初めてのクエスト
武器も手に入れた。
ある程度の所持金もある。
と来たら、もうクエストに行くしかないでしょ。
ユートはようやく異世界に実感が湧いてきていた。クエストボードの貼り紙を上半身の残像が残りそうな驚異的な動きで見回していた。
受付嬢やガタイのいい兄ちゃんたちも引くような動きだ。
討伐採取採取討伐配達雑用…
最後の方はもはやバイトだけど、ここはやはり討伐かな。
ユートはキラークラブ5体の討伐、つまりは初心者向けの討伐クエストを選択した。
この始まりの町ウォールタウンの周辺には、初心者育成のためにキラークラブがギルドによって管理され生息している。
キラークラブは人の腰辺りまである大きい蟹なのだが、とても弱い。木の剣で殴っただけでも致命傷らしい。それと、蟹だが不味いらしい。食用の蟹は日本と同じく美味しく高価らしい。
このキラークラブ5体で報酬は宿屋のバイトの1週間分と同じく値段。
バイトをしてた頃がなんてバカバカしいんだろう。
過去の自分に嘲笑しながら受付まで貼り紙を持っていった。
「こちらのクエストでよろしかったですね?」
「はい、お願いします」
「かしこまりました!こちらが支給の回復ドリンクと携帯食料になります」
と、3本の瓶とソ〇ジョイのような棒状の食料の入った袋を受け取りカバンに入れた。
武器屋でのやり取りに疲れたせいか、こんな事につっこむのは面倒くさかった。
「こちらは携帯食料のソ〇ジョイ(ストロベリー味)ですが、次回からは味が選べるようになりますので」
「そのままかよ!怒られる!!」
結局つっこんでしまった。
「では気をつけて行ってらっしゃいませ!」
町の門を出て道なりに歩いていくと丁寧に渓流への案内の看板が立ててあった。
それにしても武器を持ちながら移動というのもなかなかめんどくさいものだ。
剣士とかなら納刀できるからいいだろうが、こっちは杖を常に手で持って歩いている。
絵面も地味だし、なんかこう、冒険者って感じっていうより行き倒れが杖持って水求めているような感じというか。
渓流に到達するとそこでは何人かの冒険者(おそらく新米)がキラークラブを狩っていた。
よく見ると、ぎこちないが連携をとっているようにも見える。
く、悔しくない…おおおれは一匹狼なだけだ!
いや一匹狼の魔道士なんてのも聞いたこともないけど。
あんなリア充がいる所では集中して狩りも出来ないので、もう1つ隣の狩場に移動することにした。
それにしても、この渓流の景色。どこかデジャヴな感じがしてならない。手が加えられてない家の近所の渓流と景色に違いがあまり無いのだ。
ファンタジーなんだからもっと見たことのない花だとか人食い草とかあればいいのに。
さて、いよいよキラークラブとのご対面だ。
「ぶくぶくぶく」
キラークラブが泡を吐きながらハサミをジャキジャキと鳴らす。これは警戒している時のキラークラブの習性だ。
「フフフ、遂にこの杖の威力を試す時が来たな」
ユートは杖を構え一気に振り下ろす。
この感じは!杖から!炎が出るような!イメージが!
「うおおおお!!!!」
プスッ…
「はぇ…?」
杖からは情けない音と微量の煙が出るだけでそれ以上何も起こらなかった。
「えっ!?なんで!?魔法は!?…っ!」
ふと我に返り冷静に考えてみると、杖は手に入れたものの、何一つ魔法を覚えていなかったのである。
その間にもさっきの素振りで警戒心マックスのキラークラブはユートに襲いかかる。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
ザシュッ!!
川のせせらぎに混ざり、勢いよく切り裂ける音が響き渡った。