらゆる物を初期状態に戻し、地下の通路から別の家に送り出し、連絡通路を閉じておく。

その通路と言うのは実は下水道なんだけど、清掃の為かあちこちの家にも繋がっているんだ。

ただ、カギが閉まっているからおいそれと入れないだけだけど。

オレは回収した金を運ぶのにそこを使っていて、ちゃんと台車みたいなのも置いてあった。

だから台を運ぶのにも苦労しなかったけど、ちゃんと戸締りをしておかないとな。

もう使わない抜け道のようなものなのだから。


そうして朝、開かない訳だ。


表には常連客が今か今かと待っていて、周辺には調査員が潜んでいる。

その景色を離れた位置から眺めているんだけど、もうじき馬車はこの町を出る。

荷物満載で契約済みの荷馬車には、回収した台が全て入っていて、システムも同様になっている。

人は段々と増えているが、開く様子の無い店の前はちょっとした騒ぎになっている。

きっとそのうち、業を煮やした国の関係者が突入していくんだろうな。


『そろそろ出るぞ』


契約の商人に促され、馬車に乗り込んでいく。

かなり上位の契約にしたから、警備も普通の倍ぐらいになっている。

さあ、行きますか、商人さんの本拠地へ。


『あんなに客が居るのに、もったいない事だな』


これからは君が胴元になるんだし、すぐにあれぐらい集まる事になるさ。


『台が高いが、元が取れれば』


そう言う事だよ。



馬車がかなり離れた頃、遂に衛兵らしき存在が店に突入した。


何も無い店内に呆然とした者達は、何も得られないままに撤収する羽目となった。

かくして全てのノウハウが得られないまま、王都のコインパチンコは終わりになった。

次にまたどっかの町でまた、あんな騒ぎになるのだろうが、今度は胴元が違うからさ。


大商人のお膝元。


作業部屋を借りてのカスタマイズと大量生産を開始する。

材料を商人に発注し、1台当たりの価格で販売する。

商人は支店に置きたいらしく、全ての支店に10台ずつ設置したいと言われた。

あちこちの町に支店があるらしく、その総数は28店舗とか。

280台はかなりの量なので、少しずつ製造しても数年は掛かりそうだ。

この際だからと台ごと魔導具化しようと思い立ち、材料費が高いものの全てを自動化する事にした。


使用前に動作用に魔石をセットして、賞金用の貨幣を投入する。


後はオートでの支払いになるので、設置するだけで勝手に儲けてくれる台になる。

小金持ち相手になるので銀貨オンリーにする事になり、台に釘を打つのを職人に任せ、動作用の魔導具の作成に専念した。

これで時間短縮になるはずであり、そうしないとここで長々と作業していたら国に足取りを掴まれてしまうからな。


商人も満を持しての同時開催にしたいらしく、在庫が溜まったらあちこちの支店に送り付け、日時を決めての同時開催の計画を立てていた。

まあそういう風に誘導したんではあるんだけど、そうしないとこっちの身が危うくなるんでな、悪く思わないでくれよな。


魔導具は念の為の対策として、無断分解対策を施しておいた。


すなわち、バラそうとしたら内部の魔法陣が溶かすように組んでおいたんだ。

どのみち燃料の魔石は外部なので、内部は朽ちるまでは問題無い。

推定10年は使えそうな仕様なので、稼いだらとっとと国外逃亡しないとな。

さすがに10年後にそれが発覚したにしても、他国の何処に行ったか分からない取引相手を特定などそうそうやれるはずもなし。

取引相手の商人には悪いが、魔導具の組成を知られる訳にはいかないから、契約完了したら逃げるから。


毎日、ひたすらの魔導具作りはいい加減飽きたものの、何とか全ての台数が完成した。


世界共通通貨の白金貨が大量になったものの、荷物としてはそこまでの量じゃない。

背負い式のカバンに全てを納め、商人さんとの別れとなる。

彼は継続して他の物も作って欲しいと言われたけど、もう既に同時開催の日時は迫っている。

一度王都で披露して逃げた結果がある以上、開催したらすぐさま追及の手が伸びるだろう。

それまでに逃げおおせないとこっちがヤバいんでな、悪く思わないでくれよな。

既に行き先に付いては目星を付けてあるし、別の商人との契約もある。

国境を越える為の手続きも終えてあるから、後は逃げるだけだ。


なるべく長く営業出来る事を祈っているよ。



国をいくつ越えたかな。


遂に大陸の端まで来たけれど、ここが一番のんびりするには良いところ。

早速にも手頃な家付きの土地を購入し、悠々自適な暮らしの準備に入る。

かつては北の端で生まれ、過去の記憶が蘇っての学院暮らしの中で魔導具を学び、前世で好きだったラジコンから、サーボ動作を魔導具でやれるようにする研究に成功し、使い道を考えているうちにパチンコを思い出し、コインでその代用を考えて、王都で始めたコインパチンコも大盛況のうちに国に目を付けられて廃業。

