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蘇る伝説 ――決まり切った答え――

 渾身の力で振り抜いた蹴りがゾンビを地面に転がす。

 まるで体中の血液が限界まで頭に血の上ったかのような怒りに、俺は刀を鞘から抜いた。その時――――――。

 頭に映像が飛び込んできた。そして誰かの声が――――――聞こえた。


「『殺人術(かたなのふりかた)』教えてやろうか?」


 男とも女とも取れる声。しかし透き通るような透明感を感じる不思議な声だ。

(なんだ? 誰の声だ? 俺に言ってるのか?)


 頭に飛び込んできた映像(ビジョン)。そこは深夜、闇の中だった。街灯もない、照明は空に光る月明かりだけなのだろう。現代では感じられない、心細くなるような不気味な薄暗さを感じる。

 そこで『俺』じゃない誰かは、まるで大昔の城のような、石垣の見える道で大人数に囲まれていた。俺はそれを『誰か』の視点から見ている。恐らくは声の主の視点だと思うが――。

(この刀……もしかして)

 声の主(だれか)の手元には謎の女性から借りた刀、多分それと同じ物が握られていた。


『誰か』をぐるりと囲んでいる九人ほどの人達は、みんな時代劇の侍みたいな格好をしていた。『誰か』は背が低いのかもしれない、何時もの俺の視点よりずいぶん低い。それとも対峙しているこの男達が、みんな大男なのだろうか? そして、全員が、いっせいに『誰か』に斬りかかる。九方向から一度に――――。

そして全員の動きが止まる。時間が止まる――。

 ――数秒の間、思い出したように『誰か』の周囲にいる全員から鮮血が飛び散る。斬りかかって来た全員が、同じタイミングで地面に倒れこんだ。そして『誰か』は刀をクルリと器用に回転させた後、納刀する。


 その『誰か』は、最後にこう言った。やはり男とも女とも取れる声で、

「こう、やるんだぜ?」そして、「こ 刀、    次 大事に てく よ?」

 表情はわからないが、言葉の最後の方はニヤリと笑っているように聞こえた。擦り切れたテープのように所々聞こえなかったが、何故かそう感じた。

 場面が変わり刀から流れ込む断片的なイメージが流れ込む。それは写真のように見えた。一瞬を切り取ったような途切れ途切れの映像が見えた。動画サイトの一覧の様な物が見えた。そして何かの文字、俺にはその『字』が読めなかった。字の汚い俺から見たら、芸術的なほどに達筆過ぎる文字、書道家が書いた様な力強い文字が見えた。読めない、それとも現代ではもう使われていない古い文字なのか? それとも……。

 謎の声は聞き取れない言葉を残し、消えて――――。




「タイガ! 危ない!」

 その声に俺は意識を取り戻し、真後ろに居たゾンビに刀を振り抜く。するといとも簡単に近くにいたゾンビの胴体を斜めに寸断する。滑るように胴体が地面に落ちる、続けて倒れたゾンビの頭に、片手で持った刀を上から突き刺した。刀は頭蓋骨を易々と貫通し脳を破壊する。止めを刺したと直感、俺はすぐさま勢いよく刀を引き抜く。

 そのままキリンに掴みかかっていたゾンビに、低い姿勢で弾丸のように飛びかかる、続けざまに刀を一閃する。走りこんだ速度(いきおい)が乗った一撃は、ゾンビの肩ギリギリをかすめ、斜め上に斬り上げる。そして軽々頭と胴体を繋ぐ首をハネ飛ばす。

 周囲にゾンビが居ないのを確認し、俺は刀をクルリと回転させて鞘に戻した。


「君は…………」

 謎の女生徒は最後のゾンビに止めを刺しながら、俺を見て驚いたように呟いた。

「あんた完全にあたしの事忘れてたでしょ」

 ジト目で俺をみつめキリンが言った。

 完全にお忘れしていました、なんて言おう物なら即バッドエンドだ。色々信じられない事が起こったし、焦っていて完全に失念していたが……。

 全身から嫌な汗が噴き出してくる。もう後戻り出来ないような焦燥。凍るような寒気に襲われた。


 俺は――――人を――――――――。


(俺は理性を完全に失っていた。あの時、キリンが襲われて頭から血を流して……。それを見てカッとなったとはいえ、俺は人を……殺した。いくら謎の病気に感染していて、正気を失っているからとはいえ俺は…………。どうしたら…………。いや、今はそれよりも……キリンだ。)


 冷静になるとともに、頭を罪悪感が駆け巡る。それを振り払うように俺は聞いた。

「う、ごめん。頭、大丈夫だったか?」

 見慣れたポニーテールは血に濡れていた。傷口は見えないが、消毒液も無いし、今は触らない方がいいだろう。頭は割れると案外出血が多い。病院に行って縫わなければならないかもしれない。だが謎の女生徒はさっき『病院はもう機能していない』ような態度を取っていた。キリンはかなり強く頭を打ったはずだ、縁石にぶつけたであろうあの『ゴツッ』というイヤな音。もし内出血していたら相当マズイ、精密検査を受けさせてやりたい所だが――。

