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小さな冬の女王様

作者: 佐倉杏

昔々、あるところに。小さいけれど、平和で美しい王国がありました。

その国には、国を治める王様の他に、四人の女王様がいます。

女王様はそれぞれ、春、夏、秋、冬を司る、不思議な力を持っていました。

女王様は順番に四季の塔で暮らし、その力で国に四季を与えます。


ところが、ある日のこと。



秋の女王様が四季の塔で暮らし、はや三ヶ月。そろそろ秋も終わり、冬を始める時期がやってきました。

まだ幼い冬の女王様が、にこにこ笑顔で塔に行く準備をしています。

「さあ、急がなくちゃ。皆が冬を待っている!」

女王様は美しい雪の結晶をカバンに詰め込み、透き通る星空のカーテンを綺麗に折りたたみます。オーロラを散りばめるのも、忘れてはいけません。

女王様はそわそわと、何度も何度も、忘れ物はないか確かめました。少しでも綺麗な景色を、皆に楽しんでもらいたい一心だったのです。

やがて、冬の景色をカバンいっぱいに詰め込むと、女王様は塔へと旅立ちました。

女王様は四季の騎士が守る馬車に揺られ、塔へと進んでいきます。


去年までは、旅支度に疲れて、馬車の中では眠ってしまっていた女王様。でも女王様もすっかり成長したのか、今日はちっとも眠くありません。

女王様は窓を開けて、冷たさの混じり始めた風を肌に感じました。

すると風とともに、国民たちのおしゃべりも聞こえてきます。

国民たちは、今年のお米の収穫がどうだとか、娘がお嫁にいったとか、そんな話をしています。

小さな女王様は立ち上がり、窓に手をついて耳を澄まします。微笑ましいおしゃべりが、もっとよく聞こえるように。


「それにしても、寒くなってきたなぁ」

「まったくだ。そろそろ火を入れないと」

「冬になると、水仕事が辛いんだ」

「今から春が待ち遠しいよ」


冬の女王様は、びっくりして目を丸くしました。

てっきり皆、美しい冬を待ち望んでくれていると思っていたのに!

女王様はショックを受けました。窓を閉めることも忘れて、立ち尽くしました。

そんな女王様の様子には気付かずに、馬車はどんどん進みます。すると、村を通り過ぎる度に、国民たちが春を待ち望む声が聞こえてくるのです。


四季の塔に着く頃には、女王様はすっかり落ち込んで、自信をなくしてしまいました。四季の騎士が心配して、どうかしましたかと聞いても、首を振るばかりです。

騎士は一生懸命に女王様を慰めますが、なぜ悲しんでいるのかもわかりません。

とうとう女王様は四季の騎士には何も告げず、四季の塔に閉じこもり、この国に冬をもたらしました。


その年の冬は、とびきり美しくなりました。

山々は冠を頂くように白く染まり、太陽の光を反射してキラキラと光りました。

深く積もった雪には、小さな獣の足跡が可愛らしく残ります。

星を散りばめた夜空には時折、ビロードのようなオーロラがかかります。星は絶えず瞬き、オーロラは緩やかに色と形を変えながら、夜空を彩るのです。

女王様は持てる限りの力を尽くし、冬を皆に届けました。だって、冬はこんなにも美しいのだから、頑張ればきっと、皆も冬を愛してくれる。そう信じていたのです。

けれど、時折耳を澄まして聞いてみても、春を望む声は消えません。女王様はますます頑張って、冬を飾り立てました。


しかし、とうとう春の女王様と交代する日が来ても、冬の女王様が愛されることはありませんでした。

冬の女王様は四季の塔の扉を閉ざし、春の女王様を拒みました。

「もう少し、もう少しできっと、冬の良さをわかってもらえる!」

しかし冬の女王様が長く塔にいればいるほど、冬は厳しくなり、春を望む声は増え続けました。

「どうして春の女王様ばっかり!私も、皆に愛してほしいのに」


そんなある日、王様からお触れが出されました。

『冬の女王様を塔から連れ出し、春の女王様を迎え入れた者には、褒美を与える』

あの優しい王様にさえ見捨てられた気がして、女王様はまた悲しみに沈みました。


それからというもの、王様のお触れを聞いた王国の勇者が、何人も何人も、四季の塔にやってきました。勇者たちは皆、冬の女王様を責め立て、四季の塔を春の女王様に譲るようにと言いました。ときには武力でもって、女王様を追い出そうとする者もいました。

