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帰還勇者のための第二の人生の過ごし方  作者: 一条由吏
超感覚探偵は大迷惑
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第3話 真実の姿でアルバイト

お読み頂きましてありがとうございます。

「そこは気にしなくてもいい。ちゃんと用意してある。」


 へえ裏金かな。公安調査庁じゃないんだから、資金が豊富ってわけでもないだろうに大変だよね。


「それで誰が僕に張りつくんですか?」


 本当は新田警部補が常連さんだからいいのだが警官として顔バレしているから無理だろう。如何にも刑事みたいな人間に張り付かれても、店として困るんだよな。


「俺だ。総選挙だから答弁のための準備とか必要無いから結構暇なんだ。」


 全国の警察を統括する人間が暇?


「えっ刑事局長も顔バレしてますよね。」


 国会中継なんて誰も見ないだろうけど、誰かが気がつきそう。


「そこは大丈夫だ。ちゃんと変装するからな。今日から俺はアルバイトのヨーちゃんだ。」


 アルバイトまでするつもりのようだ。イヤイヤイヤ無理があるでしょ。いくら何でも。


 そう思ったが勝手に更衣室に入っていったと思ったら、すぐに着替えて出てきた。


 なるほど瑤子さんのお兄さまだわ。大学生くらいにしか見えない。


「もしかして、いつもの格好が変装なんですか?」


 あの真っ黒に日焼けした顔が跡形も無く真っ白になっている。こっちが羨ましくなるほどスベスベだ。


 白髪頭も若々しい艶やかな黒髪になっていた。顔の作りは全く同じなのに別人にしか見えない。


「イヤなんだよ。国会議員にも舐められるし、全国警察署長会議に変装し忘れただけで会場に入れて貰えなかった。奥さんにも絶対に隣にいないでって言われるんだよ。」


 そういえば、童顔の球団社長も他の会社に出向くときには良くサングラスを掛けていたな。僕にはわからない悩みだ。


「まあいいじゃないですか。ここではヨー『お兄ちゃん』で。」


「なるほど、この格好を見ても変わらないんだな。瑤子が気に入るはずだ。」


     ☆


 刑事局長がアルバイトに入るようになって3日も経つというのに犯人からと思われる電話が掛かってこなかった。夜間は犯人も動かないそうで夕方になったら帰っていく。もちろん、身代金が入っていると思われるアタッシュケースを持ってだ。


「ヨーちゃん。緊急事態だ。手伝って!」


「はいっ。」


「このゴールデンを3階まで運んでプールに入れるんだ。更衣室で水着に着替えて来て。僕は3階までの通路を確保してくる。裕司くんは店番お願いっ。」


 ゴールデンレットリバーという犬種は非常に熱中症に陥りやすい。元々寒い地方の犬ということもあるんだが我慢強すぎるとこがあり、大抵の飼い主はその症状を見抜けない。


 特に年齢を積み重ねてくるとその傾向が強くなるし、1年に1回は必ず掛かるのに気付かないのだから困ったものだ。


 この時期に少し体調がおかしいと相談を受けると大抵熱中症に掛かっている。


 そういうときに活躍するのが犬用プールだ。急激に体温を下げることもできるし、嫌がってもホースから無理矢理水を飲ませることも可能だからだ。


「「了解しました。」」


 だがこの犬種、非常に重いのだ。ヨーちゃんが居てくれて助かった。居なければ知り合いの客を捕まえてお願いするところだからだ。


 ヨーちゃんは非常に使える。キャリアだからもの覚えがいいと思っていたのだが、学生時代は苦学生で朝から晩まであらゆる種類のアルバイトをしたことがあるそうだ。


 流石にドッグカフェは無かったそうだが通常のカフェのアルバイトとやることは大差無い。お客様に犬が増えるだけだからだ。


 あれっ。この非常ドアって開けっ放しだったかな。2階に上がると1階の店の裏側に通じる階段のドアが開いていた。朝は閉まっていたはずだが。そこにはどこかで嗅いだことのある臭いが漂っていた。なんだろう思い出せない。まあいいか閉めておこう。


 3階までの全てのドアを開けっ放しにして1階に駆け降りてくるともう飼い主さんとヨーちゃんがゴールデンを持ち上げているところだった。


 アルバイト用に用意してある水着に着替えたヨーちゃんは近くの女性客にキャーキャー言われるくらい鍛え上げられた身体をしていた。50歳代とは思えない。こちらは本当に黒帯なんだろう。


「無理しないで! 3人でゆっくりと運ぼう。ラッキーが嫌がるからね。ラッキーもう少ししたら楽になるからね。」


 飼い主さんを差し置くのもなんだと思ったけど、ちゃんと話を通したほうが犬も安心するので僕は回り込みながら話し掛ける。


 そのままゆっくりと3階まで運び、プールに投げ入れる。視界にプールを見せると嫌がって入らない場合が多いのだ。それに少しくらい水を飲ませたほうがいい。


 犬はパニックになりながらも水の中で立ち上がると即座に逃走に移ろうとする。意外と冷静なタイプのようだ。


 くそっ。こんなときに冷静にならなくてもいいのに。僕はプールに飛び込み犬を押さえつける。


「ヨーちゃん。ホースから水を出してっ。」


 プールの中で犬と格闘しながら、指示をすると意図を理解してくれたらしく。ゆっくり目の水量のホースの先を渡してくれる。


「頼むよ。水を飲んでくれ。お前の命に関わるんだから。」


 僕は必死に説得しながら、2リットルくらいの水を飲ませることに成功した。その後は少し押さえるだけで大人しくなった。小1時間ほど経ってからプールから出るとドライ台へ連れて行く。


「こら。今ブルブルすんな。」


 かなり元気が出たようで犬は全力で身体の水を弾き飛ばしている。こっちは全身ずぶ濡れだ。


 飼い主さんは予測していたのか。着替えて居なかったからか。遠くで笑っていた。全くもう。

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【続編】帰還勇者のための休日の過ごし方もよろしくお願いします。
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