「炎の記憶」20
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生徒会長たる聖羅はいつものように職務の一つである役員会議に精を出していた。今日の議題は一大行事である運動会の競技内容や必要な道具の準備についてだ。各クラス、部活動などからの意見も取り入れつつ如何により良いものにしていけるかが課題である。
「会長……?」
そんな形式的にはなかなか堅そうではあるが、実際のところ和気藹々とした雰囲気の会議の最中、いきなり立ち上がる聖羅。窓の外をじっと睨み何かを考えるように腕を組む。
「ごめん、ちょっと今日は帰るね」
「え?でもまだ途中なんですけど……」
「用事思い出したから!すっごく大事なの!」
「何も決まってないし――」
「それじゃお先!」
机に出されていた資料を適当に鞄へ詰め込むと、他の役員の言葉など耳に入れずに飛び出していってしまったではないか。
「どうしたんだろ?」
「まさか男?」
「会長に限ってそれはないんじゃ……」
置いてけぼりを喰らってしまった数名の役員、そして隅で相変わらずモニターと睨み合いを繰り広げている大和――手をつけているのはどうやら生徒会の仕事ではないようだ――。
「でもこの面子じゃ会議にならないんだよねえ……」
「やれるとこまでやって解散、しかないかな?どうします大和さん?」
「それしかないだろうな。俺はまだやる事残ってるから見切りつけて終了で良いぞ」
「分かりました!それじゃあさっきの続きなんだけど――」
聖羅が向かっている場所の状況を知っていた。目の前に表示されているのは“蝕”の出現と、能力者の存在を示すアラート。『研究所』の監視装置に繋げば現場の中を見る事も出来るのだろうが、そこまでしている時間はなさそうだ。
(アラートよりも早く気付いたって事は能力者の勘、なのかもな……)
今でこそ大体の場所は地図として表示されているため掴めているのだが、切り離された特異な空間を察知するのはただの人間には不可能だ。近付けないように意識を操作されているのだから。
(ポイントだけでも連絡しておくか)
メールソフトを立ち上げ地図を添付、そのまま送信。自分に出来るのはこのようなサポートだけだ。歯痒いが、仕方がない。
(何も、無ければ良いんだけどな……)
ここ最近の傾向で言えば何も起こらない方が不自然で、心のどこかで起きてしまうのが必然であると思ってしまう。ならばやはり自分も早々に向かうべきではないだろうか。会議もほとんど馴れ合いのようになってきている。頃合いかもしれない、そう思い大和も徐々に荷物を片付け始めていた。
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