「炎の記憶」29
*****
「それで、紅野くんはどうするつもりなんですか」
自身も替えの衣服に着替え、身支度も済ませた聖羅は小さなモニターを前に腕を組みながら言う。高圧的ではあるがその中には不安が入り混じっているようである。
[どうもしないさ。彼にも言ったように保護観察。聞いてたでしょ?血液検査でも特に異常は見られないし、君たち能力者特有の精神的な波動も感知出来ないし]
モニターから返ってくるのはいつもの飄々とした答え。
[本当はどうにか調べたいんだけど、調べようがない。って言うのが正解かなー]
あからさまに嘘を言っているように感じてしまうのは、いつもこのような状態だからだろうか。それとも武蔵の事を心の底から信用していないのか。
[ただ炎系統の能力者の中でもかなり上位に来るだろうね。“外”にも影響を及ぼすレベルの力なんて今までの記録上は片手の指に収まる人数さ。何もかも謎の能力だけど……ってなんだいその目は?]
「いえ、別に」
[こいつ嘘言ってるんだろうなーって目だよね?絶対そうだよね?君も大和もほんっと冷たいよ……どうしてなの?]
図星ではあったのだが、やはり武蔵の対応は面倒なのかかなり適当に返す聖羅。いくら聞いてもまともな回答は無さそうだ、と見切りをつけたのか鞄を持って席を立つ。
[あれー、もう帰るの?]
「どうせ教えてくれないですし明日も学校ですから」
[そっか。……ガッコ、楽しい?]
「……まあまあです」
[なら良かった]
これまでとは違う他愛ない受け答え。武蔵から放たれる言葉にも遊びではない優しさが乗せられているような――
[ああ、そうそう。帰る前に一個だけ]
「?」
扉に掛けていた手を止めて振り返る。今度は一体何だろうか。
[あの蝕みたいなやつの事なんだけどね?]
「正体、わかったんですか?」
[わからん!]
「帰ります」
[ああごめん!いやマジでわからなかったんだよ?反応は蝕に近い波形だったけど……僕の知らない第三勢力かもね]
蝕に似た存在はやはり謎のままのようだった。『研究所』の情報を持ってしてもだ。
「第三勢力……」
[あくまでも予想の域を出ないけど。うん、とりあえずそんな感じ]
「そう、ですか。……じゃあ帰ります」
[はいはーい。気を付けてねー]
これ以上情報はない。そこだけは嘘を吐く必要がなかった。だからこそ長い髪を靡かせて部屋を出て行く聖羅を止めようとはしない。
――完全に誰も居なくなった一室。そのモニターの向こう側。彼はそこに居た。
「さあてどうしたもんかねぇ……」
薄暗い部屋には大量のモニターと、乱雑に放置された紙と本。椅子から足を投げ出して机の上に。
「紅野君の件は、まあどうにでもなる、かな。問題はこっちか……まったく能力者ってのはどうしてこうも……」
その口元は不適に歪む。
「面白いんだろうねえ……そうは思わないかい?」
青白く、長い指はモニターをなぞる。そこに映し出されているのは――
*****




