勇者ミナ 前編
ぷすっ…
「だから何で!!?」
杖も手に入れ、魔導書にも目を通したというのに相変わらず情けない音と微量の煙しか出ない。遠くから偶然見てた人たちの笑い声が微かに聞こえてきた。ユートは恥ずかし過ぎて俯いたまま硬直して動けない。
何が足りないんだ!純粋な心か!それともまだ金が必要なのか!!
「MP足りないのに強そうな魔法イメージするからだよー」
と、後ろから何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。ユートにとってあまりいい思い出のある声ではないが。
「あー!あん時の金髪少女!!」
ユートが渓流で命を助けられた例の金髪の少女だった。
「えー恩人に会ったらまずお礼が先だよね?」
「あざ」
「うわ、感謝の気持ちが微塵も感じられない…」
「…ったく…こっちは大損したんだよ…」
「ん?」
「何でもない!」
「ところで、さっきのアドバイスどういう事なんだ?」
ユートは不満そうに少女に聞く。
「仕組みは至ってシンプルだよ。魔力は自分の意思で簡単に放出できるんだけど、一気にMP限界値を超えた量を出そうとすると身体が自然に負担がかかるのを避けようと魔力の放出を拒絶されるんだよ」
少女は地面に書いた文字をペシペシと叩きながら説明する。
「へぇ、ブレーカーみたいだな」
「ぶれーかぁ?」
「気にするな。まあ、魔法の事については感謝しよう。じゃ、そういう事で」
「えー、名前も名乗らないの?恩人にー」
「名乗らないとダメなのか」
ユートは危険なものには近づかない主義。この前よりも第6感がビンビンに作動していた。危険というよりも、面倒くさい。
「俺はユートだ」
「うんうん、私はミナ!よろしく!」
出来ることなら宜しくはしたくない…
「じゃあ俺はこれで」
「いやいやいやちょっとは女の子の話に耳を傾けようよ」
ミナは去ろうとするユートの腕を引っ張り引き止める。
「なんだよ…」
ミナは改まったようにコホンと咳払いをし言った。
「あのさ、私のパーティに加わらない?私勇者やってるんだけど」
「はぇ…勇者…?」
どう見ても勇者に見えない装備だが、夕焼けに煌めく黄金色の髪はどこか人とはかけ離れた何かを想像させた。