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帰還勇者のための第二の人生の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵のダンス
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第6話 ジャズダンスの部 その5

お読み頂きましてありがとうございます。

「それがですね。屋敷に居た人間は何も喋ろうとしないんですよ。ただ那須さん、貴方か。荻尚子先生の前なら喋ると言いますので、出来ればご足労願おうかと思った次第でして。」


 なるほど。だから、刑事さんの語り口調が僕の好奇心をくすぐるような表現だったわけだ。


 あの屋敷の人間は家元か、ダンススクールの後継者に指名されている僕ならば深い事情を知られても仕方がないと思っているんだな。


「ああ荻尚子さんは今、Motyのアメリカ公演のために現地のバックダンサー相手に振り付けの真っ最中だ。出来れば呼び戻したくは無いな。那須くん、試合の無い明日にでも行ってきてくれるか。」


 そういうことならば仕方がない。それに生まれて初めて遭遇した殺人事件だ。興味が無いわけでも無い。まあ推理小説の名探偵のように謎が解けるとは思わないけど、事件に対して『超感覚』スキルが何処まで通用するか試してみようと思う。


「それではすみませんが新田巡査部長殿、明日に屋敷に関係者を集めておいて貰えますか。あと出来れば、死体の発見者にも改めてお話をお聞きしたいのでアポイントを取っておいていただけませんか。」


「死体の発見者にもかね。出来れば推理小説の探偵のような真似は慎んで欲しいんだがね。」


「でも、刑事さんが知らなくて僕が知っていることがあるのでそれを聞いてみたいなと思いました。」


「それは何かね。今、教えて頂くわけにはいかないのかね。」


 まあ当然食いついてくるよな。


「はい。事前に屋敷の関係者に質問してみないと、それが正しいことかどうかさえもわからないんですよ。それから、被害者は靴を履いていたと思うのですが、ブランド名とサイズを教えて頂いてもよろしいでしょうか。」


「ああなにやら1足何万円もする靴を履いておった。」


 新田巡査部長が手帳を開いて教えてくれる。安い量販店でも1万数千円はするブランドだ。さらに製造年までわかればさらに高いかもしれないが今は特に考慮に入れなくてもいいだろう。


「あと稽古場に白い粉が落ちて無かったでしょうか。」


 あのくぐり戸に近くといえば、能舞台だよな。被害者はここで稽古をしていたんだろう。流石に近くに誰かが居たかどうかは屋敷で聞いてみるしか無いよな。


「そんなことまでわかるのかね。一時は麻薬かと思ったんだがね。タダのベビーパウダーだったよ。」


 警察が色めき立ったことは新田巡査部長の顔を見ればすぐにわかった。その分、落胆も激しかったらしい。調べた結果がタダのベビーパウダーだと言っているのでは使い方を特定していないんだろう。


     ☆


「ひひひ。まさか、お前さんが家元のお手つきとは知らなんだわ。」


 刑事さんとの待ち合わせまでにユキエさんたちと打ち合わせをしておこうと1時間くらい前に到着したのだが屋敷の玄関で出迎えるなり、番頭さんに失礼なことを言われた。


 親子ほど年齢の離れた僕と家元の間に肉体関係があると勘ぐっているらしい。まあダンサーとしての実績も無い僕が家元の傍に居るのはおかしく見えるのだろう。


「あのう。どういうことでしょうか?」


「しかも次期家元を袖にしてまでとは律儀だのう。」


 家元と肉体関係がある僕だから、雪絵さんの誘惑を拒絶したと思われているらしい。写真週刊誌とそのお詫び欄の所為でそんなふうに捉えられているのかな。


 翌週のお詫び欄を知らずに未だに雪絵さんと肉体関係があると思われているよりはいいけど。


「違います。誤解です。」


「隠さんでええ。家元の少年好きには散々苦労させられたからのう。あるときなんか少年歌手グループのおっかけまで始める始末で止めさせるのにどれだけ苦労したことか。まあ勇大なんぞが後継者と言われるよりはずっとしっくりくるわ。」


 年配女性のおっかけなんてイマドキ珍しくも無いだろう。番頭さんは家元のマネージメントもしているらしいから、仕事に支障が出たことがあるのかな。


 まあ間近で好きな歌手に会えるような環境なら、そんなこともあるかもしれないな。


 コレは否定すればするほど勝手に思い込まれてしまうヤツだ。放っておくのが一番だろう。それに雪絵さんも家元が僕を後継者に指名したようなことを言っていたじゃないか。


「勇大さんが後継者と言われていたんですか?」


「そうよ。荻ダンススクールを設立したころに勇大のタップダンスに惚れこんで一時期は有名歌手の振り付けなども任せておったのだよ。でも才能が無かったのだろうな。ここ数年はタップダンスの振り付けやバックダンサー、ダンサー役の俳優の影武者などの仕事をまわすくらいだった。」


「なるほど。」


 だから雪絵さんと美名子さんが勇大さんを取りあったんだな。


「ヤツも才能が無いとわかっていたのか。ちゃっかり次期家元と結婚して荻ダンススクールで我が物顔だ。次々とインストラクターに手を付けるほどの女好きで頻繁にトラブルになっておった。これで出て行ってくれるといいんだが。」


 幾ら雪緒くんが他人の子供だったからって、雪絵さんと美名子さん以外に多くの女性に手を出すなんてありえない。


「そんなに浮気者だったんですか?」


「そうなんだよ。もしかするとあの死んだ女にも手を出しておったんじゃないかな。」


 これは結構重要な情報だ。刑事さんにも知らせたほうがいいのかもしれないな。

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【続編】帰還勇者のための休日の過ごし方もよろしくお願いします。
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