「炎の記憶」16
いつもと同じ登校風景。咲き誇っていた桜の花も大分散っており、新学期が始まって時間が経ったという事が窺えるだろう。そうは言ってもまだ一週間なのだが。
(あれからまだ一週間しか……)
ほとんど記憶に無いが、蝕に襲われ、異世界や異能力に関わったあの日から。絶え間なく続く衝撃のせいで相当な日数が経っているようにも思えるが。疲れが溜まってきているのだろう。それ故の熱だったり怠さだったりの不調。納得の理由だ。いつものようにぼーっと歩きながら教室へ辿り着く。
「お、来た来た。おはよう紅野!早速で悪いんだけど数学の課題で聞きたいのがあるんだけど……」
「あ、俺も!」
「おはよう。うん、別に良いけど」
そして一週間で変化した事が日常でもあった。つい先日の体育で男子と仲良くなる事が出来たのだ。これは隼士のお陰でもあるのだが、このように率先して話し掛けて貰えるのは護としても嬉しいものだ。
「でさ、ここなんだけど……」
「えっとそれはね」
「えーお前これくらい分かるだろー……あれ紅野と答え違ってるわ何でだ?」
「うーん……僕のが全部合ってるって保証はないんだけど」
そして何よりも護が珍しいと感じたのはこのように課題の一部分だけを質問してくる事。大抵課題の話が出れば丸写しだったりするのだが、このクラスの人間は違うようだった。進学校で成績の良い人間が集まればこうなるのだろうか。
「うーっす」
「あれ嵩田君今日は朝から?」
「よお。先週サボリまくったろ?さすがに家に電話来たわ……とりあえずなるべく……今週は、そう今週だけは!出る事にしようとは思ってるんだけどめんどいよなぁ」
課題の話をしていると眠そうな挨拶をして来たのは隼士だ。休みに休んだ挙げ句学校から連絡が入ってしまったとの事。
「先週何日来たっけ……」
「あんまり覚えてねえや。まあ適当に過ごすわあ」
打ち解けた、ように見えてもまだ距離感を掴めていない他の生徒たち。やはり見た目が影響しているのだろうか。しかし隼士はそのような事を気にする素振りは一切見せずボディタッチをしながら話し掛けていく。
「……紅野って凄いよな。何で嵩田と仲良く出来てるの?」
「嵩田君、ああ見えても根は良い人だよ。だからかな」
「そもそもどこに接点があったのかも謎だよなー」
「あはは……それは、中学校の時にちょっとね……」
「気になるなーっと鐘かよ……今度聞かせてな!」
鐘が丁度話を区切ってくれる。護としてはなるべくなら話したくない内容だったのでここで切れたのは幸いだった。話したくはないが、別に悪い内容ではない。ただ、相手にどう思われてしまうかが怖かった。 鐘が鳴り終わり、遅れてやって来る教師。これからいつもと同じ日常が始まる。せめて、何も起こらなければ、と。




