覚醒する主人公
「う~ん、寝すぎた……」
疲れは取れているのに少し頭が痛い。ちょっと横になって授業をサボる予定が、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
俺は何か損した気分でカーテンを開け、保健室内を見回す。
「あれ? 誰もいないのか」
ここに来た時はいたはずの保険医が見当たらない。
全く大事な患者置いてどこ行ってんだよ。
「ん?」
隣のベッドがへこんでいるのが目に付いた。気になった俺はベッドを軋ませて起き上がると、間近で確認する。
「誰か寝てたのか?」ベッドのへこみに手を置いた瞬間「あれ、濡れて――」逃れられない強烈なビジョンが俺の頭に飛び込んできた。
「お、今日は調子いい日だな」
ちょっと前の記憶だろう。デスクの上に置かれたデジタル時計が今日の出来事だと告げていた。
「それにしても……俺が横で寝てんのに、なにやってんだよ保険医」
と呆れるが、俺は食い入るように集中力を高める。アンテナを合わせる様に微調整するイメージ。不必要なノイズが取り払われ、ビジョンはより鮮明になる。
今日は映像どころか、声まで聞きとれる。本当に調子がイイ。俺の脳内レコーダースイッチオン!(RECじゃあ!)
見えたのは二人の人物だ。
一人は一見小柄で華奢な女の子、だが下腹部に屹立するモノが男の娘だと証明していた。しかも見た目に反してかなりの暴れん坊をお持ちのようだ。
それにしてもカワイイ。普通の男がやったら、お笑い芸人のようになってしまうであろうキノコヘアがよく似合っている。この女装クオリティなら証拠を見せられない限り男だとわからないだろう。
もう一人は長い髪をアップにまとめた保険医だ。普段からナチュラルにフェロモンをバラ撒き、男子生徒の目を釘付けにしている。そしていつも穿いてるのかわからない安心出来ないスカートで歩いている。前々から男子生徒を捕食するためにこの学校に勤務しているとは思っていたが、たぶんそれが正解だろう。正真正銘の捕食者だ、性の。
ちなみに年齢は不詳だ。だがしかし悔しいがセクシーと言わざるを得ない。普段から視界に入れば俺もやはり目を奪われてしまう。不覚にも釘づけになってしまう。あの胸に取り付けてあるロケットに。
その二人が格闘技の寝技のように組んず解れつ絡み合う映像が見えた。
なんともうらやますぃ。俺もここにログインしたい。
『センセッ! となっりのひとっ! 起きちゃうっ!』
女装草食男子生徒の言葉に保険医は腰を止め、
『大丈夫。もし起きたら、一緒に混ざってもらいましょ』
そう言って再び動きを再開した。
なんなら起こして欲しかった!
俺はこころの中で拳を強く握り叫んだ。
恐らく女装させられたであろう男子がベッドに寝かされ、そこにやたら色っぽい爆乳保険医が全裸で跨っている。そしてギシギシとベッドを軋ませ、回すように腰を動かす。
『ほら……先生……のも触って……』
腰をゆっくりと上下に動かし、保険医はいやらしく言った。そして草食女装生徒の両手を、自分の破裂しそうなほどに大きいイケナイメロンに導く。かなりの爆乳なのに桜色をしたその中心はツンと上を向いていた。
一体何食ったらそうなった。どうしたらそうなれるんだろう。あいつにも教えてやりたい!
『せ、先生ぇ……僕もぅ……ぅぅ』
『いいわっうっんっそのままっぁっ』
そう言って保険医はさらに腰を激しくグラインドしていく。重力に逆らい大きな果実が上下に暴れる。
『で、でちゃっ抜いてっ先生っ!』
『そ、そのままっきってっはっあっん』
「ねぇ、ちょっと! おーい!」
やかましい声が聞こえる。うるさいな、誰だ。色々な意味で盛り上がってきた俺の楽しみの邪魔を――。
「また固まってる……」
再び謎の雑音が入るが、無視。集中集中!
そして映像が佳境を迎えついつい顔をほころばせる俺。そして思わず笑みが零れる俺。
「フフ」
返す刀で声の主は蔑むように、
「キモ」
その声にとうとう集中力を欠き現実に引き戻された。くっ! 良い所だったのに!
「なんだお前か」
俺は引き戻された現実の光景に、心底がっかりしたように呟く。俺の目の前には憐れな生ごみでも見る様な目をした女子生徒が立っていた。このポニーテールの腐れ縁はたぶん幼馴染の――榊キリンだ。俺の記憶が確かならばだが。
「ベッド撫でてなにニヤついてんのよ。死んでキモいから今すぐ」
結構ひどいことを仰る、それでも足りないかのように続けて
「あんたのたまにやってる『ソレ』なんなの? その場にジッと止まってるやつ。あんたの趣味? 目もなんか座ってる時あるし、今もなんか噛みしめるように味わってる雰囲気だしてるし、なにかヘンな事でも考えてんじゃないでしょうね?」
と、皇室御用達紳士たる俺にまくしたててきた。
天城大河には小学生の頃から不思議な能力があった。所謂サイコメトリーというやつだ。それは物体や時には空間に残った強烈な感情、思いや、記憶と言った残留思念を読み取り断片的な映像となって見えたりする。ある時は誰かの視点で、ある時は俯瞰で、またある時は――。
ゴツッと鈍い音が俺の後頭部で鳴り響く。
「無視してんじゃないわよ。ハッ倒すわよ」
「もう殴ってるじゃないスカ……ヒドィ」
サイコメトリー。その能力を使って殺人事件などを解決する人もいるらしい。
そして何故か自分でも解らないが最近はその能力精度が上がってきている。子供のころは写真や静止画のようなボラ○ノールのCMみたいな断片的な映像しか見られなかったはずなのだが――――。
「また止まってる……なんかの病気?」
「『もはや処置なし』と言った顔で同情するようにポニ子は俺を見て言った」
「誰に説明してんのよ。あんたあたしのことポニ子って呼んでんの?」
このままこの能力の精度があがったら、どうなるのだろう。アントニオ先生は言っていた。『迷わず持って行けよ行けば分かるから』もしかしてその内ニオイも……。
「フヒヒ」
「うわ……うわぁ!」
本気でヒイている。そんな目で見ないで……。でも漏れてしまったものは仕方がないのだ。思春期の男の子なのだもの。
でもこの能力にも欠点がある。長い映像を見ている時、同じ時間だけ俺は体を動かすことや、時には見せられた映像から抜け出せない事もあるのだ。
そしてさっきのように見たい映像が見られるとも限らないのも欠点ではある。両親や兄弟の『アレやソレ』とかも見させられてしまう事も……。知りたくない『事実』『秘密』も……時に突き付けられる。時にはもっと酷いモノも――。
「あんたもしかして電池切れ? まぁいいわ、その変態行為終わったら死んでね」
こいつにこの能力知られたらコロされるだろうな……、『イチコロだ』とシミジミと思う。
ゴツンッ。
「なにジッと見てんのよ。殴るわよ」
と、鬼の子が殴ってからまた注意してきた。