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帰還勇者のための第二の人生の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵のダンス
26/37

第13話 ヒップホップの部 その3

お読み頂きましてありがとうございます。

 僕がSNSで主宰に連絡を取るとあっさりと開催の了承の返事が返ってきた。


 それをインストラクターの皆さんに伝えると開催の通知と注意事項を一斉に各教室ごとのSNSに書き込んでいく。一部のSNSを使用していない人間にはアシスタントから連絡が行くそうだ。


 警察も公共の場所である世田谷芸術劇場の全体を封鎖するわけにもいかず、楽屋口を含む現場周辺の封鎖とともに明日の発表会の警備に加わることになっている。


 今回の事件が同一の犯人による連続殺人だとしても、制服姿の警察官が警備する中で更なる犯行に及ぶはずは無いだろう。


     ☆


「事件現場を見てもいいでしょうか。」


 実は世田谷芸術劇場に入ってからというもの、事件現場を見たくてうずうずしていたのだ。今度こそ、僕の嗅覚が事件の犯人を突き止めてみせるっ。


「前回の事件でも我々の知らないことで手がかりになりそうなヒントを貰えたから、ドンドン意見を言ってくださいよ。」


 今度は室内の事件のためか靴に袋状の被せものを付けさせられる。部屋の入り口に立って嗅覚に神経を集中して深呼吸する。


「何かを見つけたんですか?」


 僕が入り口から中に入らないことを不審に思ったのか先に入った新田巡査部長が聞いてくる。そんなに近寄って来たら新田さんの臭いだらけになってしまう。徹夜明けなのか酷く汗臭い。


 知っている臭いは番頭さんと雪絵さん、それに続いて美名子さんと雪緒さん、教室ごとに集金したものを持ってきたと思われるインストラクターたちの臭いも少しずつ、意外だったのは勇大さんの臭いが全く無いことだろう。


 女性ばかりの世界に男性が2人だけ、表面上はわからなかったが確執があったのかもしれない。


「この部屋に美名子さんが頻繁に入ったような気がするんです。」


 球団社長の言っていた『気がする』を使ってみよう。臭いがするなんて言っても信じて貰えないからな。


「そうですなあ。事情聴取でも5回くらい入ってお喋りをしたそうです。良くそんなことがわかりますなあ。」


 まあ2人ともお喋り好きだからな。


 部屋には同じペットボトルの空容器が2本置いてあったのだ。この銘柄は美名子さんが通販で安値の炭酸を大量購入したもので僕も一度飲ませて貰ったが酷く不味い味だったし、美名子さんの周辺でも酷く不評という話を聞いていたのだ。


 僕がそれを指摘すると、なるほどと頷いていた。


「あと雪緒くんも良く来ていたような気がするんですが?」


「いや。事情聴取のときは何も言って無かったぞ。」


 刑事さんには話して無かったらしい。そんなに長時間は居なかったのかな。


「あっ、私が番頭さんを手伝うように言いつけてあったのです。そうだよね雪緒さん。」


 雪絵さんが突然思い出したらしい。


「う・・・ん。そう。」


 雪緒くんはこちらを向かずに雪絵さんを見つめたままで返事をする。


 雪緒くんも大変だな。思春期からずっと息子への愛情というか真也さんの忘れ形見としての愛情を一心に受け続けてきて気も休まるときも無いんじゃ無いだろうか。


 親父が海外出張中に僕も母親からのうんざりするような愛情を受けたことがあるが、それは酷いものだった。


 言いたくないような酷いことを言ってしまい自分自身が嫌になったこともある。それも親父が出張から返ってきた途端ピタッと止んだが。


 いつも弱々しい雪緒くんではろくに言い返せていないのではないだろうか。


 同じ屋敷に住み同じダンサーの道に進む雪緒くんの場合、それがこれからもずっと続いて行くのだ。おそらくは結婚するまで。いや下手をしたら同居を強要されたり、インストラクターと所帯を持たされたりしたら一生続いて行くかもしれない。


 嗅覚だけでは、これくらいしかわからなかった。番頭さんともみ合いになって濃厚に臭いが残っていると思ったのだけど宛てがはずれた。


 仕方が無いので『鑑定』スキルを使って虱潰しに部屋の中を調べていく。


 やっぱり、あった。血痕だ。


「刑事さん。この窓ガラスの向こう側って、何かで拭いたような跡がある気がするんですけど。」


 僕は適当な言い訳をして刑事さんに報告する。実際には見ただけではわからない小さな血痕が残っていた。もしかすると今が夜だからで明日の朝になれば刑事さんが見つけるかもしれない。


 この窓ガラスは外から中へ開ける排気窓のような構造になっていた。


「おい! 鑑識係。血痕が無いか調べろ。」


「もしかすると谷田さんは胸を刺された後、さらなる追撃を避けるためにこの窓を閉めたのかもしれませんね。」


「またしても外部の人間の犯行か。それとも、被害者に恨みを持つ人間の犯行か。ありがとう助かったよ。」


「あとダイイングメッセージのポンポンの件なんですが、あれは警察に運び込まれたんですよね。写真か何かありますか? そして、何処に置いてあったものかわかりますか?」


「写真は撮ってあるから、持ってくるよ。元置いてあった場所はそこで。ダンボールの箱の中に2個セットで袋に入ったものが5セットあった。念のため、箱ごと署に運んでおいてあるよ。」


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【続編】帰還勇者のための休日の過ごし方もよろしくお願いします。
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