だけど、大商人との取引で大儲けして、今ではこうしてのんびりする資金も貯まった。


後は飽きるまでずっと、好きな魔導具の研究をしていこう。


-----


巨大人型兵器は女性型のみのせいか、研究者が色々はっちゃけたらしい



その造形に異常な程に拘り、色艶から肌触りまで超リアルにした結果、衣服のような物を装着しなくてはならなくなった話。


胸部装甲を分厚くしたせいで、バランスが悪くなったという言い訳で臀部も大きくした奴の話。


放熱に必要であると主張して、腰まであるような長い金髪状の物質を頭部に装着させた者。


一連の行動をオートでこなすシステムを搭載して、敵を油断させるのが目的と言っていた奴は、試験動作の時には思いっ切り油断して、女性操縦士に蹴飛ばされていた話。


口を開くように改造した者が歯並びまで拘った結果、そこが弱点になって剣を突っ込まれて壊れた話。


瞳をリアルにして望遠視界を確保するんだと息巻いていたが、実際に出来てみると物凄く不気味だった話。


プラグと呼ばれる操縦士の乗る物質を挿入する事で起動するが、プラグを挿す場所のせいか、プラグの事を『竿』とか呼ぶ奴もいた。


プラグの形状に拘った奴が女性陣に大不評で弾劾された話。


挿入時にある音声が出るようにした奴が、これまた女性陣に弾劾された話。


挿入装置の形を改造して、思いっ切り女性陣に引かれた奴。


「本当に開発者ってのはスケベでヘンタイばかりなんですね」


返す言葉が無かったらしい。


-----


ひとくいの話



「あいつは火得意なんだよ」

「えっ、人喰いって」

「そう、火得意なんだ」

「うええっ、知らなかった」

「そうなのか? 」

「怖い」

「大丈夫だよ。あいつも選ぶだけの頭はあるさ」

「いえ、それ自体が」

「火得意が怖い? 」

「ええ、恐ろしいです」


(可哀想に。小さな頃に火事でも遭ったのかな)

(人喰いだなんて。そんなのよく平気で話すわね)


-----


スキルイーター



要らないスキル、危険なスキル、犯罪者のスキル、そんなスキルを引き取ります。


引き取ったスキルはノンアクティブ化してキープされる。

そうして必要に応じてアクティブ化が可能なのは内緒。

もちろん、不要になったら再度ノンアクティブに出来るんですが。

皆には引き取ったスキルは使えないと思い込ませてあるので、ゴミ箱代わりにオレにスキルを食わせてくれる。


名前 レイガス

職業 冒険者D

技能 技能支配S

取得 調合C・採取B・(×)殺人B・(×)詐欺A・(×)窃盗C



「厄介なスキル持ちと聞いて」

「おう、来たか、技喰い」

「久し振りに眠らせるスキルが出たか」

「おめぇはそれが出来るんだからよ。オレなんてスキルをたまには止めてぇと思ってもやれないってのに」

「それしか出来ないとも言うけどね。そして戦闘技能なんてのは誰もくれやしない」

「そりゃそうだろ。有用なスキルを渡すバカはいねぇさ」


さてと、どんな厄介なスキルですかね。

どんなスキルだろうと、オレにとってはお宝には違いねぇさ。


(×)誘惑S


またとんでもないスキルが手に入ったな。

牢屋の中の女、半狂乱になってたな。

そりゃそうだろ、Sランクのスキルが消えちまってたんだから。

恐らくあれで男を誘惑して生きていたんだろうから、これからはもうそんな事もやれなくなる。

まあそのせいで犯罪者に堕ちたのなら、無くなって良かったんじゃねぇかな。


「鮮やかなもんだ」

「使えないゴミがまた増えた」

「ははっ、けど、助かったぜ。取調べの若い野郎が軒並み誘惑されちまってよ、もうどうしようかと思っていたんだが、お前の事を思い出してな、上司に進言して認められたって訳さ」

