勇者ミナ 後編
「…とりあえずだ、とりあえずこの世界地図とか見せて欲しいんだけど」
ユートはミナが自分の話を信じてるかどうかを無視して話を進めることにしていた。
この世界の姿。せめてそれだけでも知っておかないと、これから冒険しようにも目的地が決められない。
かと言ってミナに全てを託すことは寿命が縮まるだけと言っても過言ではないだろう。
「ちょっと待ってね~…よっと」
ミナは机の上に端の方がボロボロになった地図を広げた。
そこにはこの世界、グラン=イルの全体図が描かれていた。
大きな島が横に3つに分かれている至ってシンプルな形だった。
「左から、フロン、セターン、バッカスって言う名前が付いてるんだ~。ちなみにこのウォールタウンはセターンの丁度ど真ん中にあるんだよー」
「真ん中…って、てっきり王国とかそういった類のでかい都市があるのかと思ってた…」
「へー」
「適当に返事するなよ!」
「あんまり理解できてないのだよ」
「あーそう…」
しかしこれは何かのフラグなのかもしれない!
ユートは、最初異世界へと連れてこられ戸惑ってた割に、今ではこの様である。
もともとRPG好きであることがユートの本能をくすぐっているのだ。
魔法の使いこなせない魔道士だが。
一般的なRPGなら魔王の討伐など、そろそろ旅立ちへのフラグが立つ頃であろう。ユートはミナとの出会いがもしかしたらそうなのかもしれないという可能性を信じて、仲間になる事を承諾しようと考えていたのだ。
そうでなければ荷物が増えるだけとなるというまさにハイリスクな賭けに出ている。それにハイリターンな報酬であるとは限らない。
地図を眺めながらふと思った。そもそも、なぜミナはユートを仲間にしようと思ったのだろうか。
ユートのような魔道士は少なくないはずだが、運という事も考えられるだろうが。
「ミナはなんで俺を仲間にしたいって思ったんだ?」
「なんとなくだけど?」
ミナは直線すぎる。予想の斜め上を行こうという気は恐らく微塵もない。
気になる事解決しても腑に落ちない事があるもんなんだな…うん
少しだけでもいいから何かしらの理由を期待したが、ミナの表情には何1つ変化がない。本当になんとなく、ただそれだけの理由なんだろう。
ただ、ミナがどんな理由で誘ったのであろうと、仲間にしてくれたこと、それ自体はユートにとってとても嬉しい出来事だった。