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リュリカッドの樹を植えて

作者: 風連
掲載日:2016/03/12

この星の大陸の赤道には、かなり大きな大陸があって、グルリと星を巻いていて、北半球の海と南半球の海を交わらない双子にしていた。

広大な土地があっても、そこには稲科の植物の勢力圏だった。

所々、アリハリアの棘だらけの枝が、突き出ている。

その外側は岩山に続いていた。

山に住む山羊の仲間の様な、毛長長角けながながつののムエバの群が、早朝草を食みに降りてくる。

水場には、鋭い牙と鉤爪の捕食者が、息を潜めているだろう。

長い槍と水の入った皮袋を腰に下げ、背中には肩高が、2メートルを越える草食動物の太い腱から作り出した弓と、矢を入れた苞を背負っていた。

風上を探る彼の眼は、頭の後ろまで感じている。

ジリジリとした緊張感で、叫びたくなる。

息が上がる。

無意識のうちに、呼吸を合わせる。

求められるものが手に入る前の高揚感と焦りが、鳥肌をたてる。

爪先に力が入る。

思うより先に、槍が空を裂いた。

二頭が、串刺しになり、悲鳴をあげた。

ムエバと襲いかかった大型のネコ科のイバが、槍の中でもがいている。

ランダムな斑が、血で汚れている。

単体で狩りをする獣だが、何が来るかはわからない。

素早く喉を掻き切る。

ムエバは、断末魔の痙攣から、永遠に帰って行った。

槍を引き抜くのに、手も足も使った。

2つの獲物から、必要な物を切り取る。

肝臓をナイフのまま、喰う。

心臓から血を絞り、皮袋にしまう。

今、いるだけの肉を切り取ると別の皮袋に入れる。

ムエバの角と長い尾を切り取って、これも3つ目の、皮袋に入れる。

イバの犬歯を引き抜き、ザラッと同じ袋に入れた。

皮を剥ぎ、頭から髑髏を剥がし、捨てる。

水場で、血を洗い流し、脂を砂でこすると、荷物をまとめる。

長居をしすぎたかもしれない。

身を隠すより、ここから離れる方が先だ。

槍を肩に背負って、岩山を目指した。

日が高くなれば、日陰が必要なほど気温が上がるのだ。

岩山に足を入れた時だった。

彼は、しびれを足の裏に感じた。

そのまま、身体が動かない。

痙攣が襲ってくるが、後は闇の中だったのだ。

囚われた彼は、調べられていた。

彼自身も、持ち物も。

霞のかかった眼は何も見ない。

捕獲箱の中でめざめた。

透明な壁が四方を遮り、どこにもいけなかった。

彼の記憶は、箱で煙に包まれた時に消えた。

目覚めたのは、あの岩山だった。

皮袋に手を入れると、心臓は腐っていた。

イバの毛皮も縁から乾いてヒビ割れている。

皮袋ごと、心臓と肉は捨てるしかない。

彼は、山の魔物に誑かされたと思い、唸った。

彼は、自分の村には帰らず、放浪の人になって、この地を去った。

去っていった彼を観てる者たちは、次の観察を始めていた。

1人が、捨てられた皮袋を拾った。

その中に、一粒の木の実を入れ、藪の中に放った。

運があれば、育つかもしれない。


齧歯類げっしるいのガリユの一家が穴から顔を覗かせた。

小さなガリユが、皮袋を齧った。

兄弟でキーキーと取り合うが、皮袋は硬く歯がたたない。

遊ぶように、袋は弾みながら、水辺に来た時、彼らはイバに襲われた。

袋にかじりついていた子供が狙われた。

逃れるために長い後ろ脚で地面を蹴ったが、伸びた足に、イバは食らい付き、空中から引きづりおろした。

暴れるが、イバの太い足は、ガリユを押えつけると、首の後ろを噛んだ。

細い悲鳴を聞きながら、残りのガリユは野生の稲の穂の中の巣穴に逃げていった。

皮袋の木の実は、外側が破けたので、転げて落ちていた。

夢中でガリユを貪るイバを矢が狙っている。

3人は、一斉に立ち上がり、それぞれの矢を放った。

