変化の兆しとJリーグカレー
もはや寝すぎたから頭が痛いのではない気がする。昼日中の廊下を歩きながら、散々俺の頭を小突いたポニ子鬼の顔を思い出す。
あいつには一度手取り足とり教えてやらねばなるまい。フヒヒ。この俺のゴールドフィンガー98で。
ニギニギと手を握り俺はあれこれ妄想する。
しかし、どう想像しても逆に俺が調教される画しか浮かばなかった。三角形をした不思議な木馬に縛られた俺が、キリンにピーをピーされピーしている。それもある意味フヒヒではあるが……。俺は歩きながらため息を吐いた。
ピーしたいのは俺なんだ……、と。
まだ痛む頭を押さえながら教室に戻ると、なにやらざわざわしているのが扉の向こうから聞こえる。
「う~っす」
と言って教室に入るとクラスメイトが残念そうに話しかけてきた。
誰だか知らないが馴れ馴れしい奴め。
「お前ま~たサボってたんかよ~留年するぞ?」
俺は、ほっとけ、と返し自分の席に着いた。
傷の痛みを癒そうと俺は机に突っ伏そうとするが、何やら目の前にいる人物が気になる。目を輝かせ、やたらと動いて俺の注意を引こうとしている。俺は虫を追い払うように手を『シッシッ』と二、三度振った。
うっとうしい奴め、ねかせてちょ。
クラスメイトはいかにもウズウズして『話さないと収まらない』雰囲気をモロ出しにしている。すると無反応な俺に我慢できなくなったのか唐突に切り出した。
「お前どこぞで寝てただろうから、しらないと思うけど、すげぇ事があったんだぜ」
「へぇ~そう~」興味無いといったふうにかえしてやる。まぁ興味ないんだけど。
「なんとついにうちの高校に念願の変質者がでたのだ!」
「前からいるじゃん」
と言って興奮してまくし立てる顔のど真ん中を指さしてやる。
「あぁそれとは別口のマジもんだって。て、おい! 俺はノーマルだ! 少なくとも俺はそう信じて生きてきた」
俺はうるせぇなぁ、と顔をしかめて話の先を促す。
「なんか不審者が校舎入ってきて暴れてな、パトカーが来て警察沙汰だよ。子供警察じゃないよ? 大人の方ね、『現在校内に不審者が――』って放送入ったから俺、見に行ったらすげぇ血だらけの男が取り押さえられてて、マジ警察二十四時状態だったね。柳沢もびっくりだろあれは、うん。 うん? うん! 人間が暴れて血流してるの初めて見たよ。ちょっと怖かったけど興奮したね。でも勃ってないからな? しかし昔のコロシアムはこれを求めていたのかもな……300人のスパルタンXがでてくる映画あったじゃん! あんな感じ、血の興奮て奴? そんで変質者はまぁ救急車で連れてかれてた。ドナドナー。あと教師も一人暴れてる不審者を止めようとして怪我したらしくてさ、一緒に救急車で運ばれて行った。動画撮ったけど見る? おしまい。」
濁流の如く息継ぎもせず大声でまくしたてたクラスメイトに、周囲から非難の声が上がる『山田うっさい』『僕の勉強の邪魔をしないでくれたまへ!』『暑苦しい』『地球から出てけ山田』『そうか君が! 義兄さんの用意した精神攻撃か!』『静かにしろよ』『今夜が山だ』「お前は一体だれなんだ!」俺もこっそり混ざる『YAMADA!』『義兄さん……そうまでして僕を認めない気か!』『地球温暖化の山田』『こうして全人類から嫌われた山田はこの地球を去って行った』「そうだそうだ」再び俺も時代の波に乗る『タイガうざい』聞き覚えのある声が近くで聞こえた。
「お前の名前、山田だったのか。まぁそりゃ犬が校内に入って来るよりテンションあがるよな。めでたしめでたし」
興味なさげな俺に、山田が最後の足掻きを見せる。
「なんかすげぇ悲しいナレーション入ったけど。マジなんだってぇ! って名前覚えてなかったのかよ! それが一番ショックだよ!」
「と抗議の声をあげるクラスメイトを無視して俺は腕枕で再び眠ろうとする」
「まさおだよっ!」




