「炎の記憶」15
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闇の中燃え上がる炎。舞う火の粉はまるで花弁のように儚くも、優雅に。その中にただ一人で立ち竦む。もしこれが炎だというのなら熱を感じそうなものだが、そのような事は一切なく、むしろ懐かしさと温もりさえ感じるのだ。どうして、自分はこの“力”を知っている――?
「その力はね。あなたの――」
何処からとも無く聞こえてきた声。それは頭の中に響くように木霊し、溶けていく。
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いつものように無機質な電子音が部屋に響く。頭上に置かれた時計のアラーム音だ。普段であれば、これが鳴る前に目を覚まして活動している護であったが、今日は何故かそうならなかった。妙に気怠い体を持ち上げ、伸びをする。気怠いと言うよりも何となく熱っぽい状態だ。先日アナザースター社で能力者同士の戦闘を間近で見たから、と言う訳でも無さそうだが。
(相談、してみた方が良いのかな……)
ただの風邪かもしれないし、と割り切って制服へと手を伸ばす。今日から再び学校である。勿論護は既に課題を終わらせているし、いつもの時間に、いつものように登校するだけだ。ただ熱は測っておきたい。
「おっはよー」
「うんおはよう。今日はパンなんだね」
「この前インスタントラーメンやったらお母さんに怒られて……美味しいのにねー」
「あはは……朝からはちょっとキツイと思うよ?」
真美の両親はどちらも既に出勤した模様。相も変わらず二人で朝食を摂る。点けられたテレビでは爆発事故のあったアナザースター社についての特集が組まれて放送されていた。これをチャンスとばかりに薬品開発やロボット事業に反発する批判こそが生きがいのコメンテーター、それを宥めるアナウンサーという構図。見ていて面白いかと聞かれれば面白くは無い。
「全部否定から入る人っているよねー。中身も知らないでさ」
「ん?確かにそうだね……と言うか珍しく見てたんだ」
「珍しくは余計です!でもさあのロボットとか凄く良いと私は思うけどなぁ」
「使い方次第じゃないかな……」
そう、異能の力でさえ使い方次第。不意に頭に過る言葉。それが本当に自分の考えた事なのか分からない。ただきっとその通りだ。使い方次第で、変わる。変える事が出来るのだ。
「ま、私たち一般人には関係ないのです!ご馳走様でした!あー月曜日って何でこんなに辛いの?」
「休み明けだからだね」
「それは知ってるもん!あ、ありがとー」
「片付けはやっておくから、早く着替えた方が良いんじゃない?」
未だに露出度の高いだらけた寝巻き姿の真美にそう苦言しながら、自身は皿などの後片付けだ。
「そうかそうか。お兄ちゃんは制服姿の方が好きなんだね」
「言ってる意味は良く分からないけど……」
「占い見るからここで着替えて良い?」
「部屋で着替えなさい」
そのような事はさすがにしないだろうとは思いつつもしっかりと嗜めておく護。たまには兄っぽい姿も出せるらしい。
「はーい。あとでねー」
「うん」
皿を洗いながら再びテレビへと。先程の特集は終わり、今は別の話題だ。きっと学校でもアナザースター社の話題で持ちきりになるのだろう、と護は思う。その輪の中に自分が居るかは微妙なところではあるが。