「引き取り料は当然、くれるんだろうな」

「そう言うなよ。また酒をおごってやるからよ」

「高い酒にしてくれよ。前みたいな安酒はごめんだ」

「ああ、分かっているさ」


誘惑か、商売に使えそうだな。


こういうのは全て、使い方次第では有用なスキルばかりだ。

例え殺人にしても、相手が盗賊ならば有用なスキルに早変わりする。

聞き込み調査では詐欺スキルが活躍し、口八丁で必要な情報が得られる特典がある。


窃盗スキルにしたってそうだ。


本来の使い方をしたから皆、犯罪者になったのであって、変則的に使えば何も問題は無い。

そうしてオレはそれがやれるとなれば、精々有効に使わせてもらうさ。

だからこそ、有効化の事は極秘にしているんだけどな。

さてと、これからは採取も楽になりそうだな。


森の番人に誘惑Sは通用すればの話だけど。


するようなら効果の高い良質の薬草が採取出来るんだが。

もっとも、番人と言っても単なる魔物なんだけど、あれが納得する貢物を持参しないと中に入れないときたもんだ。

だけど最近、贅沢になったのか高価な品じゃないと受け付けてくれなくなったって噂だ。

最初は町で買った串肉で良かったってのに、どっかのバカが宣伝しやがって、皆があそこの事を知っちまったんだ。


あーあ、角兎の串焼き肉で通してくれていた頃が懐かしいぜ。


-----


召喚詐欺予報 ~幻惑、時々欺瞞、ところによっては逃亡となるでしょう~



「ヨウコソ、オイデ、クダサイ、マシタ」


(おい、相手、日本語だぞ)

(こんな、まるで異世界なのにな)

(怪しすぎるだろ)

(よし、幻惑してやるぜ)

(そういや、趣味語学だったな)

(なんかの要因で日本語知ってるだけなら、フランス語は無理だろうぜ)

(くっくっくっ、確かにな)

(おっし、任せたぜ)



(おかしい、どうしてだ。ニホンゴなら通じるはずなのに、この者の言葉が分からん。そんなはずは)


しばらくフランス語で幻惑していたが、あんまり可哀想なので他の奴らと相談して日本語での対話に切り替える。

そうして対話に成功した兵士さんは、妙に安心したように日本語で説明をしてくる。


つまり、勇者召喚だ。


呼びかけに応じて来てくれたと、その言葉には全員異論があったものの、空気を読むのに長けている民族のせいか、その場でその追求は無かった。


そうしてそのまま勇者選定の儀が行われる事となり、剣を抜いた者が勇者認定される言われてそれぞれは抜いてみる事となる。


その中に一計を案じた奴がいた。



「くそ、抜けねぇぞ。錆びてんじゃねぇのか」

「では隣の貴方、お願いします」

「おうっ。む、むぅぅぅぅぅぅ。抜けん」

「では、最後の貴方。その剣を抜いてください」

「うぬぬぬぬぬぬ……抜けないぞ」

「そんなはずは」


(お前、本気でやったのかよ)

(抜けたらヤバい事になりそうだったんでな)

(そんな事じゃないかと思ったぜ)


勇者ならば剣が抜けると言われ、抜けない振りしてやり過ごした。

望んでもないのに、よく来てくれた、などと言われ、流されるままに試しをやる羽目になったけど、そんな勇者とかはごめんだ。


どうせ魔王とか何かと戦えと言うんだろうし、そういうのは結局は殺し合いだろ。

誘拐して殺しを強要するとか、どっかのアブナイ組織かよ。


でまぁ、抜けない振りしておけば、相手が間違えたって事になる。

勇者と間違えて誘拐したとか、もしかしたら帰れるかも。


もし無理でも、賠償金とかもらえれば、多少の生活費になるだろう。

3人がしばらく食える金があれば、この世界に慣れて稼げるようになるかも知れない。

そうして帰る方法を探すのを第一目標にして、何とかやっていくしか無いだろう。



召喚した巫女はしょげていたが、誘拐犯人に同情するいわれはない。

他の2人も同意見で、戻れないなら戻れないで協力して生きていこうと決意する。

そうして相手のミスを追及し、戻れないと言われて賠償金の請求の果て、何とか金を獲得する。


通貨価値や世界の常識を教えられ、言語学習の為の文献を借り、覚えるまでの生活保障を要求し、旅の準備を整える事になる。

巫女達は、もしかしたら他にも来ているのではないかと周辺を探し回っているようだ。


そうして聞けばやはり魔王や魔族などとの戦いの為に呼んだと言われ、勇者には魔を祓う力が宿ると言われ、勇者専用の武器を使えば、魔族の王にも通じる力となると言うのが伝説になっていて、日本語と共に伝わっていたとか。


