金髪の少女
「なんで杖持ってるのに魔道士がカニ1匹倒せないの?」
ユートは命を諦め閉じた目をゆっくりと開く。そこには肩まで伸びた黄金色の綺麗な髪と蒼色の目を持つ少女(胸は残念)がキラークラブの脳天から剣を突き刺し立っていた。
キラークラブは既に息絶えていた。
「魔道士…だよね?行き倒れに見えないことも無いような…うーん」
「一応魔道士だけど…」
「魔法使わないの?流石に魔法無しでクエスト挑むバカなんていないだろうしねー」
「うっ」
ユートの心に見事な突きが入った。
痛恨の一撃だ。
「えっ!?本当に魔法無しで!?あ、いや笑ってないよ?ぷっ、笑ってないから」
くそっ、なんでこんな女の子にバカにされなければ…
ユートは下唇を噛み締めてなんとか平然を装おうとするが、死んだ魚のような目と身体の小刻みな揺れで台無しだった。
そんなユートをスルーして少女はユートの持っていた杖を取り上げた。
「あれ、ここら辺の蟹なら杖で殴っても倒せるよ?」
すると、少女は少し離れたところにいたキラークラブを杖で撲殺し始めた。
「え、ええぇぇ…」
自分が死を覚悟した相手を自らの武器で無双されるのはユートにとってなかなか精神的にダメージが大きかった。
「女の子の私でも倒せるんだからチミでもなんとかなるよ。ほいっ」
少女はユートに向かって杖を投げ渡した。しかし、距離が少し足りずユートもなんとか走ってキャッチしたが本当にギリギリだった。
「ちょ、なけなしの金で買った杖なんだ。大切に扱ってくれよ」
「あ、ごめん。た、大切なんだね」
愛娘を撫でるように涙目で杖に頬を擦り付ける。少女は若干引いているが。
「てか、魔法てどうやって覚えるの?」
ユートはまだこの世界の仕組みは全然知らない。
宿屋のバイトでもほとんどキッチンでの仕事で情報収集などあまりする暇がなかったのだ。
自分の中に魔力なるものがあるんだな、という実感は本人にはややあるらしいのだが、それを技として使う術はこの世界に訪れてから今日まで一切知らないのだった。
「魔法?売ってるよ?」
「売ってんの?!」
「初級魔法とかなら3,000イルとかで売ってるよ?属性も自分に合ったのを店員が選んでくれるんだけど…知らないならね…ぷっ」
「また笑ったっ!!てか、武器屋のおっちゃん教えろよ!!」
「子供でも知ってる常識なんだけどね」
「まじでっ?!」
「なぁんか怪しいなぁ…人間のふりしたモンスターとか…?いや、肉体変化が出来るモンスターなんてこの辺にいないしいてもサイレン鳴るし…」
少女はジト目でユートを見つめ何やらブツブツと呟いている。少女から僅かに漏れでる殺気のせいでユートも逃げるに逃げられない。
別に悪いことをした訳では無いけど、きっとこの娘に関わるとろくな事がない。
ユートの第六感がそう告げていた。
「分かった!とてつもなく馬鹿なんだね!」
「ぐぬっ…」
これでも志望校には落ちたがインフルエンザにさえなって無ければそこそこ有名な私立に行けたんだぞ!!
と反論したいものだが、この世界の事について無知なのもまた事実。ユートは何も言い返せなかった。
そうだ、この娘はこの世界に詳しそうだ!それに中々に強そうだ。この娘に聞けば手っ取り早いじゃないか。この世界のあらゆる情報を…
ユートは真剣な表情で少女を見上げて言った。
「なあ…このせか…」
「あ、今のでクエストクリアしたからじゃあね~」
「…い」
「あの女ぁぁぁぁぁ!!!!!」
ユートは怒りに身を任せキラークラブを撲殺し尽くし、クエスト報酬+αを入手した。
結局ただ変なやりとりをするだけで終わってしまったが、あの娘は一体なんだったんだろう。
冷静に考えればあの娘…この始まりの町にいる冒険者にしては強かった。
さっきは強そうとか考えてたが、そんなレベルじゃなくて、自分とは何かかけ離れた…
あの娘とはどこかでまた関わることになってしまいそうだ。ユートにはそんな気がしてならなかった。
あまり…関わりたくはないんだけど…