「炎の記憶」12
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「成果はあったと見ても良いのか?」
とある寂れた一室に集まるのは純白のローブを纏った能力者たちが六名程。先程の襲撃に関する情報交換、といったところだろうか。
「まあ少なくとも被害は無かったぜ」
「……こうしてここの人間は全員無事だし。あとは他のところの状況だね」
「ただ犯人を突き止めるまではいかなかったか……」
沈黙が流れる。それを破ったのは部屋の片隅でパソコンを操作する小柄な者。
「よし、繋がったよー」
「助かる」
見た目通り幼い声で作業の終了を伝えると、近付いて来た一人に席を明け渡す。それを壁に凭れ掛かって見ていた女が疑問の声を上げる。
「通話とかこれこそ能力でパパッとやっちゃえば良いんじゃないの?雷系統ならすぐじゃないの?」
彼女の言うように能力を駆使すればわざわざ文明の利器に頼らずとも遠くの者と会話する事が可能なはず。敢えてそれを使用しないのには勿論意味がある訳で。
「あれだ。使うと『機関』の連中にバレるからって何回か説明しなかったかよ」
「あーごめん聞いてなかったかも。だってフレアの説明だと頭悪そうなんだもん。あれとかこれとか、具体的に何なのよって話」
「お前そんな風に思ってたのか……」
「確かにフレアの説明下手は気になってたな。勉強しとけよ」
「グレイヴお前まで……!だけど脳筋には言われたくねえ!」
談笑しているようにも見えるが、どことなく距離感のある会話。余所余所しいと言うか、どこか探りながら言葉を投げているようにも聞こえてしまうのは馴染んでいないからなのかもしれない、とホワイトは隅で思う。
「静かにしてくれ。聞こえない」
「あ、ああ悪い……」
「こちらブレイド。別働隊、聞こえるか」
[――える!こっちは、こっちはダメだ!邪魔が入って……もうほとんど壊滅状態で……!]
パソコンのスピーカーから聞こえてきたのは男の声。しかも走りながらなのか、息も荒くところどころ途切れた音声だ。逃亡中、なのか。
「どういう事だ?あっちの面子が壊滅って……」
「邪魔って言ったよね?誰に?」
[悪い、状況はあとで説明するから今はとにかく合流をメインに――!]
響く轟音。能力を使用したのだろう。何かが爆発するような音が部屋を揺らす。かなり苦戦しているようだ。
「どうする加勢に行くか?」
「いや……ここから行くのは不可能だが……ミストなら近くまで行けるか?」
「そうね。それでも結構掛かるとは思うけど」
[大丈夫だ、なんとか撒いてみせる……!]
仲間が危機に陥っているのはこの通話で分かる。だがそこまで向かうのには時間が足りない。どうにか耐えて貰うしか、無い。通話の向こうの男も手練だ。きっと大丈夫だろう。そう思い通話を切ろうとした時だ。
「では、生きて戻って――」
言い切れなかった。断末魔が部屋全体に響いたから。不気味な音が耳を撫でるが誰一人として悲鳴を上げようともせず、ただ仮面の奥の瞳を静かに燃やす。襲撃者が誰であれ、同志が襲われたのだ。
[……フフ]
「――!?ブレイド、通話切って」
「何?」
「良いから――」
何かに気付いたホワイトが声を荒げるが、何が起きているのか理解出来ないブレイドは行動には出ず。
[ドコニイルンダ、オマエラ……?ハヤク、ハヤク……]
笑いを含んだ不気味な低い声。精神的に嫌悪感を抱くような声だ。まるでこちらの場所を探っているように――
パソコンが煙を吹く。勘付いたホワイトがパソコンを破壊するように氷の矢を飛ばしたのだ。貫かれ、割れた液晶。もう声は聞こえない。そこで何が起きたのかも分からない。
「何だ、今の……」
「分からない。けど……良くないモノ……」
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