武器を買おう
「ありがとうございましたぁ」
最後の音が上がり気味のコンビニ店員のような挨拶をするユートは、宿屋の食堂でバイトをしていた。
時給870イルと、日本の通貨と大して違いが無いことにびっくりした。
そんな元ヒキニートのユートは1週間の短期バイトを終えようやく杖1本買える程度のお金を手に入れた。
それと同時に接客スキルレベル2を手に入れた。
使い道?そんなものあるか馬鹿野郎!
かろうじて使えるのが調理スキルだよ。
なに?就職?就職するの俺?!
そうブツブツ呟き周りから少し冷たい目で見られながら武器屋の前にやってきていた。
武器屋は防具屋、道具屋と古臭いRPGゲームのように3棟並んでおり、一番右端である。
まさしく武器屋だ、と主張する剣の絵がある看板がぶら下げられていた。
中へ入ると、周りに少し武器が飾ってあるくらいで後は堂々と構えているカウンターとそこの親父くらいしかなかった。
「へい、らっしゃい!見たところ新米冒険者のようだな。まあ、そんな入口に突っ立ってないでこっち来なよ」
気前の良さそうなガッシリとしたこの親父はにぃっと笑いユートを手招いた。
悪い人ではなさそうだ。ただキャラが濃い。
「とりあえずノートを見せてくれや」
「ノートがいるんですか?」
「ああそうだ。なんせここは新米が集まる町だからなー。下手な武器渡して死なれても武器の評判が落ちるだけだしな!なははは!!」
なるほど、例えが悪いがコンタクトを初めて買う時のアレみたいなものか。わかる人には分かるだろう。
「それで、ステータスや職業を見て俺がいい武器を選んでやるってわけよ」
「そういうことなら…はい、ノート」
まあ、高いものさえ売って来なければ何でもいい。早く魔法使ってみたいし。
「まあ、某魔法少年みたいに最凶魔法使いの双子杖が奇跡的にフィット!なんて展開はないから安心しな!」
話長い!早く持ってこい!!
「じゃ、持ってくるからちょっと待ってなよ」
そう言って親父が持ってきたのは3本の杖だった。
「え、セット?」
「な訳あるか。まあ、3本分の金払ってくれるなら話は別だけどな」
「どれがいいとかあるの?」
「まあ焦るんじゃない!焦る男はすぐ終わっちまうぞ」
「何が…?」
「アレだよ」
いやらしい笑みを浮かべた親父を見て大体の察しがついたので無視。
「まず左からだ」
親父は並べられた3本のうち、紫色の木の杖を指でさした。
「これは一番安い!」
「おお!」
安いの言葉にユートのアホ毛センサーもビンビンに反応する。
「だが!3分の2の確率で味方に誤射する!!」
「やっぱ使えねえ!!!」
ローコストハイリスクローリターン。素晴らしい程に無駄な杖だ。味方に誤射。つまり自分には当たらないが仲間にすごく恨まれる武器なんだな。いや、まだボッチだけど…い、いいもん!仲間くらい作れるもん!
「で、真ん中のヤツ」
今度は鉄パイプのような棒の先に透き通った水色のクリスタルのようなものがつけられていた。
「これはこの3本の中で一番威力の高い武器だ」
「なるほど、確かに強そうだ。でも、お高いんでしょう?」
「ちょっとだけな」
申し訳なさそうに人差し指と親指でちょっと、と表している。可愛げはなくうざい。
「90,000イルくらい?」
90,000イルならなんとか払える。食費は無くなるけど、後々のこと考えたらいい買い物なのかな。
「惜しいな、0が4つ足りない」
「たけえええよ!!!!初心者が買えるか!!」
「課金すれば大丈夫だ」
「ソシャゲか?!この世界はソシャゲなのか?!!」
なんだ、さっきからろくな杖紹介しないなこの親父!だがしかし!このパターンならこの残りの杖は特殊な!それこそまさに某魔法少年のような素晴らしい杖なのでは!
「親父!この杖は!」
「お目が高い…!その杖はな」
「杖は…?」
ごくりと音を立てお互い息を呑む。
「普通の杖だ」
「特殊な能力は…」
「ない」
「最初から売れよ!!!!!!!」
次の日声が死んでたのは言うまでもない。
「どうだ新米魔道士。ポイントカード作るか?ポイントでそのうちいい武器が買えるかもな」
「なるほど…よその街に移るたびにポイントを貯めて…」
「いや、この店限定のな」
「いらないです」