「炎の記憶」13
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日も落ちかけすぐそこに夜が迫っている帰り道。街灯が次第に明かりを灯し、商店街も後片付けに入っている。そんな中ある店舗の前には人だかり。確か今どき珍しい小さな電器屋である。
「何だろうね?」
「んー……見てくる!」
「あっ……もう早いなぁ……」
思い立ったら行動に移してしまう真美を負い掛けるように歩くと、人垣の向こうにはテレビが置かれていた。放送されているのは時間的にニュース番組だろう。
[本日昼頃アナザースター社で大規模な火災が発生し――]
「薬品の爆発だっけ?物騒だよなあ」
「噂じゃ近くでは凄く揺れたってのも聞いたぜ?地震レベルだって」
「どんな火薬だよそれ……爆弾か?」
サラリーマン風の男性二人がそのような会話をしているではないか。世間ではこのように書き換えられて放送されているらしい。真実を知っている護は隙間からその報道を見て思う。
(こう言う風に……書き換えられてても怖いって感情があるんだから、本当の事を知ったとしたら、どうなるんだろう……?)
アナザースター社は本当は異世界に関わる研究をしていて、この社会の裏側には不思議な能力を有した人間が居て、更にはこの世界を狙う怪物も居て。例え口にしたところで信じて貰えないだろう。笑い話で終わってしまうか。
「ただの地震じゃなかったんだねー」
「そう、みたいだね……」
「マスコミって凄いね!情報早いし。私たちそこに居たのに分からなかったよ」
「うん。でも、それが全部正しいとは限らないから……」
不思議そうに護の顔を見詰める真美だったが、そこから深く追究しようとはせず、手を取ると引っ張って人垣から脱出。
「知らない事が良い事もあるって事?」
「え?そこまで深く言ったつもりは……」
「大丈夫。興味ない事は知らないようにしてるから!数学とか!」
「……勉強は頑張ってよ?」
暗くなりそうなのはこの世界だけではなかった。その気配を察したのか真美は明るく接してくれる。だから自分もなるべく心配を掛けないようにしてみよう。
[現在、消火活動は終了した模様です。怪我人や不明者などの情報は無く――]
二人が離れてから報道されていたのはそのような、改変された事実。怪我人も不明者も出ているはずなのに、その事は一切外界には漏らさない。まるで一種の隔絶された世界である。
「ねえ今日ご飯なんだろ?」
「そうだね……あんまり多いのはちょっと嫌かも」
「お兄ちゃん細いから食べないとダメだよ?だから転ぶんだよ?」
「それはあんまり関係ないような気がするよ……っ?」
不意に背中に感じた冷たい何か。護は慌てて振り返るがそこには何も無く、変わらない日常が広がっているだけだ。
「どうかした?」
「ううん……何でもないよ、行こっか」
内心不安で仕方が無かったが、気のせいだと割り切って再び歩き出す。
「……」
不穏な影はただじっと、闇に紛れて。




