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帰還勇者のための第二の人生の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵のダンス
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第22話 ソロの部 その3

お読み頂きましてありがとうございます。

「ええっ。君がスラスラと解き明かすから、ベラベラと喋っちゃったけど。拙いじゃない。『お約束』と違うわ。」


 だから『お約束』って何ですか。


「勝手に自首とかもしないでくださいね。僕が懸命になって救った荻ダンススクールがダメになってしまいますし、嫌でしょ? 球団社長が悲しむ姿なんて見たく無いですよね。だからこの場で話したことは忘れてください。」


 主宰が溜め息をついてソファーに深く座り直して頭を抱えている。僕もそうだが球団社長の傍に居る人間が悲しませるようなことをするはずが無いのだ。


 球団社長は僕が殺されたら、何が何でも真相を追及しようとするだろう。そして殺したのが主宰と分かれば、心を鬼にして抹殺するはずだ。だがそれは球団社長の胸に大きなキズを残すことになってしまう。


 だから、それだけは有り得ないのだ。


「それは嫌ね。・・・動機は雪絵が雪緒くんを跡継ぎにしたいと言い出したからなの。」


 三味線だろうが能だろうが歌舞伎だろうが才能は各個人の能力だ、小さいころからそういったことに触れて育ってきて技術の伝承がされているからこそ、血縁による後継者が生まれるのだ。そうでなければ、外部の才能が流入して養子になるなんて有り得ない話になってしまう。


「なるほど。この組織の趣旨とは全く正反対に歩もうとしたわけですね。」


 荻ダンススクールの趣旨はダンス技術の研鑽と蓄積だ。だがそれはダンスの才能を持つもの同士で行われるべきもので決して血縁関係で行われるべきものじゃない。


 雪緒くんに才能があったかどうかは判らないけど、少なくとも何らかのダンス大会で優勝したとか、有名歌手のバックダンサーを務めたとかいう実績が無いのでは話にならない。


 実際に主宰は自分の子供じゃなく雪絵さんを次期家元として指名しているのだ。


「わかる? たったこれだけの期間一緒に仕事した那須くんが判るのに、20年以上も一緒に仕事してきた雪絵がわからなかったのかが判らないのよね。」


「それは勇大さんを後継者にしようとしたからではないでしょうか。」


 考えたくは無いが発表会による収入が大きすぎたのかもしれない。楽して暮らして欲しいというのは、母親なら誰でも子供に思う感情なのではないだろうか。


「別に勇大を後継者に指名してないのよ。荻ダンススクールの組織にさえ入れてなかったの。単に埋もれた才能が勿体ないと思ったから仕事を世話してあげただけ。本人は演出家としての才能は無いと思い込んでいて、やる気が無いから仕事を取り上げたけど初めは誰でもそうよ。初心者から出来る人間なんて一握りだわ。」


 それはそうだよな。努力もしないで出来るとは到底思えない。僕が将来手伝うことになったとしても才能が無いなんて諦めるのは10年以上経過してからだろう。


「勝手に周囲が思い込んだだけですか?」


 まあ1年のうち大半を映画のロケ現場やテレビ業界で過ごす主宰のことだ。全く目が行き届いていなかったのだろう。


「そうね。私としては雪絵を後継者に指名していたつもりだったの。組織上でも常務だったし、お遊びだったけど次期家元と呼んだりしてね。組織のこと全て任せていたんだけど。やっぱり男性を入れたのが拙かったかしら。」


 確かに組織のトップは男性の場合が多い。後継者というとまず目が行くのは男性なのかもしれない。


「こう言っては失礼かもしれませんが彼が光って見えたんじゃないでしょうか。タップダンサーとして全て1人でやってきた彼の才能が光って見えたかもしれませんよ。」


 決してハゲが光って見えたわけでは無く、それさえも才能への嫉妬がハゲと呼ばせていたのかもしれない。


「ああっ。なるほどね。組織を大きくし過ぎたのね。自分たちは光って無いと思い込んだ。そんなダンサーなら仕事なんて世話しないのにね。」


「そうでしょうね。プロ野球選手というだけでダンスの才能も何も無い僕を後継者としたと聞いただけであっさり頷いた方々ばかりですから。」


「まるでカラスね。光っているものに弱いなんて。」


「でも人生を謳歌していたらダンサーだろうがプロ野球選手だろうがサラリーマンだろうが皆同じなんですがね。」


 この辺りは球団社長の受け売りだが主宰も社長の傍にいるから判っているだろう。頷いている。


「それで私にどうして欲しいの?」


「僕をここに住まわせてください。」


「それはもう聞いたわ。こんな事故物件、売るに売れないわよ。しばらくは持ったままにしておくつもりだったからいいけど。それだけじゃ無いんでしょ。言ってごらんなさいよ。大抵のことには応えられるわよ。もちろん身体の関係でもいいけど。」


「それは主宰の要求でしょ。・・・そうですね。しばらく、僕の母親になってくれませんか。」


「なに。母親とそういう関係になりたい子供だったの。『坊や』とか呼ばれたい変態さんだっ「違いますってば。」」


「全くすぐそっちの方向に話を持って行こうとするんですから。」


「だって1年間も謹慎するのよ。お楽しみが無いとつまらないじゃない。だから、エッチしよ。今すぐエッチしよ。興味が無いわけじゃ無いんでしょ。」


「罰だと思えばいいでしょうが、1年間は指咥えて見ていてください。その頃には僕は成人していますからね。」


 きっと主宰はこの事件に罪悪感を覚えているはずだ。何らかの罰が必要で自ら謹慎を言い出したのだ。


 主宰の想定通りならば、勇大さんが殺されるところまではいってないのだろう。線の細い雪緒くんが勇大さんを殺せるとは思えない。事件が発覚して勇大さんも雪緒くんも追放されればいいくらいに思っていたのかもしれない。


 主宰を1人にすれば本気で自殺するかもしれないのだ。そんなことは絶対にさせない。


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【続編】帰還勇者のための休日の過ごし方もよろしくお願いします。
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