「炎の記憶」28
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話を端折って要約すると、護は能力者であり、その能力は極めて強力な炎系で、異常なまでの回復力も有している。『研究所』のデータベースにも載っていないイレギュラーな存在だ。発動条件は不明、自由自在に発揮する事はどうやら出来ない模様。何か特殊な条件があるらしい。
ボロボロになってしまった制服は新たな物へ交換――こういう事態に備えて男女各種サイズ揃えられているとか――して貰い、『観察対象』、というあまり嬉しくはないレッテルを貼り付けられての帰宅。すっかり遅くなってしまった。真美の両親からのお咎めや質問はほとんどなく、晩飯をどうするかくらいだ。勿論これには食べてきた、と嘘を吐き自室へ。薄暗闇の中、ベッドに倒れ込み思い出す。
自身の腕にあった大きな傷は完全に癒え、燃え盛る炎が焼き尽くした街、様々な物が焦げて灰になった臭気。その全てが自分の能力によって行われた事実。しかしどうしてだろうか、驚きは一切無かった。あっさりと、その事実を受け入れられたのだ。
「なんでだろ……僕は、わかってたのかな……?」
自分の中に異能の力があるという事が。記憶に無いながらも、心のどこかに残っていたのかもしれない。だからこそ、不思議な安心感があるのか。欠けていた何かを取り戻したような。
「これから、どうなるんだろ」
“能力者”として『研究所』に認識されてしまった以上、護はあくまでも研究開発の協力者としてでなく戦闘員として働かされる事になるかもしれなかった。それこそ聖羅と同様に蝕に立ち向かい、その他にも謎の勢力である『救世主』、そして今日現れた謎の新種――『研究所』の判断では蝕として分類するらしいが、人語を介していた事については調査中だそうだ――。相対せねばならない相手が謎に包まれ過ぎて目的が見えて来ない。戦えば良い、そういう事なのだろうか。
しかし護が武蔵から受けた指令は――
[ゆっくり休んで英気を養ってくれ]
――だそうだ。裏があるのだろうが、これしか言われていないのでどうしようもなかった。本来であれば授業の復習をしておきたいところなのだが、今日ばかりは出来そうにもない。体の中に渦巻くような倦怠感。右腕に残っているような気がする熱。
「進むしかない、んだよねやっぱり……」
事態は徐々に加速しているような気がする。それはほとんど関わっていない護にも分かる事だ。状況を受け入れ、自分の頭で考えながら進む。そうする事で未知はきっと拓けるはず。前向きに、ポジティブに。これを心掛けていれば大丈夫。
「きっと大丈夫。その為にこの力も……」
唐突な睡魔。意識をごっそりと刈り取る悪魔だ。しかしここは身を任せて眠るのが良いだろう。今日は、疲れた、と――
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