つまり、かつても召喚が行われ、そこで意思疎通の為にあれこれやった結果が今に通じているって事らしい。

なので召喚関係者は皆日本語を習得しているらしく、しばらくの滞在中には誰に言葉を教わっても構わないとか。

とっとと覚えて出ないと、いつバレるか分からない。


皆はそれが怖かった。



(お前、何作ってんだ)

(あの剣そっくりの偽物さ)

(おいおい、盗むつもりかよ)

(どのみち、オレが抜けるなら他の奴が持っていても仕方ないし、あれば旅が楽になるだろ)

(バレたらヤバいぜ)

(だからしっかり準備するんだよ)

(やれやれ、バレんなよ)

(もしバレたらお前らだけで逃げろ。後で絶対に合流するからよ)

(くそっ、約束だぞ)

(もちろんさ)



言語学習は難航したものの、日本語の通じる相手に苦労しない環境でのその他の学習は順調に進み、通貨価値や換算率、市場の相場や風習など、様々な事柄を覚えていった。


そうして1ヵ月後。


趣味が語学な者が何とかカタコトぐらいなら話せるようになった頃、後は道々覚えれば何とかなると、そうして決まった出立。

既に賠償金としてそれぞれかなりの金をもらっており、旅立ちの準備は万全に整っていた。

それぞれに乗馬も必死で練習し、それぞれに馬も与えられており、道行の不安はありはするものの、剣術も兵士達から教わった関係で、途中の弱い魔物ぐらいなら何とかなりそうなぐらいになっていたのである。


その前夜、ある者が動いた事は発覚しなかった。


そうして翌朝、出立した3人は見送られるままに街道を軽快に進み、見えなくなった頃に全速力で逃亡を開始する。

目星を付けておいた辺境の村を目指し、一路街道を外れて田舎道へと突入する。

後は写してまとめた地図を頼りに、ひたすらの道行きとなっていた。


(お前、それ、抜いてみろよ)

(ふっ、ああ、やっぱりか)

(妙に細くて弱そうな剣だな。こんなんで斬れるのかよ)

(今にも折れそうだな)

(まあいい。とっとと逃げるぞ)

(そうだな)



今回の召喚では収穫は無かったものの、古文書に書かれていた呪文で異世界人を呼べると分かった事で、一同は全くの無駄ではなかったと思っていた。


神殿から預かったままの勇者選定の剣は、布に巻かれたまま無造作に置かれている。

確かに勇者が扱えば強力な魔剣になるものの、抜けなければただの鈍器に過ぎず、勇者が持てば羽根のように軽いと言われるものの、抜けなければ効果が出ないとなれば、ただの玩具の剣にも等しい攻撃力しかない。


どのみち誰にも使えなければ痛む事も無い訳で、整備の必要もまた無い事になる。

しかも勇者が使えば整備不要と言われているので、その剣は精々磨くぐらいしかやりようがなく、抜けなければそもそも整備のしようも無い為、必然的に触れる者も居ないので置いたままになっていた。


神殿では受け取った後はそのまま所定の位置に戻されようとしていたが、半年後にまた召喚を行うと言われたので、取り出し易い場所に置かれる事となり、下っ端の不注意か、倉庫の片隅に無造作に置かれる事になる。


本来なら確認が必要なものの、勇者以外がうかつに触れると神罰がある、などという嘘の情報も伝わっており、その確認もしないままになっていた。

なのでその中身が本物なのかどうか、確認する者も居なかったのである。


それを杜撰と言えば確かにそうだろう。


しかしこの世界では神殿に対する暴挙は神への反逆とされていて、皆の殆どが信者な状況で、手を出す者など考えられず、防犯の意識など到底持てなかったのである。


実際、小悪党クラスでは到底手が出せず、出すのは賞金首の上位にランクされるぐらいの大悪党クラスであり、そういう者でもさすがに勇者関連は世界の敵になりかねず、そんなリスクに見合わない仕事をする者は殆ど居なかった。


