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帰還勇者のための第二の人生の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵のダンス
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第4話 ジャズダンスの部 その3

お読み頂きましてありがとうございます。

 だが僕の我慢も実を結ばなかった。


 それは彼女の部屋に入ったところを写真週刊誌にすっぱ抜かれてしまったからだ。


 こんなことなら、やせ我慢するんじゃなかった。


「困ったことになったね。」


 球団社長からホーム球場の社長室へ呼び出されたとき、叱責が飛んでくるとばかり思っていたのだが苦笑いをしているだけだった。


「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。私の不徳の致すところです。どのような処分でも文句は言えません。」


「そうか。わかってくれるか。ならば規定通り出場選手登録抹消1ヶ月だな。ところでその彼女とは本当に肉体関係があったのかね。」


「いいえ。ありません。不用意にホテルの部屋を訪ねたのは事実ですから、疑われても仕方がないことをいたしました。申し訳ありませんでした。」


「それを証明できるかね。」


「そうですね。証明になるかどうかわからないですがホテルに行ったときは大雨でしてレインコートをホテルに預け帰る際に受け取りました。それでおよその滞在時間が割り出せると思います。」


 結構長い時間喋っていたつもりだったが、コートの預かり票に書かれた時間を見たら、わずかな時間で出てきてしまっていたことがわかったのだ。時間もわからないほど動揺していたらしい。


「わかった。調べてみるよ。まあ気を落とさず、長い野球人生の出来事の一つだと思ってゆっくりと休みなさい。俺も那須くんがイロイロやってくれるもんだから、甘えすぎていた。反省しているよ。しばらくはその彼女とは2人で会わないこと、誰かを入れて3人なら構わない。誰も居ないのなら俺を呼んでくれればいいから。わかったか?」


「はい。わかりました。」


     ☆


 だがその苦笑いも翌週に再度呼び出されたときには苦味を噛み潰した顔に変わっていた。


「ハラッキヨ。なんていうことをしでかしてくれたんだね。」


 翌週の同じ写真週刊誌に原清が未成年の女性と裸で抱き合っている写真が掲載された。


「それを言うなら、ナスも同罪だろ。何で俺にばかり言うんだよ。」


「お前。記事を読んでいないのか。」


 原清の前に広げられた写真週刊誌には、お詫び記事と原清の裸のページが見開きで大きく載せられていた。もちろんお詫び記事は僕の先週の記事が間違いだったことを伝えるもので、ホテル側からの抗議文と共にコートをクロークに預けた時間が18分間であり、事実と反する記事を載せてしまったと掲載されていた。


「これが何だよ。ホテルで密会したことには変わりはねえ。別んところでエッチしてるに決まってんじゃねえかよ。」


「そんなことは聞いてない。俺がこの記事の抗議に行ったら教えてくれたぞ。その写真を持ち込んだのはお前だそうだな。俺は恥かしかったぞ。お前の記事に対する抗議も出来ずしまいだ。」


 ああなるほど雪絵さんに恥を掻かされたコイツは僕の跡をつけたんだな。こんなヤツにつけられて気づかないとは僕も気が緩みすぎだ。


「あの野郎。そんなことをバラすのは仁義違反だろう。」


「そんなことは無いんじゃないか。向こうにとってはデマ記事を押し付けられたわけだから。」


「社長はどっちの味方なんだよ。」


「俺は真面目に野球をやっている選手の味方だよ。編集長も笑っていたよ。編集部でマークしていた人物が突然現れるから、どこからか記事が漏れたと思ったのが同僚のリークだったなんて。まあ本当でも嘘でも、お前の記事の前説としては丁度いいから掲載したと那須くんの記事のことを謝っておられたよ。」


「なんだよ。皆して俺のことをバカにしやがって。」


「バカにしているのはお前だろう。ここに掲載されている『未成年は騙されやすい』という記事は本物じゃないか。肉声テープまであって、今頃週刊誌のネット版で掲載されているだろうな。あまりにもバカバカしくて抗議も出来なかったぞ。」


 原清の記事は僕も読んでいなかったが、そこには社長が言ったように『未成年は騙されやすい』と掲載され、コイツが相手の女性を騙して肉体関係を結んだものと決めつけてあった。まあそんな肉声テープがあったんじゃあ止めようが無い。


「しかも、この写真の報酬まで貰ったそうだな。領収証まで残っていたよ。呆れて物も言えないというのは、このことだな。とにかくこのことはコミッショナーにそのまま報告しておく。那須くんの調査は中止されるだろうな。お前の調査はどこまで進んでいるんだろうな。」


「庇ってくれないつもりなのか?」


「庇う必要がどこにある。貴様は球団の名誉を傷付けた犯人であり被害者じゃ無いんだからな。この写真だけなら庇いようもあっただろうが、リークまでしでかしてくれたのでは球団としても厳しい処分を取らざるを得ない。無期限の出場停止処分とする。もちろん、那須くんの処分は取り消しだ。規約の関係上、あと数日出場登録は出来ないがそこは待っていて欲しい。」


「なんでだよ。ナスもやったことには変わりはねえだろ。なんでコイツの言うことは信じるんだよ。贔屓だろ。」


「『苦情は受け付けない』と言いたいところだが、ここ数日他の写真週刊誌も張り付いているし、それ以前も那須くんと雪絵さんは2人っきりで会えるタイミングが無かった。必ず雪絵さんのお嬢さんが同席していたんだ。そこまで調べての処分取り消しだ。文句は言わせんぞ。」


 その後も泣き言をグダグダと言っていたが、僕と球団社長を睨みつけると出て行ってしまった。


「しかし、君の理性はワイヤーロープ並みだな。あの色っぽい雪絵さんの誘惑をはねのけるなんて。落ち込んでおられたぞ。自分には魅力が無いんだと言っていた。」


 球団社長は雪絵さんと会って話してきたらしい。全ての経緯も聞いたようだ。


「そんなことは無いです。もう切れる寸前でした。」


「那須くん。正直なのは君の美徳だが球団にはライバルも多いんだから、下手なことを言ってはダメだ。ハラッキヨみたいなのは特殊だがな。あれで成績も悪ければ即刻切りたいところなんだがなあ。」


「そこで社長のお耳に入れたいことがあります。」


 僕は原清のあまりの身勝手さに憤り、ヤツが覚せい剤を使用している疑いがあることを密告してしまった。


 プロ野球の新人選手には開幕前にプロ野球選手会主催の新人研修が行われた。


 その際にプロ野球の歴史やアンチドーピングなどの授業と共に麻薬などの誘惑に負けないために麻薬患者の更生施設で、いかに更生するのが難しいことであるかを体験した。


 その中で麻薬・覚せい剤・マリファナなどの使用者の体臭にそれぞれ共通点があるのを発見していたのだが、そのうち覚せい剤使用者の体臭の共通点が原清の体臭にあったのだ。


 どうしようか散々悩んだのだが結局今回球団社長に相談してしまった。これで良かったんだよね。

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【続編】帰還勇者のための休日の過ごし方もよろしくお願いします。
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