「炎の記憶」27
*****
護がとてつもない熱量の炎で空間内の謎の敵と残存していた多くの蝕、そして街を焼き尽くした後――当然本人の意思ではないのだが――。既にそれから一時間以上が経過している。
その頃護と聖羅はある場所へと来ていた。護の場合は連行された、と言っても過言ではないのかもしれないが。その場所はアナザースター社。別名『研究所』などと呼ばれる裏表のある大企業だ。
その中の一室。まるで刑事ドラマで見た事のある取調室のような、無機質の限りを尽くした一室に放り込まれてしまった二人。安っぽいパイプ椅子に座らせられ、目の前には白い机と小さなパソコン。窓はなく完全に隔離された個室。
「はぁ……どうせつまらない質問ばっかりするつもりなんでしょうけど……」
「……」
「紅野くん?大丈夫?」
「え?あ、ああ、はい。なんでしょうか?」
「重症ね……」
先程から護はずっとこのような状態なのだ。放心状態でじっと両の掌を見詰めている。時折話し掛ければ返事は返ってくるのだが会話にはならず。聖羅の視線は護の掌ではなく、噛み付かれて大量出血していたはずの腕だった。制服は確かに盛大に破れてはいるのだが、そこから覗く細く白い肌は――ものの見事に無傷。確実に噛まれていたのをこの目で見た。鋭い牙を立てられていたのだが、そのような痕は残っていないのだ。
[――やあ聖羅ちゃん。っと不機嫌そうだねぇ]
自動で小さなモニターの電源が入る。予想通りと言うべきか聞こえてきたのは武蔵の声だ。相変わらず顔を出すつもりはないらしい。
「それは、当然です。急になんですか?」
[え?わかってると思うんだけど?]
「……」
「あの、僕の事、ですよね」
護が口を開く。こんな状況で呼び出されるともあれば自分の事しかないだろう。それに、このような事が起こった理由も聞きたいのだ。
[うん。そうだよ。だから率直に言うよ]
武蔵がモニターの奥でどういう表情でこの言葉を発したのか二人には見えない。ただ、それは真実だった。
[紅野君。君は、能力者だよ]
淡々と告げられた事実。衝撃的なもの、のはずなのだが言われた当人はと言うと。まるで無反応。
「僕が……能力者……」
[驚かないんだ?]
「なんと言うか……実感がありません……」
手を握ったり開いたりするも、何も変わらない自分の手。しかし何かが変わっている事は明らかなのだ。
「そうでしょうね。いきなりそんな事言われても信じられないものよ」
[そういうもの?目の前に真実があるのに?]
「普通はあなたとは違うんですよ」
[普通ってなんだろうねぇ。まっとりあえず!ここからは形式的に則った面倒で厄介な制約と情報収集をさせてもらうよ。聖羅ちゃんは補足ね!協力よろしく!]
極めて明るい雰囲気を振り撒く武蔵。それに機嫌を損ねる聖羅、そして実感のないまま能力を開花させてしまった護。不安や焦りすら、何も感じられなかった。頭の中に霧が掛かってしまったようだった。
*****