しかし誰一人、女王様を連れ出すことはできません。女王様は、冬そのもの。どんな勇者も、凍るほどの寒さには耐えきれずに逃げていきます。

何十人もの勇者が女王様に敗れ、とうとう四季の塔に出向く者が居なくなった頃、一人の吟遊詩人が女王様の元に訪れました。そして言うのです。

「冬の女王様、どうか私の歌をお聞きください」

冬の女王様は、これまでとは違う、悪意のない来訪者に、興味を示しました。

吟遊詩人はハープを奏で、大気を震わせて歌いました。

その歌は、冬を楽しむ歌でした。その歌は、冬を喜ぶ歌でした。その歌は、冬を讃える歌でした。

いつの間にか、女王様はその歌に聞き入っていました。明るく優しい旋律は、女王様の凍った心を溶かしていきます。

歌い終えると、吟遊詩人は言いました。

「女王様、あなたは冬を知らない」

「そんなことないわ。私は冬そのもの。冬のことならなんでも知ってるの」

「いいえ、あなたは知らないのです。

冬がいかに愛されているのかを。

ほら、この歌は冬を愛する歌。この歌は冬を慈しむ歌。この歌は冬を望む歌」

吟遊詩人は一つずつ丁寧に歌い上げます。そして女王様に言うのです。

「女王様、あなただけではありません。誰もが、誰より一番近くにいる自分を、正しく理解してあげることはできないのです。

だから、ほんの少しだけ、見方を変えてごらんなさい。今の女王様になら、きっと見えるはずです」

そのとき女王様の瞳に、確かに映った光景がありました。

そり滑りを楽しむ子供が。クリスマスツリーを飾り付ける夫婦が。雪の降る景色を眺める恋人が。

吟遊詩人の奏でる音色に乗って、女王様の元へと届きます。

皆、皆、冬を心から愛してました。


女王様はぽろぽろと涙を流しました。

「ああ、気付かなかった。気付いてあげられなかった。私はこんなにも愛されていたのに。

私はなんてことをしてしまったのだろう。春が来なければ、川の水は溶けることがない。春が来なければ、作物が芽を出すこともない。

私の冬のためだけに、私を愛してくれた人たちを困らせてしまった!」

声をあげて涙を流す女王様に、吟遊詩人は優しく言いました。

「一緒に、王様のところに行きましょう。春の女王様を迎えなくては」

冬の女王様は、おそるおそる尋ねます。

「皆、怒ってるかしら。今度こそ、本当に嫌われてしまったかしら」

「そうですね、きっとたくさん怒られます」

吟遊詩人は続けます。

「だから、たくさん怒られて、たくさん謝りましょう。そしてたくさん、仲直りをしなくては」


吟遊詩人は冬の女王様と一緒に、王様のところへ行きました。女王様は王様に、そしてこの国の全ての人に、精一杯、心から謝りました。

王様は冬の女王様を不憫に思いましたが、女王様は国の決まりを破りました。罰を与えないわけにはいきません。

そこで王様は冬の女王様に告げます。

「罰として、来年も再来年も、その先もずっと、今年のような最高の冬を届けなさい。

美しい冬を、期待しているよ」


こうして、季節は巡り、二度と滞ることはありませんでした。

以前と違うのは、毎年冬になると、楽しそうな歌声が、国中から響き渡るようになったことです。

冬の女王様は、皆に愛されていることを知り、今まで以上に、心から皆を愛しました。そして、他の三人の女王様とともに、いつまでもいつまでも、幸せに暮らしましたとさ。


めでたしめでたし。



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