確かに僅かな事例はあるものの、それは特殊な事例に限られており、正常な判断では忌避するのが常識とまで言われているぐらいだ。


だからそれは盲点だったのだろう。


結局、その事が発覚したのは、再度の召喚を行う為に神殿から借り受ける際、念の為の確認で見つかったものであり、そこで始めて大騒ぎになったのであった。


杜撰と言えば余りにも杜撰と、神殿では管理者への責任追求となり、王宮では持ち出した者への確認作業が急がれていた。


その結果、疑惑は当時に呼んだ3人に向けられたが、あくまでも状況証拠の為に、まずは呼び出して尋問すべきと各地へ捜索の手を延ばした。

しかし、残念な事に彼らの名前を聞くのを忘れており、容貌からの捜索にならざるを得ず、該当者が出ないまま時が過ぎていった。


元々、勇者選定の剣は世界に5本あり、なので国所有の剣が紛失するなどと言うのも過去には何度かあった関係で、現在世界にあるのは2本であった。

そうしてその片割れが今回紛失した訳で、現存の最後の1本を持っている国が勇者召喚を行う事になった。


対岸の火事のように思っていたが、隣国の不祥事を聞くにつれ、他人事では無いと管理にかなりの比重を傾ける事になり、勇者選定の剣の為の専門部署を設けると共に、厳重に管理される事となる。


必然的に郊外で行っていた召喚も城の中の特別な部屋で行う事になり、専門の警備の者達が交代勤務での厳重な警戒が続く事になる。


そうして勇者召喚を行うものの、誰も呼べなかったのである。



『また呼ぼうとしてますね』

『やれやれ、せめて現行の保持者が死んでからにして欲しいものだよ』

『どうなさいますか』

『しばらくは放置だな』

『畏まりました』



「しっかし槍とか、盲点だろ」

「ふふん、いつまでも剣と思うなよって話さ」

「さすがにとんでもねぇ切れ味だよな」

「だからこそ槍さ」

「確かにやたら斬れる剣とか、怪しまれるな」

「それにしても、こんな簡単な変装でバレねぇとはよ」

「黒髪探してたら分からねぇさ」

「けどよ、頭が涼しいぜ」

「良いだろ、兜被っても蒸れなくてよ」

「それは認めるがよ」


小坊主のような風体の3人組は、冒険者の中でも腕利きという評判のまま、遂にはバレずに過ごす事になる。

ただその途中、魔王討伐軍に指名依頼で強制参加させられる羽目になり、どさくさで何とか魔王討伐が叶ったものの、手柄を他人に譲ってとっとと逃げ出したとか。



「君が倒したのだな」

「いえ、私などは単なる火打石の欠片に過ぎません。皆が燃える木片や枯れ木に草などを集め、火打石をヤスリに叩き付け、発生した大量の火花が燃える物を暖めていき、最後の着火のタイミングに私が飛び込んだだけです。そんな矮小な存在を称えては、他の要因を担った者達の努力が無為になります。どうか私などよりももっと大きな役目を担った方を賞賛されますように」

「ううむ、力だけではなく、その心根も見事だ。そなたには後々、相応しき地位を授けようぞ」

「ははっ、謹んで授与仕ります」


(こう言えばもらえる褒美が大きくなると言われたが、どうにもむず痒いな。まあいい、どうやら最低でも貴族にはなれそうだし、報奨金など全てくれてやろうな。火打石の欠片か。まあ、確かにそうだな。本来はあいつが火を付けたが、まかり間違っていたらオレが付けていたんだし。とどめ刺した攻撃になったのがあいつだっただけで、皆で攻撃していたんだし、誰がこうなってもおかしくなかったって事だ。それにしても、この栄誉を捨ててまで金が欲しいのか。オレには理解が及ばなねぇな)



報奨金をくれれば手柄をくれてやる。


そんな甘い誘惑に乗った者が討伐の栄誉の後、名誉貴族になったという噂を3人が聞き、そんな不自由な境遇はごめんだし、もし勇者とバレたら大変な事になる。

そうならずに済んで良かったと、皆で酒場で祝杯を上げていた。


そうしてそれなりに有名な冒険者3人組は、小さな村の自警団を率いるようになり、死ぬまで自由に暮らしたという。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