一本がイバの喉笛を刺し貫く。

赤い羽根の矢だった。

誰の獲物か一目瞭然であった。

イバは、解体され、矢の持ち主が心臓と肝臓と牙を、もらう。

肉は、平等に分け、皮を剥いだ。

血と脂を、砂でこすり落とし、村へ引き返す。

あの岩山には、近づかないので、エムバの群が、転々と岩の上で跳ねていた。

彼らは日が昇りきる前に、走った。

遮るもののない場所で、日に炙られたくはない。

腰までの野生の稲をかき分けて、来た道を戻る。

泥と獣の糞で作った家は、日差しを避けられるし、涼しい。

炙られた肉の脂肪が溶ける匂いが村に溢れた。

野生の稲と一緒に炒めた物がご馳走だ。

チクチクした殻をうまくふり分けるのが、女の腕の見せ所で、少しの脂と水で炒め肉を合わす。

イバの皮は、祭りの衣装になる。

赤い羽根の成人式だ。

青い羽根と、黒い羽根は、また狩りに向かう。

一頭づつのイバをしとめるのだ。

イバの縄張りは広い。

一頭を狩ったら、次はもっと遠出をしなければならない。

二頭目は、近かったが、3頭目が見つからない。

縄張りの外には、中々出てこないイバを探す為、旅をしなければならなくなった。

獲物が捕れなかった黒い羽根は、今夜旅立つ。

赤い羽根と青い羽根の成人式は、直ぐに行われるだろう。

彼には、イバが必要なのだ。

見知らぬ土地に足を向ける。

彼には、何の勝算もない。

運命が答えを出すだろう。

1年が過ぎ、黒い羽根は、村に帰ってこない。

アリハリアとは違う、枝が稲の間から顔を出していた。

あの種が芽吹いたのだ。

やがて、幹が太くなり、明らかに異彩を、放し出す。

野生の稲のだらけのこの場所に、樹が根付いたのだ。

樹は、枝を広げ、日差しを遮る場所を作り出した。

ムエバが、岩山から降りてきた。

彼らは器用に下の枝から、樹に登った。

甘い若葉と、たわわに実る果肉を、食むのだ。

黒い羽根が、消えてから、10年が過ぎた。

イバは水辺に、現れては、狩られる。

やがて、ムエバを生きたまま捕らえ、飼う事が始まった。

ムエバの乳を飲むのだ。

樹に集まるので、そんな事ができたのだ。

1本の樹から、村の暮らしは変わり、樹は自然に増えていった。

乾いた土地を覆っていた稲が、消えだし、柔らかな下草が樹を、囲った。

樹には、色々な生き物が集まり、小鳥がさえずり、巣を拵えもした。

アリハリアの棘だからけの枝は嫌われたが、ムエバの柵に使われた。

妻と子を連れた黒い羽根が、村に帰ってきた時、そこは別世界のようだった。

赤い羽根が長になっていて、樹が、森になっていた。

樹の実は、むらの人々を甘く誘惑し、イバは排除するべき害獣で、山羊を飼い畑を耕し、掟も暮らしも全てが変わってしまっていた。

家も、泥と糞から、木の枝を使っていた。

歓迎された黒い羽根は、ある夜一家で、村を逃げた。

赤い羽根の妻が、教えたのだ。

男達が、子供に冒険談を話す黒い羽根を疎んでいると。

彼女は、長老の孫で黒い羽根の許嫁だったのだ。

黒い羽根は、今はタブーも怖くない。

あの岩山を超えた。

戻るべきでは、なかったのかもしれない。

樹が、全てを変えたのだ。

ムエバのように、岩山を超えると、遥か彼方に海が輝いている。

黒い羽根は、そこを目指した。

村にいたのでは、一生見ることのない場所だろう。

妻と3人の息子と共に、狩りをしながら、旅は続く。

彼の妻がもらった種を落としながら、着いて行く。

赤い羽根の妻からもらった、乾燥した果物を食べると、種はその場に捨てられるから。

やがて、岩山を超えた種は、樹になる。

この星のリングの大地をグルッと回るだろう。

林檎りんごのように、蜜柑みかんのように、桃のように。

今は、ここまで。





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