「炎の記憶」14
帰宅すると珍しく真美の両親が帰っているようで、すぐに夕食となった。テーブルを囲んでの食事で居住者全員が揃うのはこの家ではなかなか珍しい事だ。一家の大黒柱である父、金田翔吾は仕事の関係で夜遅くに帰って来る事も多く、この家庭は共働きで母のあかりも家に居ない場合がある。故に護が作っておくか、真美が冷凍食品を漁るかの二つに一つ。このように食事が作られている事はとても珍しい。
「今日は早いんだねー。何となく知ってたけど」
「繁忙期も過ぎたしそろそろ帰っても良いだろうって上司がね」
「お母さんのとこも?」
「うちは最近働かせ過ぎだって怒られたみたいなの。だから当分ご飯作れるわ」
「やった!」
やはり家族と一緒に居られるというのは嬉しい事なのだろう。三人の談笑が続く中、相変わらず護は黙々と食事に手を付けている。居候である身なのでどうも肩身が狭い、と思っているようだ。本来はそのような事を気にしなくても良いのかもしれないが、これも護の性格である。
「それで、今日は二人してどこに行ってきたの?」
あかりがその様な事を口にすると真美は少しだけ困ったように護の方を見たが、護はこればかりは自分の問題だからと口の中の物を飲み込んでからゆっくりと口を開く。
「……アナザースター社に」
「あっ……」
「そっか。兄さんのとこかい?」
「はい。ずっと行ってなくて、しかも忘れてて。でも行かないとって」
翔吾は気にする素振りも見せず、どちらかと言えば良く行ってきたとでも言いたげな顔である。護本人が言い出すまで場所を教えるつもりは無かったのかもしれない。だから住所だけを残しておいたのだ、と。
「どうだった?」
「少しだけ、懐かしい感じがしました」
「だろうね。きっと兄さんたちも喜んでるよ」
「だと、良いんですけど……」
そんなに変わっていない自分をどこかで見ていて、それで喜んでくれるのだろうか。落ち込みそうな空気を割るのはやはり真美の役目のようだ。
「でもお兄ちゃん転んで頭打ったんだよ!だから笑われてるかも!」
「え、護くん転んだの?」
「あーそれは……」
「そう言えば凄く揺れたって聞いてたからそれ?二人とも怪我してない?」
真美に言われてから二人とも思い出したのか、心配そうに聞いてくるが幸いにも無事なのでその旨を伝えるととても安心したらしい。
「なら良かった。あの会社の研究所ってやっぱり大きい?」
「うん!それはもう!ロボットの体験とかさせてもらった!」
「未発表とも聞いたよね」
「へぇどんなのだ?」
何故だか少しだけ距離感が知縮まったような感覚がした護。今までこうして積極的に三人の会話に入れた事があっただろうか。自ら動き出したという経験が自分を成長させてくれたのか。だとすればそれは嬉しい出来事だ。新たな一歩を踏み出せた。関わるなと言われているが、こうして変わる事が出来るのなら。
(止まらなくても良いんだ……)
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