「……平気、ちょっとクラッとしただけだから……」それより、と呟きためらう様に続ける「さっきのタイガ……少し怖か――」

 俺はキリンに近づき、血を流している腕を取り傷口を見る。噛まれた後に少し引き千切るように動かれたのだろうか、傷口は意外に大きく、四つの真っ黒な穴となって痛々しく残っている。

「コレ……は……」

 俺の頬を汗が伝う。心臓がドクンと俺の胸を激しく痛めた。

「うん……。動けなかったけど、二人の話は聞いてたから」そして平静を装うように続ける「二人はここから早く離れて」

「な、なんでだよ」

 俺は引きつった表情をしているのだろう、そしてうわずった声を上げる。

そんな俺の腕を振り払いキリンが、

「あんた最後まで本当(ホント)アホね。だって噛まれたんだよ?」ハァ、とあきれたようにため息を吐いて「あたしは感染したの。いいから行きなさいよ!」

「まだ感染したとは限らねぇだろ!」

「してるわよ絶対! あたしはもうすぐあぁなるの!」そういって動かなくなったゾンビを指さす。「あたしはもう変わっちゃったのよ……。ホラ分かったらさっさと行く!」

 シッシッと追い払うように手を振るキリン。平静を装っているが、口は小刻みに震えている。

「お、俺だって……」変わった、とは言えなかった。俺も前とはもう違う。俺は人を殺した。もうそれはかき消す事は出来ない。無かった事になど出来はしない。「俺は……行かねぇ」

 それを聞いたキリンは何かに追われているかのように、まくし立てる。

「なっ! あんたね……。もうすぐに変わるわよ、そうなったら……、ゾンビになったらすぐにあんたに襲いかかるんだからね。――あと5! 4! 3! いいの?!」

 キリンは目に零れそうな涙をためている。

 俺の答えはもう決まっていた。

「いやだ、俺はお前を置いては絶対に行かねぇ」それに、と俺は続ける「まだ感染したとは限らねぇ……。まだわからねぇ、いや感染なんかしてねぇ! 俺が決めた。お前は大丈夫だと、今決めた」

 俺はキリンを正面から見据え、断言する。

 キリンは俺から視線を外し、

「何勝手に決めてんのよ! いいから行けアホタイガ! あたしの前からすぐに消えてよ! 早く消えなさいよ!」

 キリンは涙を零し、怒りをぶつけるように言い放つ。

「私も、まだ諦めるのは早いとおもう」

 今まで黙っていた謎の女生徒が俺を後押しするように口を開く。

 キリンは謎の女生徒をキッと睨み、

「あなたもいい加減な事を言わないで下さい! 私はタイガを巻き込みたくないの! 早く行ってよ!!」

 俺は目玉の奥が物凄く熱くなっている事に気付いた。

「俺は…………。俺も、もう」言葉を詰まらせる、これから続く言葉は言うべきじゃないかもしれない、(感染してないって言ったばかりなのに、そう信じているはずなのに)が続ける「後戻り出来ないから、もしお前が『そう』なら俺は…………。俺も死ぬ」

「なんでよ……。なんであんたまで死ぬ必要があるのよ……、バカなんじゃないの? なんでそうなるのよ…………、」

「……まだ話せるじゃんか、まだお前は変わってないじゃんか……」キリンの手を取り、続けた。「だから――、『それまでは』一緒に行こう」

「もう…………、知らないんだからね」

『一番に噛みついてやるんだから』そう言って、

 キリンは顔をくしゃくしゃにして笑った。


「取りあえずここから移動しよう」

 乗って来たバイクのエンジンを止め、座席から取り出した黒いシートをかけて謎の女生徒が言った。

「でも、どこへ?」

 キリンが不安そうに聞く。

 ショートヘアの謎の女生徒が、髪をかき上げ、

「私は連城、連城鍵(れんじょうきい)。霞ヶ丘二年だ」

 と、自己紹介した。

「あっ」

 そういえば俺達はお互いの名前を知らない事に今更ながら気づく。

「お、俺はえ~と天城大河(あまぎたいが)、同じく二年」

(ん? 見た感じ大型バイクに乗ってるみたいだけど、同い年なのか? もしかして無免許? この際いいけどちょっとした罪だな)

「あたしは榊稀凛(さかききりん)、このアホと同じクラスの二年生、よろしくね」

「フッ、やはり同じ学校だったか、薄々そうじゃないかと思っていたのだ」

 なぜか勝ち誇ったように大きな胸を反らし、俺達の制服を見て連城が言った。

「取りあえず、霞ヶ丘高校へ行こうと思うが……」連城は少し考えて、「天城君、君はもしかして剣の心得があるのか?」

「はぇ? いや、剣道もした事ないけど?」

「そうか、それにしては……、」連城はまじまじと俺の全身を眺めて呟く。そして「良かったら――だが、その刀を貰ってくれないか?」

「えっ? でもこれ……。物凄く高そうだけど……、いいのか?」

 俺は手元の刀を見つめ驚く。

 なにかしら由緒がありそうな刀だけど、そんな軽々しく今日会ったばかりの他人に上げちゃっていいのか?


