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帰還勇者のための第二の人生の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵のダンス
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第20話 ソロの部 その1

お読み頂きましてありがとうございます。

「いらっしゃいませ。あれっ。尚子さん。こんな朝早くにどうしたんです?」


 ドッグカフェの朝は早い。犬の散歩のついでに寄ってくれる人が多いからだ。夏場は日が落ちた深夜の散歩の時間帯も応対したいところなのだが身体が持たないので、テラス席にウォーターサーバーと自販機を置いて会員限定に開放している。


「尚美と旦那が仕事に行ったから、ミンティーの散歩のついでがてら寄ったの。」


 朝早くから出て行ったということはプロ野球球団の仕事だな。今日はホームでデイゲームだから朝から打ち合わせで忙しいのかもしれない。


「何かお飲みになります?」


「じゃあ自慢のコーヒーを貰おうかしら。相変わらずコーヒーメーカーなのね。カフェと言えばカプチーノマシンじゃないの?」


「迷ったんですけどね。ほら今のミンティーくんみたいに犬ってマーキングしたりするじゃないですか。ああいいですよ。こっちで処理しますから。・・・店全体に染み付いたコーヒーの香りが緩和してくれるんですよね。」


 喋っている最中も勝手に嗅覚が臭いを察知してくれる。時々邪魔くさいと思うときもあるけど、こういうときは便利だ。すぐに駆けつけて処理をする。


 ミンティーくんが店の奥の柱に鼻を近付けて臭ったと思った次の瞬間にはマーキングをしていた。処理するときもコーヒーメーカーから出たコーヒー滓が活躍する。


「ダメじゃないのミンティー。おしっこは外でしてっていつも言っているでしょ。もう・・・ごめんなさい。」


「大丈夫・・・じゃないですけど、そこには他の犬も良くするんですよ。おしっこの臭いが染み付いているのかな。」


 実際にこの場所を嗅いでみたことは無いがいろんな犬の臭いがするのだろう。それでも決して『洗浄』魔法は使わない。店内のコーヒーの臭いも消えてしまうからだ。


「屋敷に一緒に住んでいたときもコーヒーメーカーを持ち込んで居間にコーヒーの臭いが染み付いちゃったものね。」
















「えっ。那須くんがここに住むの?」


 謹慎のため屋敷に戻っていた主宰に挨拶をする。他は誰も居ない美名子さんも勇気くん共々出て行ってしまったようだ。


「煩いかのしれませんがしばらくご厄介になります。」


 美名子さんが最終的に管理していた荻ダンススクールの資金を引き継いで設立した会社でダンススタジオとして借りていた六本木のビルの一室を引き払い、所在地はとりあえず屋敷にしてある。


「ダメよ。未成年に手を出したという理由で謹慎しているはずなのに未成年と同棲したら何を言われるかわかったものじゃない。」


「大丈夫ですよ。僕は未成年には見えませんから。」


 自分で言って自分でキズつく。線の細い雪緒くんは荻ダンススクール内のアイドル的存在だったらしい。主宰とはいえ、そのアイドルに手を出したと知らされた女性たちは反感を露わにしたのだ。雪緒くんと比べれば僕は10歳くらい年寄りに見られるだろうな。


「未成年の男の子が居る環境で男の子が成年になるまで指を咥えてみていろ。というのは辛すぎるわよ。」


 この人、謹慎すると言いながら遊ぶ気マンマンじゃないか。


「やっぱり、本当に雪緒くんに手を出したんですね。」


「いいじゃない。今は独身なんだし少しくらい自由を謳歌しても。もちろん妊娠したら責任を取るわよ。」


「それは男のセリフです。旦那さんが居たんですね。」


「子供も居るわよ。33歳のときに19歳の男の子とできちゃった婚をしたの。でも3年で別れちゃった。」


 うわぁ。筋金入りだ。


「えっ。相手が成年したからですか?」


「幾らなんでもそんなことしないわよ。ほら私って長期間家を空けたりするでしょ。相手の姑さんに別れさせられちゃった。」


「そうだったんですか。それは仕方が無いですね。」


「何よそれ。そこは優しく抱き締めるところでしょ。」


 そう言って両手を広げてくる。何を期待しているんだか。


「はいはい。これでいいですか?」


 言われた通り優しく抱き締める。まあこれも一種の役得なんだろうと思うことにした。


「何。本気に取っているのよ。」


 尚子さんが真っ赤になっている。意外と可愛い。


「でもやっぱり凄い筋肉よね。プロ野球選手の筋肉って。」


 それも一瞬のことで次の瞬間にはお尻と胸の筋肉を掴まれていた。女の人って筋肉好きですよね。


「何処触っているんですか。」


 撫で回すのも止めてください。


「全盛期の真也の筋肉も凄かったけど、全然質が違うわね。」


 バレエダンサーの筋肉に比べれば、どうせスーパーの安売りのお肉ですよ。気をつけてないとすぐに脂身になってしまいますからね。


「真也さんのことを聞かせてください。そんなに僕と似ているんですか?」


 そういえば他人を通した話しか聞いてなくて死んだ方に勝手に嫉妬を燃やしていた。身内の方の話は聞いていないな。


「そうね。この少し狡賢そうな顔が似ているわね。」


 そう言って僕の顔を摘まんでくる。こういうところは母にソックリだ。


 それなりに真っ当に生きてきたつもりだけど、確かにズルはしているよな。真っ当な人間なら神にスキルを貰ったらプロ野球界に入ろうとはしないんだろうな。


「酷い言われようですね。真也さんという方はそんなに狡い生き方をされたんですか?」


「正確には狡い生き方をせざるを得なかったのでしょうね。弟はガンで亡くなったんだけど、初めてガンと診断されたのは13歳のときだったわ。私はもう成人して家を出ていたから良かったけど、すぐ下の弟と妹は養子に出されてね。両親は掛かりっきりになったわ。」

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【続編】帰還勇者のための休日の過ごし方もよろしくお願いします。
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