冒険の心得
ここは…
ユートを覆う光が少しずつ消え始め、ようやく目を開くことが出来た。
そこに広がっていたのは、コンクリートの建物が連なる神奈川とは違った西洋の古風な建物が並び、電気で動くようなものが一切ない田舎のような場所だった。
田舎のような場所とはいえ、人々の活気でいえば神奈川よりはるかに勝るだろう。神奈川は車のエンジンの方が騒がしい。
だが、長い間引き篭もっていたユートにとっては少し騒がしすぎた。それに日の光が強い。
それと、いつの間にか服装が自分の服ではなくこの世界において違和感のない服装に変えられていたのだった。
更に、何故か所持していたバッグの中には手頃なサイズの手帳が入っていた。
まだなんの情報も書かれてないが、最初の目次らしきページに例の神様の伝言と思しきものがあった。
1つ、グラン=イルの始まりの地ウォールタウンに着いたらまずギルドで冒険者登録をすること。
2つ、キミのステータスだと恐らく魔法使い系統の役職が向いているでしょう。INTが高い方だったので。受験失敗してるくせに。
3つ、流石に無一文は可愛そうだから1,000イルだけ奢ります。返さなくてもいいので♪いくらニートだったからって無職はダメですよ?働いてくださいねー。
4つ、なるべく死なないようにしてくださいね、私の管轄じゃないのでかばいきれませーん。
では張り切って行きましょー!
ちょくちょく癪に障る文があったけどそこはあえて触れずに…
とりあえず最初にすべきことが分かっただけでも良かったのだ、と自分の感情を抑えるユートであった。
1つは無駄に煽ってくる神様。
あと、なんで主人公っぽいこの俺が勇者向きじゃないのか!と、涙ながらに天を見上げ少しだけ心の中で神様の悪口を言ってみた。
ー神様のバカヤロ…!
とにかく、まずは神様の言う通りギルドに行くしか無い。
ユートは申し訳程度に手帳の最後のページに乗っていた地図を頼りにギルドに辿り着いた。
「はい!新規登録ですと1,000イル手数料がかかりますが、宜しかったですか」
あの神様ぁぁぁあ!!!!!
「お、お願いします…」
決して怒ってる訳では無い。怒ってる訳では無いけど、さっきから震えが止まらないのだ。
「冒険者ノートは購入済みですか?未購入でしたらこちらでも1,400イルで新規購入出来ますが」
え、1,400って…え、足りない。持ってない。存じ上げ……あ、もしかして。
ユートはバッグの中から例のノートを出した。
これか…?
「あ、お持ちのようですね。ではこちらお預かりします」
と、受付嬢はマク〇ナルドのような営業スマイルを残し奥に作業をしに行った。
神様、悪口言ってごめんなさい。
でもやっぱり開幕無一文は許せないですね、はい。
しかし、おかげさまで少し冷静になることが出来た。その間にも、異世界に来たのだなとなんとなく実感のようなものが湧いてきていた。まだ完全に実感は出来てないのだけど。
しばらくして受付嬢が戻ってきた。
「はい、では手続きが完了しました!ユートさん、あなたは魔道士が最も適正が高かったため、魔道士に決定させていただきました」
あっ、そこもあの神様の言うとおりなんだ。
それからというものの数10分に渡るノートの説明が行われた。その際、ほかの人に神様が書き込んだものは見えないのだと分かった。俺が質問しても何も書いてないと返ってくるからだ。
「では、頑張ってください!クエストはあちらのボードからこちらに持ってこられれば受けることができますので」
早速クエストに出てもいいが、武器もなけりゃお金もなく、泊まる宿もユートにはない。
のでユートはまず手頃な日当のバイトクエストを受けることにした。
ニートが進化したのだ褒めてくれ。