「何かに使えるかと、持って来たんだが。私には扱えないし、君が持っていたほうがいいだろう。」それに、「それは我が家の家宝らしいのだが、色々と曰く付き(いわくつき)で、どうしたものかとほとほと困っていたのだ」

「あのぉレンジョーさん? でしたっけ?」『いかにも』と答えた連城に「なんかちょっと聞き捨て鳴らない事いいませんでしたか? 今……、」

「問題無い大丈夫だ。夜中に……(ソレ)が置いてある部屋で、ちょっとヘンな事が起こるとメイド達が噂していた。それだけの事だ」

「ナニソレちょー怖いじゃん。大丈夫じゃねぇだろコレ」

 俺は手元の刀を危険物を見る様に凝視する、連城も刀を見つめて、

「我が家の武器庫に沢山あった刀の中でも、それが一番重要そうに保管されていたのだ。きっと良いものに違いないぞ」

「なんでよりによってコレもってきちゃったのカナー。」俺は刀を差しだし、「今から……チェンジできませぬか? コレ以外ならなんでも――刺又(さすまた)でもいい! てか家に武器庫あんのかよっ! ますますなんでコレなの!」

 俺はうわずった声をあげ、刀を貰った分際で抗議の声を上げた。

「残念だが、我が家は今入れる状態ではないのだ。この騒動が起きてから早々に壊滅してな」ハッハッハッ『壊滅だぞ』と何故か笑いだす連城、そして「家なき子なのだ」

 と、悲しい情報を教えてくれた。

「あ、あり……がとう」

 俺はピクピクと顔面が引きつるのを感じたが、出来るだけ笑顔でお礼を言った。そして不安を胸に抱きつつも、ありがたく頂く事にした。

 いちいち布に包むのも面倒だと思い、すぐに抜けるように俺は刀をそのまま腰のベルトに刺す。明治(めいじじだい)ならまだしも、平時だったらしょっぴかれそうなビジュアルになってしまった。

「うむ、バッタバッタと薙ぎ倒してくれ」頼もしそうに俺を見て連城が言った、そして「君の奮闘に期待する」

 もう二度と斬りたくないけどな……と内心思った。そしてふと思い出す。ゾンビを斬る前の事。

 あの時、この刀を抜いた時に見えたビジョン。まるでこの刀自体が話しかけてくるようだった。俺がサイコメトリーに目覚めてから、かれこれ十年ほどになる、だがそんな事今まで一度も無かった。

 初めでの経験だ。それにあの語りかけてきた『誰か』(侍だったのか?)大人数に囲まれていたけど……『彼』(多分男性だと思う)は大丈夫だったのだろうか。それと最後に何か言っていたような。聞き取れない言葉をなにか――あれは一体――――。

「質問を一つ……いいかな?」俺とキリンが頷くと、「佐伯優愛(さえきゆうあ)を知っているか? 霞ヶ丘の一年なのだが……」

「ん? いや……聞いたことないけど」

「あたしも……知らない、かな」

「私の目的はその子を探す事なのだ。そして市内を色々回っていたのだが……どうやら今ここは――――、」と言いかけて、キリンの方に視線を向け「まずは移動したほうがいいか、キリンさんが大丈夫なら」

「キリンさんっていうとなんかウケル――」

 刹那、俺の両目にキリンの眼つぶしがヒットした。怪我をしているからだろう、最小限のモーションからの一撃。俺は地面をくるくるとのたうちまわる『メガァーメガァー!』

「あたしは平気、行けるから」

 ちょっとは普段通りになって来たかな。

「荷物持ってやろうか?」

 俺はキリンのバッグを見て言った。

「ううん、大丈夫、ありがとう」

 キリンの言葉に安心した俺は、地面に置きっぱなしの自分のバッグを肩に担ぐと、

「よし。行こう」

 三人で学校へ向けて歩き出した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

――――あとがき――――

序章というか、キリが良いのでここで一旦終わります。無駄に書き溜めたのが数話あり、この後もお話は続くのですが、どうにも読んでくれる人が少なくモチベーションが……。

根本的に色々な何かがダメなのでしょうね。


兎にも角にも、

読んで下さった方、ありがとうございました。


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