「炎の記憶」25
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「――あなたにはとても強い力があるのよ」
心に沁みる温かく優しい言葉。この声を聴いているだけで安らぎ、痛みなどどこかへ飛んでいってしまうようだった。それ程までに信頼と愛情を向けていた。
「誰にも負けない、とっても強い力。熱くて、でも綺麗な」
思い描いた姿が渦巻いて消えていく。残されたのは真っ赤な炎。全身を包んでいると言うのに不思議と熱さは感じない。むしろ心地が良い。
それと同時に湧き上がって来る力。まるでマグマのように止め処なく流れ出る力の奔流だ。
「その優しい力で――」
微かに聞こえた言葉。何と言いたかったのかは分からない。だが、全て分かっていた。今何をすればいいのか、何をすべきで、何が出来るのか――全て。
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「紅野くん……!」
目の前で襲われているというのに何も出来ない自分。まるで無力。“能力者”だというのに、力がない。どれだけ自慢の稲妻を伸ばそうとも亡霊には一切通用していなかった。ただ護の肩から真っ赤な液体が流れ出ているのを見ている事しか出来ないのか。そんなはずはない。
「それだけ、なんて……!」
吹き荒れる暴風。飛び交う瓦礫と破片、そんな中でも聖羅は諦めない。諦められるはずがなかった。拳を強く握り、風に負けじと周囲に雷撃を撒き散らす。
亡霊はそんな事には一切気を配るつもりがなく、溢れ出る赤い液体を舐めたり啜ったりと【食事】を楽しんでいるようだった。味わう訳でもなく、ただ食べる。そこに一体どのような目的が隠されているのか。この場に居る誰もが分かるはずもない事である。
「ン……?」
ふと、その咀嚼が止まった。首を傾げ、牙を立てた右腕。吹き出ていたはずの血液が、ほとんど治まっているではないか。吸い尽くしてしまったのか、否、それはないだろう。中身がどこかで詰まっているとでも思ったのか、すっかり軽くなってしまった護の体を上下に揺する。元からこの程度だったかもしれない。
「――」
呼吸が漏れた。既に息をしていなかったはずの護からだ。閉じられていた瞳が次第に開かれる。ゆっくりと、空いていた左腕を持ち上げ、亡霊の腕へ。気味の悪い感触だ。ざらざらしているような、はたまた気味の悪い滑りがあるような。飛び散った自身の血液でもあるのだろうか。
「オマエ、イキ、……テ?」
護の力ではどうにも出来ない亡霊の腕。だからこそ添えるだけだ。それで十分だったのだ。完全に開かれた双眸は、紅。それが全てを物語っていた。
亡霊は驚いているようだ。護が息を吹き返し、更には尋常でない威圧感を放っている事に。
「死ねないんだ。僕は、まだ――!」




