「炎の記憶」11
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「はい、体は……特に問題はないです」
護は一時的に気を失っていた、というだけなのですぐに病室を出る事が出来るようだ。慌しい受付に少々気後れしてしまうが、病室側もベッドが空くなら出て貰った方が良いだろう。帳簿に名前を書き、護は受付を後にする。その間にも新たな怪我人が運ばれ、多大な被害があったのだと感じる事が出来た。それ程までに強大な能力者という存在。
「忙しそうだし、さっさと帰ろっか」
「そうだね……あんまり居るのも迷惑だろうし」
待合室のようなスペースで暇そうにしていた真美を回収し、人を避けながら出口へ。担架で運ばれていく怪我人はやはり重傷のようで。あまり視界に入れないように、そして邪魔にならないように。
「大丈夫だったかい?」
すると出口に差し掛かったところで声を掛けられた。途中まで行動を共にしていた江草だ。わざわざ護たちが来るのを待っていたのだろう。
「はい……あの、妹の事ありがとうございました」
「いやいや地下シェルターに避難して貰っただけだよ。だから特に何もしていないけど……そのお礼は頂いておくよ」
「シェルターなんてそんなのもあるんですね……」
「緊急時対応策というやつだよ」
言いたい事は何となく分かる。災害対策であれ、今回のような襲撃対策であれそれなりの強度が必要となってくるのだ。
「そうなの!凄かったよー揺れてるんだけどあんまり音は聞こえなくてね!」
「う、うん。そっか……」
どうにかジェスチャーで伝えようとしているのだが、どうやら上手く護には伝わっていないようだ。
「一応シェルター内に居たスタッフは全員無傷だよ。運ばれているのは……色々と対応に出てた人間だね」
護も目にした警備隊や救護スタッフと呼ばれていた人たちの事だろう。真美が居る手前別の言葉に言い換えたのだ。
「他に、何か?」
「ん?ああ無事かどうか見に来ただけだから。これでも担当になった訳だし……でも、そうだね……うん、やっぱり特にないよ」
何か言いたげでもあるのだが、真美が居るからなのか、それとも別の理由があるからなのか口を何度か動かして止める江草。気になってしまうが、聞き出す理由もないし、護にそのような強気な態度が取れる訳もない。
「ごめん。やっぱり一つだけ」
「はい、何でしょう……?」
「気を付けなよ。色々と」
「色々……?」
「それじゃあまだ仕事が残ってるし。ああ自動受付で対応出来るはずだから」
それだけを言い残すと江草は未だ騒がしい病棟へと姿を消そうと白衣を翻す。
「今日はありがとうございました」
「ありがとうございます!」
「別に何も出来なかったよ。場所を教えたくらいだし」
礼を述べると肩越しに手を振ってそのまま歩き去ってしまった。残された二人。大分日も傾いている。安心すると腹まで空いてくるようだ。
「……帰ろうか」
「うん!」
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