「炎の記憶」21
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現実というのは非情だ。離れたいはずなのに何故かしっかりと近付いてしまっているのだから。まるで呪いのよう。
割れた空に浮かぶ穴。光すら吸い込まれそうな程の漆黒。そこから降り注ぐ無数の滴。それらは地に降り立つと形を変える。四足の動物のように、はたまた人間のように。異形のモノ、蝕である。
「どうして、いつもこんな事に……!」
隠れながら移動していたが、蝕の襲来に慌てて適当な建物の中へ入ってしまった護。爆心地に吸い寄せられた自分に嫌気が差してしまう。冷静に――あくまでも考え方としての冷静さだが――考えてみると、この場所も危険なのではないだろうか。四階建てのビルだろうか。普段は企業のオフィスが入っているようだが、今は無人。確かに、ここに居たであろう人間には被害が無いのだろうが、残されてしまった者は被害の可能性がある。そしてビルは密閉された空間。上に逃げれば脱出が困難になり、下に留まれば倒壊の危険性がある。しかし外では未だ地を揺るがす轟音と異形のモノたちが蔓延っているのだ。
「……」
机の下に隠れ、頭を抱える。瓦礫が落ちてきた時の防御も兼ねて。どう考えてもこの場所への退避は失敗だった。どうやってこの場を切り抜ければ良いのか。ゆっくりではあったが恐怖に麻痺していた思考が回転を始める。携帯は通じない。ふと、護は視界の先にあったパソコンに目を付ける。
「もしかしたら、だけど……勝手にごめんなさい」
周囲を注意深く確認しながらそろりそろりと近付き、電源をオンに。電気は通っていないのかもしれないが、バッテリーで起動する事は出来た。しかし、問題が。
「パスワード……そうだよね……」
分かっていたが、パスワードに拒まれる。外に繋げる事は護には出来ないが、もしこれに気付いて『研究所』側からのアクセスがあればと考えたのだ。しかし、そう簡単には――
「……え」
――諦めかけていたその時、突如画面が切り替わった。これには見覚えがある。そう、アナザースター社のロゴマーク。一瞬、何が起きているのか理解が追い着かなかったが、分かった。護の思惑通りの展開になったのだ。
[やあ紅野君。なかなかいい判断だ]
画面に表示される文字列。たった一言であるが、相手が誰なのかも理解出来た。また、武蔵だ。
[映像はまだ送れないからこれで勘弁してね。言う通りに行動してくれれば出られるから安心して!]
少々苦手な人物ではあるが、今は希望の光のように感じられる。護は食い入る様にモニターを凝視。次の文章を待つ。
[そこから東側に移動して商店街の終端、なんだっけ。あのなんとかアーケードってやつ。そこから出られるようにこれから準備するから!途中に聖羅ちゃんと合流出来ると思うよ!]
「アーケード……確か本屋の近くの……」
ここからはそれなりに時間の掛かる場所でもあり、遮蔽物の少ない大通りを突っ切る事にもなるが。
「それでも、そういう指示なら……!」
やるしかない。そう心に決め、立ち上がる。
[それじゃ、頑張ってね!]
言わずもがな頑張ってやろうではないか。