「炎の記憶」09
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――別所。
純白のローブはいくら動いても一切汚れないのだろうか。そう思ってしまう程に白く輝いていた。そのローブを纏った巨躯の人間が片手で、特殊スーツを着込んだ男を持ち上げている。
「さあ答えろ。仲間を殺したのはどこのどいつだ」
「な、何の話を……」
「ついこの前のやつだけじゃねえ。お前らのせいで一体何人の仲間の命が……!」
「ぐっ……」
その怒りに震える腕を抑えきれず、力の限り投げ飛ばし壁に当て、更にその奥に潜んでいた警備隊の人間をも攻撃。鳴り響く警報と銃声、怒声、それと悲鳴。それらを完全に無視してグレイヴはただ一人、左手に大きな斧を握り込みながら歩く。仲間の命を奪った輩の身柄を発見し、この手で仇を打つ。頭の中にはそれしか無かった。だからこそ目の前に現れる者が何であろうと破壊する。銃弾の雨が降り注いでいても。
「どこに居る……!」
瓦礫が増えれば増えるほど、グレイヴには得意な環境になっていくのだ。倒れた柱や崩れ落ちた天井、剥がれた地面も全て武器になり盾にもなる。勿論能力を扱うにはそれなりの制約があるのだが。それは然程問題ではないようだった。
「何だ、この……力の波動は……?」
遠くに感じる大きな気配。能力者が使用した異能の力を察知するグレイヴ。自身の能力も、見た目も然る事ながら気配も大きい。しかし言いたくはないがそれ以上に大きな存在感だ。それ程までに強い能力者をこの『研究所』が有している、と――
足が止まったのを警備隊が見逃すはずもなく、好機だと判断したのか合図と共に再び銃撃が開始される。四方八方を囲むように放たれる鉛弾。しかも当たれば能力者を無効にする事が可能だと言われている銃弾だ。例えグレイヴのような大男でもダメージはあるはず。しかしその銃弾はグレイヴの体に当たる事無く消滅、又は防がれて地面へ落ちる。
「ホワイトにフレアか……どうした?」
「どうしたもなにもお前さんが暴れてるって言うから止めに来たんだよ」
「止めに……?目的は果たしたのか?」
「いいや……そろそろ潮時だって。ホワイトの判断だ」
銃弾の雨を消し去ったのは二人の能力者。ジャベリン――フレアとホワイトだ。
「長居しすぎた。施設破壊は何とかなったけど、目標は見付からないから一旦合流する」
「そういうこった。……ランスは折れたぜ」
「そうかあいつが、な。それよりも聞きたいのは」
懲りずに再び銃撃が始まるが、集った三人の『救世主』はそれを一切気にする事無く往なしつつも会話を続け、移動を開始。倒れていく警備隊員を尻目に跳躍。
「さっきの力は何だ?あんなの知らないぞ」
「さあてね……」
跳びながらフレアは仮面の奥の瞳でホワイトを視界に入れたが、当の本人は気にも留めていないようだ。内心どう思っているのかは定かではないが。
「とにかく今は離脱だってよ。情報収集は他の奴らに任せよう」
「そうだな。ならば最後に目を晦ましておこうか……!」
「良いなそれ!」
「はぁ……先に行ってるから」
左手に握った斧を投げる。回転しながら進むそれに能力を付与。至る所から瓦礫が集まり、巨大な斧を形成。フレアの両手には煌々と燃える炎。
「置き土産だ!受け取れ『機関』の人間共!“叩き割れ”!」
「新しい名前を教えてやる!“貫け”――!」
二人の掛け声と共に、離れた地面では轟音を響かせながら爆発が起き、真っ黒な煙を巻き上げる。満足したのか漸くホワイトの背中を追うグレイヴとフレア。
こうして白昼堂と行われた襲撃の幕は一方的に閉じられようとしていた――。
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